KEEP OUT 2  少年春樹

少年春樹 第7話 散策と言う名の企み

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その日、富田健吾は春樹も拍子抜けするほどあっさりと見つかった。
当初の美沙の予想通り、木ノ下という同窓生の家に転がり込んでいたのだ。

警戒心など皆無らしく、フラフラと二人して出歩いており、尾行も容易かった。
けれどこれからが本番だ。富田の現住所の特定が、この仕事の最終目標なのだ。

不用意に話しかけて不信感を与えてしまえば、今度こそ逃げられるかもしれな。

春樹は気持ちを引き締めた。これは自分の仕事なのだ、と。

自然に富田に近づき、どうにかしてその肌に触れ、今現在こっそり身を置いている場所を出来る限り読み取る。
本人の生活に関する記憶なら、たとえ数秒でもしっかり春樹には把握できる自信があった。

触れて情報を取り入れる際に春樹自身が受ける苦痛は、何とか我慢できるレベルだろうと推測していた。
富田は、触れて精神を破壊されるほど常軌を逸した犯罪者ではないはずだから。
後でその情報に間違いがないか、現地で裏を取れば終了だ。依頼人に渡せる。

そんな筋書きを美沙に伝えると、美沙もようやく今回だけ春樹のその能力を仕事に使うことを容認してくれた。
走るのが速い男が、例えば警察官になり、健脚を利用して犯人を捕まえるのは悪い事じゃない、と遠回しに言ってくれた。

ストレートに優しさを表に出せない美沙の、そんな不器用なところも春樹は好きだった。
この能力に関してどんなに辛辣な事を言われても、美沙なら嫌な気持ちにならない。

美沙に触れたことも無いのに、その本質的な優しさが春樹には充分すぎるほど分かっていた。
そうでなければ、こんなに面倒くさい自分に今まで、寄り添ってきてくれるはずなど無いのだ。

けれど、時々がっかりさせられることもある。本当にあっさりと腹立たしいまでに春樹の『やる気』をへし折ってくれる。

今回の仕事が、まさにそれだ。きっと確信犯なのだ。

やっと役に立てると春樹が意気込んでいたにもかかわらず、美沙は“あんたのショボイ能力なんていらないわよ”、とばかりに、あっさりと富田に接触し、本人の口から現住所を訊き出したのだ。

唖然とする春樹の目の前で。


『赤いワンピース』だ。
『嘘』と『色仕掛け』だ。

春樹は美沙のその話術と戦略に、いつも嫉妬する。そして自己嫌悪に陥る。
自分の忌まわしい特殊能力は、美沙の仕事の役に立つときだけ誇れるというのに。その能力を発揮出来ないなんて。

そんな事なら、自分はただの役立たずだ。
美沙のお荷物。給料泥棒。疎ましいだけの化け物。

数年前、美沙に自分の特異体質を打ち明けたことを、間違っていたと思いたくはなかった。

たしかに、時々辛くなることもある。美沙は必要以上に自分を避けるようになってしまった。

当然だ。心の中、全てを読みとってしまう人間が近くにいるなんて、気持ちが落ち着くはずがない。
今もずっと美沙を困惑させ続けていることは分かっていた。申し訳ないとも思っていた。

けれど、4年前の夏の日、美沙に語る事で自分は救われたのだ。
心のどこかで、この人に自分の苦しみを知ってほしいと、思ってしまったのかもしれない。

兄の恋人の美沙なら、ちょうどいい距離にいてくれそうな気がした。
美沙なら、もちろん接触を避けはしても、春樹の苦しい心の内を理解してくれるのではないかと思った。

そうあってほしいと願った。

後悔はしていない。……無理やりにでもそう、思っていたかった。



「やだ、色仕掛けなんて失礼ねえ。観光客ぶってる富田の写真を撮ってあげて、『写真、どこに送ったらいいですか?』なんて、可愛く訊いただけじゃない。『私も家が近かったら、直接持って行っちゃおうかしらー』、なんて言ったら、頼みもしないのに携帯の番号だって教えてくれたわ。やっぱり警戒心ゼロね、あの男。頭悪すぎ」

