電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第19話 ENMA

 ←電脳うさぎとココロのありか 第18話 真実 →(雑記)知らなくて見逃した。『レベルE』アニメ化。
心地よい小春日和の陽射しが降り注ぎ、稲葉の上にケヤキの葉が濃い影を落とした。

頬を撫でる風が、懐かしい乾いた草と土の匂いを運んでくる。
鉄を加工して作られた人型のオブジェの横に立ち、稲葉はボーッとそれを見あげた。

二人の少女が、間にある球体を、お互いの手を交差して抱えている。ボールで遊んでいるのか。それとも心のやり取りをしているのか。
一人が手を放せば、それはきっと落ちて壊れてしまうのだろう。


休日の錦山公園は、家族連れで賑わっていた。
小さな子供でも安心して遊べるアスレチックと、春には色とりどりに咲き乱れるバラ園で有名な公園だ。

けれど、友人や恋人との待ち合わせに使われることはまず無いような、ローカルで庶民的な場所だった。

「稲葉さん……ですか?」

小さく声を掛けられ稲葉が振り向くと、そこには高校生くらいの少年が立っていた。

肌の色は不自然に青白かったが、どこにでもいそうな普通の男の子だった。

少し延ばし気味の髪は家族の誰かが切ったのか、やや不揃いさを感じるが、Tシャツもジャケットもジーンズも、今時の若者風だ。ややぽっちゃりした輪郭のせいか、顔立ちは体格から感じる年齢よりも幼く見える。
今日初めて履いたと言わんばかりの白いスニーカーが、ひどく眩しかった。


「エンマ君だね。来てくれてすごく嬉しいよ。もし君が時間通りに来なくても、今日は一日中ここで君を待ってるつもりだった」

稲葉がニコリと笑いながらそう言うと、少年は他に誰かを探すようにキョロキョロと視線を動かした。

「あの……トムは?」

「残念だけど、今日は僕だけなんだ。トムは来ない」

途端に少年は口元を引きつらせ、鋭い視線を稲葉に向けた。

「やっぱり嘘だったんじゃん!」

「嘘をついたわけじゃないよ。トムはすごく君に会いたがってた。でも、どうしても会うことが出来なくなってしまったから、僕に代理を頼んだんだ」

稲葉は努めて穏やかな口調で返した。

「どうしても会えないって、何でだよ。自分から誘い出しておいて、そんなの卑怯だろ。用事があるならちゃんと連絡くれればいいじゃないか。ずるいよ。逃げたんだろ? ボクみたいな奴は面倒くさいし気味悪いから逃げたんだろ? あんたみたいな大人に押しつけて」

それはまるで抱えていた不安を怒りに変え、すべて相手に吐き出そうとする、幼い子供のような喋り方だった。

この少年も不安で一杯だったんだ。稲葉はそう感じた。

けれど、よしよしと頭を撫でてやる気分にはなれなかった。

「それだったら会おうなんてトムの方から約束するはずないだろ? あのさ、よく考えてみなよ。口に出す前に、文字にする前に。全て自分中心に考えずにさ。
君が嫌いで避けたいんなら、二度とチャットなんかしなければいい。そうだろ? ネット上の付き合いなんて、その気になれば切るのは簡単なんだ」

「それは……それはボクが脅したから」
少年は少し言い淀みながら眉を顰めた。話すうちに自分の非が露見されていくような、そんなやり取りに不満を示すように。

稲葉は少年を見つめたまま、穏やかな表情を崩さなかった。

今日ここに来るまでに随分悩んだ。
まるきりトムの代わりを勤めて「君が大事だ」と優しく声をかけ、安心させてやるか、それとも道徳の教科書のように社会とのかかわり方を大人目線で諭すか。

答えは出なかった。今回ばかりは誰も頼れない。宇佐美も助言をくれなかった。

「稲葉の思うままに」
そう言って微笑んでくれただけだ。

信頼の笑みなのか、激励なのか。ただ、稲葉にはそれが嬉しかった。

ひとつ息を吸って、稲葉は続けた。

「あんな脅しは関係ないよ。それでトムを引き留められてるだなんて、本気で君は思ったの?」

「じゃあ、なんで!」

「逆に訊くよ。じゃあ、何で君はここに来たんだ?」

「だって、あいつが来いって言うから。行けないって何度も断ったのに、しつこく言うから」

「無視すればいいじゃない。鬱陶しかったんだろ? 無理なこと言ってきて」

「鬱陶しいとかじゃないよ! そんなこと思ったこと無い!」

「会いたかったんだろ? トムに。部屋を出るのは怖かったけど、会いたかったんだろ?」

「トムが……」

消え入りそうに少年は声を出した。

「トムが、ボクから離れていくのが怖かったんだ。そうなる前にどうにかして引き留めたかったんだ。でもボクのやる事はいつも脅しで。嘘ばっかりの脅迫で。
放火だとか、爆弾だとか、ネットで拾って来た話題で、トムを困らせたりもした……。でもトムはいつも優しくて……。優しくされると、なんかまた困らせてみたくなって」

