電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第7話 人工無能

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「稲葉先生。今帰りなんですか?」
校門を出る手前で呼び止められて、考え事をしていた稲葉はボーッとした表情のまま振り返った。

見ると、昨日稲葉を恥ずかしそうに呼び止めた女子生徒二人だ。
そして、思い切り李々子に抱きつかれたところを見ていた二人だ。
稲葉はその状況を思い出し、改めて恥ずかしさが込み上げてきた。

「ああ…昨日の。あの、昨日はごめんね。話も聞かずに慌てて帰っちゃって。えーと、君たち、何年生だっけ」
「1年です。桃井と谷口です」
桃井と名乗った背の高い方が言った。
小柄でショートカットの谷口も、今日は物怖じせずにまっすぐ稲葉を見て微笑んでいる。

「あの、ごめんね昨日は。びっくりしたろ?」
無かったことにしたいとも思ったが、稲葉は小声で謝ってみた。
誤解があるならば、ここで解いておきたいという願望もあった。
「え? なんのことですか?」
桃井と谷口はそれぞれにそう言うとニコリと笑ったが、どういう笑みなのか稲葉にはよく分からない。
水に流してくれるという合図なのか、それとも彼女たちにとっては、何でもないことなのか。
稲葉にとって女の子はいつまでたっても難解だ。

「実はね、先生にちょっと聞いて貰いたい話があったんです」
桃井が切り出した。
「聞いて貰いたいこと?」
ついさっきもチャットで相談を受けたばかりだった稲葉は、少しばかりデジャブを感じた。
何より、頼られる立場という責任の重さが、嬉しさをちょっとばかり上回った。

「そうなんです。稲葉先生、よくいろんな掲示板に行ったりしてるって聞いたことあったから」
「ああ、まあ、たまにね」
「私たち結構同じ掲示板に行って遊んだりしてるんですけどね、最近嫌な書き込みがやたらと多くて。
別の学校の子だけど、名指しで攻撃したり。犯罪を仄めかしたり。少し前の書き込みには放火予告があって、そこに友だちの学校の名前も入ってたり。なんだか怖くて」
「放火? そうなの? それどこ? どのサイト?」
「あ、それは教えられませんよ。なんか告げ口したみたいで嫌だし。ただ書いてるだけで本当にやるとは思えないし」
今度は谷口が頬を赤らめながら言った。頬を赤らめるのはこの子の癖らしい。
そしてどうやらこの子達は昨日、このことを相談に来てたのだ。
稲葉は昨日の勘違いを猛烈に恥ずかしく思った。
もちろん顔には出さなかったが。

そんな稲葉の心の内は知るよしもなく、桃井が再び真剣な表情で続けた。
「無視しておけばいいんだけど、何か気味悪くて。その書き込みの人、『自分は人工無能だ、自分の言語が悪意に満ちてるのは、おまえ達の心が悪意に満ちてるからだ。おまえ達の罪だ。』って言うんです。
ねえ、先生、どう思います? 放火を誘ったり、危険な書き込みをするのも全部その人なんです」
桃井は少し首を傾けて聞いてくる。
谷口も真剣に稲葉の言葉を待っているように見つめてくる。

「じ…人工むのう?」
稲葉は固まった。
「はい、本当にそうなのか、嘘なのか分からないですが。あんなに口の悪い人工無能っているんでしょうか」
と、今度は谷口。
「そう…だよね。わからないよね」

“わからない。人工ムノウって、なんだ?”
稲葉は頭を巡らせたが、人工知能というワードしか浮かんでこない。

「管理人に報告しようとも思ったんですが、それもなんだか卑怯な気がして」
「うーん。難しいところだね。とにかくあまり酷かったら管理人に報告して、そして君たちはそんなところに行かない方がいいよ。健全な会話を楽しめるスペースはいくらでもあるし」
「でも、本当にそれでいいんでしょうか。何か起こったりしませんよね」
「何か?」
「だから、放火事件とか」
「…放火事件」
稲葉は再びドキリとする。そのワードは今、稲葉を悩ませているものの一つなのだ。