「それってさ、やっぱり色仕掛けじゃん」


春樹は笑いながら、コーラのグラスを美沙のビールジョッキに重ね、祝杯をあげた。

美沙はやっぱり昼間からビールだったが、春樹は今日ばかりは何も言わない。
自分が役に立たなかったのは悔しいが、とにかく予定の半分の時間で調査が終了したのだから。

自由時間ができた。

「もう一泊して、明日の昼過ぎに帰ることにしようね、春樹」

「昼過ぎかあ。ピクニックは無理だね」

残念そうに春樹が言うと、美沙は「助かったよ」と笑った。

富田、木ノ下。この二人の名を春樹は知っている。
もちろん富田に関しては調査前に散々資料で確認したが、それとは別に。

駅の近くでぶつかりかけた青年の記憶の中に、二人の名は細切れに浮かんでいた。

一瞬触れただけの青年の記憶は、あまりにも煩雑とした情報の欠けらばかりだったが、死んでしまった少年に関わるブースの中に、富田と木ノ下もちゃんと収まっていた。

―――あの青年。友哉という名だ。

照りつける太陽と耳が痛くなるほどの蝉の声。転校してきた少年との出会い、死別、胸の痛み。

そして激しい罪の意識。

友哉はいったい何をしたんだろう。
そこまでは読めなかった。

きっと忘れるために、意識を閉じこめているのだ。必死で記憶を抹消しようとしている。

もしかしたら、彼は少年を殺してしまったのだろうか。
まさか。
そんな酷いことができる人間ではない気がする。

彼の中にある、その友人に対するどうにも説明のつかない愛おしい感情も、それを否定している。


春樹は息を飲み込んだ。
小さく胸が疼く。
そして、“この疼きの理由を知りたい”と思った。

知りたいのは、あの青年の心なのだろうか。
それとも、彼の痛みに共鳴する、自分自身の心なのだろうか。


春樹はチラリと自分の部屋の壁掛け時計を見た。
夜の10時過ぎ。

今頃、友哉達の同窓会が学校の校庭で行われてるはずだ。もうそろそろ終わる頃だろうか。

その時間までに富田が見つからなければ、どうにかして同窓会に潜り込もうと美沙と計画していた。
富田の件が片づきその必要が無くなったので、美沙は晩酌に再びビールを飲み、シャワーを浴びただけで部屋に転がってしまった。
朝までは何があっても起きないだろう。

『この辺を散策するんなら、この自転車使うてええよ。ボロいけど、充分役に立つやろ?』
シュレックおばさんがそう言ったのを思い出した。

“ぼくは、夜の田舎を散策に行くんだ。ただ、それだけなんだ。”

心の中で一つ言い訳をして、春樹はそっと階下に降りた。


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~ Comment ~

NoTitle 

うーん、なんとも、けな気ですねえ~、春樹は。
一生懸命、美沙にいいところを見せようと必死になっている。
美沙への親愛の情がひしひしと伝わってきます。
美沙がストレートに感情を表現できないことも、ちゃんとわかってるんですね。よかった。

うっかり触ってしまった友哉のこと、「知りたい」と思ってしまうの、わかるような気がします。
それに春樹にはまったく悪気がないんでしょうから。。。

西幻響子さんへ 

今回は春樹の視点で書いてみました。
春樹の気持ちを分かってもらえて、すごくうれしいです♪

この物語、春樹を気に入ってもらえないと、楽しめないですもんね(*^_^*)

まあ、春樹もまだまだ子供で。
「おいおい」と思う事もしちゃいそうで・笑
そんな彼を、見守ってやってください♪

友哉のこと、気になってますね。
もっと大人だったら、そんなことに首を突っ込んだりしないんでしょうが。
それが春樹のいいところであり、悪いところです。

このあとの展開は、皆さんご存知なので細かい描写は書きませんが、
「呵責の夏」の後半部分を、春樹視点で見てみてください(^o^)/

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

NoTitle 

哀れ富田・・・・・・。悲しい男の性というか。
多分、私でも教えていると思います。笑。

『ヒロハルを騙すのってチョロイよね』ってよく言われちゃうんですよ。
単純ですからね。

春樹、いい子で 好きだよ♪ 

きっと 皆様も そうでしょうけど 私だって!

好奇心旺盛で 自分を止められない お子ちゃま気質が 背負っている過去や 能力の重たさ悲しさを ふ~っと 和らぐ気がします。

春樹を よく理解してる 美沙が傍に居て 支えてるからでしょうね。
美沙にすれば 「そんなの 知るかッ!」って 恥ずかしがって怒られそうだけど。

美沙に内緒の行動、バレたら 怖いよ~(,,・`ノ。・´)コッソリ...byebye☆

鍵コメさんへ 

ず~っと、考えててくれたんですね(T_T) 嬉しいです~~。

〇〇さんのおっしゃりたいこと、すっごくわかりますよ。
私もね、日々そこんとこ悩んでいます。
「呵責の夏」のように感情移入出来ないのはきっと、この特殊な設定と、行く末の不安。
そして、私の力不足(^^ゞ
〇〇さんが、この二人の苦悩に耐え切れなくなる前に、展開を変えなければ。。。笑

じつはね、「オチ」なんてないんです。
春樹は自分の能力をコントロールできるようにはならないし、美沙も、シャットアウトできない。
二人はこの悩みを抱えて生きて行くんです。別れの日まで。
実は、この「KEEP OUT」は、美沙と春樹の悲恋の物語ではなく、サスペンスになります。
春樹は、探偵業の中で、さらに辛い経験をし、けれど別の何かを手に入れます。(たぶん)

「3」で、〇〇さんを惹きつけられるように頑張りたいと思います。
新たな登場人物も、頑張ってくれます、きっと。
(でも、結局その先は真っ白なんですが・笑)

