KEEP OUT 3 君に伝えたいこと

KEEP OUT3 第10話 レディ・ホーク

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……どうしてあんな事を言ってしまったのだろう。
隆也はソファに座ったまま後悔に背を丸め、両手を握りしめた。

今のはやはり美沙に言うべき事では無かったかもしれない。
この仕事を選んだのは春樹であり、美沙はそれを受け入れただけなのだ。

あの火事のあと、ひとりぼっちになった春樹を常に励まし、身の回りのすべての手続きや手助けをしてきたのも彼女だ。
昔の恋人の弟だというだけで、本当の弟のように接してくれている。
春樹にとって一番の恩人という事も、よく分かっている。

けれど、さっきの発言に「ごめんなさい」というのも癪な気がして、隆也は俯いたまま口を閉じた。

不自然な沈黙が漂う。
居心地は良くなかったが、このまますぐに帰るのも後味が悪い気がした。
どうせなら、と思い、隆也は今まで春樹にも面と向かって訊けなかったことを話してみることにした。
ちょうどいい話題かもしれない、と。

「ねえ、美沙さん。春樹は変な癖があるの知ってますか?」
紙コップのコーヒーを両手で包み込んだまま、美沙が不思議そうに隆也を見つめて来た。

「癖?」
「昨日あいつ見てて思い出したんです。高校の時からの癖が治ってないんだなって。女の子が写真見ようとして手を出すと、慌てて写真を持ち替えて、一瞬でも触れないようにするんです。
あいつ高校の時もそうだった。俺には少し神経質な感じに見えたんです。病的っていうか……。
女嫌いなのかって訊くと本人は否定するし、そのことを話題に出すと辛そうな顔するから、もう訊くの辞めたんだけど」

美沙は驚いたように目を見開いて隆也を見つめている。
やはり知らないんだと確信して隆也は続けた。

「潔癖性って言うのとは違うみたいだし」
「……そうね。そんなふうには見えないわね」
美沙は抑揚のない声で返してきた。

「あいつ結構女の子にモテたし、告白もされたと思うんだけど、全部断ってたみたいなんです。でも、女性嫌いじゃないと思うんですよ。女の子とだって仲良く喋るし」
「へえ。そうなの」
「美沙さん、気付いたりしません? 仕事中とか」
「さあ。ここには恋の対象になりそうな女の子社員、いないから」
美沙は苦笑した。

「美沙さんには?」
「え?」
「美沙さんにも同じような態度をとりますか?」
美沙は困ったように隆也を見た。

「ねえ隆也。私は春樹の上司なの。ここで一緒に仕事をしてるだけ。春樹の恋愛相談に乗ったこともないし、春樹のその癖にも心当たりは無いの」

隆也は少し頬を赤らめて一瞬口を閉じた。

自分でも話が逸れてしまっているのに気が付いていた。
春樹の病的な癖を美沙に確認したかっただけなのに、確実に脱線してしまっている。自分が本当に話したい方向へ。
もう軌道修正出来そうにない。


「春樹は女を好きにならないのかと思ってたけど、そうじゃないのかもしれない」
「ん?」
「春樹は美沙さんが好きなんじゃないかと思うんです」
美沙が表情を硬くしたのが感じられた。

「そしたら何か、いろいろしっくりくるんです。春樹は特定の女性人以外は、受け付けなくて……。その特定の人が美沙さんなんじゃないかって。だから傍に居たいんだと思う。
ひとりぼっちになった事で、いろんな不安もあって、それで美沙さんの傍から離れられないんじゃないかなって……」

美沙の視線が痛かったが、隆也は続けた。
何言いだしちまったんだろうと、自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしたが、もう途中で止められなかった。

「でもそんな事でこれからの人生決めちゃうのおかしいと思うし。美沙さんが本当に春樹の事を受け入れる気持ちがないんだったら、早く教えてやってほしいなって……。いつか美沙さんも、春樹の事が重荷になるんじゃないかって……思って」
胃が気持ち悪くなって、語尾が濁った。

こんな事を言ったのがバレたら春樹に軽蔑されるだろうと思った。
しかしもう、完全に手遅れだった。


「春樹は良い友人を持てたよね。羨ましいよ。まあ、……ちょっとお節介が過ぎるけど」
美沙は自然な笑みを浮かべながらそう言うと、サイドテーブルの新聞を手にとって眺めた。
訳の分からない話を振られて、答えに困っているようにも見える。

