電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第14話 それぞれの想い(1)

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翌日の昼すぎ、職員室のPCから稲葉はチャットルームを訪ねた。

もちろん昨夜の日記から感じた「ENMA」に関する引っ掛かりは、稲葉の中に封印された。
そんな馬鹿げた直感を軽々しく語ってしまったら、信用を無くしてしまいかねない。


うさぎ:『どう? ENMAは会うって言ってくれた?』

ト ム:『いえ、まだ。でもちゃんと日時を連絡しました。明日の日曜日、正午ジャスト。錦山公園のモニュメントの前。ENMAとの会話の中に、その近くの街の名前が出て来たから、行けない距離ではないと思うんです。
うさぎさんも、そこで大丈夫でしたね。彼には分かりやすい地図を添付しておきました。うさぎさんがせっかく協力して下さるんですから。ぜったい実現させます』

うさぎ:『明日だもんね。ん~~~。なんだか僕の方が緊張するよ。ENMA、来てくれるといいね。だけど彼は部屋から出られるかな。かなり年季の入った引きこもりに思えるんだけど』

ト ム:『僕、頑張って説得します。やっぱりあのままじゃいけないと思うんです。だから、頑張ります』

うさぎ:『そうだね。君の優しさはきっと伝わるよ。あ、それから君に会うのも楽しみにしてるよ。僕はけっこうオジサンだけど、驚かないでね』

ト ム:『そんなことwww。気にしないでください。僕も楽しみにしていますね。では、また後で』

うさぎ:『あ、待って。僕の名前は稲葉っていうんだ。本当に会うのに「うさぎさん」じゃ、変だもんね』

ト ム:『稲葉さん。稲葉さんっておっしゃるんですね。じゃあ、明日はそう呼ばせてもらいますね。いろいろありがとうございます。じゃ、また』

うさぎ:『うん。また後で』

不思議なもので、本名を名乗るのは妙な気恥ずかしさが伴った。
何ということはないのに。

このネットの匿名性に自分自身、どこかで甘えていたのかも知れないと稲葉は思った。

チラリと職員室の時計に視線を移したあと、PCを閉じ、帰り支度を整えた。
午後一時。今日は試験休みを利用して、業者による大がかりな校舎内の清掃が行われるらしく、教師も2時までに追い出される。

どこかで食事を取った後ラビットへ向かおうと決めたが、何となく体が重い。明日への緊張からだろうか。

3人で会う事にしたものの、本当に自分はトムの期待に応えることが出来るのだろうか。ENMAに何か良い影響を与えることが出来るのだろうか。
そんな情けない不安が、少しずつ募っていく。

自分は教師としても、大人としても出来そこないなのかもしれない。考えれば考えるほど自分に自信が無くなっていく。そのうち胃まで痛くなってきた。
よくないループだ。

稲葉は自分を奮い立たせるように深呼吸して立ち上がり、他の教諭に元気よく挨拶をした後、職員室を後にした。


       ◇

「どうもありがとうございました」

片瀬と従業員の吉川が頭を下げると、初老のその男は面倒くさそうに「ごくろうさん」と小声で言い、門扉を閉めるとすぐに玄関の中に消えていった。

集金のために片瀬らが訪れたのは、昨日“片付け”を請け負った沢井の遺族の家だった。
遠い親戚だと思っていたら、実のところ沢井の父方の叔父だった。兄弟仲が悪く、元々親戚づきあいはなかったと、書類にサインしながら叔父はこぼした。
それなのに後片付けをさせられる羽目になったのが不服なのだろう。沢井に対する憐れみは微塵も感じさせない。

