電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第12話 喜べない偶然

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簡単な夜食をとった後、ラビットの3人は再び、それぞれのデスクワークにもどった。

「霞をつかむ感じね」
李々子は野崎が残していった沢村についての資料を見ながらため息混じりにつぶやいている。
宇佐美も少し眉を上げて苦い表情をした。
「6年前に住んでいたアパートまでの情報しかないからね。少し調べてみたが実家の両親も他界してるし、土地も売り払われている。明日、予定が済み次第沢村の昔のアパートと職場仲間をあたってみるよ」
「人捜しって時間と手間がかかる割にお金になんないのよね。見つからなかったら初動調査費用の請求しかできないし」
「料金で仕事を選ぶなよ」
宇佐美が苦笑した。
「諒が調査にかかりっきりになっちゃうと、他の依頼が引き受けられないのも痛いしさ。あ・・・ねえ。今回も、片瀬君に連絡したの?」
「ああ、一応ね。あいつの人脈は魅力だけど、頼りにするっていうより近況報告だな。元気かって挨拶がわりに送っておいた」
「そうね。また山登りしてなきゃ、返事くるかもね」

片瀬ってだれだろう、とPCに打ち込み作業をしながら稲葉は二人の会話を聞いていた。
時刻は午後9時。ラビット事務所は建前上の終業時間だ。
普段はダラダラと仕事を続けることが多い稲葉だが、今夜は資料データを保存すると仕事の区切りをつけた。
IDを打ち込み、トムのチャットルームを開く。

「あ」
稲葉は画面を見つめて小さく声を漏らした。
少し前に来ていたらしいトムからのメッセージが残されていた。
「どした?」と、李々子が面白そうに後ろから覗き込むのを、
「ダメですよ、プライベートなメッセージなんですから」と、まるで子供がするように体で画面を隠した。
口を尖らせ「ケチ」と拗ねた声を出して背を向けた李々子。
その仕草が少し可愛く思え、稲葉はクスリと笑いながら再び画面に視線を戻した。


ト ム : 『うさぎさん。実はお願いがあるんです。僕と一緒にENMAに会って頂けないでしょうか。
彼が会うことが可能な範囲に住んでいるのは分かっています。会うことは可能だと思います。
僕は本当に無力です。僕一人では不安なんです。彼が閉じこもっている暗い場所から救ってあげる自信がありません。どうかうさぎさん、一緒に彼に会ってもらえませんか? 会うことで、何かが変わると思うんです。僕、頑張って彼を呼び出しますから。だから、お願いします』

稲葉は驚いた表情でその文字を何度も読み返した。
意外な展開だ。
だが、一見強引だと思われるその願いの中に、トムのひたむきな優しさが伝わってくる。
ネット上で知り合った人物など、もし面倒だと思った時点で切り離してしまうのが普通だ。
それはある意味自分を守る方法であり、仕方のない事だと稲葉は思っていた。
このENMAの場合、少々常軌を逸している。これ以上彼がトムを悩ますようならばきっぱり交信を止めるように言おうと思っていたところだった。

けれど、トムはその相手をバーチャルな架空の関係とせずに、ちゃんと一人の人間として付き合おうとしている。
とても「放っておけ」なんて言えなくなってしまった。
自分なんかよりも、よっぽど大人であり、強い包容力を感じた。その彼からの、切実な頼みなのだ。

「よし、会おう!」
つい、声に出してそう言うと、稲葉は凄い勢いでトムにメッセージを書き込み始めた。
李々子が眉を顰めて稲葉を振り返る。
「でかい独り言ねえ、まったく」
けれど使命感に燃えた稲葉のその横顔に、宇佐美も李々子も、訳も分からず微笑んだ。


その時、宇佐美の携帯が鳴った。
相手の名を確認した宇佐美は少し驚いた表情を浮かべ、李々子と視線を合わせた。
「だあれ?」
李々子がそう言うと宇佐美は手のひらで“ ちょっと待って ”とジェスチャーし、電話に出た。

「はい。・・・ああ、久しぶりだな、片瀬。元気でやってたか?」
その名に李々子が反応し、じっと宇佐美の方を見た。
稲葉も文字を打ち込みながら耳を傾ける。さっき二人が話してた人物だな、と思いながら。

「え・・・本当か? それ。・・・うん。うん、分かった。そうしてくれると有り難いよ」
宇佐美の表情が曇ったのを李々子は落ち着かない様子で見ていた。
「じゃあ、それだけファックスで頼むよ。また詳しいことはあとで話そう。忙しいのにすまないな、片瀬」
宇佐美はそう言って電話を切った。
「どうしたの? 片瀬君でしょ?」
李々子が問う。
稲葉は何となく不穏な気配を感じ、PCから顔をあげて宇佐美を見た。