それはそうだろう。
春樹の気持ちを受け止める気が無いんだったら、春樹のためにそれを示してくれと、言いがかりのような事を言われたのだから。

けれど隆也は美沙の答えをじっと待った。
美沙が本当のところ、どう思って春樹を側に置いているのか知りたかった。


「ああ、これ懐かしいな。この映画」

美沙は唐突に新聞広告の、DVD通販の欄を眺めてそう言った。
隆也の質問は忘れてしまったかのように。

「映画?」
「うん。この映画知ってる? 『レディホーク』。私、小学生のころ観たのよ。TVでね。随分昔の映画だけど、映像が綺麗だった。ジャンルはファンタジーなのかな、それともアドベンチャー?」
その笑顔は少女のようだったが、話をはぐらかされた隆也は少しガッカリしていた。
「さあ。そんな映画知りませんけど」
返答に苛立ちが混じる。

「あの頃はこの映画の男女の本当の切なさが分からなかったけど、今なら分かるな。嫌になるくらい」
「だから、知らないんですってば」
「うん。知らなくていいのよ」
「……」

美沙は笑ったが、隆也はそこに一瞬何とも言えない冷たい空気を感じた。
いや、“壁”だったろうか。

「私と春樹はこの中の主人公の二人に似てるなって。……何となく今、そう思ったの」
隆也は何と返せばいいのか分からなかった。
どういう意味なのだろう。

そこから先の沈黙は、さっきまでのモノとは比べ物にならないほど冷ややかで、隆也は居たたまれなくなった。
ソファから立ち上がり、非礼を詫びるつもりで小さく頭を下げた。

美沙は何もなかったように「またね」、と送り出してくれたが、やはり先ほどの美沙の言葉は、拒絶以外の何物でもなかったように、隆也には思えた。


―――知らなくていいのよ。

首を突っ込んでこないで。これは君には関係ない事。
そんな風に聞こえた。

もしかしたらここは、自分が入ってはいけない“立ち入り禁止区域”だったのだろうか。

隆也は自分自身に重いため息を一つ吐くと、エレベーターを待つのももどかしく、薄暗い階段を一気に駆け下りた。



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~ Comment ~

NoTitle 

何だかこう、ハッキリしないというか、ウニャウニャしているというか・・・・・・
探り合いみたいな感じですね。笑。

入ってはいけないと言われれば入ってしまいたくなる。
それが立ち入り禁止区域。
隆也はどこまで入り込んでしまうのでしょうか。

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ヒロハルさんへ 

まったくそうですね。
今回は(今回も、か?)思いっきり腹の探り合いです。www

だれもが「自分が一番春樹を想っている」という気持ちが、話をややこしくさせてるのか・・・?
今回は隆也のウザさ満載でお送りしました。

スッキリしなくて、読んでるほうはじれったいですよねえ。i-201
(私はけっこう楽しかったりするんですが・笑)

次回からはもう、腹の探り合いは無しで、サスペンス調になります^^
たぶん。

鍵コメさんへ 

> 隆也がしてる事って、「親友だから」って看板をぶら下げて、留守宅に鍵開けて入って冷蔵庫の中掃除してるような物に今回感じましたv-394
> たとえどんな良い子だとしても、「弁えなければならない箇所」を間違ってはいけない気がする。
> てか、そんなに気になるんなら、美沙に聞くのではなく直接春樹に聞けばいいのに・・・・。
> 春樹には、「良い子ちゃん」でいたいのかな??
> てか、やっぱり惚れてるから?(←そこ!?笑)


ははは(^o^)、もう、憤懣爆発ですね~~www
いやはや、隆也、ちょっとブレーキが効かなくなってしまっていますね。
どういう形にせよ、春樹への気持ちが強すぎるのか、・・・ただのイノシシ君なのか・・・ww

でも、まあ、美沙がその分大人ですから・・・。
ぐっと堪えてくれるでしょう。(頼むよ、美沙)
でも隆也、また暴走するかもしれませんが・・・・。

次回からはモヤモヤではなく、ハラハラさせたいと思いますe-267


文章のご指摘の部分、そうですねえ、読みようによっては気になるかもしれません^^
主語を抜いたうえで、響きが良いように書いたので、そのせいですね。
でも、そっちの方がピンと来ますね。うん。直してみたら、スッキリ♪
鍵コメ、ありがとう~~e-266

NoTitle 

「レディホーク」って、あれ、なんだかんだあっても結局ハッピーエンドになるんじゃなかったでしたっけ。

ということは春樹と美沙も……?

