KEEP OUT 3 君に伝えたいこと

KEEP OUT3 第1話 親友

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穂積隆也は、春樹の部屋のインターホンを押そうと伸ばした指をいったん止め、チラリと腕時計を確認した。

8時10分。
大丈夫、春樹はまだ出勤前。
忙しい時間だとは思うが、彼なら嫌な顔をせずにドアを開けてくれるはずだ。
隆也は自分の手元で揺れる、DVDの入った紙袋に目をやり、小さく頷くと再びボタンに指を伸ばした。

穂積隆也、18歳。春樹とは高校の時の同級生だ。
高校1年生の“ある日”から、春樹は隆也にとって「親友」だった。
恥ずかしげもなく隆也は春樹にそう言ったことがあるが、確か春樹には、ただ笑って流されたような気がする。

特に誰かとつるむわけでもなく、いつも変わらず淡々としている春樹には隆也の暑苦しい「親友宣言」は重かったのかもしれないと、その時は割り切った。

現在隆也は大学浪人1年生。予備校通いの毎日だ。
身長は彼の理想に届かず172センチで止まった。
三白眼気味の切れ長の奥二重、小作りな鼻。短かめにカットした髪。

少しばかり取っつきにくい印象のせいで、他人に無関心なクールな青年に見られがちだったが、実は真逆。
曲がったことの許せない熱血漢タイプで、その上まるで昭和の演歌さながらに情に厚い。
好き嫌いは激しいが、人を見る目だけは確かだと自負していた。


そんな隆也が高1のある日、ある書店で万引きと間違われた。

ここ数年その店は中高生の万引きが後を絶たず、店長はピリピリしていたのだろう。
どういう行き違いで自分が犯人と間違われてしまったのか、隆也には未だに分からないのだが、店を出たところを厳つい店長に呼び戻され、カバンを調べられた。

数日前別の店で買った漫画の新刊本を2冊持っていたが、もちろん開封済みであり、盗品である証拠は何もなかった。
けれど店長は尚も厳しく追及し、隆也の名前と学校名を聞いてきた。
引っ込みがつかなかったのかもしれないが、もちろんそこで大人しく冤罪を被る隆也ではない。
逆に名誉毀損だと騒ぎたて、半ばひるんだ店長を睨み、店を飛び出した。

怒りと情けなさで脳天が爆発しそうに沸き立ち、火のついたように赤い顔をして歩いているときにバッタリ出くわしたのがクラスメートの春樹だった。

どうにも興奮状態だった隆也は、狭い歩道の行く手に立っていた春樹を「邪魔だ! どけよ!」と乱暴に払いのけた。
なぜあんな乱暴な態度を取ったのかと、今では自分で自分を殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいになるのだが、たぶんあの時、自分と対局な平和で安穏な空間に居る春樹の穏やかな表情に、どうしようもなくむかついたのだろう。

パシンと音を立てて春樹の細い腕を払いのけた瞬間、まるで感電した時の様に春樹が体を強張らせたのが少し大げさに見え、ますますムカついたが、そのすぐあと春樹は隆也の手首をキュッと掴んできたのだ。

その手はすぐに離れたが、薄い茶色の目をまっすぐこちらに向けて、そのクラスメートは「ねえ、時間ある?」と訊いてきた。

「なんだよ」
かなり不愛想な調子で隆也は言った。
「そこのマック行かない?」
向かいのファーストフード店を指して春樹は言う。
学校では特に親しくしていたわけではない春樹の唐突な誘いに隆也は戸惑った。

「なんで?」
「家の鍵、失くしちゃってさ。家族が帰ってくるまで時間潰さなきゃなんないんだ」
「だから何だよ。勝手につぶせよ」
「頼むよ。一人で店に入るの苦手なんだ」

そう言って春樹はニコリと笑った。
あまりにその笑顔が突拍子もなく明るかったのに面食らい、渋々といった態度ながら、隆也は春樹に付き合うことを承諾した。
何らかの気分転換が必要なのが、少し冷静になった隆也の頭の隅にあったのかもしれない。
そのまま家に帰っていたら、きっと自室で悶々として、ぶつける先の無い腹立たしさに、のたうち回っていただろう。

春樹といると、不思議と気持ちが落ち着いた。
まるでその時、隆也が何に傷ついているのか、何を忘れようとしているのかを全て知っているように、春樹は他愛もない会話で隆也を和ませてくれた。
普段、そんなにお喋りでは無いはずの級友なのに。

春樹を見ながら何度もついさっきあった屈辱的な出来事を語ろうと思ったが、その和やかな空間はもう、そんな愚痴を言って曇らせるべきでは無いような気がしていた。
その必要も感じなくなっていた。

隆也がその日受けた傷は、その級友のお陰で化膿せずに済んだのだ。
もしかしたら春樹は自分にとって特別な人間なのではないだろうか。そう思わずにいられなかった。

そして2日後の朝、それは確信に変わった。

廊下で顔を合わせた春樹が、まだ眠そうなボンヤリした声で隆也に伝えてきた。
「ほら、一昨日行ったマックの近くに書店があるだろ? あそこに昨日寄ったらさ、店長さんが僕の制服見てこう言うんだ。
『君と同じ学校の男の子を昨日万引きと間違えてしまった。もしその子を見つけたら、本当に申しわけ無かったと伝えてほしい』って。そんな話、聞いたことある?」と。

