KEEP OUT 2  少年春樹

少年春樹 第9話 解き放つ

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友哉の家も、あの滝への入り口も、春樹は知っていた。

触れた一瞬でその人の記憶が全て入ってくるわけではない。
情報が圧縮されて流れ込んでくるのとも違う。

表層部分。その人がいつも思いめぐらせている感情、その瞬間の想いや目にしている映像を一瞬共有する。
触れている間だけ、その人物の脳にシンクロすると言ったほうが近いだろうか。
自分の意識が溶け出し、相手の記憶と混ざり合い、異物と認めながら脳内で一塊になるのだ。
肌が離れ、融合が解けたとき、特に強い記憶と想いだけが春樹に残される。

春樹は2度目の接触で、友哉のギリギリの所で均衡を保たれていた感情に触れた。

痛みを伴って流れ込んできたのは、日常の事でも家族の事でもなく、たった一人の友人にまつわる過去の記憶、そして今現在の想いだった。

それは、春樹から見れば、誰のせいでもない悲劇に思えた。ただ、それぞれがあまりにも幼すぎただけで。
けれど友哉はそうは思っていなかった。


あの滝まで友哉を誘い、向かい合うと、友哉は怯えた目をして春樹を見た。
死んだはずの同級生によく似た人間が、訳知り顔でその事故現場に誘ったのだ。何かの制裁が待っていると思ったのかもしれない。

春樹にはもちろん、怯えさせようなどという気持ちは少しもなかった。
手を出して『腕相撲しよう』と言ったのは、純粋にもう少し友哉の想いに触れてみたかったからだ。
そしてその友人への本当の想いを、感じ取ってみたかったからだ。

そうすれば、彼を縛っている鎖を外す鍵が見つかるかも知れない。


『勝ったら教えてあげるよ』

そう言ったのに、がっしりとした友哉の手は、春樹の手を岩の上に押しつける直前、急に力を失った。

肌を合わせている春樹はその瞬間心臓を貫くような痛みを感じた。
鮮烈な友哉の感情が流れ込む。

あの日の由宇の手の痣。身勝手な自分への憤り、身を切るほどの後悔、そして……。

これは何? 富田たちに知られたくなかった本心。それはなに?
それは……美しい姉によく似た弟への、興味、それとも友情? 

違う。

まるでサナギのまま、何年も硬い殻に押し込まれて悲鳴を上げながらも、見ぬふりをされてきた激しい感情。

膨張するのに、どこにもはけ口の見つからない強い疼き。

それはまるで愛おしい恋人を思う切なさに似ていて……。

勝負を決めて手を放した春樹は、動揺を読みとられないように震える唇を噛んだ。
覗き見てはいけない感情だったのかもしれない。

由宇に抱いていた、友情を超えた感情への嫌悪。

そしてその穢れた感情こそが、由宇を死へ導いたのだという激しい自責。
果てのない、永遠に続く痛みだ。


―――大好きだった。
それなのに、優しくできなかった。
守りたいのに傷つけてしまう。
わからない。
苦しかった。
どうして?
由宇がいない。
どうして?
『友達だから』 君は言った。
それは俺の事じゃないよね。
『一緒じゃないと、可愛そうだよね』
それは、蝶のことだろ?
どうして?
あの洞穴に君は居なかった。
あったのは抜け殻だけだった。
ちいさく干からびた抜け殻だけだった。

蝶はいない。
君が逃がしてあげたんだ。かごの扉を開けて。
誰にだって渡る勇気の起きない、早い水の中を渡って。
俺が行けと言ったんだ。
君は泣いていたのに。
俺が由宇を死なせたんだ。
そうだろ?
でも俺は狡いから。
まだ何の罪も償っていない。
狡くて、汚くて、なんの価値もないのに。
優しい君はもういなくて、
俺なんかが生きている。
おかしいんだ。
間違ってるよね。
あの時、なにかが間違ったんだ。
でも、戻らないんだ。

時間が少しも戻らないんだ。
止まったまま、進まないのに、戻ることはしないんだ。
由宇が消えたあの日から
俺の時間は進まないんだ。
11歳のままで。
狡くて汚いままで。
逃げてばかりなんだ。
ねえ由宇。
おかしいだろ?