その家の敷地内から出るなり、片瀬はため息をついた。
受け取った現金を集金袋に入れ、作業着のポケットに無造作に突っ込む。

「無愛想な爺さんでしたね、沢井さんの叔父さん。俺が作業内容を説明する間も、迷惑だからそんなもん端折ってくれって言いたいのが表情にダダ漏れでしたよ。今回請け負ったのも、世間体があったからでしょうね。奥さんがそんなことをチラッと言ってたから。遠い親戚より近くの他人って言うじゃないですか。でも遠い親戚どころか近い親戚も、近くの他人も。沢井さんには誰もいなかったんだなあって思ったら、不憫で泣けてきますよ」

従業員一よく喋る吉川は、息継ぎもせずにそう言うと不機嫌そうにライトバンの運転席に乗り込んだ。
苦笑いして片瀬が助手席に乗り込むと、吉川はさらに続けた。

「最初は部屋の中の物全部処分しろとか言ってたくせに、今頃になって使えそうなAV機器とか家電とかあったら、集金の時に一緒に届けてくれって言うし。とっくに廃棄処理倉庫に持って行ってたのに、こっちは2度手間ですよ。きっとあれですね、使える機器はリサイクル業者に売って、少しでも金にしようって魂胆ですよね」

「今日は特によく喋るな、お前は。昨日の大家のおばちゃんが乗り移ったか?」
片瀬は笑いをかみ殺す。

自分が思っていたことを全部その青年が代わりに捲し立てるのが、可笑しかった。

「まあ、客あっての仕事だし、客の細かい要望に応えるのが俺たちのモットーだ。遺族として片付け資金を出しただけ良心的だよ」

「他の親戚の手前渋々ですよ」

「本当に吉川はとらえ方が斜めだな。客商売は向かないね」

「いいんです。俺、裏方向きですから」
吉川は少しむくれたように言い、エンジンをかける。

「お喋りな裏方だな」
片瀬は笑って前を向いた。そして、改めて沢井を想う。

彼の体も消え、服も生活用品も消え、使い込んだPCも、ただ彼を疎ましく思う親族の手に渡った。きっとすぐに売却されるだろう。
後には何も残らない。

ただ宇佐美の計らいで、あの日記が彼を偲んでくれる友人に届けられる手筈になった事だけが、幸いだった。
せめてあの日記だけは彼の生きた証として、残って欲しい。

片瀬はいつになくしんみりした気持ちになりながら、硬いシートに身を沈めた。


       
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~ Comment ~

NoTitle 

不治のバグに蝕まれた人工無能、というSF小説のアイデアを考えつきました。コンピュータのハード自体が複雑すぎて同じものを作れず、ソフトのデバッグで対応しようとするも、バグはゆっくりと着実に人工知能を侵食していき、最終的に、人工無能プログラムは……という筋で。
うまく書いたら「アルジャーノンに花束を」みたいな感動SF小説になるかもしれませんが、わたし青春小説苦手で……。
感情も何も、プログラムされたシミュレーションにすぎない、とわかりながらも、死に対する恐怖を漏らす人工無能プログラムに感情移入してしまう技師、とか読ませどころはあると思うんだけれどまとまりそうもないであります。

NoTitle 

おっと感想を書くのを忘れていたでござる。

PCは死んでもデータとプログラムだけはネットの大海に残るなんて、まるで「残留思念」とか「攻殻機動隊」みたいな世界だなあ、と思いました。

そういう話に持っていくのかどうかはわかりませんが……。

ポール・ブリッツさんへ 

いっぱいポールさんに、新しいアイデアが出てるみたいですね。
作品に反映される日がたのしみです。
いっそのこと、切な‐‐‐~いのにしてくださいね。
で、あまり難しくないのに・笑
人工無能やAIはまだまだいろんな物語の可能性がありますね。

・・わたしはもう、手を出しませんが・笑

ポール・ブリッツさんへ 

うーーんと、まだプログラム自体はHDに残ったままです。
この時点で。
ほんの少しタイムラグはありますが、人工無能が勝手に独り歩きすることは無いはずです。

そこんとこが、これから問題になってきます。
次の次あたりで、すべてが明らかになるはずです。
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