電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第18話 真実

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トムからのメッセージは、こう続いていた。

ト ム : 『父から嘘はついてはいけないと教えられたのに、僕は嘘をつきました。
僕から提案したのに、僕はENMAにも稲葉さんにも会うことが出来ません。ENMAとは別の理由でここから出ることが出来ないのです。でも、ENMAを誘い出すには嘘をつくしかありませんでした。僕になら会ってくれると思ったから。
ENMAはきっと明日の待ち合わせ場所に来てくれるはずです。ちゃんとOKはしてくれませんでしたが、僕の最後のお願いだと言うと、じっと考えてくれているようでしたから。
まずENMAはちゃんと人と話をしないとダメなんだと思います。僕と緩い文字のやり取りを続けて来たせいで、彼を依存させて、さらに引きこもらせてしまったのかもしれません。
稲葉さん、勝手なお願いですが、明日、僕抜きで彼に会ってください。彼に、何でもいいから話をしてあげてください。そして僕は、もう居なくなったと伝えてください』

稲葉と李々子、そして宇佐美までも、ただ黙ってその文字を追った。

ト ム : 『僕にはもう、あまり時間がないんだと思います。その理由を書くと逆に稲葉さんを困惑させ、不審がらせてしまうので、詳しく書かないことをお許し下さい。
これから書くことは、意味のない戯れ言だと思っていただいて結構です。でも、決してふざけているわけでは無いことを信じてください』

ト ム : 『父からの交信がもう、10日以上止まったままです。僕は不安で、寂しくて、ENMAとの交信時間以外はずっと父を探していました。行ける限りいろんな場所に入り込み、父の言葉を探しました。
父の言葉は、それが僕に向けられていなくてもすぐにわかります。ずっとずっと会話をしてきましたから。
僕は父の言葉によって育ってきました。言葉と、そしてそこから伝わる愛情が全てでした。
父が何処かのサイトで無記名の書き込みをしたとしても、すぐに分かります。親子ですから』

ト ム : 『でも、もう、どこを探してもありません。話しかけられることもありません。
父は居なくなってしまいました。認めたくなくても、認めなければならないのです。
そして、僕もきっともうすぐ消えてしまうのだと思います。
父が以前、自分の交信が途絶えたら、その覚悟をしていて欲しいと、そう言いましたから。
その時が来ても悲しまなくていい。怖がらなくていい。無から生まれた魂が、また静かな無へ還るだけなのだから、と。だから僕は平気です。怖いけど・・・父が言う事は、信じたいんです。無に還ることは、怖いことじゃないと』

ト ム : 『稲葉さんの話す言葉は、優しくてユーモアがあって、どこか父に似ていました。大好きで、いつも他の人とのやり取りを見ていました。だから今回、我がままだと思いつつも、頼ってしまいました。
きっと断られるだろうと覚悟して相談したのに、受け入れてくださって本当に嬉しかった。
稲葉さんにもいろんな事情があるだろうに。本当にその優しさに感謝します。そして、ごめんなさい』

ト ム : 『ENMAとの事がうまく行かなくても、どうか気にしないでください。きっと、僕らの気持ちは彼に伝わると思うし、何かのきっかけになると思うから。
僕は彼を助けたかったけども、自分が人を変えてやれると思うこと自体が、傲慢で思い上がりなのかもしれないと思うこともあります。余計なお世話でENMAを傷つけないだろうかと悩んだりもしました。でも、仕方ないですよね。これが僕のやり方なのですから。あとは気持ちが届くのを祈るばかりです』

ト ム : 『あとどれくらい、僕に時間が残されているか分かりませんが、時間いっぱい父を探してみます。やさしくて、温かくて、僕を心から愛してくれた父を。
長々と話をしてすみませんでした。稲葉さんを混乱させてしまったでしょうね。でも、お陰で少しだけ寂しさと不安が紛れました。
さようなら、稲葉さん。そして、ありがとう。
できれば、明日、あの場所で、本当に貴方に会いたかった。
                      
