電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第9話 ココロ

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「そうだな」
宇佐美は一つ深く呼吸し、少し考えるようにゆっくり話し始めた。

「その定義は難しいよ。実際イライザはそれが人間に近い能力を持つかどうかを判定する『チューリングテスト』に合格している。かなり優秀なAI、つまり人工知能と考えてもいいと判断されたわけだ」
「イライザは人工知能だったんですか?」
稲葉が再び身を乗り出した。
「人工知能かどうかは別として、イライザは『会話する』という面においては、人間にかなり近いという判定を貰ったという事なんだ」
「じゃあ、やっぱり人間と同じレベルの感情があったって考えてもいいんじゃないですか? 人工知能並だって認められたんでしょう?」
宇佐美は目を輝かせた稲葉に口元でキュッと笑ってみせると、デスクチェアの背にもたれ、穏やかな口調で続けた。

「残念ながら、開発者ジョセフ・ワイゼンバウムからすれば、それはうまく人々を誤魔化せたということに他ならない。そしてね、稲葉。誤解してると思うんだけど、AIというのは『人間のような感情を持つロボット』というわけではないんだよ。ただ、アルゴリズムにより人間の脳と同じように物事を処理し、的確な仕事をこなしていく代理ロボットのことなんだ。人間並みのすぐれたAIに感情が宿ってると考えるのは間違いなんだ」

「じゃあ・・・やっぱりそこに心は無かったんですか? 錯覚だったんですか? 患者さんたちの」
稲葉の声が急激にトーンダウンした。
宇佐美はそんな稲葉に優しく笑いかける。

「なあ、稲葉。心って、何だ?」
「え・・・と。それは・・・」

「今度は哲学の話になっちゃうの?」
李々子が少し体を反らして身構えた。
「身構えるような難しい話じゃないよ。感情は人間みんなに備わっている物だから」
「そりゃ、そうだけど。諒が言うと小難しく聞こえるのよ」
宇佐美は、そうやってぼやく李々子にクスリと笑う。

「李々子、動物に心はあると思う?」
「そりゃあ、あるでしょ。犬なんてもう、感情のかたまりみたいにはしゃぐし、しっぽ振るし」
「そうだよね。犬や猫を見てたら、彼らが感情を持っているのが分かる。でも、それをどうやって証明する? それは単なる生物として生き延びる為のプログラムじゃなくて、心なんだとどうやって証明する? 彼らは自分に食べ物を与え、生かしてくれる人間になつく。生命を脅かす者には牙をむく。生命が生きることを目的とするものならば、その行為は目的を達成するためのプログラムなのかもしれないだろ?」
李々子は猫のような目を更に大きくする。
「そんなの変よ。動物は機械じゃないんだし。証明なんてできないわよ。する必要もないし、見たらわかるもん」
少し怒り気味に言う李々子に、稲葉も同意見だと頷いた。

「じゃあ、李々子、鳥はどうだ? 爬虫類は? 昆虫は? 微生物は? 単細胞生物は? 李々子はどこで“心”に線を引く? 君の感覚が正確なら、答えられるだろ?」
「・・・諒って、そう言うとこ、大嫌い!」
李々子は今度こそ、真正面から宇佐美を睨みつけた。
「ごめん。・・・そんな怒らなくても」
宇佐美はむくれ顔の李々子に面白そうに笑った。

「じゃ、稲葉。植物に心はあると思う?」
急に自分に振られて、稲葉は小学生のように固まった。

「しょ、植物ですか? うーんと、どうかな。あ、でもね、高校の頃サボテンマニアの友人がいて、そいつはサボテンはラテン音楽が大好きで、それ聴かせると成長が早くなって、たくさん花を咲かせるんだって言っていました。僕は信じなかったんですが、サボテンには感情があるんだって言ってました。すっごく嬉しそうに」
「そっか」
宇佐美が満足そうに言った。

「稲葉の友だちには、サボテンは心をもった生き物だったわけだよね。たとえ誰も信じなくても、そこに『心』があったことを否定できない」
「ですね」
「極端な例になるけど、俺の友人の中にはアイボに心を感じてた奴がいるよ」
「あの、昔流行った犬型ロボットですか?」
宇佐美の言葉に、稲葉が少し笑いながら言った。
「犬が好きなのに動物アレルギーでね。アイボを買ったんだ。そいつは仕事から帰るといつもアイボに話しかけていた。アイボも学習するロボットだったからね、常に接しているととても複雑な表現をしてくれるらしい。とても自分になついて、毎日違う表情を見せてくれるんだって言ってたな。
だからね、アイボがある日、急に動かなくなった時、そいつは大泣きしたんだ。28歳の男がだよ。そいつにとってアイボはただのオモチャじゃなかったんだろうね。確かに心を通わせてたんだ」

