KEEP OUT 3 君に伝えたいこと

KEEP OUT3 第15話 不可解

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そのころ隆也は、美沙の事務所のあるビルの隣のファーストフード店で一人、携帯を覗き込んでいた。

「『レディホーク』。中世ヨーロッパを舞台に、呪術を掛けられた男女が呪いを解くために戦う、壮大なファンタジー。……だって?」

検索で拾った映画のあらすじを読みながら眉間にしわを寄せ、Lサイズのポテトを頬張りコーラで流し込む。
それらすべて、隆也にとって特に意味もない行動だった。

あれから一人でタクシーを拾い、事務所に行ってしまった春樹がどうにも心配で、ついつい隆也自身も近くまで来てしまったのだ。
体中、随分酷い暴行を受けたように見えるのに、美沙には言うなと言った春樹の言葉が頭から離れない。
けれど、家出少女のことで緊迫しているらしい事務所に顔を出せるはずもなく、隆也はただ悶々とそこで時間を潰すしかなかった。

--『昼間は鷹、夜は人間にもどる美しい女と、昼間は人間、夜はオオカミに姿を変えてしまう黒騎士。愛する二人に掛けられた残酷な呪いを解くために、彼らは悲しい旅の果て、魔術を操る大司教に立ち向かう』--

映画の紹介ページには、肩に一羽の鷹を乗せた黒騎士の美しい画像が貼り付けられている。
隆也はそれをじっと見ながら再び眉をひそめた。
なんでこれが美沙さんと春樹なんだよ。ファンタジーじゃないか。春樹はこんなたくましい騎士じゃないし。……自分が美女だからってか?
隆也はフンと鼻を鳴らした。

改めて隆也は、自分があの美沙という上司に反感を持っていることを認識した。
春樹の事を考えれば考える程、それはここ最近、強まっている。

コーラを啜りながら、ガラス越しに通りを眺めていると、ゆっくり走りすぎてゆく車の中に見覚えのある男の顔を見つけた。

昼間美沙の事務所で会ったキザなラテン男だ。
他に数人、スーツ姿の男が乗っている。

ゆっくりとパーキングの方へ向かうのを見て隆也は、春樹が言っていた「仕事」が慌ただしく動き出したのだと悟った。
自分が心配したところで始まらない世界で春樹は生きてるのだ。
隆也は無力感と、ほんの少しの寂しさを感じた。


       ◇

立花薫を含めた本社メンバー3人の協力のもと、谷川理紗の捜索は迅速に進められた。

春樹が美沙に打ち明けた谷川理紗の被害については、慎重に事を進めたかったため、「体調を崩している可能性かある」とだけ3人に伝え、猶予が無いことを促した。

春樹の情報を元に手分けして探し回り、翌朝8時ごろようやくそのマンションは突き止められた。
春樹もそのマンションで間違いないと画像メールで確認し、美沙と二人、その場所に向かった。
あとはその部屋を慎重に尋ねていくだけだ。

訪問に不審を感じさせる時間帯を割け、朝9時まで待った薫がドアホンを押したが、何も反応は無かった。
少し時間を置き、美沙が試したが、やはり同じだった。
他のメンバーを帰した後も一人現場に残った薫は、冷え込みに震えながら美沙と春樹に言った。

「さっきあの部屋に宅配便が来たけど、荷物もって帰っちゃったろ? 谷川理紗が一人で部屋に居るなら出てくるだろうし。やっぱり二人して仲良くお出かけとかなんじゃない? まさか監禁って事はないよね。だったらここは探偵じゃなく警察の出番だ。……まあ、すべては本当に谷川理紗がここに居ると過程してだけど」

小さく肩をすくめた薫に、美沙は小さく「大丈夫」と言っただけだった。

薫と美沙、そして春樹が立っているその場所からは、各部屋の玄関ドアが見渡せる。
3人は不審がられないように注意を払いながら304号室の監視を続けた。

「本当にここで間違いないのね? 春樹」
美沙が寝不足のせいか昨夜より更に顔色の悪い春樹に改めてそう聞くと、春樹は黙ったまま頷いた。

「じゃあ、ここで間宮が帰るまで持久戦だな。……ところで春樹君」
薫は少々芝居がかった口調で春樹に視線を向けた。
春樹も薫を見る。

「そろそろ話してくれてもいいんじゃない? どうやってお手上げ状態の少女の居場所を突き止めたのか。まず、現場の外観から探し始めるなんて奇妙な捜索の仕方も初体験だ。
どんな方法で見当を付けたのか、教えてくれないか? これからの参考にしたいしさ」