と考えるのは楽天的に過ぎますか(笑)。

実はあの映画ノベライズも出ていたりする。

ポール・ブリッツさんへ 

そう、えらくハッピーエンドだったような・・・。

実は私、ノベライズしか読んだことないんです。
中学生の時読みましたが、なかなかいい作品でした。

映画はミシェル・ファイファーとルトガー・ハウアーでしたっけ。
美男美女過ぎる・・・・。

さあ、あんな風にハッピーエンドになるのかなあ。作者にも(まだ)わかりません。・・・

NoTitle 

ああああ!
「レディ・ホーク」!
切ないですよね、あの映画。ネタバレになるといけないから語れませんけど、心臓をつかまれたんじゃないかというほど、胸が痛い内容で…。
思いだすだけでも、胸がシクシクします(胃痛ではないですw)

<立入禁止区域>=keep out、そういうことだったんですね。
旅行から戻ってきたらまた続きを読ませていただきます。楽しみです~

綾瀬さんへ 

綾瀬さんもご存じでしたか^^

私も美沙と同じで、中学生の頃小説で読んだ時は、その悲しさが半分しか伝わらなかったけど、
今だったら分かります。切なくも美しい物語でした。

KEEP OUT・・・入り込んではいけない場所。
このシリーズの、いろんなところに転がっているはずです^^
皆その領域に苦しむんですね~。
(ひどい作者)

あ、旅行なんですね??
気をつけていってらっしゃ~い。
え?綾瀬さんの更新も、お休みなのかな??
早く帰ってきてくださいね~~^^・・あ、いや、ゆっくり楽しんできてください!

NoTitle 

8歳下ってことは・・・。
僕が25歳のおねいさんに言ってるようなものですか・・・。
全然Okじゃないですかっ(お前・・・

美沙さん、ちょっと不機嫌でしたね。
ごまかしなのかそれとも・・・。

ねみさんへ 

ねみさん、17ですもんね。
8歳年上、OKですか??
じゃあ、美沙と春樹も・・・・。
でも春樹未成年だし、・・・(何を考えてる)

そういやあ、松山ケンイチと小雪も8歳違いの姉さん女房^^

美沙、静かに怒ってたの、わかりました?www
静か~にね、「いいかげんにしなさいよ」って釘をさしたんだけど、
隆也に通じたかどうか・・・。

NoTitle 

映画「レディホーク」ですか・・・後で ググってみます。

美沙も 隆也も 春樹を思ってのことでしょうから。
少々 冷たく接しても 少々 お節介でも 許すとしましょう!

2~3日前の深夜 突然の停電でPCのデータが ぶっ飛ぶし、急な用事でバタバタするしーー(T▽T)  今も PC絶不調ー!
以前のように コメは書けないかもしれませんが、楽しく 読んでますので♪
ε-(=`ω´=) PCテメェ!!。。。byebye☆

けいったんさんへ 

美沙も、隆也も、すこしギクシャクしてますが、
許してくださいますか! ありがとう~。

ええ?PCが? データがぶっ飛んだんですか??
そんな~。

そんな大変ななか、来ていただいてかたじけない!!ありがとう~(>_<)

いえもう、コメとか気にしないで~。
PCが機嫌よくなってからでもいいし、ゆっくり読みにきてくださいね。
PCが調子悪いと、なんだかもう、辛いですよね(>_<)

我が家のPCも、そろそろヤバイけど、だましだまし、頑張ってもらってますi-201
データ飛んだら、辛いなあ~~。

NoTitle 

レディ・ホーク
ありましたねぇ。
切なさをそれに例えるとは・・・
美沙の気持ちは高まるばかりでござるなぁ。
隆也もいい加減気がついたかな?
どうだろ?
無理だわな。
v-403

ぴゆうさんへ 

春樹もお子ちゃまだけど、隆也もまだまだ幼い。
美沙の本当の女ごころには、気付いてないんでしょうね。

春樹を頼む、って言う割に、美沙を信頼してない子w。
美沙もまだまだ若いし、感情のコントロールも未熟です。
さて、どうなる事やら・・・。

レディホーク。切ないけども、美しい物語でしたe-267

立ち入り禁止区域 

↑まだ、その程度なら大丈夫。
それが、地雷だとそうはいかないけど。
fate自身、地雷を抱えているから、なかなか辛いな、こういうの。

って、訳でも実はないけどさ(^^;

