電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第6話 相談 

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稲葉は、真っさらな、白地のシンプルなスペースに恐る恐る書き込んでみた。

うさぎ:『こんにちは。君が僕を呼んだんだね?』

ト ム :『わあ。本当に来て下さったんですね、電脳うさぎさん。すごくうれしいです。あんな形でいきなり呼び出したりして失礼しました』

待ちわびていたのだろう、管理人からはすぐに返事が返って来た。

うさぎ:『いや、気にしないで。あ、あのさ、僕の名前ここでは「うさぎ」でいいよ。ネーミングセンスが無いって知人に笑われたし』

ト ム :『そうなんですか? そんなことないのに。でも、了解しました』

うさぎ:『ところで、トムは僕の事を招待してくれたんだよね。何か相談があるとかで。なんだろう。いや、そもそも何で僕を? 掲示板でやり取りしたことあったっけ』

稲葉は常識のある相手にホッとしたこともあり、早々に本題に入った。
顔も性格も年齢も分からない相手とコミュニケートするのは随分と慣れてはいたが、やはり自分を招待した相手となると不安もあり、早く探りを入れてみたくなる。

ト ム :『すみません。気持ち悪かったですよね、いきなりで。僕はいつもうさぎさんの書き込みを見てて知ってたんですが、ロムってばかりだったので、うさぎさんは僕の名前、見たことなかったですもんね。でも、手っ取り早くうさぎさんと二人で話す方法を、他に思いつかなくて』

うさぎ:『いやいや、それは全然かまわないよ。むしろ嬉しいよ。僕なんかを呼んでくれるってのは』

ト ム :『それを聞いて安心しました。僕が良く行く掲示板でうさぎさんの書き込みを何度か見ました。他の人の乱暴な言動を優しく諫めたり、やんわり仲裁したり。僕、うさぎさんのコメントが大好きなんです。優しい大人の人だなって思って見てたんです』

うさぎ:『うれしいな。そんな風に思ってくれる人がいたなんて。100%ウザがられてると思ってたんだけど』

ト ム :『みんな思ってますよ。うさぎさん、いい人だって』

胸にグッと熱いものが込み上げる。稲葉はこのログをすぐさま李々子に見せたい気分だった。
―――ほら李々子さん、僕だってまんざらでもないんです!

うさぎ:『でもさ、僕に成りすました人が冷やかしにここに入って来たらどうするつもりだった? ……まあ、この僕がうさぎだって証拠もないんだけど』

ト ム : 『本人かそうでないかは分かります。言葉の使い方で。何となくそういうの分かりませんか? ちょっとした文章の順序や言葉選びにも性格出るし。語尾だって、みんな全然違うんです』
うさぎ:『そう? そうなのかな。今まであんまり意識してみてなかったけど。ああ、うん、そうなのかもしれないね。……で、こんだけ褒められたあとに聞き難いんだけど、その相談って、なんだろう』

ト ム : 『あ、そうでしたね』

うさぎ:『実生活であまり相談に乗ったり頼られたりすることはないから、力になれるか自信ないんだけど。でもじっくり話を聞いてあげるよ。話すだけで楽になるって事だってあるからね。友だちの事とか? それともネット上のトラブルとかかな?』

ト ム : 『うさぎさん、凄い! どうして分かっちゃうんですか?』

うさぎ:『あ、そうなの?』

ト ム : 『実は僕のネット友だちの事なんです。僕は彼にどう接して行けばいいのか分からなくて。訊いてもはぐらかされるんですが、たぶん僕と同じくらいの年のはずです。ハンドルネームはENMAって言って……』


            ◇


すっかりアパートの私物が運び出され、若い従業員二人はサービスの一環としての部屋の掃除に取りかかったところだった。
予定よりも早く終わりそうだったこともあり、テキパキと働く二人を脇目に片瀬は、先程見つけた日記の中の一冊をもう一度開いた。
年号は分からないが、順番からしてさっき読んだ部分の少し前のはずだ。

