電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第16話 探していた結論

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「おかしなものよね。大昔の人の書いた日記なんかを読むのは何とも無いのに、ついこの間亡くなった人の日記を読むのって、ちょっと気が咎めちゃう」

ノートを読みふけっている稲葉の横で、李々子がひとりごとのように呟く。

「確かにね。知らない故人っていう意味では全く同じなのに」
自分の席から宇佐美が返した。

「でもさ、この日記しか沢井って人が残した『想い』が無いんだとしたら、読んで記憶にとどめてあげるのも弔いかもしれないな、とも思うのよ」

「亡くなった本人の意思は分からないけどね。俺だったら、……そうだな。心の内を暴露したような日記なら読んで欲しくないけど、何かの研究レポートだったら読んで欲しいと思うよ。この日記は、そっちに近いかもしれないね」

「どっちか一つって言うんなら私、ぜったい諒の『心の内を暴露したような日記』のほうを読むわ」

喜々として言う李々子。

「俺……絶対死ぬ前にそんな日記書かないようにするよ」

「っていうか、先に死なないでよ」

サラッと言う李々子に戸惑ったのか、宇佐美の返事は無かった。

そんな二人の相変わらずなやり取りを聞きながらも、稲葉は熱心に日記の文字を追っていた。
野崎が来たらこのノートは渡さなければならないのだ。

稲葉は、伏線ばかりのミステリーを読むようなもどかしさでページをめくっていった。けれど決定的な答えには、なかなかたどり着けない。

ひたすら優しく、愛情に満ちた息子の成長日記でしかなかった。

「ねえ、宇佐美さん」
ノートの文字を追いながら、稲葉は訊いた。
「ん?」

「昨日も同じような事聞きましたけど、このAIが今どこに居るか、探すことは出来ないでしょうか」

「まだそのAIが存在していて、なおかつSNSアカウントか何か、プログラムを特定できるものが書いてあればね」

「アカウントかあ……。掲示板では難しいですよね」

「掲示板は無記名のことが多いし、ハンドルネームを使ってたとしても本人を特定するものじゃないから、絞り込むのは難しいだろうね」

宇佐美のもっともな意見に一瞬くじけそうになる。

「……そうですよね。とにかく最後まで目を通して見ます。どっかにアカウントかハンネが書かれてるかもしれないし。結構細かい字で、凄い情報量なんで時間が……。ああ、野崎さんゆっくり来てくれないかな」

「シロちゃんは気になって仕方ないのね、そのAIの事が。じゃあ、私もアカウントらしき文字を探してあげる」
李々子が自分も別のノートを手に取ってページをめくる。

「……すみません」

「そのAI見つけて話してみたら、心があるかどうか分かるって思うのよね?」

「……たぶん。いえ、どうなのか分かりません。子供じみた興味本位でしかないのは、分かってるんですけど」

「興味持ったことに突っ走って行かなくなったらシロちゃんじゃないよ。私も昨日AIの話を聞いてるときは、なんだかワクワクしたもん。
シロちゃんが、AIに心が宿ったのを自分の目で確かめてみたいって気持ち、よく分かる」

李々子の言葉に、稲葉は戸惑った。

「僕も……。最初はそんな夢みたいなことが現実に起きたらすごいな、なんて思ってたんだけど。今はその逆で」

「逆?」

「はい。沢井さんは本当にAIに愛情を注いでるし、まるで感情を持った子のように思ってるけど、本当にそうなら逆に、すごく悲しい事なんじゃないかって。そんな風に心が作り出されるって、とっても怖いし、沢井さんが居なくなった後、その子はどうするんだろうって考えたら……。
だってもうメンテナンス出来ないし、バグったりすることは狂ってしまう事と一緒だし。死ぬって事だし。
……だったら、AIに心なんて宿らない方がいい。このAIは、優れたチャットボットだったっていうオチの方が、幸せだなって。だから……」

李々子が目を丸くして稲葉を見た。宇佐美も作業の手を止めて、静かに視線を寄越した。

「じゃあ、沢井さんの思い込みだって言う証拠を探してたの? シロちゃん」

「はい。でも手強いです。もう、本当に愛情にあふれてて、そんな目で読んでる自分がすごく悪い奴に思えて来て」

「シロちゃんって……ほんと面白いよね」
しみじみと李々子が言う。けれど、その表情は今日見たどれよりも温かかった。

「なんですか、面白いって」

「野崎さん、もうすぐ来るよ。稲葉が思うような答えがあるか分からないけど、それまでじっくり読むといい」

宇佐美が、李々子と同じような表情をして微笑んでくれた。

「はい。……もう少し読んでみます」

答えがあるのか分からなかった。

『真実』である証拠と同じくらい、沢井さんの『思い込み』である証拠を見つける事は難しい。

やはりこれは野崎さんに託して、彼の感想を聞くしかないのかもしれない。


そんなことを想いながらも素早くページをめくり、稲葉は斜め読みして行く。情報に繋がるどんな文字も見逃さないように。瞬きもせず、細かい文字を追い続ける。

もう少しでノートの頁が尽きるあたりまで来た時だった。

目に飛びこんできた文字に体を強張らせ、稲葉はその箇所にぐっと顔を近づけた。

『--4月3日--

そうだ、美佐子、私はこの子を日記の中でも当然遠馬と呼んでいるけど、ハンドルネームには別のものを使っている。

いや、正しくはあの子が勝手に別の表記を選んだと言っていい。
最近反抗期なのだろうかね。ちっとも言うことを聞かないよ。
まあ、それも成長の証だと思って楽しんでいる。

