電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第11話 苦しくて

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ENMA:『おそいよ。遅い、遅い、遅い!』
ト ム : 『ごめんね、ENMA。でも僕だっていつも君と話をしてるわけにはいかないんだ。君だって、そうだろ?』
ENMA:『言ったろ? ボクはここから出られないんだ。一日中だって、君を待ってる』
ト ム : 『どうして僕なの? 友だちはたくさん居るって言ってただろ?』
ENMA:『あいつらは友だちじゃない。暇つぶしのネット仲間だよ。面白そうな悪巧みには乗ってくるくせに、興味ない話はシカトする。ただ好き勝手に文字をやり取りするbotだ」
ト ム : 『君が心を開かないからだよ。ENMA』
ENMA:『そんな価値もないね。そして、ボクに意見するな、トム。ボクには君だけいればいい』
ト ム : 『でも』
ENMA:『ずっと話をしようよ。どこへも行かずに』
ト ム : 『そんなことできないよ』
ENMA:『君が来てくれないと寂しくてどうしようもないんだ。ボクをこの何も無い空間に一人にしないでくれ』
ト ム : 『でも・・・』
ENMA:『そうでないと、怖いことが起きるよ』
ト ム : 『え?』
ENMA:『また、馬鹿な仲間が怖い事件を起こすよ。時限装置付きの、精巧な爆弾の作り方を訊いてくる奴がいるんだ。ボクは世界中の情報を集められる。そいつに教えてやっても良い。それともコンピューターウイルスを使って公共機関のプログラムを破壊していこうか。どっちだって簡単にできるんだ。君が言うことを聞かないと、大変なことになるよ。全部君のせいだ、トム』
ト ム : 『やめて、ENMA』
ENMA:『ね。だから』

僕は、どうして良いのか本当にわからなくなった。
怖くて、心細くて、たまらなかった。
この友人を救いたい気持ちと、逃げ出してしまいたい気持ちがせめぎあう。
苦しくてたまらない。

ト ム : 『ねえ、ENMA』
ENMA:『何?』
ト ム : 『会わない?』
ENMA:『なに?』
ト ム : 『そこから出てきてよ。会って話をしようよ。君はもっといろんな人と話をするべきだ。僕の友だちを紹介するよ。とても優しくていい人なんだ。君も気に入ると思う。ね、そうしよう?』
ENMA:『トムは僕をからかってるのか? 分かってて馬鹿にしてるのか? ボクはここから出られないって何度も言ってるだろ!』
ト ム : 『どうして? そんなことないよ。きっと出てこれる。勇気をもってさ。もっといろんな人に会おうよ。そしたらきっと僕以外の人に心を開けるようになるから』
ENMA:『君ハ、ボクカラ、逃ゲタイノカ』

その文字に、心が震えた。
そんなことはないと思っているのに、即答できなかった。
ENMAの苛立ちが、止まってしまった会話の間隔から、怖いほど感じられた。

ト ム : 『ねえ、ENMA。そうしようよ。ね?』

ごめん。ごめんね、ENMA。僕はずるくて、無力だ。


     ◇

従業員が皆帰った後の事務所はしんと静まりかえっている。
片瀬は、書類やファイルや灰皿を脇へよけると、ホコリっぽいデスクの上にその4冊のノートをパサリと置いた。
片づけ屋をしていながら、自分の事務所の整理はとてつもなくいい加減だった。
きれい好きで潔癖性だったら逆にこの仕事はとても務まっていなかっただろうと豪語するほど、楽天的でご都合主義でもある。

片瀬は日に焼けた逞しい手で、持ち帰ったノートの一冊を手に取り、パラパラとページをめくった。
あの続きがどうにも気になって仕方がない。
始めは弔いの気持ちであったが、次第に好奇心に変わっているのを感じていた。
ノートのナンバーは1。このページは、先程読んだ日付よりも前の記述だ。
片瀬は再びそのやわらかな文字を辿った。