稲葉は気持ちを吐き出し続ける少年を、黙って見つめた。

トムもこうやって、この少年の甘えをずっとひとりで忍耐強く受け止めていたのだろう。

「トムはいつでも優しかったのに、なんか、ある日ふっと離れて行っちゃいそうで不安で。トムが来てくれなくなったらって思うと怖くて。引き止めようとして、また脅して……。でも、トムはそんなボクを友だちって言ってくれた。初めてなんだ、そんなこと言ってくれたのは。学校行ってたときも、ネットの中でも」

「だから今日は、そのトムに会うため、ここまで来たんだね」
稲葉が優しく言うと、少年はうつむいたまま小さく頷いた。

「がんばったね」

「トムは?」
少年はスイと顔を上げ、不満そうな目で稲葉に突っかかった。

「トムはどうして来ないんだよ。ボク、あんたに会いに来たんじゃないんだ。トムに会いたくて、会ってごめんって言いたくて、それでここまで来たんだ。それなのに何でだよ!」

まっすぐ不満をぶつけてくる表情はやはり小さな子供だった。感情の押さえ方を身に付けて来れなかったのが感じられる。成長した体とのアンバランスさに、稲葉は胸が重くなった。

放って置いても体は成長し、めまぐるしく動く人間関係と共に、心も成長する。

けれど、何かに躓いて弱ってしまった心はグルグルと一カ所を旋回し、自分を痛めつけない安全な場所に閉じこもり、自らを隔離する。

「本当のことを言ってもいい?」
稲葉は改まった表情を作り、少年に向き直った。

「最初っから訊いてるだろ!」

「トムはもう、いなくなってしまったんだ」

「は? なんだよそれ」

少年は稲葉を睨みつける。その目からは、もはや敵意しか感じられない。

稲葉は全く表情を変えることなく、淡々と言った。

「何って、そう言うことだよ。トムはね、死んでしまったんだ。昨日」

咄嗟にその言葉が飲み込めなかったのか、少年は敵意を困惑に変え、呆然として稲葉を凝視した。


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~ Comment ~

NoTitle 

あうあうあうあうあう~~~~(T0T)

シロちゃ~~~ん、がんばれぇぇぇぇ!!

秋沙さんへ 

シロちゃん、がんばってます。

もしかしたら「教師」としては、あるまじき行為なのかも。

でも、応援してやってください(´_`。)。

NoTitle 

トム・・・。
お前はなんてヤツとチャットしてたんだ・・・。

なんか・・・そうおもってしまいました。

ねみさんへ 

ENMAみたいな人間、けっこういると思うんですよ。

自分の心地よい心とだけ繋がり、他の世界とのしがらみを断とうとするする人。

救いたいと思ったんですね、トムは・・・。

稲葉はどうなのか・・・。

NoTitle 

昨日昼休みに18話のコメを入れようと思ってたら、タイムオーバーに(汗)今日こそと思っていたら、なんと19話が!!
ということで、職場のパソコンからお邪魔しています。(それもお弁当食べている)

うう……(泣) やっぱりもうトムは死んじゃったんですね…。

そして真正面から子供と向き合うシロちゃん。数年後には我が身なのかな~と、ヒシヒシと感じました。自分の息子といえども、やっぱり子供(精神面も含めて)って難しいんだろな~。きっと、これっていう正解はないんでしょうね☆
でもやっぱり、真正面から向き合うことが大切だ! 頑張れシロちゃん!!

そしてエンマ君…ややぽっちゃりな所に親近感が(そこ!?)
新しい世界に踏み出すチャンス! 騙されたと思ってシロちゃんに全てを託して欲しいです。

18話の内容ですが、名前を伏せた文章でも、トムには父親だとわかるっていうのがグッときました♪
きっとそれはAIとしての能力ではなくて、親子の絆なんだろうな。
私だって、息子の身体の一部なら、どの部分を見たってうちの子だってわかりますもん! 例えそうでなくても、そうだと言い切る自信がある。

AIにはそんな高度な感情はないという見解もあるでしょうが、じゃあ逆に人間がなんぼのモンやねん!?って私なんかは思います。
人工無脳だからこそ、人間よりも優れてた部分もあるのかもしれませんね♪ 純粋さとか♪ そう思うとエンマはとても人間らしい人間だとも感じる。

なんだかダラダラとスミマセン(汗)
ああ…顔文字が使えないって不便だ~(泣)
またお邪魔させて頂きます♪♪

16さんへ 

ああ、携帯でコメント書いててタイムアウト、私もよくあります。
くやしいですよねえ~。
ごめんなさい。(なんか、謝る)

