RIKU・5 天使の来ない夜

RIKU・5 第4話 通り魔

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ラウンジのTV画面に映し出されたのは、数時間前にここと隣接する地区の貸倉庫の裏で見つかった刺殺体のニュースだった。

その遺体の状況から、ここ数週間、大東和出版本社がある地区を中心に発生していた、通り魔の犯行の可能性もあるとみられているらしい。

人通りのない夜道を歩いていた通行人がいきなり、マスクとサングラスで顔を隠した人物に鋭利な刃物で衣服を斬りつけられるという悪質なもので、その切り裂き魔は、警察の警備の網をくぐって、依然犯行を続けていた。
特に金品を奪う訳でもなく、ただその相手の反応や、騒ぎを起こす事自体を楽しんでいるような下劣さを感じる。

ただ衣服だけを切り裂いて逃げるパターンが多かったが、勢い余ったのか故意なのか、昨日までに2人の軽傷者も出ていた。

いずれも犯人は被害者がひるんだすきに逃亡していて、顔を隠していることから人相の証言は得られず、また監視カメラにも捉えられていなかった。

今回、人気のない倉庫裏で見つかった男性の刺殺体には一切の所持品が無く、身元も年齢も不明だが、遺体の衣服が鋭利な刃物で切り付けられていることから、警察でも一連の通り魔と合わせて捜査を進める意向を示していると、レポーターは緊迫した声で報じていた。


「そりゃあ、通り魔の犯行に決まってますよね。いつもの調子でビビらせて逃げようと思ったのに、うっかり顔見られちゃって、思わずグサリ! ですよ」
あからさまな多恵の表現に、長谷川は食傷気味な目を向けた。

「え? そう思うでしょ、長谷川さんも。早く捕まえないと、どんどんエスカレートしますよ、こんな奴は。長谷川さんも、夜道は気をつけてくださいね」
「思ってもないでしょ」
「ばれました? 長谷川さん襲ったら、犯人その場で半殺しの刑ですもんね」
軽口をたたく多恵の前を、興味なさそうにリクが横切った。

「あ、リク」
長谷川が呼び止める。

「携帯の電源、ちゃんと入れときなさいよ、いつも」
リクは一瞬面倒くさそうに目を泳がせたが、もう一度長谷川に視線をもどし、ちいさく「うん」とだけ言うと、ラウンジを出ていった。


「……むかつく」
長谷川はポロリと漏らした。

少しは棘が取れたと思ったのに、ここ最近のあの青年は、また元の野生の猫か鳥かに逆戻りしてしまったように見える。
そうだ、玉城が取材旅行に出かけてしまってからだ。
玉城がいないと、一体何の不都合があるというのか。

「玉城先輩にコツを聞かなきゃ、ですね」
「え」
心のつぶやきを聞かれたのかとハッとして振り向くと、多恵が肩をすくませてリクが去って行った廊下を見つめていた。

「ああ見えて、玉城先輩は猛獣使いですからね。どんな獣とも上手くコミュニケーション取れる魔法の粉なんか、持ってるんですよきっと。だからリクさんだって、長谷川さんだって、なんでも来いなんですよね」
本人を目の前に恐ろしいことをケロリと言い放っておきながら、多恵はすぐにニコニコしながらグリッドを再びめくりはじめた。
お前だって猛獣だ、と腹の底で思いながらも長谷川は怒る気力が沸かず、憮然として窓の外に視線を向けた。


「ねえ、長谷川さん、気が付きました? リクさんの手首」
「……手首?」
いきなり方向転換した多恵の言葉に、長谷川がドキリとして視線を戻す。

「左手首に包帯してたでしょ。気がつかなかったんですか?」
「……そうなの?」
ドキリは、重い胃の鈍痛に変った。

「隠すようにしてましたからね。どうしたのかとも、訊けなかったですけど」
「……へえ。そう」
長谷川は気の抜けた返事をしたものの、そのまま口をつぐんだ。

「でも、心配いらないですよ。わたし、ちょっとばかり霊感あるんだけど、ねちっこい霊の気配とかも感じなかったし。安眠できてない感じはするけど、元気そうだったし。そうね、きっと捻挫でもしたんでしょ」

多恵はそう言うと再びニコリとして立ち上がり、
「あ、長谷川さん、そろそろ打ち合わせの時間ですよ。行きましょ」、と長谷川を急かせた。

「ああ、……そうだね」

長谷川はそう返しながら、胸の奥にぼこぼこと不安の種が出現するのを感じてうんざりした。

手に持った携帯をじっと見つめてみたが、この端末はあの獣にも、猛獣遣いにもつながっていない気がして、小さく溜め息をついた。





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~ Comment ~

NoTitle 

本題とは関係ないのですし、しょっちゅう話題に上ることなんですが、
一回一回の長さって本当難しいですよね。

どこかで「あれ? 今回短い」って部分が出てきます。
そう考えると、朝刊の小説ってうまい具合に配分されてますよね。

NoTitle 

うーん この一連の通り魔事件の中での 殺人事件は 途轍もなく 臭うんですが・・・( ̄●● ̄)クンクン
でも 今は 何所が臭うか 言わな~い♪

猛獣使いの玉ちゃんが いないと リクも長谷川と 上手く会話出来ないんだね~
て言うか 玉ちゃんしか 関心ないのが リクだからなぁ~( -Д-) ゚Д゚)フムフム

リクの手首の包帯にも気づきながら あえて聞かなかった 多恵って 鋭くて 侮れない人

もしかして 今回は 多恵が すっごく 活躍するのかも!
( ´∀`)Σ⊂(゚Д゚ )なんでやねん!...byebye☆

ヒロハルさんへ 

そうなんですよね。
調整が難しいです。
大体、一回の更新は1800字くらいがいいな・・・と考えてはいるんです。
長かったら読者さんに負担をかけるし、短いと中身が薄いし。

