KEEP OUT 2  少年春樹

少年春樹 第5話 仕事

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「あれだね、民宿の朝食って、絶対このメニューだよね」

翌朝。美沙の部屋に一緒に運んで貰った朝食をパクつきながら、春樹は言った。

「白ご飯とみそ汁と焼き魚と生卵と海苔と冷や奴。修学旅行でもおんなじだった」

「不満なわりにはよく食べるよね」

気持ちいいほどあっと言う間に平らげた春樹の食欲に感心しながら美沙が言う。

「不満なんて無いよ。僕、和食大好きなんだ」

美沙は足を崩しているというのに、きちんと正座している春樹は、一人だけの修学旅行生のようだ。

その修学旅行生は続ける。

「そうじゃなくってさ、こんな感じのメニューでいいんだったら僕でも出来るってこと。ねえ、二人で民宿の経営なんてどう?」

「あんたは馬鹿?」

くだらない冗談に間髪入れず冷たく言ってしまったが、少しして美沙は、それもアリかななどと、ふと考えたりもした。


「とりあえず私たちの今の仕事は人捜しでしょ? 立花探偵社、鴻上支社。社員は私とあんたのふたり。私たちは人を捜してここに来てんのよ。思い出した? 修学旅行でもバカンスでもないわよ」

「分かってますって、支店長。でも……今日中に仕事済ませば、あとは自由時間でしょ?」

「そうね。調査が終わればピクニックでもセミ取りでも、好きにしてちょうだい。そんなに簡単にターゲットが見つかればの話だけど」

4年前、経済的理由から大学院をやめ、就職先を必死で探していた美沙は、ひょんな事からフランチャイズ式探偵社の経営者、立花聡と知り合った。

立花聡が語るその業務にも理念にも、そして立花聡自身にも惚れ込み、美沙は探偵社に就職することとなった。

半年間本社で経験を積んだのち、美沙は比較的基礎知識と機転だけで対応できそうな「行方調査」専門に、支店を出せないかと相談を持ち掛けた。

元々はフランチャイズ制で、支店開設の希望を持つメンバーのサポートは充実していたし、自分を試す意味も込めた美沙自身のチャレンジだったのだ。

機知に富み、男顔負けのバイタリティを持つ美沙を信頼し、立花は美沙のその申し出を許してくれた。
テナントの鴻上ビルにオープンした“立花探偵事務所・鴻上支店”は本社のサポートと連携の元、緩やかに軌道に乗って行ったのだった。


普段から懇意にしていた天野圭一の一家が、末っ子の春樹を残して全員死んでしまったのはそれから1年後だった。
春樹の留守中に実家が不審火で全焼。
たまたま大学院から帰省していた兄の圭一も含め、ふた目と見れない無惨な焼死体で3人は発見された。

受け入れてくれる近しい親戚もいなかった春樹を精神的に支え、なんとか高校を出るように助言したのは美沙だ。
当面の春樹の生活費や学費は、親が残してくれた預金や保険金で充分賄えたことだけが不幸中の幸いだった。
春樹の高校に近かった美沙のマンションの同じフロアに春樹を住まわせ、美沙は姉のように世話を焼いた。

けれど、一番近く、一番遠い存在だ。


美沙は傷心の春樹を抱きしめてやることもしなかった。
それどころか、まるで病原菌ででもあるかの如く、肌に触れるのを避けた。

春樹が傷つくのも構わず、「分かってると思うけど、触らないでよね」と警告さえした。

「圭一の弟だし、面倒は見るけど、ちゃんとルールは守って」と。

いつしかそんな扱いに春樹が慣れてしまうことを願いながらそう言った。
血を吐く想いで。


―――――圭一。全部あんたのせいなんだ。あんたがみんなを不幸にしたんだ。両親だけでなく、春樹も、私も。

許さない。あんたなんかそのまま地獄に堕ちればいい!―――


一人で部屋飲みしアルコールが回ると、美沙は必ず心の中でそう毒づいた。

決して春樹に聞かれてはならない。悟られてはならない。

春樹は兄が大好きだった。優しくて優秀な人間だったことを誇りにしていた。
未だに春樹は大好きな兄の思い出話をする。微笑みながら。

春樹に残された、その唯一の柔らかい思い出を踏みにじる権利がどこにある?
仲のよかった家族の、幸せな記憶を滅茶苦茶にしていい権利がどこにある?


知られてはならない。春樹の兄、圭一の犯した鬼畜のような行為を。

“両親を殺し火を放ったのが、自分が慕う兄だった” と知ったら……。
そう思うだけで美沙は、闇の中に突き落とされるような悪寒を感じた。

死守するんだ。絶対に! 美沙は心に誓った。

春樹に触れる。
それは、春樹にナイフを突き立てることに他ならなかった。

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~ Comment ~

NoTitle 

なあるほど。
探偵社の仕事だったわけですね。
でも今回の「人捜し」って誰を捜してるんだろう…

うーん、そういうことか~。
お兄さんが両親を殺していたとは。
鬼畜友樹といい勝負になりそうですねぇ(なーんて
たしかに、それは春樹には知られたくないでしょうね、美沙は。

NoTitle 

うーん。深いですね。
春樹に触れられたくない理由がそこにあったとは。

limeさんの作り出し設定にはいつもワクワクさせられますね。
ただ今回は楽しい話ではなさそうですね。

兄の圭一が! 