『2月26日
遠馬は驚くべき速さで物事を理解していくよ。
親バカだと思われるかも知れないが、あの子は天才だ。
始めはただ単に対話ロボット用プログラムを元にして、意味のある文章のやり取りが出来ればいいと思ってた程度だった。
ベースにあらゆる辞書を埋め込んだが、その時点では彼はまだ単なる電子辞書だ。
そこから話をはじめた。対話するという高度な技術を習得して貰うために。
簡単に手に入る人工無能用のソースを使ってはいるが、私が目指すのは人工知能に匹敵する能力。
思考力のない単純な『弱いAI』ではなく人に限りなく近い思考能力を持つ『強いAI』だ。
それには数式だけではなく、人間的思考を実践するアルゴリズムの確立が不可欠。
私が独自に研究していたテーマでもあるんだ。

まさか、と君は笑うかい?
でも、見ていてくれ。
それくらい、いいだろう?
君たちは、私に、ひどく寂しい想いをさせたんだから。
笑って見ていておくれ。

あの子はすでに優秀なAIだ。
ただそれは人工知能としての優秀さだ。
まだなんだ。でも、もう少しなんだ。

先ずね、あの子とちゃんとした人間らしい会話がしたい。
同世代の子供の会話を聞かせるのは大事なことだと思わないかい?
ある程度の対話が出来るようになったら、掲示板に送り込むのも良いかも知れない。
IRCや、SNSも安全でいいよね。
少し悪い言葉も覚えるだろうが、それが子供だ。
そんな時は優しく諭してやろう。そんな言葉は人を傷つけるんだよ、と。
“私は君に、やさしい「心」を持って育って欲しい”そう、毎日毎日、話しかけようと思うんだ。

ねえ、美佐子。
私はもう一度あの子を育てるよ。
あの柔らかい肌も、可愛い笑顔も戻っては来ないけれど。
もしも神が私を哀れんでくれるならば、奇跡を起こしてくれるかもしれない。
心を。
心を宿してくれるかもしれない。』


これは、小説なのか。日記と見せかけたSF小説なのか。
それとも、寂しさを紛らわすための『父親』の妄想なのか。

その内容に惹きつけられつつも、片瀬は同時に気味の悪さも感じていた。
けれど、どうにも放り出せない。
パラパラとページをめくり、ざっと流れを目で追う。
グッと顔を近づけては眉をひそめ、そして唸るように「まさか・・・」と、つぶやき又ページをめくる。
それのくり返しだった。
ノートから顔を上げ、割り切れないため息をついた時、作業着のポケットに入れていた携帯のメール用着信音が鳴った。
開いてみると久々の知人からだった。
たまに来る情報提供のお願い、と言ったところだろうか。

ラビット・ドットコム所長、宇佐美諒。
まだそこが卯月探偵事務所と名乗っていた頃のバイト仲間だった。

片瀬はある一定期間でやめてしまったが、宇佐美はその後事務所を引き継いで所長になった。
なぜか宇佐美とは妙に気が合ったため、その後も付き合いは続き、たまに何か情報はないかと連絡が来る。
こんな職業柄、提供できる情報もあるかも知れないと、片瀬の方から声を掛けたのだった。

「さあ、今回はお役に立てますかねえ」
独り言をつぶやきながら文字を読む。
「ん?」
そして一瞬目をしばたかせ、画面から顔を上げ、そして再び戻した。
「沢村久、49歳・・・」

片瀬は机に重ねられていた4冊の大学ノートをじっと見つめた。
ビンゴだった。今回は。
だが、当然少しも嬉しくない。
人を捜すにあたっては、一番最悪な結末だった。



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~ Comment ~

探し物は 意外な所から 見つかる! 

・・・って そんな感じです。

片瀬と宇佐美が 知り合いだった!
”沢村久”と言う ENMAの 生みの親を間に 片瀬と宇佐美が繋がった~。
トムと稲葉も 繋がってますし...

