KEEP OUT 1  呵責の夏

呵責の夏 第13話 あの場所へ

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体中が総毛立ち、友哉はその場から逃げるように走り出した。
少年が何か言いたげに唇を開いたのが目の端に映ったが、振り向くことなど出来なかった。

――――何を怯えているんだ。 怖い事など、あるはずないじゃないか。

冷静になろうとするのだが叶わず、街灯もまばらな薄暗い村道を歩きながら、友哉は気を失いそうなほど激しい動悸に襲われた。

呼吸が常に苦しく、何度も立ち止まっては体を折り曲げて息をつき、再び歩いた。
祖父母の家に辿り着くと、アルコールがまわったことも拍車をかけ、トイレで何度も嘔吐した。

「何だってんだ。ちょっと似てるだけじゃないか。馬鹿じゃないか、俺は……」
あんな子など、どこにでもいる。いろいろ考えすぎて、赤の他人が由宇に似て見えただけのことだ。

そう自分に言い聞かせ、胃薬を飲んでなんとか体調を落ち着かせると、友哉はぬるい湯で簡単に沐浴しただけで、そのまま薄い肌布団の上に転がり丸くなった。

もう一晩泊まるはずだったが、明日には家に帰ろう。
そう思いながら、ギュッと目を閉じた。


          ◇


「もう一晩泊まって行きゃあええのに……」
日も高く上った頃目覚め、友哉の朝食の準備をしてくれるカナエに今日帰ることを伝えると、ひどく寂しそうに彼女はそう言った。

「うん。ごめんな、ばあちゃん。早めにもどるよ。大学のレポートも溜まってるし」
「そうか……。それじゃあ仕方ないなぁ。じいちゃん、晩に食べさせるんじゃゆうて、畑で野菜もいどるけぇ、もうちょっとおってくれるか?」
「午後の便にするから、あと2、3時間はいるよ。じいちゃん戻るまで、ちょっとそこらへん散歩してくるな」

寂しそうなカナエには申しわけ無かったが、もう長居するつもりは無かった。
同窓会に出て、昔の仲間達とのわだかまりも解れた。自分の用事はほぼ終わった。
あと、やり残したことがあるとすれば……。

友哉は朝食を終えるとカナエに声を掛け、外へ出た。
幾分陽射しはマシになったが、まとわりつく暑さとアブラゼミの声が頭をボーッとさせる。

昔はこんな暑さ、何でもなかったはずなのに。やはり昨日の酒が残ってるのだろうか。
友哉は軟弱な自分にため息を吐き、ゆっくりゆっくり、道路から分岐して森へ続く小道を辿った。

小さな小川に掛かる橋を越えたあたりで急に上り坂になり、その脇に昔、自治体が観光地のシンボルとして作った高さ3メートルほどのケルンがある。
大きな石を積み上げて固めた塔だ。
小さな頃、よくこっそり登って遊んだ。
そこから険しい山道になるという印だよ、と、母に教えられたことがある。
今では「スイスじゃあるまいし」と、笑ってしまうのだが。

友哉はぼんやりケルンを見上げた。
由宇と一緒にこれをよじ登った日が思い出され、胸がぐっと苦しくなる。
同時に足が急に重くなり、前へ進めなくなった。
友哉は堪らなくなって、思い出の中の由宇に、懇願するように語りかけた。

――――もう、いいよね。由宇。ここまでで。許してね。

その場で手を合わせようとした時だった。

「この先には、滝があるんですよね」
ふいに、ケルンの裏側から声がした。

ハッと我に返った友哉の前に、いつからそこに居たのか、昨日の少年が立っていた。
友哉は一瞬ドキリとしたが、昨夜とは違う眩しい光の中で見るその人物は、少しも奇妙な感じはしない。
健康的な、屈託のない笑顔だ。