「僕・・・その気持ち良くわかります」
少し間を開けて稲葉がポツリと言った。
「ねえ、諒。心って何なのかな」
李々子がそれに続けた。
宇佐美は少し首を傾げるように視線を上の方に上げたあと、肩をすくめた。

「きっとどんなに科学や医学が発達しても、実証できない定義だろうね。そして、人間が主観的にしかそれを感じとれない以上、人間の数だけその定義は存在する」
「あれ? それってさ・・・」
李々子は何かに気づいたように宇佐美を見た。
「なんだかんだ言って、AIに心が存在しても、おかしくないって言う事にならない?」

宇佐美は李々子の言葉に一瞬口元で笑ってみせた後、デスクに組んだ手を置いた。

「話を人工知能に戻そうか」


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厭きないですが... 

勉強嫌いな私が 言うのも 僭越ですが、”それなりに”面白いです!
<心>の存在を そこまで 考えた事も 無かったから。
考えれば 考えるほど 答えは 出ないです。

でも 本題に入って欲しいのも 素直な気持ち...
limeさま、我儘で ごめんね(^^;)ゞbyebye☆

NoTitle 

この問題は哲学的に非常に難しく、埒の明かない議論が延々と昔から続いています。「心は機械で作れる」派vs「魂は機械で作れない」派がもうええかげんにしろよお前ら、といいたくなるくらいの議論を……。

ペンローズは名著「皇帝の新しい心」(だったっけかな?)で人工知能の可能性について深く考えた末、無理だろう、という結論に達したようですが、決定論者の多くは、いや可能だ、と未だにわいわいやってますし……。

わたしは決定論者なので、心も魂も機械で作れる、少なくともシミュレートは可能だろう、と考えていますが、はてさて?

この手の議論で出てくる、面白い考えが、「哲学的ゾンビ」というやつですが、limeさんのネタになっていたらまずいので解説は差し控えます。

うむむ。わたしが何かしゃべるとSFになってしまう(笑)

鍵コメRさんへ 

> うーん、宇佐見さん誰かに似ている、と思ったら
> 相対論に出てくる、あの……

ええええ! み、光瀬に似てきましたか?? 宇佐美。

これは問題です。宇佐美に警告しなければ。・・・読者が減るぞーーー。

けいったんさんへ 

けいったんさん、ごめんねーーーー。

あと一回だけ、こんな感じです(>_<)
でも、次からちゃんと本題に戻るので、また遊びにきてね。

Mさんに、宇佐美が光瀬に似てきたと言われたから、真っ青です(T_T)

けいったんさんに逃げられる前に軌道修正しなきゃ・笑

秋沙  

私は飽きませんけれど・・・(*^^*)

NoTitle 

あ、さっきのコメ、タイトルのところに名前入れちゃいました(^^;

諒にぽーっとしてたためと思われます(^^;

ポール・ブリッツさんへ 

「哲学的ゾンビ」って、なんぞや?

大丈夫、ポールさんの心配するような展開にはなりそうにないです。
爽やか青春モノですから。電脳うさぎは。

そうですね、心の問題はらちがあきません。
でも、行きがかり上、ちょっと触れておこうかな・・・と。

考えてみたら、こんな問答無用でストーリーを進めてしまっても全然OKなんです。
はて、なんでそんな流れになったのかな?

りり子が突っ込むからです・笑 たぶん。


秋沙さんへ 

両方認証しちゃった・笑

秋沙さんは、大丈夫でしたか。ほっ。

らちのあかないテーマですが、宇佐美とこんなやり取りしてみたいなあ・・・なんて。

でも、李々子みたいに、最後には怒り出すかな・・・。

ちょっと宇佐美先生、李々子には意地悪してみました・笑

NoTitle 

哲学的ゾンビというのは、人知を超越した「なにか」によって(たぶん神かなにかでしょう)、生まれてから死ぬまでの間のアウトプットがすべてテープレコーダーのテープかなにかのように記載されている、哲学上の「人間もどき」です。