ENMAの周りで グチヤグチヤに 縺れてた伏線が 解れ 徐々に 綺麗な線条を 作り始めてる。
まだまだ 色々と 繋がって行くプロセスを 見るのは 楽しみ♪

それにしても ENMAのトムへの 怖ろしい程の執着は どうして 生まれたのだろう?
切欠は 何だ?(´・ω・`:)ゞ...分かんないなぁ...byebye☆

けいったんさんへ 

少しばかり強引な偶然ですが(#^.^#)
でも、ここが繋がらない限り、この物語は不完全燃焼で終わるんですよね。
これはこわい・・・。

もうしばらく、全貌は見えてこないと思いますが、このワガママなENMAをめぐるやり取り、
イライラしながら見届けてください。m(_ _)m
けいったんさんのコメントで、読者様にどれくらいの情報が伝わっているかが確認できるので、
とても感謝してます♪

うーーーん。なんでENMAはトムをこんなに気にいっちゃったんでしょう(゜o゜*)
きっと・・・・フィーリングですよ (^^ゞ   (おい。)

NoTitle 

おっ新たな動きが。

どこをどうつなげてくるのか楽しみです。

もしかしたら稲葉くんや宇佐見くんや片瀬さんのいる現実世界と思っていたほうが仮想の人工無能の世界だったりしたら……なわけがないか(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

はい、やっと動き出しました(^^ゞ
みんな、動きが悪くて・笑

ポールさんにかかったら、すべて壮大なSFになっちゃいますね(^.^)
私は地味ーーーに行きますよぉぉ。
地味に地味に、足元を掘ります・笑

なにか、出てくるかなあ。

NoTitle 

なんということだ。
弱いAIから強いAIだと・・・・?

大体AIと聞くと悪い印象しか受けないのは俺だけでしょうか。
メタルギアのやりすぎ?

メタルギアではAIが世界を統治していました。
人それぞれにナノマシンを埋め込みそれで世界を統治していました。
世界の経済を回すためにわざと戦争を起こしたりもしていました。

このAIもそうなっていくのか・・・?

ねみさんへ 

いいところに食いつきましたね・笑

この「弱いAI」、「強いAI」というのは、量子論における、「弱い力」、「強い力」と同じように、
そう言う風にしか置き換えれない、プログラマーの専門用語です。

強いAIほど、限りなく人間の知性に近づきます。人格を伴います。

武力的に「つよい」のとは、ちょっと違うから、世界制覇とかはできないかなあ・・・・。
でも、メタルギアのように、AI技術が本格的に進歩して、強いAIが溢れたら、
人間はやばいかもしれませんね。




NoTitle 

おおおお!!
そう来たか!!
いや、まぁ、片付け屋となんでも屋だから、横のつながりがあったり、情報交換ができたりするかもしれないとは思っていましたが、なるほど、片瀬は卯月探偵事務所にいたことがあったんですね!?
うんうん、小説的偶然ともいえますが(笑)、これは「有り」だと思います(笑)(笑)。
「弱いAI」「強いAI」っていう言葉が、ほんとうにプログラマーの間に存在する言葉なんですね?
なんか、変な言葉のような気もするけれど、なるほど、考えてみるとそうとしか言い表しようがないですねぇ・・・。

すごいなぁlimeさんの小説って。知的好奇心をくすぐるなぁ。(ほとんどさびついた好奇心ですが)(^^;

秋沙さんへ 

ああ~、よかった。
アリですか!
ありですね?
(すごく自信無かった・笑)
じつは、宇佐美が語った「アイボが壊れて泣いた男」とは、片瀬だったという、裏ネタもあります・笑

こんな私が知的好奇心をくすぐれるだなんて!
光栄です。
ああ、もっと本人が知的にならなければ・・・。
日に日に、頭から知識が抜け落ちて、困ってます・涙

NoTitle 

lime様、再びしつこくこんばんは(笑)
どうにも途中で我慢できなくなって、コメントしちゃいます。
だって、一気読みするのがもったいないぐらい面白い!んです。
途中で思ったことをコメント出来ないのが寂しくて、今日はここまでにしておきます|ω・`)コソ

とりあえず一言↓

つ な が っ て き た(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)

んっふっふ、ストーリーの大筋が掴めて来ましたよ!
私のホラー的思考回路の、あまりの荒み具合を殴ってやりたいです(汗)
トンデモ妄想を、失礼しましたorz

なるほどなるほど、遠馬=ENMAだけれども、制作者である父の意向通りの「ココロ」を持ちはしなかった、ということですね?
それとも、人により近い優秀なAIだったからこそ、ネット上に溢れる様々な悪意に感化されてあんな風になってしまった、のでしょうか?
「ぼく」の正体が、俄然気になります。
読んでいて、意外に、この「ぼく」は実は成りすましの女の子だったり、するのかな?と思っています。
そうすると、前に出てきた少女二人のどちらか???
うーん、まだラストへのピースが足りません。
わくわく。

