KEEP OUT 3 君に伝えたいこと

KEEP OUT3 第12話 浸食

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高架下トンネルの、ちょうど中程だった。
メールの返信は駅に着いてからにしようと、携帯をポケットに滑り込ませた直後に「それ」は春樹に襲いかかってきた。

いきなり背後から麻袋のような物を頭にかぶせられ、その後背中を強く蹴られて地面に叩きつけられた。
咄嗟に手を出し、顔面を打ち付けるのは免れたが、腕に激痛が走った。
一瞬何が起こったか分からず、春樹はただ必死で体をねじりながら、頭から麻袋を外そうと藻掻いた。
しかし窮屈な袋に掛けた手は恐怖に震えて思うように動かない。

パニックを起こしたようにアスファルトの上で藻掻く春樹の脇腹に、再び激しい蹴りが入った。
苦痛に小さく呻き、それ以上の攻撃を恐れて背を丸めた春樹を見下ろし、あざけるように、その人物は鼻を鳴らした。
そして更に春樹の背とわき腹を何度も執拗に蹴り上げた。
春樹がもう声も出さず、ただ石のように丸まってしまうと、その何者かはゆっくりと春樹の横にしゃがみ込み、少し脱げ掛かった麻袋を食い止めるように、そして更なる恐怖を味わわせて楽しんででもいるかのように、その首にがっしりとした腕を巻き付けてきた。
苦しくて払いのけようと春樹が出した手が、その「男」のむき出しの腕をつかんだ。

春樹は雷に打たれたようにビクリと体を震わせた。
“それ”は蹴り上げられた事よりも、痛烈な痛みを伴って春樹を貫いた。

一瞬動きを止めた春樹を観念したと思ったのか、その男は春樹の耳元に顔を近づけ、押し殺した声で言った。
「ゴソゴソ嗅ぎ回るなクソガキ! いい加減やめないと次はぶっ殺す!」

けれど春樹は硬直した両手に力を入れた。
破裂しそうに激しく打つ心臓の悲鳴に逆らいながら。
呼吸が苦しい。
いつ切ったのか口の中に血の味が広がり、体中が痛みに悲鳴を上げていたが、春樹は更に力を込めて男の腕を掴んだ。
そこからが春樹の戦いだった。
取り入れなければならない情報と、決して覗いてはいけない情報との間で、春樹は引き裂かれそうになりながら戦っていた。
男が春樹の動きを不気味に思い、もう一度脇腹に強い膝蹴りを入れるまでそれは続いた。

あまりの鋭い痛みに途切れそうな意識の中で、春樹は男の足音が遠のいて行くのを聞いた。
自分がアスファルトに頬をつけ、転がっているのにその時初めて気付いた。
車が一台、小さくうずくまった春樹に気付かずに、脇を通り過ぎて行く。

脇腹に負担が掛からないように何度か浅く呼吸したあと、痛む腕でゆっくりと頭から麻袋を外した。
暗いはずの蛍光灯の光さえ、痛いほど眩しく目に刺さってくる。

突然からだが小刻みに震え始めた。
そして込み上げてくる吐き気に耐えられず体を捻って嘔吐した。
口腔内の血と混ざった胃液がアスファルトの上に黒いシミを作った。

壊れてしまう。
初めてそう思った。
のどの奥が震え、うまく呼吸出来ない。
浅く早く息を継ぐが、酸素が入ってこず、頭が朦朧としていく。
さっき感じた物よりも更に大きな恐怖が地面から這い上がり、病的なまでに手が震えた。

ここにいたらだめだ。

震えの酷くなる冷たい手で春樹は携帯を取りだした。
左手で右手を包むようにして震えを止め、アドレスから名を選ぶとボタンを押した。

お願い、出て。ここにいたくない。一人で居たくない。

春樹は心の中で懇願しながら携帯を耳に当てた。
コールが少し間を置いて始まった。
1回、2回・・・
乱れた服装で高架下の黒い壁際に座り込んでいる春樹を、通過する車のドライバーが嫌な物でも見るように一瞥してゆく。