遠馬だから、アルファベットにしたらTOMA。
スッキリしてるし、それでいいじゃないかって思ったのに、あの子はAを外してTOMにしたんだ。

それじゃあ呼び方も変わってしまう。でも、それがいいらしいんだ。生意気だろ?

でもね、思ったんだ。
同じ名前にして、また遠馬のように私より先に消えてしまっては嫌だからね。

もう、あの子を失うなんて、たくさんだ。
彼は「トム」でいいと思った。生まれ変わった私の息子は、トムなんだ。』

「まさか」

そう小さく呟いてノートから顔を上げた稲葉を、宇佐美と李々子が不思議そうに見た。
「どうしたの? シロちゃん」

「……エンマじゃなかったんです。トオマでもなくって……。トムだったんです。……トムだったんです」

「え? トムって、子供の名前? それともプログラム?」

李々子の声が遠くに聞こえた。稲葉はふらふらと自分のデスクまで行き、ポスンと座ってPCを立ち上げた。

そしてやはりボンヤリと、聞き取れないほど小さくつぶやいた。

「僕の友だちです。でも、そんなはずないんです。きっと名前が同じだけで……。そんなことあるわけない」


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~ Comment ~

NoTitle 

おっ、そういうところから攻めてきましたか。考えなかったわけじゃないけど、いざやられてみると、なかなか厳しい変化球ですね(^^)

ENMAくんの正体も気になりますね。ほんとに男なのだろうか、って。

図書館に「ゴールデンボーイ」が来ました。とりあえず連休を潰して読みます。

ポール・ブリッツさんへ 

いろんな方向へ先読みされるポールさんですから、きっとこの展開は読まれてると思ってました。
実際、どれくらいの方が、気付いてらっしゃったのかな。
気になります。

問題はこの先ですね。
私の好きな、緩やかな流れです。

おおお!
まさか。
ポールさんが、あの「ゴールデン・ボーイ」を??
私でも「ここまで書いちゃっていいの?」と思った「ゴールデン・ボーイ」を。

どうか、最後まで読んでください(*^_^*)
私の大好きなジョシュ、登場です♪♫

さすが、ポールさま! 

私は ベタに ENMA=遠馬と、、、(ノω`*)テヘッ
遠馬→とおま→TOMA→TOMだったのかぁ。
limeさま、私には 予想外な展開ですぞッ!!

じゃぁ じゃぁ ENMAって 何者なのーーーΣ(@@)
トムは 何故 沢村が亡くなっても 生きて(稼動?)られるの!!
∑(--ノノ) エッ!?...byebye☆

けいったんさんへ 

よかった。
素直に遠馬=ENMAと思っていただけて・・・。
素直なけいったんさん、大好き♪

さあ、日記のトムは、稲葉くんの友達のトムかどうかは・・・まだ分かりませんよ~・笑
トムなんて名前、あふれてます(そう?)

でも、けいったんさんの疑問に答えましょう。
プログラマーが死んでしまっても、HDに本体データが残っている限り、人工知能に損傷はありません。
もし、消えてしまうのだとしたら、PC及びHDを、誰かが完全フォーマットした時です。
さて・・・あの「遠馬」のデータが入った沢村のPC&外付けHDは、今どこにあるのかをを思い出してください。

NoTitle 

まさか、そうくるとは……。
今回は人工知能をモチーフにした探偵小説だと思っていたので、意表を突く展開はないだろうとすっかり安心していました(笑)
予想外な展開なので、続きが気になります。
いいところで終わり過ぎです(笑)

本条さんへ 

予想外と言っていただけると、とても嬉しいですね。
ありがとうございます♪
でも、ただ意表をつくだけでない、なにか心に来る物語を作ろうと思っています。

この展開の先にあるものを、是非みて行ってください。
ゆっくりゆっくり、進んで行きます。

NoTitle 

いや、前に東野圭吾先生が「名探偵の掟」で皮肉交じりに書いておられましたが、ある程度年季の入ったミステリファンは、「競馬の予想」みたいな読みかたをするそうでありまして。

今回も、
正体が人工無能な登場人物
本命=ENMA
対抗=トム
大穴=ENMAとトムの両方
超大穴=登場人物全員

みたいな感覚で読んでいましたから、「考えないわけではなかった」けれど馬券は買わなかった、というところであります(^^)