わからない。
どうしたらいいかわからない。
助けて。 お願い、許して。―――



触れて開いた本心の泉が、傷口からあふれて春樹の胸を赤く染めた。
春樹は大きく息を吸い、激しく打つ鼓動を鎮めようとした。

自分に何が出来るのだろう。
気が遠くなるほど深い苦しみに触れて、春樹は自分の甘さに気付いた。

自分なんかに、何が出来るだろう。

『あんたの能力なんか、役になんか立たないわよ』
仕事をするうえで、いつも美沙はそう言う。

『ほら、ね。私だけで上手くいったでしょ?』
美沙は笑う。

『本当だ。やっぱり美沙にはかなわないよ』
春樹はいつもガッカリしたように言う。

美沙はそうやって春樹の能力を使う機会を無くしてくれているのだ。
全部分かっている。
ありがたいと思う。

そして同時に自分は、役に立たない、ただのバケモノなんだと、改めて思う。

美沙には気づかれてはいけない。
今でも、眠れぬ夜を過ごしていることを。

この先すべてが崩壊して、いつか美沙まで自分の前から消えてしまうんだと恐れていることを。



―――わからない。どうしたらいいか わからない。

助けて。 お願い、許して―――


これは友哉の声。
いや違う。……僕の声だ。



「おまえ、誰なんだ」
友哉が掠れた声で訊いた。

春樹は友哉から視線を外し、流れる水面を見つめた。

「そうだな……。じゃあね、今から僕が独り言を言うから、君はそれを聞いていてくれる? いい?」

春樹は静かに話し始めた。


たぶん大丈夫だと春樹は思った。いや、出来ると思いたかった。
友哉から取り入れた情報を、春樹の口から友哉に返す。客観的なその作業がきっと友哉に何かを教える。
そこに何かの開放があることを春樹は信じた。

答えは友哉の中にちゃんとあった。
自分を守るために、堅く閉ざしてしまった心のブースに、ちゃんとあった。

“扉を開くだけなんだ、友哉。君はもう充分に優しいから。自分の弱さに気づけば、きっと救われる。”

水面に戯れる二匹の蝶が目の端に映った。春樹は話を続けながら二匹を見ていた。
由宇が僕のしようとしていることを認め、許してくれている。
春樹はなぜかそう感じ、心が安らいだ。

「9年前のあの日、由宇という少年は、まだ明け切らない早朝、この滝壺を渡って向こう側の洞穴に行ったんだ」

“大丈夫。君だけは救ってあげる”

そう、心の中で唱えながら、春樹は静かに語り始めた。

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~ Comment ~

能力 

春樹の好奇心は、 触れてはいけない心の亀裂の中までも押し広げて 読み取ってしまう

今回の友哉の場合は 救われた方向へと向かいましたが、いつかは 読み取られた人も 春樹も 壊すかもしれませんね。

安易に 遊び心では 使ってはいけない能力。
美沙の保護の許から  離れた時・・・離された時には。

落ち込んでたけど それでは ダメですよね!?
少しでも 自分の出来ることをすれば 明日へと繋がって行く。
(^^)ゞbyebye☆

けいったんさんへ 

うわ~~~~い!
けいったんさん、ご無事だったんですね。よかった(>_<)
もう、心配で心配で。
けいったんさんは、どこにいらっしゃるのか全く謎な方なもんで。
とにかく、また元気でいきましょう!ね。


春樹の危険要素、けいったんはしっかり分かってくださっていて、嬉しいです。
彼の優しさで、今のところ保たれているこの力ですが、もろ刃の刃。
いつか相手も、自分も壊してしまう日がきっと来ます。

「3」・・・で、片鱗が見えるはずです。

コメント、ありがとうございました! 安心しました!

