KEEP OUT 2  少年春樹

少年春樹 第4話 特異体質

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人の肌に直接触れると、その相手の記憶の断片や感情を一瞬にして自分の感覚のように取り込んでしまう。
物心ついたころには既に、その能力は自分の中にあったと春樹は言う。

実際それがどういう感覚なのか、美沙にはリアルに想像することができなかった。

「自分の意識の中に、触れた相手の見た映像と感情が流れ込んで来るんだ。その人の脳内に一瞬侵入したって言ったほうが近いかな。でも、自分の意識とごっちゃにはならない。ものすごく違和感があるんだ」

そんな風に、何度春樹に丁寧に説明してもらっても、犬からしっぽを振る感覚を教わる様なもので、実感がわかない。

春樹がその特殊な能力を美沙にカミングアウトしたのは今から4年前。
春樹が中3、美沙は23歳の大学院生の時だった。

当時、春樹の8歳年上の兄と仲良くしていた美沙に、春樹はそれを打ち明けてくれた。
両親にも兄にも友人にも、拒絶されそうで怖くて言えなかった胸の内を、美沙にだけ語ってくれたのだ。

自分の意志とは関係なく、どんなに拒絶しても、肌に触れると相手の心が流れ込んでくるのだと春樹は言った。
声を詰まらせ目を赤くしながらも、必死に冷静さを保とうとして話す春樹の言葉を、美沙は黙って受け止めた。

およそ理解しがたい話だったが、あの時の春樹の目を見て『嘘をついている』と思う人間がいたら、そいつには人間の血が通っていないに違いない。
そんな風に思うほど、春樹の蓄積された苦悩がダイレクトに伝わって来た。
たぶん、あの時だろう。
美沙の中に、春樹に対しての特別な説明しがたい感情が生まれたのは。

その能力の感覚はわからないが、どんなに辛いかは美沙にも想像できた。
人のむき出しの感情は、見たくなどない。

たとえ恋をしたとして、その子の思うこと全てを知りたいと思うだろうか。
同性の友人だって同じ事。次第に春樹は親しい人間に触れるのを避けるようになる。

多感な少年時代、春樹は孤独に押しつぶされそうになっていた。だれにも相談出来はしない。相談した時点で、その人間からは確実に拒絶される。親、兄弟さえも、心穏やかではいられないだろう。

けれど春樹は美沙にだけ、その能力のすべてを打ち明けたのだ。


頑なにその能力を隠してきた春樹に、悩みがあるならすべて吐き出すように迫ったのは美沙自身だった。

あの中3の夏にバッタリ出会った春樹は、今にも崩れて粉々になりそうで、美沙には放っておくことができなかった。

あの日もうすでに、不可抗力で誰かの心を読み取り、一部が壊れてしまっていたのかもしれない。

『なんでも話してみて。絶対に秘密は守るから』
そう迫った後の、春樹の目から溢れた涙は今でも忘れられない。

頑なに拒んでいた春樹が心を開き、美沙に縋ってくれた時は、とてもうれしかった。

その異能は驚くべきものだったが、春樹への愛情は更に深まり、もしも抱きしめてあげなければならない時がきたら、触れて心を読まれたってかまわない、しっかりと抱きとめて守ってやろうと、本気でそう思っていた。


―――それなのに。

3年前のあの日、それは禁断の行為になってしまった。

美沙は民宿の小さな障子窓を開けて、ガラス越しに穏やかな田園風景を眺めていた。
月明かりは街灯など必要無いほどに、辺りをうっすらと浮き出している。
しみ出すように聞こえてくる虫の声が、寂しいまでの郷愁を沸き立たせる。


「なんて酷い運命を背負いこんだんだろうね、春樹も、私も」

美沙は自嘲気味の笑いを浮かべてつぶやいた。

薄い壁一枚隔てた隣の部屋で静かな寝息を立てているだろう少年を思うと、胸の痛みに比例して体が疼き、熱を帯びてくる。


―――酷いよ

春樹のせいなどではない。そんなことは充分わかっているのに、気を許すと不意にその異能を恨んでしまう自分がいる。

恨むべきは、3年前に起こったあの惨事であり、兄の圭一なのだ。


あの惨事を境に、その思いは断ち切られ、春樹と美沙を包むすべての世界が変わってしまった。

あの日、春樹を残して、春樹の両親、そして兄の3人が死んでしまった。
悲壮な火災事故として報じられたが、あれは事故ではない。事件なのだ。

美沙は、唯一その全貌を知ってしまった。
警察もマスコミも、もちろん春樹も、だれ一人として知らない耐えがたい真実を。


『大丈夫。美沙には死んだって触らないから』

冗談半分に言った春樹の声が蘇る。

―――ああ、そう願うわ。たとえ私があんたの前で倒れたって、この息が途絶えるまで私に触れないでちょうだい。絶対に!