まさかの過去ですΣ(@@:)
何が 原因で そんな 酷い事を したの~(T▽T)

これは 美沙には 絶対に触れて欲しくないですね!
春樹が 知ったらと、思うと・・・(゚д゚ll)ズガーン・・

二人は 探偵さんなのね。もしかして 宇佐美さんとは ライバルなの!!
えへへ、そんな訳ないですよね...d(^ω^;)...byebye☆

西幻響子さんへ 

そうなんです、美沙は行方調査専門の探偵業。
春樹は飛び入り社員・笑
二人が誰を探してるかは、すぐわかりますよ~。
ほら。あのひと!

やっぱりそういう関係の方が、危機迫る展開にならず・・・。
「KEEP OUT3」では、もっとサスペンス系の展開になります♪

ははは!
そっか! 思い付かなかった。
春樹の兄は、どちらも鬼畜・爆。
西幻さんの方は、弟が死んじゃったけど・・・。

美沙、辛いんですよ・・・。
「え~。触らなきゃいいじゃん」・・・って話なんですがi-201

ヒロハルさんへ 

ありがとうございます!

単純すぎる構成だけど、結構、「愛」が絡むと、悲壮な感じで・・・。
美沙が激しい愛情の持ち主だけに、葛藤も深くて。

今回はまだ二人の序章ですが、次回作はちゃんとサスペンスします(^^ゞ

ちょっと辛いお話ですが、春樹の優しさで、ほっこりしていただきたいなと思います。
この後も、どうぞお付き合いください。

ところで、どうでしょう。こんな美沙みたいに熱い女って、重いですか??

けいったんさんへ 

す、少しはスッキリしていただけたでしょうか!
いろいろ引っ張ってすみません。
実はそう言うわけで・・・。

春樹はいい子ですからね。
そんな重苦しいお話にはならないし、そして恋愛ものでもありませんから、安心してください(爆

「KEEP OUT3」では、またちょっと違う男の子も登場しますし、
このまま、お付き合いください~(>_<) ←なんか必死・笑

ははは。宇佐美は個人経営ですからねえ。
もしかしたら立花社長とはライバルかも・・・笑

NoTitle 

確かにそりゃあ「立ち入り禁止」だよなあ。

しかし美沙さん。

それって春樹くんをいつまでも子供にしておくってことだぜ。

春樹くんを大人にしたかったら、圭一がしたことを全部話し、そのうえで「自分に触れるかどうか」を春樹くんに問うべきなんじゃないかなあ。

春樹くんが触れられたら、通過儀礼は終了ということで。

そのくらいのことができなければ、春樹くんは一生このままだと思うであります。

それのわからぬ美沙さんでもないと思いますが……。

ポール・ブリッツさんへ 

そこが問題となるところなんですよねぇ。

美沙は、自分の愛情や感情よりも、春樹の思い出を優先したんですね。
圭一がした事は、春樹を苦しめてまで伝えることではないと判断したんです。

見なくてもいい地獄を見せるより、自分が距離を置くか、永遠に春樹の前から消えるか。
それしかないと思ってるんです。美沙は。

春樹が美沙に恋をしたら・・・(それを美沙に伝えたとしたら)話はまた、全然変わって来るんですが!!
この辺がね・・・微妙なんです。(T_T)

私もね・・・。圭一のやったことを、春樹に教えたくないんです。
だって、春樹にはもう、何も愛すべき思い出がなくなっちゃう(T_T)

このへんの事も、読者さまと、語りたいです。

NoTitle 

再び来ました。
うーん、熱い女か、冷たい女か・・・・・・
悩むところですが、熱い女でしょうか。笑。

ヒロハルさんへ 

そうですか!

よかった~(^o^)

でも、美沙は内面ではめちゃくちゃ熱い情熱を持っていながら、表面はとっても冷たい女ですが・・・。
そんな女、どうでしょう。(^o^;…

NoTitle 

ぬお~~~そういう事でしたか。
そりゃぁ、美沙としては触れられないわけだ。
ほんと、少々潔癖すぎるほどですね。
もうちょっと突っ込んだ事情が知りたいところですが・・・
いつかきっと、limeさんの事だから教えてくれるんでしょうね?ね?(半分脅迫)
じわじわと。。。(笑)

これは・・・かなりシリーズ化への期待が(^^)

秋沙さんへ 

そうなんです。
実はそんな単純なことだったんですi-202

そんなもんで、どこまで引っ張れるんだ・・・って疑問は、私が一番感じてますが・笑

このシリーズは、そんな部分もありーの、全く別の春樹の苦悩あり―の、友情や、ちょっとずれた「禁断の恋」ありーの・・・で、お送りします。

圭一の犯罪の詳細は、「少年春樹」では書きませんが、このあとの物語で触れますね(^o^)/

許さないから。そのまま地獄に堕ちればいい! 

