電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第17話 心配症のうさぎ

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放心したような稲葉のつぶやきをかき消すように、忙しないノックが2回響いた。
こちらの応答も待たずに事務所に飛び込んできたのは野崎だった。

けれど稲葉は周りに気を取られることも無く、食い入るように起動中のPC画面を見つめている。突っ込みすぎたセキュリティソフトのせいか、立ち上がりがやけに遅い。

じりじりと画面が開くのを待つじれったさが、稲葉の背面に立つ宇佐美や李々子のみならず、まだ若干息を切らせている野崎にも伝わった。

「すみません、お取り込み中でしたか?」
客であるにもかかわらず、相変わらず野崎の口調は低姿勢だった。
稲葉の無言の気迫と事務所内の緊張感が、更にそうさせたのだろう。

「いえ、とんでもありません。お待ちしていましたよ、野崎さん」
宇佐美は戸惑っている様子の野崎にソファーを進め、さっきまで稲葉が読んでいた4冊のノートを渡した。
特に意識した訳ではないが、一番上に乗せたのは、先ほど稲葉が読んでいたナンバーだ。

沢井が亡くなった事に関しては、既に電話で詳しく説明してあった。野崎は宇佐美に礼を言うと、早速ノートに目を通し始めた。

稲葉はその間も、PCのモニター食い入るように貼り付いたまま、立ち上がったページを忙しなく操作している。
しばらく見守っていた李々子も、ついに我慢できなくなった様子で、稲葉にそっと近づいた。

「トムって、だれ? シロちゃんに相談してきた男の子?」
「そう、彼がトム。そして、沢井さんのAIのハンドルネームもトム」
PC操作に集中しながら稲葉が答える。感情をどこかで遮断しているような早口だ。

「偶然ね。……でもトムなんて愛称の人なんていっぱい居るわよ、きっと」
「そうです。いっぱいいますよ。だから、ほら、違ったよねって、笑い話にするんです」
軽い口調でそう言っているにもかかわらず、稲葉の横顔は今までに見たことも無いほど真剣だった。
李々子は口を噤んだ。

「僕ね」
稲葉が続けた。

「馬鹿げてるかもしれないけど、沢井さんのAIが、もしかしてENMAだったりしてって思ったんです、一瞬。
ほら、あの字は“えんま”とも読めるし。そしてね、そうだったらいいなって思ったんです。トムはロボット相手に悩まなくてもいいじゃない? って。僕は、トムだけ救われればいいと思ってたんです。ENMAはバーチャルで、存在しなければいいって思ってたんです」

稲葉はチャットルームが入室者ゼロなのを確認すると、すぐに掲示板を覗き始めた。
もしかして、トムの書き込みがあるかもしれないと。

李々子は真剣なその横顔を見つめながら優しく言った。
「シロちゃんはさ、ちっとも変じゃないよ。悩めるものみんなを救おうなんて思っちゃだめよ。病気になっちゃうよ」
「だけど……」

「本当に心配性で生真面目ね。シロちゃんは、誰よりも頑張ってると思うよ。その子たちを傷つけたわけじゃないし、逆に自分の時間を削って相談に乗ってて、凄いと思う。ほんと。
……っていっても悩んじゃうのかな。まあ、そこがシロちゃんのいいところなんだけど」
「すみません……」

「取りあえず今はトム君をめいっぱい探して、その心配を解消するしかないわね。大丈夫、きっと見つかるわよ」
「はい……」

2人のそんなやり取りの傍ら、野崎は一心に日記を読んでいた。
宇佐美がソファを勧めたが、一旦座ってすぐに立ち上がり、歩きながら再び読みふける。
時々首を傾げ、メガネをずらしながら、パラパラと忙しなくページをめくり、立ち止まっては小さく唸る。
同時に、その内容にリンクする稲葉と李々子の会話も気になっている様子で、時折稲葉の方に視線を移すが、すぐにノートに戻って、ページをめくる。

