電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第20話 君の為の涙

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「あんた、ボクをからかってんの? 何言ってんの?」
少年は全く稲葉の予想通りの言葉を返してきた。
「うん、そうだよね。信じらんないよね。僕だって信じたくなかった。今だって何かの間違いじゃないかって思ってる。でも本当なんだ。トムの命は昨日、消えてしまった」
「そんなことあるもんか! 昨日の昼、ボクらは交信したぞ!」
「じゃあ、今日は?」
「・・・きょうは・・・まだだけど。でも、そんな急に人が死ぬわけない!」
「信じるか信じないかは君の自由だ。僕は強制しない。
ただね、トムは最後まで君を気にかけてたよ。自分に依存してしまったせいでエンマは更に他人を遠ざけてしまった。申し訳ないことをしたって。トムは君にそう伝えて欲しいって言った」
「そんな、そんなことないよ! トムは何一つ悪いことはしてない!」
少年は拳を握りしめ、声を張り上げた。
公園入り口で口論しているように見える二人に、行き交う人たちがチラチラと視線を向けてくる。

「あ~、聞かせてあげたかったな、トムに。きっとすごく喜んだろうに。あの子は優しくて賢い子だけど、
どうしようもなく心配性だったから」
稲葉が安堵したように言った。
「・・・ジョーダンなんだろ?」
「何が」
「だから、トムが来れない理由」
「ジョーダンなんかじゃないよ。昨日の昼過ぎだったかな。トムは逝ってしまった」
「ウソだよ!」
「嘘じゃないよ。エンマくんは変に思わなかった? この頃急に会うことを急かすようになっただろ? 日時まで決めて。とても急いでただろ?」
「それは・・・思ってたけど」
「トムはね、自分に残された時間が少ないって知ってたんだ。そして自分が居なくなった後の君が心配だったんだよ。ひとりぼっちで閉じこもって、友だちの作り方もわからない君が。自分が居なくなる前に外に出られるようになってほしかった。外の世界で自分以外の人間と交流を持てるようになって欲しかったんだよ。ただ、思いがけず『その時』は早く来てしまった」
「嘘だよ!」
「トムは元々、ここには来ることが出来なかったんだ。そういう体だった・・・って言ったらいいかな。嘘をつくことを許してくださいって。エンマに申し訳なかったと謝ってくださいって、僕に最後のメッセージをくれたよ」
「ウソだよ・・」
少年の声は掠れて小さくなっていった。

「信じないならそれも仕方がない。僕はここにそれを証明するものを持ってきていないし、そんなことはしたくない。ただ、それが事実なんだ。僕の言葉を信じないのは勝手だけど、それはトムを信じないのと一緒だよ」
「そんな・・・」
「トムはね、もういないんだ」
「トムは・・・病気だったの?」
「そうだね、説明が難しい。君はその詳しい説明を聞きたいの? なぜ、どんなふうにトムが死んだのか」
少年は目を見開き、一瞬息を呑むように稲葉を見たあと、ゆっくり首を横に振った。
「いい。・・・いらない」
「僕も説明したくない。だって、納得いかないから。ただ君には、トムのことを忘れないであげて欲しいって、それを伝えたかったんだ。トムが居なくなるのは君から逃げたわけじゃない。この世界から消えてしまうからなんだって」
「そんな・・・」

「君もがんばってここに来たよね。何年ぶりの外出なのか分からないけど、怖かったよね。よく頑張ったと思う。トムもね、すごく頑張ってたんだよ。君を助ける方法を考える傍ら、死への恐怖とも戦ってた。たった一人でね。自分の事はきっと誰にも理解してもらえないだろうって思ってたんだろうね。とっても不安で堪らなかったと思うよ」
「ボクに・・・ボクに言ってくれればよかったのに。ボクだって、・・・トムの助けになりたかった」
少年の見開いた目から、大粒の涙が幾つもこぼれ落ちた。
溢れてくる悲しみと後悔をどうコントロールしていいのか分からずに、少年はただ小さくしゃくり上げながら泣いた。
擦れ違う家族連れがチラリと見ては視線を外して去っていく。
小さな女の子が抱っこされたまま「お兄ちゃん、イタイ、イタイの?」と父親に話しかけていた。
場所を変えようかとも思ったが、何故かこの人の流れの中が心地いい。
稲葉はハンカチを取り出すと少年の頬を拭き、優しく頭を撫でた。