辛辣な言葉を胸の中で吐きながらも、春樹への想いは自分を見失いそうなまでに強くなっていく。

ギュッと目を閉じ、大きく息を吸い込む。

真実を何も知らず、健気に前を向こうとする春樹を手元に置きながら、美沙はただ、出口の無い日々を送るしかなかった。


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~ Comment ~

NoTitle 

おおお!?
そうか、美沙は春樹に愛情を抱いていたんですね。
でも、春樹は美沙の気持ちに気がついてないみたい…。
春樹は美沙のこと、恋の対象としては見ていないのかな?
それとも、ただ意識しないようにしているだけ…?

それにしても、春樹の家族が全員死んでしまっていたとは…。
しかも、「惨事」で。
まさか、犯人は春樹ではないですよねぇ??

西幻響子さんへ 

そうです。愛・・・というより愛情でしょうか。
愛しくてたまらないけれど、絶対に悟られないようにしています。

春樹はどうなんでしょうね。
その辺、本人もまだはっきりしていなさそうです。
考えないようにしている・・・というのが、今のところ一番近いかもです。
人を好きになるということは、彼に様々な問題を発生させますから・・・。

あの惨事。
春樹は関わってるんでしょうか。
すぐにわかりますよ (^.^)

そして、なぜ美沙が春樹に絶対触れないようにしてるかが、大体わかるはずです。
(大体か・・・笑)

気になる事が いっぱ~いだぁ 

親愛関係の人と 肌も触れられない。それが 恋人だけじゃなく 友達でも。
どんなに 分かって 割り切っていても 悲しいだろうなぁ

美沙も 複雑な愛情を抱きながらも 冷めた態度、辛いでしょうね。

美沙が 春樹への感情を変えた 家族全員を失う”惨事” か。σ(´ x `;*)んーと…
でも もうすぐ 判るんだ!良かったぁ~ だって 気になって 気になって・・・(^^:)ゞbyebye☆  

NoTitle 

むむむ。この能力は確かに難儀な能力ですね。

他人の過去や悲劇を背負ってしまって、自分自身がつぶれてしまいそうですね。
能力を捨ててしまえる方法はないものでしょうか。

けいったんさんへ 

なかなか、辛い能力ですよねえ。
罪悪感もあるだろうし。
人間の尊厳にかかわる領域ですもんねえ。

そう、美沙・・・これがまた。つらいんです。 
実はね、「惨事」は、美沙が春樹への感情を変えた・・・んじゃないんです。
美沙の怒りは、春樹とは別のところへ向かうんです。

次回、わかりますからね。いつもじれったくてごめんなさい(>_<)

ヒロハルさんへ 

お名前が無かったんですが、きっとヒロハルさんですよね?
違ったらごめんなさい~(>_<)

難儀なんですよ~、この能力。私なら、絶対いりません・笑

春樹もきっと、嫌な思いをたくさんしたんだと思います。
でも、生まれついての能力なので、聴覚や嗅覚といっしょ。
春樹には、自然な能力でもあります。
(だから、見ず知らずの人には、ちょっと触れて、確かめちゃったりする・・・。友哉の時みたいに)

だから、自分で制御も出来ないんですね。聴覚や嗅覚とと同じように。

NoTitle 

これはこれは・・・

美沙、かなり複雑な思いをお持ちのようで・・・。
いつもながら、limeさんの書く「姉御」は素晴らしいなぁ・・・。

うむむ、気になるなぁ、この「惨事」。
春樹の「能力」に関係あるのかしら・・・?