「うん、どうやら捜索依頼の対象者、沢村久さんは一週間前に亡くなったらしい。まだ正式に確認はしてないんだけど、名前だけじゃなく俺が送った情報と著しく一致する。一人暮らしのアパートで亡くなって、片瀬がその部屋の片付けを請け負ったらしい。こんな偶然は奇跡的だけど・・・なんともね」
「こんな早い情報、普通なら大喜びなんだけど」
李々子も落胆気味につぶやく。
稲葉は何と言っていいかわからずに、ただ二人を交互に見つめた。

そのシンとした静寂を壊すようにファックスが受信を知らせ、すぐさまピュルルという電子音に変わった。
宇佐美がゆっくりとはき出されるファックス用紙を見つめる。
「片瀬がその仕事の受注書を送ってきてくれてるから、正確な本人確認ができるはずだ。それからね、唯一片瀬が持ってる本人の遺品があるらしいよ。日記だって。本来処分すべき物なんだけど、迷ってるらしい。数ページ一緒に送るから見て欲しいんだって」
「日記ですか? そんなもん、見ちゃっていいんですか?」
稲葉の質問に宇佐美も同意見だと頷いた。
「俺もそう思うんだけど、・・・まあ、唯一残った遺品だからさ。処分するにしても野崎さんに判断してもらおう。他に親しい友人も親族もいないそうだし」

稲葉は宇佐美と同じようにFAXから吐き出されてくる用紙を見つめた。
「日記だけが、最後に残ったんですね。何か、悲しいですね」
そうつぶやいて。




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なかなか状況が進まなくてごめんなさい(^^ゞ
今年中に、あと一回「電脳うさぎ・・・」更新します~。



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~ Comment ~

NoTitle 

ここで事件がリンクするんですか?

楽しみだな~。

ところで正月は「わが手に拳銃を」漬けの生活ですか?

お身体は壊さないでくださいね~いや餅と読書と休息の三日間では、その前に心配なのが別にあるか(笑)。

正月も働き通しだったらすみません……(汗)。

ポール・ブリッツさんへ 

事件・・・リンク・・・。
あ。
思えばこのお話、まだ何も事件らしいこと、起きてないですよね・汗
何も事件が起こらずに終わったら、・・・ミステリー・・・。
でも、楽しみにしていただいて、とても嬉しいです。

「わが手に拳銃を」、ずいぶん読み進めましたよ~~~♪今280Pくらいかな?
もう、めちゃくちゃ勉強になります。「李歐」と比較して。

ポールさんが言った、「お気に入りの言葉」は、あれですね!!!???

私は感動しましたよ! あの言葉を、ポールさんが気に入ってくれたことが!

な・・・・仲間ですか??(爆

お正月は毎年、プチストレスがたまってしまうので太れませんね・笑
もう、読書と執筆でストレス解消するぞ~~。

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵つきポール・ブリッツさんへ 

そうそうそう!そこですよ、ポールさん。

もう、心臓掴まれた気持ちです。
いやあ、男も女も構わずに、李歐は悩殺しちゃうんですね。
その言葉の前に目を伏せるあたりからもう、ドキドキしっぱなしでした。
そのセリフの前の一彰の冗談もナイス!

もし現実に李歐がいて、あんな言葉を言われたら死んでもいい!くらいの破壊力です。
一彰・・・うらやましい(T_T)

一彰もカッコいいんですがね♪

もう、・・・あの二人かっこよすぎです。

しかし、うれしいなあ、ポールさんも震えさせたか!

やっぱり高村先生はすごい!!

NoTitle 

あのセリフが「李歐」にない理由については、

高村先生原稿を読み返してみて赤面してしまって削った説を断固主張します(笑)

読み終わったら「リヴィエラを撃て」も読んでみてくださいね。

ブログじゃ「ロックンロール・ヘイズ」の西幻さんはあまり……という評価ですが、わたしは高村先生の初期作品中最高傑作だと思っています。

評価がまっぷたつ、というのはある意味「なにか」がある証拠ですから、ぜひ。

ちなみに、これまで小説は数々読んできましたが、読んでいて「こいつ絶対殺してやる」という気分になったのは、この小説の「リヴィエラ」という暗号名の人物が最初で最後です。

読み返したくなってきたなあ。あのメチャ重いハードカバーを……。

ポール・ブリッツさんへ 

ああ~、どうして先生があのセリフを削ったか・・ですか?

やっぱり純粋に、「李歐」では幻だったわけで、あんなはっきりした愛情表現は出来なかったからじゃないかと・・・。
それに、両作品、同じセリフはほとんど使ってませんもんね。あのセリフだけ入れることは・・・(*/∇\*)やっぱり恥ずかしいから・・・。(あ、やっぱりか!)