「この公園ってさ、僕らの待ち合わせには絶対向いてないよね。日時はボクが指定したんだけど、この場所はトムが選んだんだ。なんでここを選んだのか、分かる?」
少年は黙って首を横に振った。
「トムの亡くなったお父さんの日記を読んで分かったんだけどさ、トムがまだ赤ちゃんの頃、よくお父さんとお母さんでここに来たんだって。でも、トムはそれを覚えてなくってさ。ずっと行ってみたかったんだけど結局行くことができなくて。待ち合わせ場所を考えたとき、ここしか出て来なかったんだと思うよ」
少年はじっと稲葉を見上げてその話を真剣に聞いていた。
どんな言葉も聞き漏らしたく無いと言った表情で。

「でもさ、たまたま僕らがこの場所に近かったから良かったものの、北海道とか九州とか、とんでもなく遠いとこだったらどうするつもりだったのかな。トムってさ、メチャメチャ賢くて冷静なのに、詰めが甘いとこあるよね」
稲葉はそう言って、クスクスと笑った。

「笑うなよ!」
不意に鋭い声が稲葉に投げつけられた。
一歩体を離し、赤く泣きはらした目で少年が稲葉を睨みつけている。
「トムを笑うなよ! トムは来たかったんだろ? ここにすごく来たかったのに、可愛そうだよ。お父さんと来たこの場所を見たかったと思うのに。笑うなよ。トムを笑うなよ!」
そう言って肩を震わせ、再び泣き出した。

本当にこの少年の心はまだ幼い。そして危ないくらいに純粋だ。
トムが放っておけない気持ちが稲葉には改めて理解できた。

「ねえ、エンマくん。トムの代わりにこの公園を散歩しようよ。トムの目になったつもりでさ。
あっちのほうにすごく手入れされた花壇や花時計があるよ。トムとお父さんも眺めた景色かも知れないね。売店も充実してそうだよ。僕さあ、今日一日何も予定がないんだ。彼女もいないしさ。今日はのんびりここで過ごそうと思ってるんだ。君も付き合ってくれると嬉しいんだけどな。ほら、一人で幸せそうな家族連れ眺めてると、結構寂しいんだ」
稲葉が苦笑いしながらそう言うと、少年はひとつ小さくしゃくり上げたあと、こくんと頷いた。
そして、掠れた声で小さく言った。
「ボク、・・・カズキといいます。上原和樹です」

稲葉は嬉しそうに頷いて、少年を見た。
「良い名前だね」

目がまだ赤く腫れている。
素直な、純粋ないい子なのだ。トムにはそれがちゃんと分かっていた。それがトムの「心」なのだ。
稲葉は胸に何か込み上げてくるのを感じ、青く澄んだ空を見上げた。

・・・ごめんね、トム。君の友だちを泣かせた。

こんなやり方を君は望まなかったと思う。
でもね、僕は泣いて欲しかったんだ。誰かに。
トムの死を誰かに悲しんで泣いて欲しかったんだ。
酷いと思うかい?
でも、だってそうだろ? ちゃんと君は生きてたんだから。
誰にも気付かれずに、悲しまれずに消えてしまっていいはずがないじゃないか。
悲しみや苦しみを理解し、友だちを救いたいと思う優しさを持ち、
そしてお父さんを恋しがる、寂しがり屋の普通の男の子だったんだから。

稲葉は和樹少年の横に寄り添うように立ちながら、もう何処にも居ない魂に静かに語りかけた。





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今回、少し長くなってごめんなさい。
次回で最終回になります。



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~ Comment ~

NoTitle 

はぁぁぁぁ。

もう、なんと感想を書いてよいのやら。
ごめんなさい・・・言葉が出てきません(^^;

いや、シロちゃん、ちょっと見直しました。(ちょっと?)