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NoTitle 

つらいですね……。

というか、春樹くんもつらいけど美沙さんのほうがつらいでしょうね。

いい姉さん女房になれたでしょうに……。

とはいえ歳の差なんて……関係ないよなこの人にとって。

二年待って、もう思い切ってしまえ! 隠し事なんかして逃げたって、あとあと苦しくなるだけだぞ!(恋愛関係の話ではないが、ある意味経験談)

名無しの正体 

limeさん、ゴメンナサイ。名無しは私です。
間違いないです。笑。
URL残してなかったらわからなかったですよね。
危ない、危ない。

秋沙さんへ 

はは。
なかなか激しい人でしょう?

普通に恋をしたら、こんなに激しい人にはならなかったんでしょうがねえ、美沙。
ある意味、春樹のせい・・・かな?

惨事は、春樹の能力とは全く関係ないんです。
すごく単純なんだけど、これが美沙の不幸の種でして・・・。
惨事の細かい内容は、この「2」では明かされないんですが、大体、わかるとい思います。

人によったら美沙の苦悩は「そんなもん、悩まなくてもいいじゃん」ってことなのかも・・・。

ここが、私の最大の悩みです。

ポール・ブリッツさんへ 

ああ~。やっちゃった・爆
ポールさん、感謝です。まさか、タイトルで変換ミスするとは(^o^;…
もう、笑ってもらっていいです。自滅e-263
(もっと早く来てください、ポールさん・笑)

それにしても、ポールさん、美沙の苦悩の訳が、大体おわかりなようですね。

>隠し事なんかして逃げたって

美沙は、逃げ続けます。
もう、いいじゃん。って、作者の私が言いたくなるんですが。
妙なところで、優しくて・・・。

そんなことを、延々とバックボーンに据えるこの物語りって・・・。大丈夫かな・笑
大まかには書きますが、細かい「惨事」のディテールは、「3」で・・・。

ポールさんは、いったい何から逃げたんでしょうかね・・・笑

ヒロハルさんへ 

ああ、よかった・笑

間違ってたらどうしようかと(後から)思いました。

足跡があって、助かりました。

でも、私も以前、やりましたよね。ヒロハルさんのコメントで。

私なんて別のペンネーム使っちゃったから、更に混乱させました(^o^;…ごめんなさい~。

NoTitle 

わたしは高校生のころ、小説冒頭の「登場人物一覧」で、

思いっきり、

「主人行」

とやってしまって爆笑を買ったことがあります(^^;)

当時はワープロを持ってなかったからもちろん手書きです(^^;)

よくあることですから気を落とさないでください(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

ありがとうございます(*^_^*)

でも、ポールさんのミスは、かわいいもんですよ~。高校生だし。
(それくらいしかミスしてないんですか!)
私なんて、タイトルだし・汗

最近、多いんですよね~。ミスを見逃すこと。
何度見ても、見逃してしまう。

脳の退化かなあ~。
PCも、持ち主に似て、学習能力が低いです・笑
熟語で誤植するなよ~~ (ToT)

PCのせいにし始めたら、おしまいです(^_^;)

“ああ、そう願うわ。たとえ私があんたの前で倒れたって、この息が途絶えるまで私に触れないでちょうだい。絶対に!” 

これは、究極の‘愛’の表現だな、と思いました。
恋愛よりもむしろ、母性に基づくのでは? という。
ヒトって知識欲があるから成長し、発展し、進んでいけるんだろうけど、そして、それが人間の歴史を形作ってきたのだろうけど、「知る」ことが必ずしも幸せへと結びつかない、知ることの弊害の方が最近は多い気がします。

そして、どうしても考えてしまうのは、「知らない」方が良いことも世の中には存在しているってこと。
もっと言ってしまえば、必要なことはそれほどガムシャラに調べたり聞いたりしなくたって、知るようになっているということだ。
神様…という存在が何なのか分からないけど、そういう万有宇宙真理のようなモノって、あらゆることをコーディネイトしてくれていると思うから。

ヒト(他人)の心って、実は一番知らなくて良いことだと思う。
そのときの…一時的な感情、憎しみとか怒りとか、それって、ヒトの血液組成を狂わせるほど恐ろしい感情だけど、でも、それは一時的なモノでいずれヒトは冷静になって、反省したり、誤解が解けたり、むしろ、一旦落し込まれたからこそ、そこから這い上がったりする。