李々子も稲葉の背後から、両手を握り締めて祈るように画面を見入っている。客人へのお茶の用意など、今日は全く頭に浮かばないらしい。

宇佐美はにわかに緊迫感に満たされた事務所内を、興味深く冷静に眺めた。


稲葉は自分たちがいつも利用する掲示板を2時間ほど遡ったが、トムらしき書き込みは見あたらなかった。再びチャットルームを開く。トップページの入室者は、やはりゼロ。

明日会うというのに、メールアドレスくらい交換しておけば良かったと悔やみながら、誰もいないチャットルームを開いた。
大抵いつもトムはここにいるので、その必要性を感じなかったのだ。

そう。よく考えれば不自然だ。なぜいつもトムはここに居たのか。

そう思ったのと同時に目に飛び込んできた最終書き込みを見た稲葉は、「え」と小さな声を出した。
李々子もそれに気づき、画面にぐっと顔を寄せた。宇佐美もチラリと視線を送る。

そこにはチャットの文章というよりも、心を込めて書いたと思われる、稲葉への長いメッセージがあった。

書き込み時刻は3時間前。稲葉が職員室で最後にトムとチャットしたすぐ後だ。トムは「じゃあ、また」とあいさつし、稲葉が退出したあと暫くして、この文章を打ちこんだのだ。


ト ム :『うさぎさん。いえ、稲葉さん、改めてこのメッセージをここに記します。僕たちが会う約束をした日が迫ってきました。僕は、ここでどうしても稲葉さんに謝らなければならない事があります。僕は、あなたに嘘をつきました』

ここのチャットルームにも、一回の投稿に文字制限があるらしい。
トムは、幾つも幾つも枠をつなげ、静かに稲葉に語りかけていた。


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~ Comment ~

┣¨キ(*゚Д゚*)┣¨キ 

トムが 稲葉に 吐いた嘘って!

limeさま、此処で 続くだなんてーービェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!
無茶苦茶 気になるぅ~

次の更新まで モンモンと過ごすしかないのねぇ
ント・・σ( ・´_`・ )。oO(悩)...byebye☆

NoTitle 

お邪魔しています♪
ああ、なんてとこで終わっちゃうんだ……(;´Д`A ```人のことは言えませんが(笑)
ついに次回、トムの口から真実が語られるのですね!?

私もシロちゃんと同じ気持ちでした……ENMAがロボットで、優しいトムが悩まずに済めばなって。無意識のうちに、嫌な奴の存在を排除して、良い子が救われたらって思ってしまっていた……(_ _。)いけませんね……一児の親なのに。
limeさんの作品は、いつもいろいろと考えさせられます。

トムは今から何を語るのでしょう。
やはりラストは少し悲しくなってしまうのかな……(;ωノ|柱|。。。
でも楽しみに待っています♪♪
どうかみんなが幸せになりますように( ̄人 ̄)☆彡

NoTitle 

なるほど。

「どちらも人工無能ではない」

という可能性はさすがに考慮の対象外でした。

もしそういう展開だとしたら、はずれ馬券を破いて「負けたーっ」とわめいて帰ります(笑)

捨てたつもりが、どこかでSFファンなんだろうなあわたし。(^^;)

NoTitle 

あ、言葉が足らなかったときのために。

「はずれ馬券」というのは、

「自分の考えの一枚上手をいかれて予想が完全に外された」という意味であって、

「小説がはずれだった」という意味じゃぜんぜんないですよ。

そこを誤解されて絶交されてしまったらどうしよう、とガクブルな小心者でありました(^^;)

けいったんさんへ 

ドキドキしてくださって、うれしい~♪

で、でもね、けいったんさん。
きっと予想通りの「うそ」ですよ。
ここまで来たら、あれしかないでしょう・・・という「うそ」(^.^)

次回はね、衝撃はありません。
ただ、ひたすら、しんみりと・・・・・

16さんへ 

いらっしゃい♪
そこんところに触れてくださって嬉しいです。
いやいや、16さんは反省しないでください。
ただひたすら、稲葉君がすぐに反省して悩むタイプなもんで・・・。こうなっちゃうんです。
ただ、稲葉君と一緒に想いを巡らして行ってくだされば、嬉しいです。
(教訓的なものは一切ないんですよ。)

トムは、何を語るんでしょう。

恥ずかしながら、私は次話を書きながら、初めてトムを・・・・。
あ、これは、後記に書こう・笑

しかし、いいところで終わるのは、まさに16さん!
次話、待ってますからね(*´∀`)

ね、けいったんさん♪

ポール・ブリッツさんへ 

ん? 「なるほど」?