いや、触れる方も触れられる方も辛いね。
知っている方知らない方も。

こうすれば良いのに、って明確な解決策がないことって、世の中、多いね。
人は優しければ優しいほど、そして、正しければ正しいほど、人を傷つけるね。

fateさんへ 

立ち入ってほしくない事って、だれにもきっとあるんですよね。
でも、自分と全くかけ離れてると、知らず知らずに入り込んじゃう。
隆也は、なんとなく気がついてはいるけど、入ってしまった確信犯なのかなあ・・・。

ここの登場人物は大事に思う人の為にすることが、どこかで裏目に出てしまう連鎖を断ち切れないみたいです。

>人は優しければ優しいほど、そして、正しければ正しいほど、人を傷つけるね。

まったく。
そういうのって辛いけど、私は人間らしくてすごく好きなんです。
私が描きたい世界って、それかな・・・と。
人間は愚かだけど、どうしようもなく、かわいい、と。

NoTitle 

lime様、こんにちは♪

隆也、本当にいいやつなんですね|ω・`)
ウザくないですよ~、もうこれは、膠着状態の二人を(無意識的に)掻き回して、進展させるための重要なファクターな気がするし、何よりも、本当に春樹を大事に思っているところがイイんです♪
お話的な裏の事情抜きに、性格としてはこういうちょっお節介焼きな人が一番好きです(*´ω`*)テレ

そして、だからなおさら、事情を知らない隆也は、横で見ていて、春樹自身と、美沙に、二人の距離の不自然な恣意的な差がよく見えるのかなあ、と。
それはそれで心配ですよね。
どうなるんだろう(汗)

またお邪魔しますっ♪

土屋マルさんへ 

> ウザくないですよ~、もうこれは、膠着状態の二人を(無意識的に)掻き回して、進展させるための重要なファクターな気がするし、何よりも、本当に春樹を大事に思っているところがイイんです♪

ありがとうございます~・涙
そうなんです、ここで隆也が引っかき回してくれないと、話が動かなくて二人の間で苦しみが澱のように溜まって・・・。
だからちょっぴり強引でくどい話運びになっちゃった感も否めず^^;
でも、それはそれで、隆也らしくていいかな・・・と^^

> お話的な裏の事情抜きに、性格としてはこういうちょっお節介焼きな人が一番好きです(*´ω`*)テレ

うおお、ありがとうございます。
隆也も喜びます。
なぜか私のキャラにはウザいのが多いのです。きっと私も、好きなのかな??

このあとの二人の、いや、3人の展開を見守ってやってください^^
もちろん、お暇な時に!!

NoTitle 

limeさん。
こんにちは♪

あぁ、美沙が隆也に本当の事をはなせたら、どんなに釈然とするか・・・
でも、話せない内容だからこそ、美沙はこんなに悩んでると言うか、
苦しんでるんですよねぇ~。
友人としての、隆也は本当に素晴らしいですが、
人には言えない事情があると悟っても良い年齢には、
まだ早すぎるのかな?
自分が解決できると思う若さもあるんでしょうねぇ~
レディーホーク・・・そういう映画があるのですか?
なんとなく観てみたくなりました。

さやいちさんへ 

> あぁ、美沙が隆也に本当の事をはなせたら、どんなに釈然とするか・・・

ほんとですよね。
そしたら、隆也の誤解も解けるのに。
可愛そうな美沙。

> 友人としての、隆也は本当に素晴らしいですが、
> 人には言えない事情があると悟っても良い年齢には、
> まだ早すぎるのかな?

まったくそうですよね。もう少し大人な考えや配慮があっても良いと思うんだけど。
そこまで春樹が心配なのか^^;・・・って、突っ込みたくなります。

> 自分が解決できると思う若さもあるんでしょうねぇ~
> レディーホーク・・・そういう映画があるのですか?
> なんとなく観てみたくなりました。

『レディ・ホーク』は、私は小説で読みました。中学生の頃、初めて読んだファンタジーで、その美しさと壮大なロマンと切なさに、魅了されました。
映画は、ミシェル・ファイファーと、ルトガー・ハウアーという美男美女!
ぜひ、見てみてください^^
(私も、いつか観よう)

美沙が、「私と春樹の関係に似てる」といった意味が、少し分かるかもしれません。
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