「2」は、あと3話。中途半端なところで終わると思いますが、
また引き続き、遊びにきてくださいね♪♫
(読者を逃がさないように必死・笑)

ヒロハルさんへ 

富田、哀れですよね・笑
きっと今頃は依頼人にとっつかまって、身ぐるみ剥がされてるでしょう。

じゃあ、ヒロハルさんを探すときも、色仕掛けで行きましょう・笑
男は単純なくらいが可愛いんです。

けいったんさんへ 

ありがとう~、けいったんさん(>_<)
春樹も喜びます。

あんなに重いものを背負っているのに、若さでしょうか(笑)けっこう能天気なんですよね。
ダメだとわかっていながら、触れてしまった相手のことが、気になってしかたない。

実は、春樹は・・・お節介焼きなんです・・( ̄∇ ̄;)  

は? それだけ? 笑

「3」で、それがわかります。

いい子なんですょ。本当に。だから、美沙も苦しいんですね。
どこまで行ったら救われるんでしょう。

・・・救われませんね、きっと。・・・ごめんね、ふたりとも ( ̄ー ̄)

NoTitle 

ふたりとも救われないんですか?

え~、救われようよ~。

は? そっちの「彫刻屋」はどうなるのかって?

そ、それは……(^^;A)

ポール・ブリッツさんへ 

そうですよ!そっちのガス君救ってから言ってくださいヾ(`ε´)

いやいや、どういう結末になるかは全くの未定です。
ただ、安易なハッピーエンドには絶対なりません。←イジワル。

しばらく二人には苦しんでもらいますが、途中できっと、心温まる展開もありますよ。

・・・根本的な解決はしませんが (^_^;)

日付が変わってしまった(´・ω・`)ショボーン 

lime様、こんばんは♪

読んでいてこんなにも苦しいのは、やっぱりlime様の文章が、とてもとても春樹と美沙に寄り添っているからなのでしょうね(´;ω;`)ブワッ

お互いの葛藤の理由までが手に取るようにわかるので、どうして春樹が、美沙が、一生隠し通すつもりの覚悟を、それこそを時に疎ましく思うのか、一緒に切なくなってしまいます。

でもね、私はこのシリーズとっても好きです♪
lime様は「この二人の関係にオチらしいものはない。春樹はこの能力とずっと付き合っていかねばならないし、美沙は春樹の能力を遮断することはできない」と仰っていますよね。
でも、それこそが正しい‥‥うーん、上手い表現が出てこなくてもどかしいのですが、それが当たり前、いや、自然の流れ、というか。
その関係を基本にして、お話が進むからこそ、私としては、そんなツライ現実を、美沙と、春樹と一緒に戦ってゆく気持ちが湧くんです。

いつか、幸せになってほしいなあ。と。
別の誰かではなく、美沙と春樹の二人で、幸せになってほしい‥‥でも、難しいかな。
物語を、最後まで追いかけたいと思います(*´ω`*)テレ

土屋マルさんへ 

日付変わっても、来れない日があっても、全然気にしないでくださいね^^

でもでも、マルさんのコメも、本当にいつも感謝してますよ。
作者の想いが強すぎて、もしかしたら感想とか書きにくいんじゃないかなと、いつも思ってるんです。
さらっとした文体にならないのは、その為だなあー。
でも、なんだかこれを書いている頃は、すごく力が入ってしまってました。

>「この二人の関係にオチらしいものはない。春樹はこの能力とずっと付き合っていかねばならないし、美沙は春樹の能力を遮断することはできない」

おお、そんなこと書いていましたね!!
今、思い出しました。
実は、このコメを書いた頃は、最終章を書くつもりは無かったんです。
人の人生に、最終話が無いように、この2人の苦悩も、なんとなく続いて行くんだろうなーーーくらいに。
ダラダラと、探偵モノで、シリーズ化しちゃおうか、と。

でも、読者様から「物語は完結させてあげないといけない」という意見を貰い、「おお、そうか」と、考えを改めました。
完結させてあげなきゃ・・・・と。

このあと、第6章まで続き、完結です。
これを書いた時点では、「苦しいから、別れちゃうんだろうなあー」と漠然と思っていたのですが、
最終話に向けて、頭と心、フル回転で2人のその後を模索しました。

そして、自分なりの答えを出しました。
「うん、これしかない!」と。
ハッピーエンドとも、バッドエンドとも言えませんが、「読んでよかった」と思えるような結末にしたいな・・・と思います。
もう、最終章は、読者様が閉口しちゃうんじゃないかと思うくらい、悲壮ですが、どうぞ、お付き合い頂ければ幸いです^^
マルさんに、このシリーズを好きといってもらえて、元気100倍!
がんばります♪

あ、コメも、ほんと、お気楽に書いてくださいね。お時間のある時に、ほんのちょこっとでも構いません^^
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