どちらも人工知能でないんですか??(って、私がびっくりしました・笑)

ここで、どちらも人工知能でなくて、そして満足のいく結末。
かなりどんでん返しですね。万馬券間違いないです。
でも、SF好きなポールさんには、そのどんでん返しは、うれしくないかな?

読者を欺くのがミステリー。
でも、あえてど真ん中で勝負するのも面白いじゃないですか。
まあ、馬券は破り捨てて(笑)のんびり見守ってください。
(こんなこと書いてるけど、次話の展開は、まだまだわかりませんよ?笑 蓋をあけてからのお楽しみ)

あ、そうだ。勘違いして怒ったりしませんよ~。
その辺、読み誤りませんって。

NoTitle 

なんかねぇ・・・
たぶん今の私は、シロちゃん以下です・・・(^^;
頭がこんがらがって、なんの予測も立てられない・・・orz

秋沙さんへ 

そ、そうなんですか?
これは、カムフラージュしすぎたでしょうか(・_・;)

では、秋沙さんには、次話でスッキリしてもらいましょう。

次話、すべてがわかります。もう、隠すモノは何もありません。

そして、その後やっと、稲葉君が動きます!・*:.。.*.。.:*・☆・

NoTitle 

人工知能VS人工知能という展開を見たことがないのですが・・・。
これはきっと思考のジレンマが影響しているのかもとかってに
すいそくしてみました。

(思考のジレンマというのがあるのかどうかは不明)

トムさんも人工知能なりに悩んだんでしょう。
自分は実は・・・と。
打ち明けることによって何が起こり何が消えるのか。
人間ですらソレを思考することは難しいのに・・・。

人工知能が人を超える・・・か。

ねみさんへ 

そうですね。
トムの心理描写は今まで、ほんの少しだけありましたが、
いろんなことを思っていたと思いますよ。
あの心理描写が、今回の稲葉の「AIについての疑問」の答えなんですが、
それは本編では触れていません。

>打ち明けることによって何が起こり何が消えるのか。

これはいい問いですね、ねみさん。
トムが「打ち明ける」ことによって、大きく変わるものがあるはずです。

「生まれるものと、消えるもの」

あと5話ですが、それが何なのか、伝わればいいと思っています。

NoTitle 

「ゴールデンボーイ」読みました。面白かったです。

同性どうしの恋愛ドラマをああもしっかりとやられてしまうと、わたしも「範子文子」を、いつかはギャグで逃げずにしっかりとした結末をつけてやらなければと思うであります。くっつくか別れるかそれとも両方ともノーマルでした、という展開になるかはこれから考えるとして。

しかしあの時代のネオ・ハードボイルドはやはり面白いなあ。個人的に一番好きなネオ・ハードボイルド派の探偵小説といったらM・Z・リューインの「アルバート・サムスン・シリーズ」だけど、あれlimeさんの好みに合うかなあ。

ポール・ブリッツさんへ 

わ~~~~い!
読みましたか!面白かったんですね??嬉しいです。

いやー、ぜったい男のポールさんには「これはちょっと・・」とか言われると思っていました。
でも、しっかりした世界観の中であれをやられると、けっこう引き込まれるでしょう?

最後の、ジョシュを見失ってしまうあたり、結末は分かっていながら、ドキドキが止まりませんでした。
やられたーーーと。
「範子文子」ペア、そっちにいきますか!
私は応援しますよ♪そっちの世界は未開ですが。
ノーマルは、ありえないでしょう、もはやψ(`∇´)ψ

M・Z・リューインですか?
知らないです。
でも、私が気にいるかどうかは、ポールさんには100%分かるんじゃないでしょうか・・・・(^^ゞ
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