☆感想(観劇・映画・小説)

(レビュー)『神の火』vol.3 読了しました

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---「ひとりで降りられるやろ・・・・・? 昔、何百回もやったもんな。大丈夫やな・・・・・?」---

惜しみながら、少しずつ読み進めた『神の火』、とうとう読了してしまいました。
恋人と別れるような寂しさをぐっと抑え、いっきに読みました。
第3回。最終レビューです。
(たぶん、ネタバレは無いはずです・・・たぶん・・・たぶん

きっと読み終わったら、呆然となって、何も書けなくなるんじゃないかと思っていましたが・・・。
その通りでした。

ラストで彼らの抱えてきた虚空の正体を見た瞬間、今まで詳細に描かれてきた彼らの日常が思い出され、
ずしりと胸に響きました。
それと同時に、そのどうしようもなく悲しい虚空は真っ白な光に包まれ、神聖な切ない旋律に変わります。



---『世界中の悲しい歌が みな美しい旋律を持っているのは不思議なことです』---

その良の手紙の一文を思い出した島田が、「そうだね。そして、美しい歌がみな悲しいのはなぜだろう」と、心の中で呟く。

島田も、良も、日野も。みんな優しくて、思慮深くて。
けれど悲しい旋律を持つ虚空に魅了された彼らが入り込んだ世界は、想像を絶する闇の中。

今までの自分の人生は、すべてカムフラージュ。本当の自分はこうなのだ。と心で語りながら暴挙に出る島田に、「ちがう、そうじゃない、それもあなたの一部。たどり着くまでの手段にすぎないよ」と言ってあげたくて仕方なかったです。いや、実際泣いてしまいました。

何を書いてもネタばれになりそうなので、多くは語れないのですが、後半きっと読まれてる方は、今までの登場人物の細かい人物像を崩壊させられる展開にショックを受けるはずです。

でも、わかるんです。
最後の最後で。
それらが何を意味しているか。
その手掛かりは、一輪のスイセンだったり、友の言葉だったり、そして降りしきる雪の中の幻影だったり。

物語を一貫して流れていた、重く苦しく悲しく、そして美しい旋律が浮かび上がってきます。

もう、高村先生、見事と言うほかありません。
これでもかと心を揺さぶられ、恨み事を言いたくなるほどです。

細かい、細かい、細かい描写。
その積み重ねで、島田を始め様々な人物が、小説という仮想空間を飛び越え、血肉をもち、体温と生々しい感情を持つ現実として私の中に住みついてしまったというのに。
そこで、・・・あの展開! あのラスト。
もう、この恋しい気持ちはどうしたらいいんですか。

島田、良(パーヴェル)、日野、江口、ハロルド、ベティさん、木村・・・。
また会いたいよ・・・・
みんな、大好き。

『李歐』『わが手に拳銃を』。もう、これ以上心を打つ作品には出会えないだろうと思っていたところに、
この『神の火』です。
またひとつ、抱いて寝たい本が一冊増えました



※この記事は、1996年に文庫本化に際して400枚加筆、そして改訂された本を読んでのレビューです。
 1991年、初版ハードカバーの「神の火」も読みましたが、別物と言ってよいほど、内容が違います。
 ラストなど、まるで違っています。
 それぞれに好きな部分はありますが、やはり私はこの改訂版が、どうにも大好きなのです。
 初版本しか知らなければ、もしかしたら、ここまで魅了されなかったかも。
 もう、「改訂の極意」を見せられた気分です。









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この物語は、あらすじや帯を見た方ならお分かりのように、原発の問題も含んでいます。
(ちなみに私がこの小説を読み始めたのは、今回の震災の少し前です)
主題は、自分の生を模索する、男たちの物語ですが(ここ大事)。
このもう一つのテーマには作者、高村薫先生の強い危惧が込められています。
人間が核を、原発を持つということの怖さ。
『人間は“絶対”という言葉を使ってはいけない生き物なのだよ』 (江口の台詞より)
決して押しつけではなく、主人公の葛藤と合わせ、圧倒的知識、情報でもって、それは心に迫ってきます。

今こそ私たちは、真剣に考えなければならないのかもしれません。
人間は、「プロメテウスの火」を正しく使う事のできる生き物なのかどうかを。


最後に、私の備忘録として。
高村先生が震災に関して語られた記事をリンクしておきます。

●「毎日新聞」 2011年3月17日 「特集ワイド:巨大地震の衝撃・日本よ!」

●「朝日新聞」2011年3月23日 〈生きていくあなたへ〉 


関連レビュー
☆(レビュー)『神の火』、途中だけど語りたい。
☆(レビュー)『神の火』vol.2 まだ読み終えてませんが、語らせて


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~ Comment ~

NoTitle 

じゃあ「レディ・ジョーカー」終わったらいきますか「晴子情歌」「新リア王」「太陽を曳く馬」の純文学三部作(^^)

わたしは横で見てますので(笑)