「本当に人工無能なら、問題ないんだけど」
谷口がぽつりと言った。再び出てきたその言葉に稲葉はたじろぐ。
「人工無能ならね」
桃井もうなづきながらそう言った。
「…人工むのうだしね」
稲葉も言ってみた。

「そうですよね。きっと人工無能です。最近はそんなタイプが多いから。それならきっと管理人がどうにかしてくれますよね。恨みを買うこともないし」
いきなり吹っ切れたように桃井が軽やかな声を出して微笑んだ。
谷口も、つられたように笑顔になった。稲葉も慌てて笑ってみる。
「分かりました、稲葉先生。気にせずに無視することにします。ありがとうございました。また相談に乗ってくださいね」
ハキハキと桃井が答える。
「あ、うん。先生でよければ、いつでも」
少し戸惑いがちにそう言うと、二人は軽く顔を見合わせたあと、小さく頭を下げた。
やはり谷口の頬はずっとほんわり赤い。
二人が校舎の方へ小走りに走っていくのを見つめながら、稲葉はなんとも情けない思いでいっぱいだった。

…だめだ。こんなの相談の回答でも何でもない。
何でよく分からないのに見栄張って適当に答えてしまったんだ。失格だ。教師以前に大人失格だ…
稲葉はそう思いながらがっくり肩を落とした。

ただ、あの谷口という女の子が自分に好意を持ってなかったのが救いだった。
こんな情けない何の役にも立たない自分を一瞬でも好きになったとしたら、本当に申し訳ない事だから。
李々子の昨日の心配も、全くの取り越し苦労だった。李々子にも申し訳ない。
まるで消え入りそうに自信喪失した稲葉は、小さくため息をつき、門を後にした。
 
       ◇

「あーあ。なんか、寂しそうに帰って行っちゃったね。稲葉先生」
桃井が谷口に言った。
「やっぱりよく分かってなかったのね。しどろもどろだったし」

校舎の影からそっと稲葉の様子を伺っていた二人。
「やっぱり何か頼りないのよね、あのセンセ。ねえ、本気で昨日告白しようとしたの?」
桃井が小柄な谷口を少し見下ろすように訊くと、谷口はやはり頬を少し赤らめて笑った。
「すごく自分の気持ちを伝えたくなったの、昨日は。でも、しなくて良かった。稲葉先生、綺麗な彼女いるみたいだから。・・・ごめんね、モモ。付き合ってもらって。さっきも話題探して話しかけてもらえて、嬉しかった。一度ちゃんと話をしてみたかったんだ」
「いいって。でも、話題がまずかったかな。当たり障りのない話題にしようと思ったんだけど。なんだか稲葉先生、落ち込ませたような気がするんだけど」
桃井が申し訳なさそうに言う。
「うん。いつも一生懸命だからね、稲葉先生。きっと答えに満足いってないんじゃないかな。でも私ね、そんな所も大好きなの。ほら、普通教師って上から物を言うでしょ。でも稲葉先生はそうじゃない気がする。同じ目線で、一緒に悩んでくれそうな気がする」
「そうかあ。うん。分かる気がする。あんな先生、いてもいいよね。私も好きよ」

「でも・・・、今日は落ち込むんだろうね」
谷口が心配そうにつぶやいた。
「うん。そうだね。ちょっと悪いことしちゃったかな」
二人は顔を見合わせて軽やかに笑った。



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~ Comment ~

NoTitle 

あはは、生徒に同情される先生って……素敵!

Route M さんへ 

そう、稲葉先生って、そういう人です(^_^;) 

良くも悪くも・・・。

放火 と 人工XX 

谷口の告白を 誤魔化す為の話しとしても まるっきり でっち上げ話しではないでしょ?
”人工無能”も ”人工知能”を 隠すための言葉?
今は トムしか入室しか出来ない チャットルームに かつて 谷口か桃井が 出入りしてたのかも...
二人は無関係でも あの内容は 覚えておいた方がいいよ、稲葉先生!