隆也は、まだ心の隅でくすぶっていた苦い大きな塊がスッと跡形もなく蒸発した感覚を覚えた。
ミントのような清涼感を残して。

目の奥がジンと熱くなり、思わずその友人に抱きつきそうになるのをぐっと堪えるのに苦労した。
自分の中にあった厄介なプライドは、傷つけられる事無く自分の中に残った。
たぶんあのままだと一生忘れることのない傷になるはずだった。

誤解が解けたことは春樹のおかげではないし、すべて偶然だったのかもしれないが、隆也はそれ以来春樹をとても大切な友人だと思うようになった。
そう思わずにいられない何かが春樹にはあった。


その年の秋、春樹の家族が春樹を残して全員亡くなってしまう、あの悲惨な火災が起きたあと、それは隆也の中で更に強く、大きくなっていった。


隆也がドアホンを押すと、ほどなく春樹はカチャリとドアを開け、眠そうに目を擦った。
「あれ? どうしたの隆也。こんな時間に」
声は眠そうだが、春樹はちゃんと出勤の身支度を整えていた。
堅苦しいスーツでは無かったが、すらりとした体躯にスラックスとボタンダウンのシャツ姿の春樹は、とても大人びた感じがした。

「寝込みを襲いに来たのに」
「遅かったみたいだね。もう出かけるところ」
「親友が来たってのに行かなきゃなんないの? 辞めちゃえよ、そんな職場」

そのメチャクチャな提案に春樹は声を出して笑ったが、それはけっこう隆也の本心だった。



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~ Comment ~

おはようございます^^ 

まずは・・・
昨日は本当にありがとうございましたv-290

いよいよ始まりましたね~、第3部が(←・・・勝手に・笑)。
春樹の親友という立場の隆也の登場。
波乱の展開?は、まだまだ感じられない穏やかな朝のやり取りですよね・・・・・・・

てか隆也、早っ!!v-405
いくら親友と言えど、人んち尋ねるにはなかなか早い時間じゃないですか!?(笑)

春樹の能力によって救われたかこの親友の登場。
その能力には気付いてない彼が、これからのお話にどう絡んでいくのか・・・・楽しみですe-343

蘭さんへ 

わあ、早い時間に、ありがとうございます!
こちらこそ、昨日はありがとうございました^^

そうですね、波乱はまだちょっと先です。
今回は19話ありますので、じっくりといきますよ~~ (^.^)

隆也、とっても親友想いのいい子なんだけど、ちょっと思いやりが強すぎるかも(^_^;)
でも、この子もいい子です。
この隆也と美沙の、内なる戦いも、見どころですよ~。ふふ。

「3」も、どうかよろしくお願いします!!

NoTitle 

熱血漢で 正義感があって 真っ直ぐなタイプの隆也
一歩間違えば ウザキャラになりそうですが。。。
隆也も また 春樹にとっては 美沙とは違う大切な人なんでしょうね。(・∀・)人(・∀・)...仲良し~

美沙と隆也の 内なる戦い!! こりゃぁ 見物だなぁ~♪
lime様が じっくりと行きます。と断言されてるので 私も焦らずに の~~んびりと 行かせて貰いますね。
お茶でも 飲みながら( *´▽`)_旦~...byebye☆

けいったんさんへ 

ははは。そうなんです、きっと隆也、一歩間違えればウザいwww

でも、ちょっとばかり遠慮もあるので、セーフかな?

隆也くん、どうあの二人に関わってくるか、お楽しみに^^

あ、そうだ。後でもっとウザイの、出てきます・笑

NoTitle 

隆也くん、ゲイリー・キングの役どころですか?(^^)

もっとウザいやつ? 誰だろう……。あの犯人ですか(笑)

「ウィンブルドン」読んでない人にはわからんネタふってすみません(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

ウザいと言えば、デニスンでしょうか^^

いや、あんな嫌味な奴ではなく、ウザかわいい奴です。
オッサンですが。

どう料理しようか、書きあげてる今も、考え中です。
(校正と言う名の大改造が、待ってる・・・・i-202

隆也はゲイリー!?
うん・・・・役に立ちそうで立たないところが似てるかな?

NoTitle 

寝込みを襲う・・・っ!?
さらっとなんかすげぇこと・・・。

そして172センチの身長ですか。
僕と一緒じゃないですか。

もっと僕ものびてくれんかのぉ・・・。
17だしもう無理か・・・。

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

ねみさんへ 

> 寝込みを襲う・・・っ!?
> さらっとなんかすげぇこと・・・。

お、反応してくれたのは、ねみさんだけでしたね・笑
さらっと、本気だったりしてねwwww

172?
あれ? ちょっと伸びたんじゃないですか?(ちがう?)

二十歳までは、のびますよ~。がんばって!(なにを!)