4回、5回。
6回・・・。
春樹は息を震わせて目を閉じた。
7回目のコールが終わる直前、携帯から快活な声が響いてきた。

「おう。どうした? 春樹。仕事終わったのか?」

安堵で全身の筋肉の強ばりが一瞬抜けるのを感じた。
しばらくそのまま声を出せずにいた。
「あれ? どうかした? 電波悪い? メール見て掛けてきたんだろ? 春樹」
春樹はゆっくり息を吸い、震えないように声を出した。

「うん。メール見た。・・・あのさ、隆也。今、時間ある?」
「メール本当に読んだのか? 暇だから送ったんだろ?」
いつものように屈託無く笑いながら隆也が言った。
春樹は込み上げてくるものをぐっと堪えた。
「隆也・・・あのさ、頼みがあるんだ。・・・迎えに来てくれないかな。ちょっと・・・足、痛めちゃって」
「え、どこで? 捻挫でもしたのか? 仕事中なんだろ? 美沙さんに連絡した?」
「美沙には言わないで!」
思わず荒げた声に隆也が息を呑むのが感じられた。
「・・・わかった。すぐ行く。どこにいる?」
もう隆也の声は笑っていなかった。
春樹は正確な場所を伝えると、「ごめん」とだけ言って電話を切った。

隆也が来てくれるまで何も考えずにいられるだろうか。
春樹は震えの止まらない両手をじっと見た。
あの男をつかんだ感覚が生々しく残っている。
流れ込んだ記憶が確実に春樹の心を浸食してくる。
自分自身がどうしようもなく醜く、薄汚い生き物になってゆく気がした。

「あれ? ねえ君、怪我してるんじゃない? 大丈夫?」
仕事帰りのサラリーマンと言った感じの大柄な男性が心配そうに近づき、シャツが破れて血が滲んだ春樹の左肘あたりにそっと手を伸ばしてきた。
「触らないで!」

身を固くして叫んだ春樹の声に驚き、その男性は数歩後ずさった。
春樹はうつろな目で男性を見上げた。
「ごめんなさい。・・・大丈夫です。ごめんなさい。だから・・・お願い、僕に触らないで」

再び伏せたその目から、堪えていた涙がこぼれ落ちた。



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~ Comment ~

NoTitle 

おおっ!
春樹は一体何を見たのでしょうか。
襲われて抵抗することさえ悩んでしまう能力ですね。

前回に引き続き、次回を期待させる繋ぎ方が上手です。

NoTitle 

ぬは、前回、名前を入れ忘れちゃったんですね。すみません
ワタシのアホなコメントとはうってかわって、どんどんスリリングな展開になってきましたね
体が辛くても、人に助けを求められない心の辛さ・・・たまらないですね

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ヒロハルさんへ 

いや~~なもん、見ちゃったんでしょうね。春樹。
精神を崩壊させる・・というより、もっと辛い現実をみちゃったのかも。

今までいたずら半分に使ったこともある能力ですが、・・・もうできないかなあ。

次回を期待してもらえると、すっごく嬉しいです^^

kyoroさんへ 

少しばかりシリアスな展開になっちゃいましたね。
春樹、今一番、辛い時かなあ~。
この後、ちょっとばかり心に壁を作っちゃう春樹ですが・・・どうなりますか。
応援してやってください(T_T)

いやいや、シリアス度に関係なく、陽気なコメント、お待ちしてますよ♪
(作者がおバカなもんで^^)

鍵コメポールさんへ 

おおお。
すっごくいいこと書いてくれてるのに、鍵コメもったいない~。

そっか・・・。だから春樹は中性的なんですね。
作者も納得です。

桐野さんとは、なるほど、正反対なんだぁ~。
春樹、危険。

そうですね。今回は完全に「浸食」されてしまいました。
いい方を変えると、それは侵入した思考に「犯される」ことなのかも・・・。

ぜったいこれ、禁止ワードだな・・・。   ↑

NoTitle 

一歩間違えればハラスメントものなので嫌われたらどうしよう、と思って鍵コメにしましたけど、問題がなければ開いちゃっていいですよ。

というか、limeさん、わたしがあえていわなかったことまでいっちまうし(^^;)

うむむ(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

あ・・・。
なんかわたし、喋り過ぎましたかσ( ̄∇ ̄;)

だ・・・ダメでしたか!!