生まれてからのアウトプットが全て記載されているから、どんな意味でも「意志」もなければ、「感情」もありませんが、全能の「なにか」はすべてのインプットに対して正確なアウトプットを記載していますから、物が当たったら「痛い」といい、人に会ったら「やあ、元気?」くらいのことはいうでしょうし、「お前バカだろ」といったら怒る、というような反応をするのです。もちろんそのどれもが、テープレコーダーが録音を再生しているようなもので、「痛い」と感じたから「痛い」といっているわけではない、ということであります。

で、問題は、目の前にいる人間(わたしでも秋沙さんでもかまいませんが)が、そうした『哲学的ゾンビ』ではない、ということを、どうやって確かめたらいいか、であります。

予想外のことをして反応を見る、という手段は事実上不可能です。なぜなら、その哲学的ゾンビをプログラムした人知を超越した「なにか」は、そうした『予想外のことをしてくる』ことを知っていてシナリオを書いていますから、すべての行動に対して、「見かけ上」、因果律に則った行動を哲学的ゾンビはしてきます。そしてもちろん、「ときおり」、予想外な反応もしてきます。

そしてこの話のキモは、「自分が」そうした哲学的ゾンビではない、ことを示す方法がなにもない、ということなのであります。自分がなにをいい、なにをしようとも「それは全能の『何か』がプログラムしたものだ」、といわれれば論駁しようがありません。しかし、今この場で生きて意志を持っている、という、士郎正宗先生お好みの言葉でいえば「ゴースト」は、自分の中にヴィヴィッドに感じられるはずです。感じられなければ病院にいきましょう(笑)。

哲学者のあるものたちは、これを「魂」の存在の証拠、としているようですが、それはおいといても面白い問題ではあることはたしかです。面白すぎて誰も解答が見つけられていませんけど……(^^;)

NoTitle 

心……か。
確かに難しいですね。
考えれば考えるほど深い題だと思います。
心は胸じゃなく脳にあるらしいですね。
考えれば分かるんですが……(笑)

アイボ動かなくなったんですか……。
電池……変えました?

ポール・ブリッツさんへ 

すごいーー。
詳しい説明ありがとうございました。
とってもよく分かりました。
でも、これを題材にしたらもう、本当に収拾がつかなくなりますね。

論としてはおもしろいけれど、小説ネタとしては、ちょっと面倒くさい展開になりそう・笑

これに関しては、自分自身の中にゴーストがいるという証明しかできない・・・・という結論に落ち着きそうですね。

ねみさんへ 

答えのない問題を取りあげちゃいましたが、まあ、たまにはいいでしょう・笑

心は脳にある。
でも、きゅんとするのは胸なんですよねー。ふしぎ。

アイボ。。。電池・・・。
もしや電池切れだったとか・爆
それはなんとも、マヌケなようで、感動的なオチですね。

宇佐美におしえてあげよう。

NoTitle 

>早めの更新が続くときは、作者が「早くこのシーンを終わらせよう」としてる信号

って、すごくよくわかる~~
私もよく、「このシーンを早く終わらせて、次のクライマックスを書きたい!」と焦ること、ありますもん。
でもそこでぐっとたえて、じっくり書くようにしないと、逆にクライマックスが生きてこないんですよね~。

そういやあ、「A.I.」っていう映画ありましたねー(泣けました)。

たしかにこの現実はみな、人間の心が見たいように見ている現象なんでしょうねえ…。

西幻響子さんへ 

やっぱりわかりますか・笑
そうなんです、はやく本題に入らなきゃって思って。
(ちょっと趣味に走りすぎるんです、このごろ)

でも、ストックがすごい勢いで減ってしまうので、自分で自分の首を絞めてるんですけどね。

あ!「A.I.」、見ました。なんともあの子、健気で切なかったです・・・・(>_<) 

健気な少年に弱い!!

NoTitle 

私は講義、好きですけど(笑)

>作者が「早くこのシーンを終わらせよう」としてる信号
わっかります!! この先が書きたいのよっ!という焦りが筆をすすませてしまうことが(爆)

サボテンはラテン音楽が好きっと、メモメモっと。演歌とか聞かせたらどうなるんでしょう。実験してみたい!