さらさらの絹のような髪、あまり日に焼けていない肌に白いTシャツとジーンズ、スニーカー。
確かに由宇によく似てはいるが、ただそれだけなのだ。
顔立ちは柔和であどけなく、友哉よりもかなり年下なのは間違いなかった。
18……いや17くらいか?
だとしたら、(あたりまえなのだが)由宇ではない。

「ええ、ありますよ。滝が」
友哉が無表情で言うと、少年はニコリとした。

「行きましょうよ、滝を見に」
「え……俺も? なんで」
「貴方も行こうとしてたんじゃないんですか? だったら一緒に」
「いや、……俺は別に。それに、時間がないし」
「少しでいいんです。一人じゃ寂しいじゃないですか。だから、ね? 一緒に行きましょう。あの滝へ」
少年はニコリと笑うと歩き出した。

―――――――――あの滝へ?

少年はすでに、鬱蒼とした木々のトンネルをくぐって、影になりつつある。
友哉は突然、弾かれたように少年の後を追った。

そうしなければいけない、そんな思いに取り憑かれていた。



景色は9年前とまるで変わっていない。まるで時間があの時から動いてないかのようだった。
ひんやりとした空気を吸いながら、友哉は少年の後ろ姿を追った。

毛細血管のように木の根の這う地表を踏むと、その上に積もった落ち葉がシャラシャラと軽い音をたてる。
右下に流れる大小の滝の音が、さらさらと耳に流れ込み、時間があの夏へ巻き戻されたような錯覚に陥った。

友哉はただ、目の前を軽やかに歩く、ほっそりとした影を追った。
走るでもなく、声をかけるでもなく、ただ追った。

そして、やっとその背が手に届くところまで来たとき、そこは「あの場所」だった。

水量が少ないせいで、滑り落ちる水の白糸はとても細く、滝壺の色は恐ろしいほど深いエメラルドグリーンだ。

少年が少し小首を傾げて友哉を振り返る。

友哉はもう、堪らずに訊いた。
「誰なんだ? あんたは」

ふと思ったのだ。

もしかしたらこの少年は、自分が由宇に似てるのを利用して、俺をからかっているのでは無いだろうかと。
逆にそうであってほしい、と。

「誰だと思います?」
少年はふいに笑った。
笑うと更に幼く、中学生くらいに見える。

「ただの、観光客ですよ」
少年はゆっくりと周りを見渡したあと、再び友哉の方を見て、「なんてね」と、また笑った。

友哉は眉間に皺をよせた。

「僕が誰なのか知りたいですか? 教えてあげてもいいですよ」
少年はもう微笑むのをやめると、右手をスッと友哉の胸の前へ差し出した。
一歩も引かず、友哉はさらに険しい表情をし、挑むように少年を睨んだ。
蝉の声が音量を増してゆく。まるで何かの合図のように。

「腕相撲しましょうよ。僕に勝ったら、教えてあげます」

ザワリと木々が動いたように思ったのは、気のせいだろうか。
それとも揺らいだのは自分なのか。

友哉は息をするのも忘れ、ただじっと少年が差し出してきた、細い指を見つめた。


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~ Comment ~

NoTitle 

たしかに、20歳前後の男性の呼び方って迷いますねー。
やっぱし少年、というかんじではないですもんね。
男、じゃちょっと違うかなーと思ったり。
とくにここに登場しているようなキレイ系の人だったら、男、じゃイメージ違いますもんねぇ。

もしかしてこの青年は…〇〇〇?(また〇かい!
それはありえないかなあ…いや、ありえる!
この青年が〇の〇だったら、ありえる!(わけわからんし…

西幻響子さんへ 

やっぱり青年と少年、迷いますよね。
いっそのこと17歳くらいから青年とさせてくれたらいいのに。

と、それはまあ、いいとして。
ん?〇〇〇とは、なんだろう。
〇の〇ってなんだろう・・・
気になるじゃないですか~・笑
幽霊じゃないですよ?
青年の正体はきっとわからないと思います。
ヒントを出してないですから。

さあ、青年の正体を突き止めることはやめて、物語を楽しんでください。
(できるか!って?笑)

NoTitle 

まさかこの青年は、保奈美か由宇の子供!