でも、あれですよ、そこら辺はきっと触れられずに終わって行く部分なので、
あえてさらけ出すのもいいかなあと^^

え?鍵コメってどうやって開くのかな?
わかんないから、ここにコピペしますね^^
  ↓
(ポールさんの鍵コメ)
> 春樹くんにはどこか中性的、というか女性的な側面があると思っていましたが、今回を読んでその一部を「理解」したように感じました。
>
> 春樹くんの能力が、相手の心の底に自分を潜り込ませていくという能動的なものではなく、相手からの情報をアンテナのように受ける、受動的なものであるというところがその女性性を現しているのではと。(その真逆がうちの桐野で、彼はターゲットの心の底へ自分から潜っていってハンティングをします)
>
> 今回の春樹くんの体験なんか、そういう視点から見ればいくらでも深読みができるような。

こんばんは^^ 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

重(T T)

何~~? こんな展開~~??
(って、ちょっとは想像してたけど・笑)

何のヴィジョンを視たんだろう。
気になる・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして・・・・・・・・・・・・・・・・・

いやいやいや・・・・大人しく次回を待ちましょう^^;

こんな春樹を見たら、隆也はどーなるんだろう??
先が読みたいような読みたくないような・・・・でも読みたいv-413

今回のお話は謎な部分が多くて、何度も読み直したけど、やっぱりイマイチ掴めなかった・・・・・
パズルのピースが、見つけられない~~v-406

NoTitle 

ポールさんすげぇ。
そんな考え方も出来るんだ・・・。
なるほどなぁ・・・。

春樹さん。
やっぱり探偵という仕事柄こういうことは仕方ないのかもしれません。
自分の周りをうろちょろされて
良い気分の方はあまりいませんからね。
ましてや自分のことを嗅ぎ付けているなんて知ったら
流石に・・・嫌ですよね。

蘭さんへ 

やっぱり、重いですよね・・・今回は。

最大の試練ですね。
辛いです、春樹・・・。

そうなんです。まだ、ヒントになるピースは全く出していないんですが、
ぽつぽつと、春樹が語ってくれるはずです。
でも、しばらくは春樹、少しばかり心を閉ざすので、もう少しだけ待ってやってください。

そんな春樹を見た隆也ですが・・・・。
彼は彼で、すっごく・・・・。

・・・って、いつもコメントで語り過ぎるからダメなんだなあ・私i-201

蘭さんのコメントを読んだ後はいつも、「早く次を読んでもらいたい病」が出てしまいます^^

ねみさんへ 

危険は無いように見えて、どこに危険の種が埋まってるか、わかりませんからね。

春樹もちょっと甘かったようです。
いろんなケースを考えなきゃね。
探してる男の危険性とか・・・。
そうでなくとも、ねみさんのいうように、嗅ぎまわられるだけで腹を立てる輩もいるわけで・・・。

ついてないよね、春樹(;_;)

NoTitle 

はじめまして。いつも楽しく拝見しています。
また時間を見つけて、遊びに来させて頂きますね!