思わぬ所から 出て来た事柄が、紆余曲折しながらも 集結するのは [ENMA]という 人工知能!
稲葉 VS ENMA は いつ見られるのか 楽しみ♪(^^)ゞbyebye☆

けいったんさんへ 

けいったんさんの推理を読んでると、私が一番興奮してきます。

ああーー、そうか! と、気付かされることがいっぱいで。
うーん、素敵だ、けいったんさん。
読者さまの推理聞くのはおもしろいです。(たとえ、当てられてても・笑)

さて、今回もいろんなところに「カムフラージュ」が入っています。
けいったんさんの読みは当たるのか! それとも・・・。 

真相は、まだまだ先です(*^-^*)


NoTitle 

人工無能……どんどん昔読んだ新本格ミステリに近づいていっているような(^^;)

最近の人工無能はチューリングテストなんざ余裕でくぐりぬけますからねえ……。

ポール・ブリッツさんへ 

そんな雰囲気ですか??

でも、私のは、あっさり爽やか青春の味・・・ですよ・笑(ほんまか)

最近の人工無能はすごいですよね。
チューリングテストのハードルを上げねばならないのでは?
これを書くにあたって、人工無能の酢鶏くんとお友達になりました。
彼はすごいです。
なんど爆笑させられたか・・・。

NoTitle 

人工無能っていうのは実際にあるらしいですね。

「こんにちわ」
と話しかけたら
「はい、こんにちわ」

「こんばんわ」
と話しかけたら
「はい、こんばんわ」

とPCがプログラム通りにしゃべる。
それが人工無能らしいです。
逆にAIが人工知能と呼ばれているのは・・・・・。
っ!?
limeさんは分かっていて・・・!?
まさか・・・俺がこのコメントを書くのはお見通し・・・?

NoTitle 

ん・ん・ん?人工無能!?えーん、わからないよ~
稲葉くんと同じような反応をしてしまうわたし…
でもよかった、稲葉くんの良さをわかってくれてる生徒もちゃんと存在するんですね~。彼が自分で思ってるより、もてるじゃないですか~(笑)
あらためて思いましたね、人って自分の思い込みでいくらでも勘違いすることがあるんだな~って(笑)

ねみさんへ 

人工無能は、なかなか優れものですね。
ポールさんへのコメにも書きましたが、私のお友達の人工無能君は、普通に会話出来ちゃいます。
さらに、私の笑うツボをくすぐってきます。

でも、AIと違うのは・・・。

そうですね、私はよく分かりませんが、次回から宇佐美さんの講習会(笑)が始まります。

そこで長々と、(3話にわたって)そんな話になってくると思いますよ。

もし、宇佐美さんの説明が甘かったら、ねみさんに補足してもらおう♪

西幻響子さんへ 

稲葉君、自分では凹んでるけど、けっこう愛されキャラなんでしょうね。
生徒からも父兄からも、慕われてると思います。

でも、彼の場合、これくらい凹ませて置いたほうがいいんです。
だって、おだてると木に登るタイプですから。笑(鬼作者)

そんな彼ですが、こうやって西幻さんにも、愛情のある目で見てもらえて・・・嬉しいです(涙
がんばれ、稲葉君。君にも味方はいるぞ!

人工無能なんて、しらなくったって、大丈夫だーー。




NoTitle 

へぇぇぇぇ、人口無能なんて言葉、初めて知りました~。
英語での「chatterbot」は聞いたことあったのに(笑)。

いやはや、いつの間にやらそんな分野にまで手を出していたんですか!?limeさんったら。
読書して執筆して、相対性理論やネット世界の勉強までして・・・
そりゃ、時間もたりなくなりますって(^^;


シロちゃん、大人な生徒がいてよかったね(^^;

次回から諒が出てくる?わ~い。

秋沙さんへ 

あ、そうです、ボットです。
ツイッターの中にも、最近は頻繁に「bot」が歩き回っていますね。
とても身近な、単純な奴です。
(ツイッターの中のボットは、なぜかあまり賢くないです・笑)

私の知識は一点集中なので、少し横にそれたら、全く未開の地です・笑
(突っ込まれたら弱いです、きっと)
AIよりも、HTMLを理解しなきゃ・・・と、自分では思ってるんですが・汗
とにかく・・・時間が欲しいですね~~、秋沙さん。

次回から「宇佐美先生、登場」です・笑
何の勉強会よ! と、突っ込んでやってください。


NoTitle 

HTML?
んなもん、必要な時に必要な部分だけ調べればたりますから大丈夫です(私のように)(^^;