……なんてわけがない(^^;)

降参です。続きが楽しみです。

ポール・ブリッツさんへ 

なんで保奈美の子供がこんなに大きいんですか。
どこで時間軸がずれましたか・笑

いやもう、答えはあきらめてください。
ぜったい分かりませんから。

あとで「そんなの分かるか!」と、怒られるか、ほおー、、、と思われるか、賭です。
(前者の可能性のほうが高いですが)

今は、このあとの展開だけ見ていてください。
この物語は、あくまで友哉と由宇のお話です。


NoTitle 

そうですね。もう青年の正体を探るのはやめます。

とても不思議な展開ですね。
腕相撲を挑んでくる辺りなんて、とても読者一人一人、それぞれの想像を
掻き立てる感じがして素敵です。

こういうお話は本当に好きです。
自分の作品とどこか同じ匂いを感じるからかなあ。
最後の最後まで楽しみにしております。

ヒロハルさんへ 

ありがとうございます。
青年の正体は、いつの日かきっと「ばしっと」お教えいたします。
(すぐには無理なんですが、きっと納得していただけると思います)

ちょっと奇妙な展開になってきましたね。
ああ、そういえば、ヒロハルさんのテイストに近いのかもしれません。
少し現実とズレたところに展開して。

そして、ファンタジーにしたくないという、こだわりがあります。
あくまでも、地に足を付けて、展開したいんですが。
さあ、どうなるか・・・・。

こんにちは^^ 

前回のお話を読んだ後、毎日この物語の事を考えてました。

友哉の前に現れた、由宇の面差しとそっくりの、少し自分より年下のように感じるあの青年。

・・・・・私、保奈美の事が気になります。
由宇の方に友哉の関心が行ってから、彼女の事が話題に出て来ませんよね?
由宇と彼女は「双子」だった。



・・・・後2話、目を皿のようにして読ませていただきますv-290

蘭さんへ 

おおおー。
ずっとこの物語のことを考えててくださったなんて。
作者には、この上ない幸せです。

やはり、この奇妙な展開や、青年のこと、気になりますよね。

実は、・・・・このラストには、ちょっとした企みが・・・・。
すべては、エピローグを待っててください。
そして、それまでは、友哉だけを見ててください。
(勝手な作者・笑)

う・・・。
保奈美。
保奈美のことを出されると、辛いです。
彼女もきっと胸を痛めてるでしょうが、この物語のなかでは脇役だったんです。
波風を立ててくれる、いいキャストでした。
ごめんね、保奈美。

・・まあ、この作者の言うことは、あてになりませんが。

さあ、あと2話+エピローグです。
次話は短いですよ。

NoTitle 

保奈美がせいてん……うわなにをするはなせやめろいたいいたいいたい(撲殺)

真っ白.。o 0 ~は 続く~~ 

ハイ! lime隊長(いつから!?)の命令通り 妄想せずに ただ 素直に 文章の一字一句を 辿っておりますッ!(`・ω・´)ゞ シャキーン

それでも時々 邪念が 脳内を フィ~フィ~と 横切ってしまうのは 仕方がない奴だと 諦めてね~(*^‿・)

帰る前に あの滝の場所に行き 手を合わせたかったのに これじゃぁ 出来ないよー!
やっと向き合える気になったのにぃ~~(T人T)...byebye☆

ポール・ブリッツさんへ 

ぬおおぉ~、またもや!
保奈美は性転換など、しない~~~!!
しばらく、この洞穴で反省しなさい(バタム)彡☆

けいったんさんへ 

けいったんさん、良い子ですね~ヽ(´∀`)ノ
そう、まっしろ、まっしろ・・・。邪念も漂泊・*:.。.:*・☆・

・・・って遊んでないで。

でも、いいところに気づいてくれました。
青年が出て来なかったら、友哉は手を合わせて、穏やかに終われたのに・・・と?