でも、なかなかうまくいきませんね。
そこが素人だなあ。
きっちり文字数を考えて書くプロは、さすがです。

けいったんさんへ 

今回は短いから、きっと、けいったんさんはコメント書くのに困るだろうな~・・と思ってたのに!
うう。あなどれない!
ありがとう~~o(^-^)o

え?やっぱり匂いますか??
今回は怪しげなところが、ちょこちょこ出てきますよね。
カムフラージュもあるかもですよん^^
さあ、通り魔は、どうかな??

>玉ちゃんしか関心がないのが、リク・・・

読まれてるよ、リク。かわいそうな長谷川さんi-241

多恵、怖いもの知らずのトンデモ娘だけど、KYではないのですよね^^
ああ、しかし、多恵ちゃんは今回、出番が少ないです・笑
この後は、男くさくなってまいりますよ~~。

紅一点が、長谷川さんって・・・(^_^;)

NoTitle 

まさかリクくん、リストカットとかしてないでしょうなあ。霊的なストレスに耐えかねて、とかいって……。

それともまさかリクくんの手首には聖痕が(黙れ)

ポール・ブリッツさんへ 

さ~、どうでしょう。
なんか、悩みがあるようですからねぇ・・・。
けっこうナーバスな子なのかも。
でもね・・・。

また、いらんこと言いそうになる・汗

聖痕は、・・ない!(きっぱり( ̄∀ ̄))

NoTitle 

リクさん、何があったんでしょう。
まさか一人で通り魔を捕まえに・・・!?

ねみさんへ 

リクが・・・!
そんな正義感があるとも思えないんですが、どうでしょうねえ。

本当にただの捻挫だったら、怒る?(^.^;)

NoTitle 

おっはー

つい読んでしまった。
ここら辺で止めとかないと楽しみが減る。

長谷川が切ないねぇ。
自分の感情に気づかないフリをするのもいつまで保つかね。
玉城と云う潤滑剤がないと、どうにもギリギリと回らない歯車のよう。
リクって存在自体が悩ましいよね。

あーーーおばちゃんにも目の毒になりそう。
うっきーーー
v-14

つい話の筋と違う事をコメしてしまった・・・
ほっほほほほ

ぴゆうさんへ 

そう~。
長谷川、けっこう切ないんですょ。
本当に、自分の恋心に気づいてないんだろうか、この人^^;

いやいや、そこのところも、このお話の大事な部分です^^
気付いてくれて、うれしい^^
玉城がいない間の、ふたりの微妙な関係も、お楽しみください。

リクがねえ、なかなか自分の悩みを言わない子なので、じれったいですが、
見守ってやってください^^

こんばんは^^ 

うんうん。
やっぱ、玉城がいないとリクは「人間化」しないなぁ・・・・・・・・・・。

1話の3分の1使って説明したって事は、この「通り魔事件」が深く関わってくるんですね^^

・・・・・・・・・
いつになったらリクと長谷川さんのラブストーリーが読めるだろう??
(笑)

蘭さんへ 

そうそう。
やっぱりリクには、玉城が・・・。(要らないような気も、時々するけど^^;)

今回は、長谷川さん、ちょっぴり暴走気味です。頑張ります!
そうですね、リクとのラブストーリーは、・・・・。

想像できない(^.^;)

通り魔も、このお話の大事な要素ですが、どう関わって来るかが分かるのは、ずっとあとかも・・・。
今回も、頭を真っ白にして、のんびりと読み進めていってみてくださいね^^

NoTitle 

おはようございます。

玉ちゃんがいないとRIKUのお話は、こうも不穏な感じになるんですね…。

特に長谷川さんの傍にいるのが「あの」多恵ちゃんなだけに不安も倍増です。

多恵ちゃんって「トラブルを多く恵む」って意味なのかな?^^;

有村司さんへ 

やっぱり、不穏な感じですか。
玉城は、一応重要な存在だったんですねぇ(しみじみ)

さすがの長谷川さんも、今回困惑気味です。
(まあ、後半、本領発揮してくれるはずです)

多恵ちゃんww。
安心してください、この物語で、多恵ちゃんはそんなにでしゃばりません。
でも、ちょこちょこ問題提起してくれそうです。

いずれにしても、この「5」では、“外”の問題と、リクの“内面”の問題が大きな二つの柱です。

リクの内面は・・・なかなか本人が語ってくれませんが^^;

玉城はそんな時も、バカンスです(ー"ー )
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