依頼主の指示通り、この部屋のモノはすっかり捨ててしまうのが鉄則なのだが、うっかりその内容を見てしまったため、破棄してしまう事に罪悪感が生まれてしまったのだ。
この日記を捨ててしまう事で、沢井という人間が今度こそ消えてしまうような気がしてならなかった。
けれど沢井に何の思い入れも無い遠い親族に、これを渡す気は更々無かった。
ここを片付けるのも何かの縁。せめてもの弔いのつもりで、片瀬は文字を辿った。

『---9月25日---
遠馬は時々、かわいい嘘をついて私をからかうときがあるよ。昨日は頭が少しだけ痛いんだと言ってきた。
すごいと思わないか?美佐子。他の子がするように、そんな嘘をつくんだ。
そして私がそのあと戸惑う様子を観察するんだよ。これも重要な成長の一過程だよね。
嘘を付くことはいけない事だと教える一方で、こんな可愛い嘘には騙された振りをしてあげるんだ。
とても心配した振りをしてあげるとね、申し訳なさそうに、もう治ったって言うんだよ。そうやることで「頭痛の痛み」というものを想像するのかもしれない。
こんなやり取りがとても楽しくて愛おしい。遠馬が成長していくのを感じるのがなによりの幸せだ』

微笑ましいな、と片瀬は思った。
無き妻に語るように書かれた、日常を綴る日記。
週に一度くらいの割合で、一人で育てていたらしい子供の様子が書かれているのが何とも微笑ましく、そして悲しい。

当然ながらこの子の母親も、この日記を書いている父も、もうこの世に存在しない。
この子供が今どこでどんな生活しているのかは分からないが、きっとこの日記の存在も知らないだろう。
全てを捨ててくれと頼まれたが、自分が捨ててしまって本当にいい物なのだろうか。
片瀬には、その日記に沢井という人間の生きた証が詰まっているような気がしてならなかった。

そのまま片瀬はパラパラとページをめくる。仕事や日々の生活の部分は、ななめ読みして行った。日々の生活は大変そうだったが、愚痴や弱音はほとんどない。
どこを開いても几帳面で丁寧な、優しい文字と文章が続いている。

「……ん」
あるページで、ハタとその手が止まった。
片瀬は改めてノートに顔を近づけ、食い入るように文字を追った。
首を捻り、少しページを戻し、また進み、そしてもう一度首をひねる。

「どういうことだ?」
片瀬はノートを広げたまま思わずつぶやいた。

そのつぶやきに気付き、木ノ下と吉川が片瀬の方をみて苦笑する。
作業をサボっているところを見つかってしまい、バツは悪かったが、片瀬はノートから目が離せなかった。
そこに書いてある意味が、理解できない。

『---10月5日---
本当に遠馬のお陰で私は心穏やかでいられる。
8年前のあの日、美佐子と遠馬が事故で死んでしまった時は本当に自分も死んでしまったような絶望的な喪失感だった。
すぐに自分も君たちを追って逝きたかった。
でも思いとどまって良かった。
再びこうやってあの子を育てることができるのだから。神に感謝している』


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~ Comment ~

トム、褒め上手! 

これだけ 稲葉を褒めまくって 調子に乗せて(?)から トムは この難解な相談を 切り出すのですね。
そうすれば 稲葉が 逃げられなくなるもんねー。
トム、賢いなぁ~ それに 引き換え 稲葉、単純すぎ(笑)!
でも きっと 頑張るであろう稲葉の手腕に 期待してます。

片瀬は その日記から感じ取った 矛盾を どうするのでしょうか?
そのまま スルーか、追求か...
遠回りの展開でも 楽しく 読ませて頂きますので(^^)ゞbyebye☆

NoTitle 

うああっ!
テストでうだうだやっているうちにかなり進んでいらっしゃる!