最終回、楽しみにしてます。

諒は出てきます?(笑)

秋沙さんへ 

シロちゃんのやったこと、教師としては失格かもしれませんね。
でも、人間的には・・・。

はい、次回は宇佐美と李々子しか出てきません・笑
この物語の余韻のような、おまけです。(*^_^*)

limeさまぁ~~号泣 

トムは、亡くなったんだ。。。
と、今更ながらの真実に 悲しみが ジワジワと 胸を締め付けてます。

稲葉と和樹と そして読者の皆で トムの死を 一緒に 悲しみ泣いていますから。
天国で お父さんと お母さんと 遠馬に逢えたらいいね、トム。
。゚(●'ω'o)゚。うるうる...byebye☆


NoTitle 

私も、シロちゃんのこと見直しました。
シロちゃんの話しを聞くにしたがって、最初に見られたエンマくんの反抗的な態度が、だいぶ和らいだのでよかったです。
何話か前のトムの独白は、切なかったです。
また出しますが、映画「A.I.」を思い出しました。あれに出ていた少年も、同じような切ない気持ちを抱えていたように思います。
ああ、あと1話で終わってしまうのですね~

NoTitle 

うう…出産以降、病的に涙もろくなったので、朝から携帯で読んでぼろぼろ泣かされてしまいました(涙)
やっぱりもうトムはどこにもいないんだなぁとしみじみと思います。
そして相手に媚びない、シロちゃんの毅然とした態度にも拍手♪ だからこそエンマも心を開いてくれたのでしょうね☆

最終回楽しみにしています♪♪

けいったんさんへ 

トムのために泣いてくれて、ありがとう~。
改めて、私も寂しいです。
肉体を持たない魂の消滅も、悲しいもんですね。

シロちゃん、今回はちょっと意地悪だったかもしれないけど、
やっぱり自分に素直になったら、こうしか出来なかったんですよね。
トムに聞かせてあげたかったなあ~、ENMAくんの言葉。

あと1話はおまけみたいなものですが、よかったらまた覗いてください♪

西幻響子さんへ 

エンマくん、このまま心を開いてくれたらいいですね。
(今度はシロちゃんに依存しちゃったらどうしよう・・・ (^_^;) )

映画の『A.I.』を観たときの切なさと、このお話の本質が似ていたらいいな、と思います。
あのお話はAIの少年自信の悲しみでしたね。
このお話は、そのAIの存在と消滅を考える方向でしょうか。
そしてシロちゃんの成長物語・笑

あと1話は、おまけですので、のんびり読んでください♪

16さんへ 

出産後って、涙もろくなりますよね。なんでしょうね、あれは。

今日のシロちゃん、長台詞だったんで、携帯で読みにくかったでしょ?
(橋田 壽賀子か?ってくらい・笑)

今回、シロちゃん、ガンガン行きましたね。
私まで「おいおい、あんたENMAのことじゃなくて、トムの事しか考えてないでしょ」って、
突っ込みそうでした。
でも、悲しみを共有することではじめて、ENMAと心が通ったのかもしれません。

最終回はゆるいですが、また遊びにきてください♪

NoTitle 

稲葉くんいつからこんな雄弁家に……。

きっと稲葉くんの身体を借りてトムがしゃべらせているんだ。稲葉くんの首筋には麻酔針が突き刺さってるんだ(笑)。

そんなことを思ってしまいました。

いつもこうだったら生徒にもふられず宇佐美たちにも子供扱いされず、立派な私立探偵になれるんだけどね、稲葉くん(^^)

まったく、RIKUか陽かと思ってしまいましたよこのパワーアップぶりは。

ポール・ブリッツさんへ 

稲葉君は猪突猛進型なんですよ。
自分の信念が定まったら、まっしぐら。

自信のない時の彼は、本当に頼りないんですがね。
今回はどうしてもやり遂げたいことがあったんです。
でも、明日の生活からはきっと、いつもの稲葉君です。

あ・・・、リクや陽は逆に、こんなふうにガンガン喋れません。

NoTitle 

上原君がこの後どうやって絡んでくるのかが・・・楽しみです(笑)

と思ったらもう最終回ですか。
あら・・・。

上原君もしかしたら彼はこの後AI研究の第一人者になったりしそうです。

ねみさんへ 

上原君は、もうあれで十分役割を果たしました。

そうですねえ、稲葉君はAIの話は何もしてないので、
その可能性は薄いかな。
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