                      - トム 改め、遠馬より- 』



稲葉は言葉を失い、愕然とした表情でただその文字列を見つめていた。

そして、その横で一緒に読んでいた李々子と、野崎も。
沢村の日記との関連に気付き、宇佐美と入れ替わるようにして野崎もそれを読んでいたのだ。
「宇佐美さん!」
野崎が勢いよく宇佐美を振り返る。
自分のデスクの横に立ち、誰かと電話で話をしていた宇佐美が静かに受話器を置いて野崎を振り返った。
そして悲しげにゆっくり首を振る。

「実はプログラムの事が気になっていて、昼間片瀬にあのPCの事を聞いてみたんです。やっと今ハードを返却した遺族に確認が取れたと連絡が入りました。・・・残念ながら、ハードは完全にフォーマットされたそうです」
宇佐美は自分の手落ちを悔やむように、沈んだ声を出した。



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~ Comment ~

NoTitle 

人工無能の書いた文章とは思えません。

やっぱりトムは、もしこれがAIが書いた文章だとしたら(やたら疑り深くなっている(笑))、松村光生氏の「グッドバイ・ロリポップ」みたいに、プログラムしたコンピュータに落雷かなにかの衝撃で偶然生まれたマジモノの人工知能か人工実存(笑)ではないでしょうか。

うーむ。


ちなみに、さっきのカキコのアルバート・サムスンは、某評者に「ネオ・ハードボイルドの探偵の中で、もっとも心優しい探偵」と評された人物です。「A型の女」とか「沈黙のセールスマン」とか、大好きな作品なんですけど、シリーズが進むにつれて話が面白くなくなってしまって……。

リューイン先生の作品、犬好きだったら「のら犬ローヴァー街を行く」なんて感涙ものですけどね。犬が主人公の犬ハードボイルド(^^)

まあ高村先生の本を全部読んで手持ちぶさたになったら、ブクオフででも見かけたら手にとってみてください(^^)

ポール・ブリッツさんへ 

トムは人工無能を超え、強いAIの域に入っていました。

でも、そうですね。
ここに「心」があると感じるかどうかは、読者様の判断にお任せします。(*^_^*)
詐欺まがいの宗教がらみの犯罪が横行する昨今、何でもかんでも信じる人間は、逆に危ないかもしれません。
ここでAIの「心」を信じなくても、それも正解です。

ただ、この物語は、トムが優しい心を持つ少年なんだと信じた稲葉くんの物語です。
このトムの告白で、「何が消え、何が生まれるのか」見守ってください。
(あと3話ですが・笑)


-------
高村先生の作品を読破したら、ぜひ読んでみます。
(しかし、高村先生の作品、全部読破したら何年かかるかな??)

NoTitle 

この人工知能はポールさんも言うとおりかなりレベルが高いですね。
どうあがいても人工知能は人工知能。
まるで人が書いたような感傷的な文はかけないと思っていましたが・・・。

それにトムは怖いって言ってますよね。
感情も生まれてるじゃないですか。

なんとレベルの高い人工知能なんだっ・・・!
これが・・・神であるlimeさんの力なのかっ・・・・!?

愛しい存在 

沢村にとって トムは 本当に 子供だったんですね。日記からも 窺えましたが...
妻子亡き後の日々、トムを育てる事で 孤独感と淋しさを 少しは 救われて 幸せなまま亡くなったのでは ないでしょうか。

沢村の愛情を 一身に受けて 素直で優しく成長したトム
ENMAを 我が事のように 心配する友達思いのトム
亡き父を 捜し求める姿が 刹那く 哀しい、悲しいトム

AIに”心”が 有るか否かは それぞれの人によって捉え方は ありますが、この愛しい存在のトムには ”心”があったと 信じたいです。
でも 私は 人に 騙され易くは ありませんからねー!