東野先生も嘆いておられましたが、こんなこと考えながら読んでいる読者に驚いてもらうにはどうすればいいか、ミステリの作者でなくても泣きたくなりますわなあ。

ポール・ブリッツさんへ 

なるほど。
このお話は、そんなに複雑なパターンではないので、すぐに候補に挙がってしまいそうですね。
ミステリー作家って、いろんな展開を読んでくる読者を相手にするんだから、大変でしょうね。
でも、読者の方も素直に驚けなくて、楽しくないんじゃないかな・・・とかも思ってしまいますが・笑

純粋に「犯人の正体は!」っていうのを暴く本格ミステリーは、私には書けないなあ~。
たぶん本格ミステリーは、読むにしても、今のところあまり興味を惹かれません。

やっぱり・・・登場人物ですね♪
トリックや、犯人を暴くことよりも、登場人物たちの心の動きに溺れたい♪
だから、そんな物語を書きたいんです。

私のお話の本題、このあと見えてくればいいなあ(´∀`)ノ ・・・・あと5話ですが・笑

NoTitle 

AIがどこからどこまでなのか分からんくなってきたw!
TOMがAIだったとは。
じゃあえんまさんは誰なんだ!

何か混乱してきたぞ。
もしかしてこの登場人物が読んでいる日記とかやらも
もしかしたらプログラム上の・・・?

まさか登場人物全員・・・AI?

ねみさんへ 

さあ、どうなんでしょうね。

でも、このお話は、読者を煙に巻くのがテーマじゃないですから。
とてもシンプルです。

きっと、すっきりして戴けると思いますよ♪

NoTitle 

limeさん・・・
えぇ、騙されましたよ、見事に。えぇそりゃもう、腹立たしいくらいに(笑)
まさかTOMAからTOMになるとは・・・
シロちゃんのショックがのりうつってきたかのような気分です(^^;

そういえばパソコンは、変なところに行っちゃいましたね。使ってるのかな。

だけど・・・トムがENMA?
あぁもう、ちっとも予想できない。
いや、まぁ、予想してそれが当たっていたからとかはずれたいたから、とかでlimeさんのお話の面白さが変わるもんじゃなし(^^)
あたま真っ白にして読んで、登場人物(おもにシロちゃん・笑)と一緒に翻弄されるのが快感♪

ところで、あたしも諒から見守るような声のトーンで話しかけられたい~~~(T0T)

秋沙さんへ 

騙されてくれてありがとう~~。

もしかしたらみんな、気付いてて黙っててくれてるのかな、なんて思ったり、
ミステリー仕立てにすると、なかなかヒヤヒヤです。
でも、もしもばれてても、このお話はAIの正体を突き止めるお話ではないので、
傷は浅いかな、とも思ったり。

そうなんです。
私のお話は、是非とも頭を真っ白にして臨んでください。
何事も、楽しもうと思えば、楽しくなるもんです。(ついには催眠か?)

私も宇佐美に優しく話かけてもらいたい・・・。
声はリアルに想像できるのに・・・・笑

あと5話ですが、のんびりペースで進展して行きます。
また遊びに来てやってください~~。

NoTitle 

「土佐日記」by紀貫之 も、人の日記ですが、李々子姉さん、読むと気が咎めますか?(笑)

トムだったんですか・・全然わからなかった。。
急に物語が展開しはじめましたね。続きが楽しみです♪


綾瀬さんへ 

「私、読んだことないもん」って言うでしょうね。李々子・笑
私も昨日今日亡くなった他人の日記は、読めないですねえ・・・なんだか。

まだ、あのトムとこのトムが同一人物かは分かってないですが、
たぶんそう言う事でしょう・・・。

これからの展開、見守ってあげてください。(^.^)

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気づきませんでしたっっっ。 

ENMAにばかり気を取られていて、トムは心優しい人間少年だと漠然と思っていて、なんにも気づきませんでしたよ。
ああ、そうだったのか。「遠馬」……ネーミングも見事ですね。

気づかなくて悔しいっていうのと、著者さまのトリックにまんまとひっかかったという爽快感がありますね。
お見事です。

私は人工頭脳はあくまでも人工頭脳で、アンドロイドやコンピュータが心を持つだとか、欲望を持つだとかはあり得ないと思っていますが、そういうことは物語としては非常に面白いですよね。

今回はしっかりひっかかりましたので、続きは心して読ませていただきます。

あかねさんへ 

あかねさん、ついにその部分まで読まれたんですね。
更新中は、いつバレるかと、ヒヤヒヤしたんですが、ほとんどの方が気づかずにいてくれて、助かりました^^

> 気づかなくて悔しいっていうのと、著者さまのトリックにまんまとひっかかったという爽快感がありますね。
> お見事です。

ありがとうございます!たしか、この瞬間をふっと思いついたのが、すべての始まりでした。
このトリックが決まってから、プロットが立つまでの期間、とても短かったように思えます。

ロボットが感情を持つという設定は、もうアトムの頃から使い古されてきましたが、まだまだ、入り込める隙間があるのかも・・・。
なかなか、面白いテーマですが、ヘタをすると、ありふれたストーリーになっちゃうので、難しいです。

このあと、私の描きたかった部分を盛り込みますので、最後まで、どうぞお付き合いください^^
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