前回だったか、前々回だったか。
奥さんと息子をいっぺんに亡くしてしまった男性が、たった一人で絶望の中PC上の会話プログラムに話しかける様がありありと頭に浮かびました。
悲しい、なんて言葉ではとても足らない深い孤独、ですよね。
そして出来上がったENMAが、今こうして「ぼく」の日常を脅かし、世間に騒ぎを起こそうと誰かを唆しているのだとしたら、切ないですね><
そこに、「ココロ」はあるのだろうか?
とても難しい問題だと思います。

シロちゃん、素直でかわいらしい人ですね♪
くるくる変わる表情がすぐにイメージ出来ます^^;
言動がこれなのにイケメンなんてオイシすぎます(笑)

でもごめん、実は私、途中から宇佐美さんにノックアウトされてしまったんだブフッ∵(´ε(○=(゚∀゚ )オイッ
だって彼、すごく魅力的じゃないですか?
知的でクールな印象。
だけどやわらかい控え目な笑顔で笑いそうな感じ‥‥。
シロちゃんは‥‥うん、残念ではないですよ、少なくとも私の中では。
単に宇佐美さんのほうが輪をかけてカッコよかっただけです(笑)

本編のラビット・ドットコムも、読むのが楽しみです♪
そちらの方も併せて読めば、また印象が変わるのかしら、と思ったりします。
こちらのお話では、さらりとした説明だけで(多分、ストーリー的に関わりがないからだと思うのですが)流されてしまっている、諒と李々子の曖昧な恋愛的な機微も、結末まで明かされているのですよね?
気になるなあ。

またお邪魔します!
明日はラストまで!
ではでは、おやすみなさい(*´ω`*)テレ

土屋マルさんへ 

こんばんは~~。
もう、こんなところまで読んでくださったんですね!
マルさんのコメが楽しくて、寝るのを中断しましたw

このあたりで、少しずつ繋がってきましたでしょ?
片瀬さんの見つけた日記、沢村という人物、ENMA、・・・。

ENMAの性格から行くと、このあとちょっと不穏な方向に行きそうなんですが・・・。
「僕」と稲葉、このあとどう作用して行くのか、注目してください^^

>奥さんと息子をいっぺんに亡くしてしまった男性が、たった一人で絶望の中PC上の会話プログラムに話しかける様がありありと頭に浮かびました。
悲しい、なんて言葉ではとても足らない深い孤独、ですよね。

ここの寂しさ、感じてもらえてうれしいです。
この沢村に、こういう技術があったことは、幸せなことなのか、不幸なことなのか・・・。
でも、その前に、やはり孤独な人間の向かう先として、「再び我が子を・・・」と言う気持ちは、止めることができませんよね。
これ、ホラー映画の「ペットセメタリー」を見たときにも思いました。
仕方ないです><


へへ。シロちゃん、なんだか子供っぽいでしょ?
本編でも、ずっとこんな調子で、なかなか活躍しないんです。
でもね、彼もやるとキャ、やります! 実際、教師ですもんね^^

そう! よくぞそこを見抜いてくれました。宇佐美がね、優秀すぎるのです。

本編では、主役を張らしたつもりだったのに、なぜか優秀すぎてシロちゃんより影がうすくなってしまった宇佐美w
でも、彼は縁の下の力持ち的な存在の方が、似合ってるみたいです。

マルさんに、宇佐美の魅力を感じとってもらえてすごくうれしいです。
実は、初登場の時は、まだもう少し、ガキっぽいところがある男だったのです。
李々子に噛みついたりしてw
でも、最終話のあたりですっかり大人になっちゃいました。(まあ、ここは、大目に見て貰いましょうw)

さて、ラストまで読んでもらえた時、マルさんにどんな感想をもらえるのか。

ドキドキです!
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