でも代わりに一彰の、「心臓が○○したみたいだ・・・」って、爆裂的なセリフがありました(●´艸`)ヾ
あれは、もっと恥ずかしいかと・・・・。(でも、大好きなセリフです)

「リヴィエラを撃て」は、李歐のような甘さはないんでしょうね。
色っぽさも無い?私好みな子は?(おいおい)
でも、諜報部の物語は学生時分から大好きだったので、是非読んでみたい!

・・・・と、いうことで早速アマゾンで上下巻、購入!
また2ヶ月くらいかかるかもしれませんが、読みます!!!
その次は「神の火」かなあ~。

NoTitle 

おお!
のんびりと待たせていただきますよ!

今年も終わり・・・か。
ふっ・・・また一つ無駄な歳を……。

ねみさんへ 

ありがとう、ねみさん。
今年もありがとう~。
(あ、今年からだから、今年は、か)

く~~。うらやましいな、17さい!
10歳くらい、年を分けてあげたい!

17才なの!Σ(@@) 

ねみちゃん? ねみ君? 高校生なのかな。
いいなぁ 若くて~ 今しか出来ない事は ”それなりに ”やって置いた方が いいよ~!

日記の中身が 今 暴かれるーー!! この件は まだ 宇佐美の担当ですよね。
今は まだ 別の問題として 存在してますからね~
早く 稲葉へと 繋がって 彼の活躍を 見てみたいです♪
(^^)ゞbyebye☆

NoTitle 

はっはっはっ(笑)。面白いですね、人によってやはり評価がわかれるもんなんですね。たぶん、読む「視点」とか「焦点」とか、「感性」とか、まあ色々と違うんでしょう。「リヴィエラを撃て」、ぜひlimeさんも読んでみてください。感想がききたいです♪

「電脳うさぎ~」、年内はあと1回の更新ですか。さびしいな~(自分のことは棚にあげて(笑)
うーむ、なかなか話が混みいってきましたね。沢村と野崎、トムとENMA、どうつながってくるのか…。稲葉くんは、本当にトムとENMAに会えるのか…?
たしかにトム君は奇特な人物かもしれません。ENMA君みたいな危険人物に実際に会う決心をしたんですものね。
先が楽しみです。

けいったんさんへ 

いいですよね~、若いって。(遠い目)
もう一度十代にもどれたら、あんなことも、こんなこともやってみたい。
(半分はあぶない)

稲葉君、もう、すぐに情報に飛びつきますよ、きっと・笑
目ざといから。
そろそろ早く展開しなきゃ、皆さんに怒られちゃう・笑
さあ、稲葉君、活躍できるんでしょうか。
あやしい・・・・。

西幻響子さんへ 

本当にそうですね。
同じ作品でも、人が何に共感を得るか、どんな世界を求めてるかによって、
評価はまるで変わってきますよね。

はい、すっと前から「リヴィエラ・・」は読みたかったので、まずはそちらを読んでみます。
私は登場人物に心を動かされるタイプなので、
どんな人物が出てくるかによって評価が決まるような気がします。

どんなにハードボイルでカッコいいストーリーでも、私のハートにグッとくる人物がいないと、
どこか夢中になれなくて。
みなさん、きっとそうですよね。

電脳うさぎ、いつも読んでいただいてありがとう!
トムくん、きっと学級委員タイプですね・笑
もしかしたら、稲葉君と気があうかも・・・・。
ENMAにしてみたら、ウザくて仕方ないコンビだったりして・笑

年をまたぎますが、またよかったら遊びにきてください。
西幻さんの続きも、雑記も、とっても楽しみです!

NoTitle 

我慢我慢と思いつつ、読んじゃった。
この辺にしとかないと・・・

バーチャルの世界だけに逃避行している引き蘢りさんは少なくない、
現実世界ではすでに成り立っている。
ENMAだって会わなければ実体がなくても、その世界では生きている。
新種の生物のような・・・
恐ろしい、ありそうな話。

どうなっていくの・・
v-12

ぴゆうさんへ 

ありがとうございます~^^

ネットのバーチャルの世界って、魅力的な半面、正体不明な闇を抱えていますよね。
現実世界の人間とのコミュニケーションか取れなくとも、そのバーチャルの世界では生き生きと自分を出せる子供も沢山いて。
遊びの範囲を超えて、そこに依存してしまう。

・・・分からなくもないのが、悲しいところです。

さて、このENMA達の場合はまた、ちょっと事情が違うようですが・・・。
トムはENMAを救う事が出来るのか。
それとも、とんでもないことに巻き込まれてしまうのか。
シロちゃんは、彼らにどう関わっていくのか。
(それとも、また何もできないのかw)

・・・またのご来場をお待ちしております(*^_^*)

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