鍵コメMさんへ 

そう、隆也はすっごく単純でおせっかい。

春樹も、いろんな人にお節介なんですが。
隆也は春樹にだけ一生懸命です。なぜか・・・(^.^;)。

春樹と美沙と隆也。どんな関係になるのか、見てやってください^^

NoTitle 

親友と呼びたくなる始めての相手だったんだね。
隆也の真っすぐな気持ちが清々しい。
春樹には必要だと思う。
美沙は熱い感情があるけど、表立っては出せない。
隆也は知らないから、気持ちをぶつけてくる。
人と関わるのは春樹には大事だよね。

ぴゆうさんへ 

隆也の実直な、熱いところ、認めてもらえてうれしいです。
まあ、結構頑固で、激しいところもある子ですが、
たぶん春樹を大事に思う気持ちは強いと思います。

ちょっとそれが、ウザかったりもしてきそうですが・・・・。

そう、ぴゆうさんの、おっしゃるとおり、春樹は真っすぐ人と関わっていませんからね。
春樹にとって、隆也がどんな存在になるかも、このお話のポイントの一つになるかもしれません。

NoTitle 

lime様、少しご無沙汰してしまいました(´・ω・`)ショボーン

第三部がついに始まりました(私の中でw)
何か、最初から隆也にめっちゃ感情移入しているのは、私も昔こんな感じで、相手の気持ちを推し量る前に友情を押しつけて、勝手に後悔したことがあるからですorz
友達との距離感って、案外難しいですよね。

でで。
春樹は、隆也との関係について、罪悪感を抱いているのではないだろうか、ととっても心配しています。
ほんの少しの好奇心と気まぐれで、プライバシーの侵害と知りつつ、不思議な力で隆也を助けたことがきっかけで仲良くなって、しかも、隆也は惜しみない友情を見せるタイプで‥‥。
春樹の心が心配です(´・ω・`)

これからどう展開していくのか、期待が高まります♪
いろんな人物の気持ちが入り乱れているのに、すっと心に入り込んで想像を掻き立ててくれる文章がたまりません!

またお邪魔しますねっ。

土屋マルさんへ 

マルさんこんばんは。
マルさんも、お時間ないのに、丁寧なコメ、めっちゃうれしいです。

第3部へようこそ!

この隆也。・・・ウザイですよーーー笑
(いや、私にとってはかわいい奴なんですが)
マルさんご推測のように、ものすごく自分の友情を押しつけてきます。

春樹は、まあ、いい奴なのでうざがったりはしないんですが。被害者は美沙ですね。

どんだけうざいか、見届けてやってください。
でも、無くてはならないキャラだと思っています。
マルさん、温かいコメ、いつも感謝です!

ブログの新設、大変でしょうが、がんばってくださいね。
ホラーはちょいと苦手な私ですが、いつか!必ず、尋ねていきますゆえ!
(どこまでも恐がり・・・)
(最近、『ダム穴』というものを、ネットでチラッと見ただけで、心臓止まりそうになりました・涙)

親友って良いな! 

男・男でも、女・女でも、そして、男・女でも、親友ってものすごく好きな関係。
恋人よりたぶん好き。

友情って一番綺麗かも。
恋愛ほど嫉妬もドロドロしにくいし。
にくい…ってのはやはり友情にも片想いや嫉妬って存在するから。

ただ、春樹の場合、「何かしてあげたい」がそういう形を取っただけなんだろうな、というのがちょっと切ないですね。

fateさんへ 

私も、恋愛よりも友情の方にグッときます。

そこには損得抜きの優しさがあふれてますもん^^
恋愛って、やはり自分への見返りを期待してしまうような気がします。

でもfateさんのおっしゃるように、友情にも片想いや嫉妬、ありますね^^
友情が、独占欲に変わってしまう瞬間ですね。
このお話にも、少しばかりそんな要素があるかも。

春樹のお節介は、自然な行為なんでしょうね。
相手が何に苦しんでるかを知ってしまうと、自然と何かしてあげたくなる。
春樹には当たり前のことなのかも。(忙しいですね^^;)

でも、春樹はこの「3」で、気軽に人の心を読むことをやめてしまいます。
自分の能力の本当の恐ろしさを知ってしまうから・・・。

隆也の友情。
ウザいという意見と、いい奴!という意見と半々です^^
fateさんは、どっちかなあ~。

NoTitle 

limeさん。
こんにちは♪

あらたな何かがこうやって運ばれてきましたね☆
やはり春樹は例の力でもって、
この友人の身の潔白を感じたのでしょうか?

また後できます。
さやいちのNEWパソは問題ないでしょうか?

さやいちさんへ 

KEEP OUT・3へ、ようこそ!

そうなんですよ。
春樹にとっては、なにげないお節介なのですが、
本当に辛い時に、こうやって寄りそってもらえたら、なんか、うれしいですよね。
店長からのメッセージは、たぶん春樹の「でまかせ」です^^;
まあ、これも春樹流の優しさですかね。
隆也はこの後、重要なレギュラーになりますので、どうかよろしく!

さやいちさん、PCは調子いいですか?
また、あとでお邪魔しますね。
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