薫は舞台役者のような掘りの深い顔で優しく笑った。
その質問には本当にそれ以上の嫌らしい意味は感じられなかった。純粋な好奇心だという事が伝わってくる。
けれど春樹には答えられるはずもなかった。

「地道な聞き込み調査の集大成よ。小さな目撃情報を寄せ集めて検討していく。二日間、春樹は必死でやったのよ」
口を閉ざしている春樹の代わりに美沙が答えた。
薫が「へー」と言ってくっきりした眉を上下させ、二人を交互に見た。

「そんな薄い情報で俺らを動員したのかい? 勘違いとか考えずに? 時間の猶予が無いっていうから、俺達は貫徹で動いたんだよ? あ、いや、怒ってる訳じゃないんだ。ちょっと意外だったもんで」

「大丈夫よ、確かだから」
美沙はきっぱり断言すると視線をまた304号室のドアに移した。

それ以上はもういくら訊いて来ても一切答えないという、無言の意思表示だ。

薫は再び肩をすくめ、諦めたようにクスリと笑い、そして今度は小声で堅い表情の少年に話しかけた。
「ねえ……君はそんなに無口な子だったかなあ、春樹君」

春樹は驚いたように薫を見上げた。
けれど、頭一つ分春樹より背の高い薫は春樹を見下ろし、優しげに笑っていた。

「特別な調査ルートを持ってるんだよね、君は。いずれ君と仲良くなって、ゆっくり教えてもらうよ。でもさ、俺にはどうしても今すぐ知りたいことがあるんだ」
薫はふざけた調子で春樹の肩をぐっと握り、不意に引き寄せた。

春樹が怯えたようにびくりと体を強ばらせたが、薫がそれを察することはなかった。
更に春樹に顔を近づけ、ご機嫌な口調で話しかけて来る。

「ねえ、どうやったら美沙にそこまで信頼されるんだい? 美沙はいつまでたっても俺のことを軽薄な遊び人くらいにしか見てくれなくてさ。愛をささやいても鼻で笑うんだ。
君が羨ましいよ。愛される魔法があるんなら教えてくれないかな」

「薫さん、静かに!」

美沙がたしなめるように小声で言うのと同時に、薫の手の中から逃れようとして、春樹は勢いよく体を退いた。
けれどその衝撃で春樹は脇腹に鋭い痛みを感じ、声を出さずに顔を歪めた。

「ん? どうした、どっか痛めた? そう言えば君、ひどく顔色悪いよね。もしかして昨日から体調よくなかったんじゃない?」
再び薫が春樹の肩に手を伸ばそうとした瞬間、マンションをじっと見ていた美沙が言った。

「待って! 誰か帰ってきた! ……春樹、あの男が間宮なの?」

春樹と薫がハッとしてマンションのドアに目を移した。
黒い光沢のあるジャケットを着た男が鍵らしきものを弄びながら、ゆっくり304号室に近づいてく。


「あいつだ」

春樹は押し殺したように小さく言った。

いつになく重く鋭いその声には、激しい怒りと嫌悪が込められていた。


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~ Comment ~

NoTitle 

薫さんって、結構面倒くさいタイプですよね。笑。

「聞くな」ってことを聞いたり、「騒ぐな」って時に騒いだり、
「もうウンザリ」って相手の表情に気づかなかったり、そういうタイプかな。笑。

(現実世界の)私の知っている人が数名、頭に浮かびました。笑。

ヒロハルさんへ 

そうなんです、薫って男は、そんな男。
決して悪い人間ではなく、自分なりに気を使ってはいるんですが、少しばかりタイミングが悪く。

面倒くさいけど、憎めない。

第一、薫がいなかったらこの物語、救いようがなく重苦しいですもんね。
一人くらい、こんなお茶らけ人間がいても・・・。
そして、この人も実は、悩みがあったりするんです^^
それは、別のお話で・・。