よ、読みます!
今から読ませていただきます!

こちらとてこれのみが楽しみで・・・。

けいったんさんへ 

そうか~、トムはそんなしたたかな技を・笑
ただ純粋なだけだと思ったんだけど、もしかしたら、そうやって稲葉を逃れられなくしてた・・・?
けいったんさん、作者も思いつかなかったことを!笑

稲葉君、きっと頑張ると思いますよ。
まあ、空回りそうですが。

複雑な展開はしないと思いますが、じわじわ外側からいきますから~。
またのお越しをお待ちしています♪

ねみさんへ 

あ、テストでしたか。
期末テストシーズンですもんね。お疲れ様。

また、のんびり読んでやってください♪

NoTitle 

今のところ、シロちゃんが一歩核心に近づいてるんですね~。
さぁ、シロちゃんの空回り・・・ぢゃなかった、活躍が俄然楽しみになりますね!!

なんとなく個々の状況は予測できたとしても、これがどういうふうに結びついていくのかがとってもスリリング!!
あぁ・・・早く続きを・・・(^^;

秋沙さんへ 

それぞれが繋がっていく過程は、とても単純であっけないかもしれないです。

いっぱい空回りした後(笑)稲葉くんがやっと真相を掴んで動き出すまで・・・が、長い・笑

そんなにハラハラ感は無いかもしれませんが、こんなラビットもいいかなあ、と思っていただければうれしいです。(*^_^*)

NoTitle 

♪あいつ~ 褒められた
 電脳で~ 褒められた
 いい人だよーっと はやされた~
 やっちゃえやっちゃえやっちゃえ
 上手 上手 上手 上手
 稲葉おだてりゃその気になって
 そそれそれそれ ヨイショ!
 木に登る~



たぶんどうコメを返したらいいかわからんでしょうが……。いえ。好きだったんです、昔のヤッターマン……。怪しげな相手に怪しげなことをいわれただけでその気になってしまった稲葉くんを思ったらつい鼻歌が出ちゃって(汗)

これからの展開に期待しています。

ポール・ブリッツさんへ 

げ、元気になったんですね、ポールさん。歌ってるし・笑

私もヤッターマン、見てました。
豚もおだてりゃ・・・の奴ですね?
(シリーズ多くてわからなくなる)

それにしても、みなさんのコメントを見ていて、私の誤算(迂闊さ)に気が付きました。
そうか・・・トムくん、怪しく見えちゃうんだ・・・・。

ポールさんの期待は裏切られるかもですよーーー。
稲葉君、あれでけっこう、大人な部分も・・・・・。あるかな?

NoTitle 

ENMAが遠馬?ということは、ENMAは幽霊…
うっそーん!スメラギもまっつぁおな展開に…(すみません、よそさまの小説でした ^ ^;

稲葉くん、がんばれーっ

西幻響子さんへ 

あ、幽霊説出ましたね。
これは新しい意見です。

さてENMAの正体は・・・。

スメラギさんのお知り合いにもいますね、閻魔さん。

稲葉君の手に負えるかなあ・・・・。

白昼夢も、こちらも読んでくださってるんですね、西幻さん。感謝です!

NoTitle 

不気味な骨格が現れて来たような・・・
ゾクゾクするぅ~~

白ちゃんが思いっきり引き込まれそう。
ENMA・・・
考えたくないねぇ、怖いなぁ。
片瀬も禁断の場所に踏み入れそう・・・
v-12

ぴゆうさんへ 

うれしいなー^^
ゾクゾクして下さい♪

シロちゃん、どっぷりはまってしまいそうですね。
(トムったら、褒め上手だから・・・)

日記の存在がちょっと不気味ですが、ホラーとかじゃないので、
怖がらなくても大丈夫ですよ。
ただ、真相は最後のほうまで、分からないかも・・・。
シロちゃんといっしょに、迷宮に入り込んでくださいね。
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