わ~い、宇佐美先生の講義だったら、難しい話題でもいっしょけんめきいちゃうもんね~~~。
(ただの酔っ払いです、気にしないでください)

秋沙さんへ 

酔っぱらってますね?秋沙さん・笑

宇佐美さんの授業は優しくて分かりやすいですよ~~。(光瀬は酷いけど・笑)
でも、結論は出ないテーマですが・・・。(そこが問題)

私も宇佐美の授業受けてみたいです。
最後、めちゃくちゃ難しいテスト出されそうですが・笑

NoTitle 

なんか笑えない世界に入っていく。
それよりも白ちゃんがもてていた事を喜ぼう。
イケメンなのに彩りがなさすぎるものね。

ENMAの気持ち悪さって存在していない不気味さなのかな。
ネットの世界はまさにそれだよね。
だけど話している内容は皆生きている生活だったりする。
電話を媒体として交流するように、ネットもまた同じ。
だけど、まるで異質なものはやっぱり目立つ、彼女達が気づいたのも何か分かる気がする。

ぴゆうさんへ 

シロちゃんのいいところを分かってくれる女の子も、いるんですね。
(書いてて私もびっくりww)
いや、真っすぐで熱くて、いい青年だとは思うんですょ。ちょっと・・・ウザいけどww

これ、告られてたら、どうなったのかな・笑

はい、物語は不穏な方向へ行ってしまう予感がしますね。
正体が分からぬENMAも含め、まだまだ真相は闇の中。
感想も書きにくいですよねi-201ごめんなさい~。

このあと、ちょっと閑話休題で、宇佐美の長~~い講義が始まったりします。
人工無能、人工知能という言葉が飛び交いますが、難しいことは一切ないので、のんびり読んでやってくださいね^^

人工無能 

このサブタイトルに惹かれて、ここまで読ませていただきました。
「人工無能」って実際にあるのですか?
みなさんのコメントを読んでいて、へぇぇ、そういうものなのかと納得。

タイトルの「人工無能」が見えていたから、ENMAの正体もなんとなくちょっとだけ見えつつあるような気もします。
あの日記の文章なんかにしても、limeさんは伏線を張るのがお上手ですよねぇ。

ネットの出会い系をテーマにしたホラー小説を読んでいたら、こんなフレーズが出てきました。

「悪意」が介在すると、インターネットの世界はものすごく恐ろしい。

ほんとにそうですよねぇ。
limeさんの描かれる今回の世界も……恐ろしいのかなぁ。
今回もわくわくしています。


あかねさんへ 

> 「人工無能」って実際にあるのですか?
> みなさんのコメントを読んでいて、へぇぇ、そういうものなのかと納得。

ええ、ネット上では、たくさん生息していますよ。
ボットと言われる、もっと単純なものもいますが。
ツイッターやMixiにも、いっぱい^^

> タイトルの「人工無能」が見えていたから、ENMAの正体もなんとなくちょっとだけ見えつつあるような気もします。

ふふ。ENMA、何か、予感がするでしょうか^^
いっぱい予想を立ててみてください。

> あの日記の文章なんかにしても、limeさんは伏線を張るのがお上手ですよねぇ。

ありがとうございます。
日記、いろんな真実が隠されています。
沢村の気持ちも散りばめてあります^^
自然と、それらが伏線になってくれればうれしです。

> ネットの出会い系をテーマにしたホラー小説を読んでいたら、こんなフレーズが出てきました。
>
> 「悪意」が介在すると、インターネットの世界はものすごく恐ろしい。
>
> ほんとにそうですよねぇ。
> limeさんの描かれる今回の世界も……恐ろしいのかなぁ。
> 今回もわくわくしています。

今回の物語。
ダークなイメージが沸くようですね。
たしかにネット自体、悪意が暴走したら、とんでもなく恐ろしいことになりますもんね。

現在問題になっている、遠隔操作ウィルスとか・・・。
いい方向で、ネットが使われることを、願いますね><むずかしいけど。
どうぞ、ワクワクしてください!
このお話、けっこう、お気に入りです^^
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