でも初期作品では、「マークスの山」は気に入ると思うんだけどなあ。

ポール・ブリッツさんへ 

え~~~。そう言われたら、「マークスの山」が読みたくなります・・・。
どうしよう、まだ20Pだから間に合うかな。
『レディ・ジョーカー』はきっと4カ月かかるし・・・。

先日またアマゾンで「地を這う虫」を買ってしまった私はいったい何がしたいんだろう・・・・。
毎日新聞の記者と高村先生の、対談ものも買ってしまったし・・・。
「マークスの山」も読みたくなったし・・・。
新作は相変わらず、手につかないしi-201

あ~~、時間がほしい・・・。
でも、そんなこと言ってられる自分は幸せなんだなあと、しみじみ思うこの頃です。

NoTitle 

400枚加筆というのには驚きました。
一般的な文庫本の1冊分はありますね。
しかもラストが全然違うとは…。

僕はlimeさんが絶賛されている改訂版を読もうと思いますが
改訂版から読んでも問題はないでしょうか?
(例えば、初版本に書かれたココを知らなければ意味が分からない、とか)

蛇井さんへ 

そりゃあもう、迷わず改訂版を読んでください!

実はもう、初版本は絶版で、なかなか手に入らないんです。
(私はアマゾンで、ラッキーなことに買えたんですが^^)
高村先生の意思でしょうね。
それほど、改訂版は完成度が凄いんです。

もう、ラストはもちろん、登場人物の性格までも違ったり。
「李歐」が、壮大なスケールの物語だとしたら、この「神の火」はそれプラス、個々の人間の底知れない内的宇宙に踏み込んだ、恐るべきカタルシス。(自分で言って意味分かんない・笑)

これはもう、読む価値絶対あります。絶対!・・・あ、絶対という言葉は使っちゃいけないんだったi-201

 

はじめまして
神の火(文庫版)、私の愛読書でカバーは破れ表紙も既にボロボロです。にもかかわらず、limeさんのような繊細な視点は持ち合わせておらず、読む人によって、こうも捉え方が違うのかとがく然としました。
原発事故を機に読み返す人が多くなったようですが、出版当時は北朝鮮についての関心が今ほどでは無い時代だったので、その後拉致被害者が帰国するにいたり、高村薫氏の視点に驚きました。
舞鶴や音海に何度か足を運んだ私にも切なくなる描写がたくさんあります。
食べ物の描写も素晴らしいんですがね(笑)

よすさんへ 

いらっしゃいませ。よすさん。
「神の火」何度も読み返されたんですね。
私も神の火は、生涯読み返して行きたい本の一つです。

余りにも書きたいことが多くて、この作品のレビューは本当に悩みました。
対国家、そして原発、人間模様。
私は登場人物の心に焦点を絞って、感想を書いてみました。

本当は高村先生のグローバルな、それでいて本質を見抜く視点についても語りたかったのですが、
深く語るには余りにも私の知識が浅くて・・・^^;

細かな緻密な、そして正確な知識の上に広がる、一見無謀とも思える冒険的な展開。
どんなバッシングをも恐れない大胆な思想の表現。
もう、語りつくせません。

食べ物の描写、これも堪りません。
あのあと、水カレイが食べたくて仕方なかったです^^

できるなら、すべての記憶を消して、もう一度最初から読みたい気持ちでいっぱいです。
コメント、どうもありがとうございました!

はじめまして 

「神の火」を思い出して誰かの感想を聞きたくなり、こちらに辿り着きました。
読んでずいぶん経ちますが、思い出すといまだに泣いてしまう作品です。
人物がとにかく優しく可憐で、いとおしくてたまらない気持ちになります。
高村薫氏の作品の登場人物は、誰もいとおしい。
特にこの「神の火」は、私は主人公島田に寄り添わずにはおれません。
読んだ後は本を抱いて寝たいと思ったほどです(笑)
そういうわけで深い共感と共にその時の興奮を思い出し、記事が書かれて1年近くたっての今更なコメントとなった次第です‥。
他の記事も拝見しました。貴女のレビューすばらしいと思います。

ノラネコさんへ 

ノラネコさん、とっても嬉しいコメント、ありがとうございます!!

この「神の火」は、未だに私の好きな本の第1位です。
ノラネコさんも、同じようにこの作品に心ひかれ、登場人物に想いを寄せられてると知って、すごくうれしいです。
そう、まさに『抱いて寝たい本!』ですよね。

彼らは虚像では無く、確かにこの本の中で生きていて、
読み返すごとに蘇ってきます。

でも、あの壮絶なラストは必ず用意されていて、それを想うと、軽くパラパラとページをめくるのも、申し訳ない感じで。
高村先生の初期の作品の登場人物は、どうしてあんなに切なく、悲しく、清らかなんでしょうね。

今、もう一度「黄金を抱いて翔べ」を読もうかと思っています。
でも、もう少し、先に取っておこうかな・・という気も^^;

この「神の火」や「李歐」は、もう少し記憶が消えたころに、もう一度読みたいと思います。
できるなら、完全に記憶を消去してから、また読みたいです(笑

また、興奮しちゃって長くなっちゃいました^^;

コメント、どうもありがとうございました!!
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