NoTitle 

つらいだけですなこの超能力……。

効果的に使おうとするのであればもうちょっと世間ずれをする必要がありそうです。

春樹くんまだ若い……。

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ポール・ブリッツさんへ 

ほんとうにねえ。辛い事の方が、圧倒的に多いでしょうね。

人間としてもまだ幼いので、出来るだけ使ってほしくない能力ですね。
幸い、探偵業も行方調査専門なので、あまり使う機会もないでしょうが。

ポールさんならどうします?こんな能力があったら。

以前ドラマで、この能力を持つ女の子が出てきて、バシバシ乱用してましたが、
実際それはありえないと思ったんです。
病んでしまいますよ。

鍵コメMさんへ 

いや~、そのアニメは知りません(^^ゞ  そんなキーワードがあったんですか??
知っておけばよかった。

>春樹はちゃんと、人を癒すやりかたをわかってますよね。
そう言ってもらえて、うれしいです。
なんかもう、けっこう愛着が湧いてきて・・・。
(とかいって、いろんな試練を背負わせる作者)

はい、「KEEP OUT」は続きます。サスペンスとして。
まだ、次回の「3」までしか書いていませんが、たぶんもっと続きます。
最終的な決着がつくとは思えませんが・笑

・・・どうするんだ、作者。このふたり・・・

NoTitle 

こんな能力があったら……。

使って慣れる。使うことに慣れる。耐えることに慣れる。

それから先は……ひっそりと生きます。迫害されちゃたまらんので。

ポール・ブリッツさんへ 

なるほど、慣れる、ですか。
うん、なかなか難しそうですが、それしかなさそうですね。
鋼鉄の鎧を着て歩くわけにはいかないし。

やっぱり・・内緒にして生きますか。

うう。孤独ですねi-241ぜったいいらない力です。

NoTitle 

バナーを貼って下さってありがとうございます。
こうして皆様に使って頂いて広まることが一番ですよね。

limeさんのステキな気持ちが伝わりますように。
v-410

ぴゆうさんへ 

こちらにもコメ残してくださって、嬉しいです(*^_^*)

優しいブロガーさんが周りにたくさんいらっしゃって、嬉しい限りです。

ありがとうございました!!

こんばんは^^ 

コメ返書いてたら、来るのが遅くなってしまいましたe-330

あ~~・・・・切ない春樹の慟哭ですね・・・・。
確かに「友哉」の心の叫びなのかも知れないけれど、それは春樹とシンクロする部分がたくさんある。

こうやって読むと、美沙と春樹は両思いなんだな~と思うのですが、2人共下手くそ過ぎて・・・・^^;
まぁ、春樹のこの能力が妨げになってるのはわかるんですけど(笑)。

いよいよ次回がこの章の最終回ですね。
でもシリーズ化されると言う事なので、それが今からとても楽しみですv-290
いやいや、まずはこの話の締めくくりを・・・・・・i-228

蘭さんへ 

わ~~。蘭さん、たくさんのコメ返の後でお疲れなのに、来てくださったんですね。
本当にありがとうございます。
もう、うちのは、いつでもいいんですよ、本当にi-201
でも、うれしいです^^
蘭さんのコメでも励まされて、勇気100倍です!