さて、どうでしょう。

青年の正体よりも、青年が何故、ここに居るかが重要になってきます。
何のための出演者なのか。

はい、引き続き、真っ白~・*:.。.:*・☆・

NoTitle 

むしろどこからどこまでが少年なのかが謎という・・・。
僕は今17なのですがこれは少年なのか・・・?

友哉さん、思い出の場所にとうとうきちゃいましたね。
そして由宇似の人はこれからどうなるのでしょうか。
楽しみです。

ねみさんへ 

まさにそこですね!爆

19歳まで少年でいいのか。
刑事事件では、20歳未満までは少年としていますよね。
ねみさんは、ぜったい少年です(o^-')b

実は、そこが、めちゃくちゃこの先重要な問題だったりして・笑

さあ、正体も分からないこの男性、どんなふうに友哉に関わってくるのか。

私の企みは、受け入れられるのか、どうか・・・・。(・_・;)

お楽しみに。

あいかわらず 

まっしろ・・・(・・ )φ






そうそうそう!!
「青年」とか「男」とか「少年」とか。ほんっと困るんです。
陽の事はよく「青年」と書いていますが、よく考えると「青年」っていう年齢か!?とか思ったり。
でも、「男」っていうのもちょっと違う。(時々使いますが)
あ、一度だけ、「月」の中でユミが陽のことを「おじさん」と言いましたね(^^;
ごめんよ陽・・・。

NoTitle 

ちょっとふざけすぎた面はあります(ごめんなさい)が、みんなしてほとんどの可能性は埋めたはずであります。

その上を行くlimeさんの真相ってなんだろう……?

どきどきしてます。

今日でしたっけ更新?

知りたいぞ~(^^)

「喪われた故郷」、なかなか読む時間がとれないです。来週には返さないといかんのに~!!

秋沙さんへ 

まっしろ・・・笑
いや、それよりも、楽しんでいただけてるかが不安・笑

そうでしょ?
悩みますよね、青年、少年、男、男性。
陽の場合は26歳なので、ばっちり青年でしょう。
定義では20~35歳くらいまでは青年でいいそうです。
「男」というと、ちょっと胡散臭くなりますよね。
「男性」は、よそよそしいし。

使い分けが細かい分、日本人の感覚はとても細分化されてて、書く方としては難しいです。

でも、・・・陽は「おじさん」ではない・爆

ポール・ブリッツさんへ 

みなさん、すごく考えてくれてますよね。

実は、斜め上な感じです。
14話、15話でも、青年の正体は分からないでしょう。
ますます、わからなくなるでしょう。

エピローグをお待ちください。
そこで、・・・私は皆さんの怒りを買う事でしょう((((;゚Д゚))))

いえ、でも、ぜったい「そんな、バカバカしい!」と、いう怒りではないはずです。
たぶん、理解戴けると思います。
この「呵責の夏」が、なんだったのかが、そこで分かるはずです。

「喪われた故郷」、ポールさんならすぐに読めると思いますよ~。
わたしのかわいいジョシュを宜しく♪

「リヴィエラを撃て」は、ようやく日本。コンサート。
(まだそこかい!)
ああ、もうジャック、死んでるし(>_<)
時間が前後するのがもどかしい。
でも、大切な工程なんでしょうね・・・。

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鍵コメSoさんへ 

そうですね、この青年が友哉の感情をかき乱していきます。
いったい誰なのか・・・は、いずれ分かりますが、このお話のテーマではないので、気にしないで読んでくださいね。
保奈美の登場はもうありません。
このお話の中の役目は、もう終えたので。

Sさんは、大阪、神戸にはいい印象を抱いていなかったのですね。
きっとなにかよくない思い出があったのでしょうが。
そんなことも、人生の中ではありえますもんね。

でも、地元が一番住みやすいと感じて、ずっとそこにいることは、実際いちばんいいことだと思います。
私の同級生たちもほとんど地元に残って、暮らしています。
結局、それが一番ただしいあり方なのかもしれませんね。
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