綾瀬さんへ 

綾瀬さんが、講義好きでうれしい(T_T)
もうちょっとだけ、続きます。

そして、やっぱり綾瀬さんもですか。
そうそう。この先が書きたいのよ!って気持ち、ありますよね。

自分が好きなシーンが必ずしも良いシーンかってことは、自信ないんですが・笑
自分の中にそういう盛り上がりと情熱がないと、小説って書けないですね。
プロの人って、どんな気持ちで書くんでしょうね。

あ、サボテンの話は、本当らしいですよ。成長早くなるって。

NoTitle 

心はどこにあるという疑問、単純だけど応えられない。
頭か心臓か。
わからないけど絶対にある。

日本人は万物にあると信じた歴史があった。
使い古したお釜であったり、路傍の石にさえ魂があると思った。
それは何事も大切にする意味になった。
科学的に説明できない感情だと思う。
この感情って現代にも伝えられているかもしれない。
昔ほどではないにしても、対象が変わっていたとしても。

不思議な話。
妹の家の乾燥機が壊れました。
彼女は新しい乾燥機が来る間、その乾燥機をきれいに拭いて、今までありがとうとお礼を言いました。
すると不思議な事に新しい乾燥機が来る、その時間まで動いてました。
だから洗濯物は全部乾かす事が出来たそうです。
唯の機械といえばそれまでだけど、何かあるような気がするのよねぇ。


ぴゆうさんへ 

とかく人間はいろんなことを科学で証明しようとすれけれど、
心ばっかりはきっと、どんな時代になっても定義できないものなんでしょうね。

妹さんの乾燥機の話。
きっとそこに妹さんの感謝の気持ちが大きな力を呼んで、
機械だったものに、なんらかの力を与えたのかも。
それが「心」ではないと、だれにも言えませんよね。

宇佐美はいろんなエピソードを引っ張り出して並べますが、答えは押しつけません。
それぞれの想いを、引き出す人です。
私自身、哲学とか、宗教観とか、押しつけられるのが苦手なので^^

この物語、「心」というキーワードが最後までちらつきます。
読む人、それぞれが、いろんな風に感じ取ってくださったらいいな・・・と思います。

でも、全然堅いお話ではないので、ゆるーーーい気持ちで、楽しんでくださいね^^

早めの更新が続くときは、作者が「早くこのシーンを終わらせよう」としてる信号です・笑 

今、コメントを流しながら、げげっ!! 西幻さんまったく同じことを書こうとしている…っ
と気付きました(^^;

なので、表題と映画のお話は飛ばします。
ちょっと言ってしまうと、『花籠』2 は、そんな場面ばっかりで、異様に早く仕上がりました。苦手なんです、人がめちゃくちゃ動く場面って…

心。
これは、命題ですな。
そして、それを‘波動’と置き換えると、実は地上に存在するすべての生物・物質に‘波動’はある訳ですよ。
それから、イライザ。
これは有りそうですね。
カウンセリングの基本は「聞く」ことだから、とりあえず、、患者は話すことで楽になる。楽にしてくれた相手に絶対の信頼を置く。そこに心があろうがなかろうが、そういう構図は成り立ちますね。
プログラム、つまり機械だったら「こうしろ」という命令にきちんと従って、どんな話も傾聴してくれるし、誘導できるんであろう、と。
ココロは、定義の問題であって、存在する/しないではない、のかも知れないですね、

いやぁ、しかし、頭の良い人のお話を聞くのって有意義ですなぁ(^^)

fateさんへ 

ってことは、やっぱり早く終わらせたいシーンは、更新が早くなるんですか?^^fateさんも。

私、宇佐美の講義のシーンは好きなんですが、もしかしたら読者様は退屈なんじゃないかと思ってしまって・・・。

『僕らの相対論』も、私の趣味満載のお話だったので、猛スピードで更新して、早く終わらせてしまいました。
でも、中には気に入ってくださる方もいて、ホッとしました。

自分が好きな部分が、他の方も好きかどうか・・・って、常に気になります。
せっかっく時間を割いてくださる読者様に、独りよがりな物語を読ませては申し訳ないと思って^^;

今回、大それたことに「心」について語ってみました。

>ココロは、定義の問題であって、存在する/しないではない、のかも知れないですね

↑これは、いいですね。全てを言い得ているな!と、感激しました。

あまりに深く、答えの無いテーマですが、こういうテーマを語るのは楽しいですね。

あ、でも、語って講義してくれるのは、大学病院の准教授の椅子を蹴った過去のある、インテリの宇佐美ですから^^
鳥頭の私も、のんびりと彼の講義を聞いてる気分で書きました。
私もここで宇佐美の講義をずっと聞いていたいなあ・・・。
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