ゆっきーさんへ 

いらっしゃい♪
うれしいです~。
またゆっくり、遊びにきてくださいね^^

NoTitle 

春樹が今まで経験してなかったのが不思議なくらいだと思う。
暴力沙汰はヤバい仕事でもあるから、今までも十分あり得た。
触れた相手の心の地獄。
見たくないし、知りたくなかったろうな。
身体の痛みより衝撃的だよね。

また美沙に言わないでなんてぇ~~
むふぅ~~
ラブリィ~~
v-398

ぴゆうさんへ 

きっと春樹も、今までにいろんな人の心の闇を見てきたんでしょうが、
今回は更に辛そうです・・・。
こんな仕事してたら、いつか壊れちゃいそうですね。
なんとかならないかな・・・。

そう、美沙には知られたくない。
春樹の中で、いろんな複雑な思いや恐れがあるんでしょう~。
でも、しっかり隆也には甘えるし(^.^;)。隆也、役得^^。

NoTitle 

lime様、こんばんは♪
少しご無沙汰してしまいました(´;ω;`)ブワッ

そして、意気込んで開いた章の最後で「おあずけ」を食らった私は、誘惑に勝てずにこの章へ‥‥(笑)
それなのに、もう一回クリックするかどうか、すごい葛藤を食らわせる恐ろしいこの展開(((( ;゚д゚)))アワワ

春樹は一体何を見たんですかっ?
気になって気になって仕方ない~。
一応、前回のラストで、きっと谷川理紗本人がどーん!と春樹にぶつかってきて、理紗の心を覗いてしまう‥‥というような展開を予想していたのに、全然違ってた^^;

でも本当に、春樹のこの能力って、どこまでの情報を取り込めるのか、または取り込めてしまうのか、っていうのは今後のお話に関わる深いテーマですよね。
春樹本人の心の安定という意味で言えば、やりすぎると本当に壊れてしまいそうで‥‥。
美沙には言わないで、なんて ・゚・(つД`)・゚・
でもでも、隆也はそんな春樹を見てどう思うんだろうと思ったらまた、何かそれも辛くて。
うわーん、何かあっちにもこっちにも感情移入してしまって、色々心が痛いです~(汗)

また明日お邪魔しますねっ(*´ω`*)テレ

土屋マルさんへ 

おお、次も読んでくださいましたか^^
気になるところで終わってみましたから。笑

春樹が一体何を見たか・・・は、もう数話先に分かると思いますが、
いろいろ想像しながら、しばらく待ってください(いぢわる)

>でも本当に、春樹のこの能力って、どこまでの情報を取り込めるのか、または取り込めてしまうのか、っていうのは今後のお話に関わる深いテーマですよね。
春樹本人の心の安定という意味で言えば、やりすぎると本当に壊れてしまいそうで‥‥。

↑そうですよね。
今回は、春樹の能力の性質が少し分かるかもしれません。
ほんの数秒の間でしたが、“自分から”情報を取りに行ったわけですから。
でも、かなりショッキングだったと思います。

ここでの事で、後に美沙は、“春樹の能力がいったい何なのか”を、知ることになるのです。
でも、それはもっともっと後のお話^^(「5」で、思い知ることに)

さあ、何も知らない隆也。
この状況をどう思うのでしょうか。
隆也と言う人間の、微妙なところも、少しばかり覗くことができるかもしれません。

感情移入してくださって、すっごく嬉しいです^^
(読者様のこころの疼きがごちそう・・・とか)

どうか、お時間のあるときにゆっくり来てくださいね^^
私も、またお邪魔させてもらいます。


NoTitle 

limeさん。
こんばんは♪

あぁ、襲われてしまった・・・
麻袋・・・って聞くと拉致問題を想像してしまいましたよ。
卑怯な手で、相手を痛めつけるなんで、
許せませんね。

春樹はきっと犯人の腕からとんでもない事実を読み取ってしまったのでしょうね。
耐え難い事実。
そして、美沙には内緒にしときたい・・・心配かけるからかな?
一体何を読んでしまったのでしょう。。。

さやいちさんへ 

そうなんです。
ちょっと春樹、注意力散漫。危機管理ができていませんでした。

誰でしょうね、こいつ><

春樹は、見てはいけないものを見ちゃったのか・・・。
それとも、有力な情報をつかんだのか。

詳しい内容は、後半で春樹が語ります。
まったく・・・かわいそうな子です><

美沙に内緒にしたのは、意地もあったのでしょうね。
「ほら見なさい!」とか、言われたくなかったのでしょう。
そういうとこ、意地っ張り^^
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