バカがつくほどお節介で人のいい春樹ですが、美沙には危なっかしくて、放っておけないんですね、たぶん。
(私も、こんな子がいたら、手放さな・・・・あ、いえ、危ない発言でした)
この二人が幸せになれる図が浮かばない作者ですが、どうぞ、もうしばらく見ていてください。

最終話は、とんでもない美沙の本心が・・・。読者へるかしら・・・i-229

蘭さん、お疲れが出ませんようにe-267

こんにちは 

初めてコメントさせて頂きます。
お彼岸でバタバタしてまして
お礼に伺うのが遅くなってすいません。

ぴゆうさんと蘭さんの
バナーを貼って下さってありがとうございます。
お使い頂けてとても嬉しいです。

被災地の復興とともに
limeさんの素敵なブログが
ずっと安心して更新出来るように祈ってます。

また、お邪魔します。

あこがれや妻さんへ 

お彼岸のお忙しい時に来ていただいて、本当にすみません。
うれしいです。

いえいえ、お礼だなんて。こちらこそありがとうございました。
お陰で少し気分が落ち着きました。
こんな、地味なブログですが、たまに雑記も書きますので、
(中身はどうでもいいことの方がおおいんですがi-201)また遊びにいらしてください^^

私もまた伺います♪

(´;ω;`)ブワッ 

何かもう‥‥苦しい。
苦しすぎていけない(苦笑)
lime様、こんばんは♪

最終回が‥‥もうすぐそこに。
すっごいすっごい迷ったのですが、どうせ最終回のコメントは長くなるだろうと思うので、一旦冷却せねば(笑)

地の文で語っているのは友哉のことのはずなのに、何かもう、春樹のいろいろが混ざってしまってどうしようもなく切ないです。
友哉が由宇に抱いていた感情は、友情を超えたものだったのかもしれませんが、性に目覚める直前の少年同士ということで、不潔さもなく、ただただ、あまりに強すぎた気持ちゆえに、友哉はどうにもそれを記憶として消化することが出来ずに自らのうちに閉じ籠り、それを垣間見た春樹もつよい衝撃を覚えたのですね。
ごめんなさい、↑この一文、何か自分でもびっくりするほどの長文だった(笑)

そしてそして、私が一番感じたのはココ!
「僕の知らない感情」。
こうして、美沙の制止を振り切って、この能力によって事件を解決したり、いろんな人の心を覗き視てゆく過程で、年齢のわりには幼い春樹の「少年の心」はいろんなものを吸収し、学習し、やがて美沙への愛に気付いてしまう、と。
そして美沙がどんな気持ちで春樹を拒絶するのか、を、知ってしまうと。
ち、違うかな‥‥。
違ったら遠慮なくぶって下さい(笑)

第一話、第二話、というくくりでなく、シリーズ全体を通してこういう想像力を掻き立ててくれるというのが、本当にすごい!です。

また明日、最終回にお邪魔させてもらいますねっ(*´ω`*人)イソイソ

土屋マルさんへ 

ううう、く、苦しませてしまってる~、マルさんを。
でも、ここの部分の苦しさを感じとって戴けて、もう、めちゃくちゃ感激です。
私は幸せもんです。

ここのところは、友哉の感情と春樹の感情が、敏感な部分で融合してしまったんですよね。
そのところはもう、マルさんが200%感じとってくれているので、もう言う事無しです^^
逆に、マルさんの言葉で、改めて気付かされる部分がいっぱいで。

確かに春樹は見た目や言動は幼いけれど、普通の人とは違ったプロセスで取り入れた感情によって、感覚や想像が鋭くなっているのかもしれませんね。
マルさんの感想で改めて思いました。

自分以外の人間の思考を体験する・・・・って、考えてみたらやっぱり恐ろしいですよね。汗

春樹はこの後くらいから、人に触れて調査に協力することを、ほとんどしなくなります。
(行方調査なので、その必要もないから、なんですが)
でも、「3」で、春樹がそれをしなくなった訳が分かると思います。
「3」はもう・・・・いろいろ大変です。
「4」はコメディで、
「5」は…う・・・・。
「6」は痛すぎて・・・。

と、言う感じです。(わからんて!)←なぜかCMしちゃいました。

マルさんにこの作品を気に入っていただけて、本当にうれしいです。
完結までは、まだ時間がかかりますが、またお付き合いくださいね。e-266

・・・・って、これ最終話のコメじゃなかった^^;

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