↑苦しい彼女の独白ですね。
進もうと思えばどこまでも進むfateくんですが、これは、あまりさらりと流さずにじっくり進ませていただきます。

「きれいなものばかり見て、この世の汚れた部分(真実)に目を背けるなんて、罪」

↑これ、fateは疑問です。
ヒトは綺麗なものだけ見て生きられるなら、それに越したことはない、という持論なので。
物事には両面があって、世の中には手の届かない不幸が山のようにある。
だけど、物事の裏面にも、手の届かない不幸にも、どうすることも出来ないなら、知る知らないは別としても、そこに心を馳せて、憤って、悩んで、自らの不甲斐なさに泣く必要はないのです。
今、目の前にあることに心を尽くす。
もともとそれしか出来ないんだから。
そして、それすら出来ていない人ばっかりの世の中。初めからどうしようもないことを聖人ぶって考えて、いろいろな意見を述べて、熱くなったとしても、目の前の人は別に救われない。
それよりも、一緒に過ごしている人に笑顔を向けて話を聞いてあげた方が良い。

ま、ちょっと、論点ズレましたが、fateの世界に、赤ん坊の頃から酷い目に遭ってきた子が、とにかく目に映る美しいモノだけを見つめて、それに意識を添わせることで必死に自分を保ってきた…ってことがあります。
だから、その子は光るモノや綺麗なモノが大好きで、辛い瞬間はそれだけをのことを考えている。
そんなこと。

綺麗なモノを見ると心が安らぎ、癒されます。
そういう穏やかな心を持つ人が大勢になれば、それだけで、地上の空気から‘怒’が薄れます。
酷いことや辛いことを知っても何も出来ないなら、むしろ、知らずに、美しい世界だけを心に留めた方が良い、そんな感じです。
その波動はきっと地上を優しくしてくれるから。

「美沙は春樹に全てを教えて、抱いてあげるべき」

↑fateはひねくれているのかなぁ(^^;
すみません、ウザくて。
これも、一概には言えないけど、…必然の事態に陥らない限り、すべきとは思いません。
美沙さんは伝えないことで生涯、十字架を背負ってしまいますが、それを守り抜くことが究極の愛だと思えたりして。
ヒトはそういう辛い現実をも受け留める力は確かにある筈だと思うし、春樹が知っても大丈夫と思えるときに伝えるのもありかな、とは思います。
だけど、それは、春樹が「壊れてしまわない」もっと重いモノを人生に得たときかな、とか。
その辛さよりも、誰かを愛する想いだとか、誰かを守る、という揺るがないモノを得たあとなら、…そして、二人がお互いに想いを遂げることを「何よりも」望んだとき。

あああ、この二人には幸せになってもらいたいなぁ…
(まだ、早いって!(--;)

NoTitle 

そうでしたか…。

この物語はまだ完結していないうえに、私は端緒についたばかり…余計な想像や邪推はめぐらさず、見守っていこうと思います…。

fateさんへ 

じっくり止まってくださって、うれしいです。

前回のわたしのコメにも、細かく反応してくださって、感激。
私は結構、ゆらゆらと考えが揺れてしまう方なので、
「優しく穏やかに、天使のように生きられるのなら、その方がいいよね」、という持論を持っていながら、
ドキュメントで悲惨な国の現状なんか観てしまうと、それはずるいのかも・・・とか、凹んだり。

でも、なんとなくfateさんと考えが似てるのかなと思い、ホッとしています。

この、美沙と春樹の関係も、いろんな読者様の意見を聞きながら、いろいろ考えました。
考えてみれば、美沙が春樹に触れて、そして春樹がその真実を乗り越えれば、大団円です。

でも、ここは譲れませんでした。
そんな安易な問題じゃないな・・・と。
美沙の抱えてる問題は、「秘密」を持っているから、という事だけじゃないような気がして。

リアルでは、ありえない設定ですが、私自身、すごく楽しみながら二人の運命を模索しています。
どうか、この後の二人の葛藤と紆余曲折を、見てやってください。

有村司さんへ 

そうなんです。

なんかもう、お腹一杯ですよね^^;
わりと重いテーマになっちゃいました。
彼らの葛藤や絶望や、頑張りを、見ててやってくださいね。^^

ええー! 

ここまで一気に読みました。
ええー!お兄さんが両親を!?何があったんだ…。
自分の中に留めておくのはしんどいですが言えませんよね…。
でも春樹くんは知ってそうな…。いや、分からないわ!また続き読みにきます♪

たおるさんへ 

おお!ここまで一気に?
呵責の夏も、もうよまれたのですか? だったらすごい~!
ありがとうございます。
そうですよね、呵責の夏はちっとも完結してませんもんね^^;
でも、ここからがようやく春樹の物語です。

さあ、春樹は、事件のことを知ってるのでしょうか。
これがシロかクロかで、物語は全く違ってきますもんね。

でも、どっちなのかは、なんとなくわかってくると思います^^
この「少年春樹」は、春樹の紹介編みたいなものですので、大きく動きませんが、どうぞのんびりとお付き合いください。
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