ヒロハルさんの周りにもいますか?こんな人。

NoTitle 

間宮が やっと帰ってきた!
あぁ~何だか ドキドキするなぁ。

時間的猶予が無いくらいに 理紗は危険な状態ってことなの!
それに すんなりと 理紗を助け出せるのか?も 心配だし、春樹の心と 傷を負った体も とっても心配です。

春樹に 何も手助け出来なくて 歯がゆい思いをしてる孝也に 安心させる結果になって欲しいですね。

[壁]ω´・)チラッ。。。。。。。゙(ノ・`ω・)ノスタタタッ。。。。。。チラッ(・`ω[壁]...byebye☆


NoTitle 

薫さんもたいへんな役だなあ。

この世界で、春樹の能力を知らない人間の代表として、知っている人にはとんちんかんに見えるけれどもあの世界の人間には当然疑問に思っていいはずのことを質問する役だもんなあ。

そして読者からはウザがられ……なんか気の毒になってきた(笑)。

まあこういう人がひとりくらいいないと話は展開していかないけれど。

けいったんさんへ 

帰ってきましたーーー。
が・・・。

この後の展開は、わりとサラリと行っちゃいます。
物足りなかったらごめんなさい(>_<)

本題は、春樹と、美沙と、隆也。
この3人の心の動きは、じっくり追いますよ^^
春樹・・・ちょっとやばいかも・汗

けいったんさん、柱の影から見守っていてくださいね♪

ポール・ブリッツさんへ 

薫の辛さを分かって頂けましたか^^
うれしいです。
確かにうざい人ですが。

最後までうざがられて終わっては、彼も忍びない。
私も愛情持って、書かせていただきます!!(ふふ)

そう。当然湧いてくるだろう疑問を、彼に代弁してもらってるわけです。
必要なんです。
なんとか彼も、外野ではなく、このファミリーに入ってほしいんですがねえ。
(難しいかな?)

しかし、このシリーズ、「5」あたり、どんどん悲壮になっていきます。
もう、昼ドラです。ほぼR指定です。重いです。
読者減るかなあ・・・・。
やめといたほうがいいのか・・・。
爽やか路線は、もう私には書けないのか・・・。

悩みます。

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメPさんへ 

そ、そうですよね。 (>_<)
弱気になってました。
ありがとうございます。

うん、そこはきっと描かねば、中身のない物語になりそうで。
こんなテーマを選んだからには、突き進むしかなさそうで・・・。

思い切ってやってみようかなあ~。
堕ちるとこまで堕としてみますか(って酷い発言)

とことんやってから、爽やか路線に戻ろう。
・・・とかいって、そこから抜け出せなくなったりして(^.^;)

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメPさんへ 

それを出されちゃ、「そっか~www」としか言えませんね。

なるほど、説得力です!!

いやでも、あれは反則www

NoTitle 

春樹さんがもしここで
「ぐぐったんです」
とか言ったら間違いなく笑っちゃっただろうなぁとか
勝手に思ってました。
本当にごめんなさい。

KEEP OUT ギャグ編・・・?
とか勝手に考えてしまいました。

本当に反省しています。
ごめんなさい。

ねみさんへ 

ははは。
そんなこと言ったら、一気にギャグ系www

でも、一番怖い発言ですよ。
そこでスベッたら、春樹、凹みますから・笑

いつかコメディタッチのKEEP OUTも、書きたいですね~♪

おはようございます^^ 

お久しぶりです、limeさん。
やっと戻って来ました^^

読んでない分、一気に読ませていただきました。
凄い展開になってる・・・・というか、まだ谷川理紗の一件が解決していないのが意外でした。
私が最後に読んだのは、春樹が「男」から情報を読み取った所で止まってたので、もうとっくに解決してるもんだとばかり思ってたんです^^;
つーかまさか、「レ○プ」という要素が入って来るとは思いもせず・・・・・・・

いやいや、この話はミステリーだったんだ・・・と、改めて納得(笑)。

隆也のジリ耐がどこまで続くか・・・・これもまた、一つの見所ですね^^
楽しみです♪

蘭さんへ 

おかえりなさい~。e-267
ゆっくり休めましたか?

3話分読んでくださったんですね。ありがとうございます(*^_^*)
ちょっと重い展開になっちゃいましたが、もう少しジリジリしてください。

春樹の情報も万全ではないので、探すのに少し時間がかかってしまいました。
これからが本番です。(て、あと5話しかないんですが)

さて、隆也はこのまま我慢の子なのか・・・(`∇´)
お楽しみに^^
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