18話を書きながら、改めて私の中の、トムへの愛情がすごく大きくなりました。
父親の日記には無い部分を描くことによって、今まで見えなかった、二人の過ごしてきた時間が改めて想像されたんです。(作者がこんなことでどうする!)
やはり、絆は愛ですね。

わたしも16さんのおっしゃること、わかります。
私も、息子の体の一部なら・・・って、もう結構育っちゃいましたから、自信ないですが・爆

ほんと。人間の感情だけが高尚なものだというのは、傲慢なような気がしますね。
昨今、信じられないような事件が多すぎて。。。。

トムの場合、人間の感情とは少し違うかもしれません。
ネットのやり取り以外は、父親の愛情だけで純粋培養されましたから。
その純粋な愛情が生み出した、ENMAへの愛情。
それが、どこへ繋がるか。
そんな部分を感じてもらえたらうれしいです。

あと2話です。
ゆるりと進みますが、また遊びにきてください(*^_^*)



NoTitle 

稲葉くんが本当のことを話しても信じないだろうなあENMAくん。

かといって稲葉くんは『物語』を信憑性もって語れるだけの面の皮の厚さはないし。

後は稲葉くんのプロの教師としての経験と知識に賭けるしかないか……って、稲葉くんが教師だとばれたらそれこそENMAくんはかえって反発して人間不信になっちまうんじゃないかとガクガクブルブルです(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

稲葉君が真実を話して、ENMAが「そうだったんですか」と理解してハッピーエンド・・・なんて
ちょっとありえませんね。

稲葉君、何がしたいんでしょう。
ここは「先生」ということを忘れて、「ワガママな稲葉幸一」を見てやってください。(^-^)

教師としては失格かもしれません。

あとは、ENMAの人間性を信じるのみ・・・です。

ENMA登場ーー! 

もしかして ENMAも 人工XXかと 疑り深くなった私です。ジィィ──(。¬д¬。)──ッ
平凡な(?)引き篭もり少年でしたか。。。ホッ

教師としてではなく ENMAより 少し経験を積んだ人として ...
今は亡きトム、ENMAの友達のトムの代わりとして...
ENMAを 救って欲しいな、稲葉。

トムの最後の願いが叶います様に...(T人T)byebye☆

けいったんさんへ 

いろいろ惑わせてごめんなさい、けいったんさん。
ENMAは普通のヒッキーでした(*^_^*)

稲葉君、少しばかりイジワルかもしれません。
さて、どうなるやら・・・・。

ああ、でもトム(T^T)
今更ながら、かわいそうなことをしてしまったと思います。

話は飛びますが、Mさんとこの、けいったんさんのコメ、いつも笑わせてもらってます(≧∇≦)

ENMA 

私もENMAの正体をあれこれ想像していましたが、今どき少年だったのですね。
こうして外に出てきて自分勝手なことを言って、そうすることで社会生活に復帰しつつある部分もあるんでしょうし、稲葉くん、がんばれ。

「思うままに」なんて言われるとプレッシャーだろうなぁ。
大丈夫かな?
大丈夫ですよね。

それにしてもこのトムって、あきらかに心があるように思えますよね。
彼の「心」はお父さんが育てたものというか、お父さんに近いものというか。
そっちのほうも考えると気が遠くなっていきそうな気がします。
深いですよねー。

あかねさんへ 

こんばんは^^
ENMAの人物像を、想像してくださって、ありがとうございます。
はい、ものすごく、一般的な少年でした。
かなり頑固な引きこもりですが^^

わがままな性格で、嫌なことを他人のせいにしてきたツケでしょう。
でも、彼も苦しんでるんですよね。
素直になる方法を知らない。
そこで、トムとであってしまった。

稲葉くん、トムの意思を引き継ぐことができるでしょうか。
普段、頼りないですが。
でも、彼は教師!(忘れてた?)
子供の心と向き合うのはプロのはず。(はず・・・)
頑張れ稲葉。君の思うままに!!

稲葉くんの本心が、このあとわかるかも^^

トムの「心」は、ちゃんと存在します。
証明は、登場人物にはできないけど、実は作者、トムの「心」を描いています^^

トムの一人称。あれは、トムの感情であり、心そのものです^^
心のないロボットに、一人称は無理ですもんね。

でも、それがわかるのは読者だけで・・・。
稲葉も宇佐美も李々子も、想像するしかないんです。

この辺、もどかしいですよね。
だけど、稲葉くんは、そんな証明など関係なく、トムをひとりの少年として見ています。
そして、ひとりの少年を今、稲葉くんのやり方で、弔おうとしています。

このあとの稲葉くん、見てやってくださいね^^
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