その誰にも見せるべきでない負の状態を他人が知ってしまったら、その醜さに、知った相手は狂いそうになるだろう、というのがものすごくよく分かる。
人は常に揺れている存在なんだから、切り取ったその部分を他人が評価してはいけないし、触れたくはない世界なんだよね。

或いは、過去の化け物。
無意識下に追い込まれて、表層意識にのぼってこない、懺悔に値する過去の記憶って、次第に本人すら浸食するほどの化け物に成長する。
そんなモノに触れたら、むしろ、それを取り込んでしまった人が狂ってしまう。

春樹の苦悩、分かります。
そして、そういう能力って、優しい人が持つものだということも思う。
(或いは、共鳴する‘闇’を抱きながら、それでも、強く、優しくあろうとする人)
他人の痛みを分かる人に与えられた残酷な能力。

更に、それを打ち明けられた美沙さんの苦悩も分かる気がします。
決して自らの心を悟らせまいと彼女は決心せざるを得なかった。
春樹の苦しみを増やさないために、生涯、‘演じる’覚悟を決めたんでしょうか。
辛い形ですね…

NoTitle 

あまり詳しくは話したくないのですが、春樹の気持ちも美沙の心も…なんだか泣けてきそうなほどわかる気がします…。

泉鏡花の「外科室」という短編を思い出しました。
あのヒロインと美沙は、多分同じ気持ちなんじゃないかな…。

fateさんへ 

深いコメをありがとうございます!

ほんと、美沙の愛情って半分は母性なのかもしれませんね。
そうだとしてもちょっと危ない^^;

fateさんが語られたこと、本当に同意です。
人はあらゆることを知り、自らを高めることが良しとされていますが、知らない方が清らかにまっすぐ生きていけるのなら、知らない方がいいということもあるのかも。

ああ、でも、「きれいなものばかり見て、この世の汚れた部分(真実)に目を背けるなんて、罪」だと言う意見もあり・・・。でも~><
春樹をこれ以上苦しめる真実を、彼に知らせなくたっていいじゃないか!と、私は思ってしまうのです。

読者様から、「美沙は春樹に全てを教えて、抱いてあげるべき」という意見を多くもらいます。
それを全部受けとめて、超えてこそ春樹は大人になれる、と。

ここはものすごく悩むところです。
本当に全てを伝えて、抱いて、愛して。それでハッピーエンドになれるのかな・・・と。
悩んで悩んで、答えを最終章に託しました。
それまでは、じれったい彼らのやり取りを見てあげてください^^

しかし、・・・美沙辛いですよね。
春樹もこのあと美沙への愛情を膨らませていくんですが、今は春樹よりも大きな、大人の愛情を抱いているわけだから。

生涯、保護者を演じる気ではあるんですが・・・時々爆発しそうになります。
そっちの方も、春樹には辛いと思うよ~~、美沙ちゃん!と、突っ込みながら描いてる作者でした。
つくづくSだなあ。

有村司さんへ 

二人の気持ちを分かっていただけて、すごくうれしいです。
有村さんなりの感慨がきっとあるのだろうな、と、思います。
ええ、もう、書かれなくてもなんか、伝わってきます。

>泉鏡花の「外科室」という短編を思い出しました。

そうなんですか。
実は数か月前、解体される親戚の古い家の書庫で、初版本に近い、朽ちかけた旧かな遣いの「外科室」を見つけ、小一時間読んだんですが。
未読のままでした。
たぶんあの書庫ごと解体され、消えてしまったのではないかと思います。(戦後すぐの雑誌とかあって、面白かったな)
なんか、ちょっと今、不思議な気分です。
全部読めばよかったな。

NoTitle 

limeさん。
こんにちは♪

なるほど。
それであの皮の手袋なのですね。
そして、仕事・・・春樹と美沙の仕事とは
どういうものなのでしょうか?

春樹の家族が惨殺されたって、
コレもまた穏やかな話ではないですね。
続き読むの楽しみです♪

さやいちさんへ 

そうなんです^^
美沙は、絶対春樹に触れるわけにはいかないんですね。

好きで仕方ないんだけど・・・・。

これから、じれったい二人の恋の行方と、彼らの「仕事」上の、ハードな展開になっていきます。
彼らの仕事・・・けっこう大変です。

あ、でも、「少年春樹」は、ゆるいですから、のんびり読んでやってくださいね^^
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