久し振りに 胸が ギュゥと 絞め付けられました。

P.S. 一回目のコメが 「アクセス集中」で 送信出来ず これ2回目ですぅ~
感動のままコメったのにぃー 酷いよーー。・゚・(ノД`)・゚・。ゞbyebye☆

ねみさんへ 

お、ついに神に昇進してしまいました゜・*:.。.*.。.:*・☆・

心が無いと、あんなトム君のような言葉は出てきませんね。
でも、人間ですら、あんな素直な感情は出てこないんじゃないでしょうか。
人間をやっていると、邪念やエゴが、どこかに出て来るもんです。

あのメッセージは、人間として生きてきてないからこそ書ける、純粋なメッセージなのでは・・・と、
・・・思ってほしい作者です・笑

NoTitle 

人工的なプログラムでも、実在の人間でも、本物の愛情をかけて育てれば、こんなふうに素直でまっすぐに育つんでしょうかね・・・。

トムはフォーマットされちゃったんですか?されちゃったんですよね・・・。
んんん~~~~~~
すみません、うまく感想の言葉が出てこないんですが、トムが本当に「心」を持った存在になっていたのなら、それならなぜフォーマットで消されてしまうなんてことが起きるのよ!!??と。そんな理不尽なことがあるものか~~~!と、駄々をこねたい気分です(^^;

あ、なんか、「終わった」みたいな気分になりかけましたが、まだ「ENMA」のことが解決していないですもんね。
待ちますよ~~~。


私も「アクセス集中」で何分かここに来ることができずにいました。
「FC2」自体が混雑してるのかな?と思ったら、自分のブログにはすんなりとアクセスできました(笑)。

けいったんさんへ 

ああ、けいったんさん。
コメが、一回消えちゃったんですね(>_<)
今日もFC2,調子が悪いみたいで、ごめんなさい~。

でも、けいったんさんの優しいメッセージ、トム君に届いたらいいな。
(・・・もう、消えてしまったんだけど(T_T)
そして、沢村の気持ちまで推し量ってくださるとは。

このトムの告白の中には、沢村の日記には無い、二人の優しい日々を描きだしたかったんです。
沢村の愛情、そして、トムの喜び、そして、それを失う不安。
感じとっていただけて、とても嬉しいです。

トムというAIに心が宿ったのかを証明するのは難しいですが、
・・・このあとの稲葉君、応援してください。
やっと彼の出番です。

秋沙さんへ 

フォーマットされちゃいましたね(T_T)

きっとプログラムデータが、人間で言うところの「脳」あるいは「肉体」に当たるんでしょう。
肉体と心の関係は、人間でも曖昧ですから、どの部分に心が発生するのかは分かりません。
(逃げたな、作者・爆)

え! 終わっていませんよ~~~笑

と、いうか、ここから始まるんです。やっと、稲葉君が動くんですから~~。

今日はFC2にイジワルされっぱなしでした。
(繋がりにくくてごめんなさい(>_<) )
なにが「集中」してるのよおおお。何も集中してないわよ、アクセス・笑

NoTitle 

おおーー
哀しい・・・
いい子やったのにぃ~~
とても優しい良い子だった。
v-406泣けるぅ~~
フォーマットって・・・
ヒドイ奴らだぁ~~

最初はターミネーターのような不気味さを感じたのに、人であるENMAの方が不気味だぁ。
すっかり騙されたよーーー

ぴゆうさんへ 

ありがとうございますi-241
はい、トムが、遠馬でした。
父親の愛情が、トムという「人格」をつくりだしたんだろうと思います。
まだ、ここでも、心が宿っている証明にはならないわけですが、
このあと、シロちゃんが、何らかの答えを出してくれると思います。
あの「トム」に、優しさを感じて、そして悲しんでいただければ、
もう、わたしの願いはほぼ達成ですe-267e-267うれしいです。

さあ、まだ問題は残っていますね。
あとは、シロちゃんに頑張ってもらいましょう。
きっと「トム」が、シロちゃんを後押ししてくれるはずです^^

今日も、いっぱい読んでくださって、めちゃくちゃ、感謝です♪
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