☆感想(観劇・映画・小説)

(雑記)『李歐』読了。ただ感嘆の溜め息。

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前半200Pまでで、あまりにも鮮烈に私を魅了した、高村薫の『李歐』。

前半に引き続き、後半のレビューです。
いや、あまりにも壮大で鮮烈で、感想と言うよりは、ただ感嘆と溜め息です。





【紹介文より】
「惚れたって言えよ」 美貌の殺し屋は言った。その名は李歐。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。


↑これに惹かれて手に取った『李歐』。
すべては惹かれあった二人の青年の、「再び大陸で会おう」という、何者にも理解できぬほど強烈な願いを込めた「約束」のもとに繰り広げられた人間ドラマです。

一彰の、李歐が大陸で華麗に暗躍する姿を想像して胸を熱くする描写に、読んでる私も同じように心躍らせ、一方でどうしようもなく巻き込まれていく、政治的背景の絡む抗争に胸をしめつけられ、
また、旋盤工として如才なく、聡明かつ堅実に立ちふるまう姿に何とも愛情を感じ・・・。

とにかく、私の心は一彰と一体になっていました。
その、李歐との再会を願う間の15年を、一彰とともに過ごした気分です。

他の誰にも心を開かない、素性も素顔も各国情報部から隠さねばならぬ、危険で魅惑的な男、李歐。
「惚れた?」と、最初一彰にふざけて訊いた李歐の言葉から、
長い年月の果て、李歐の生存を刑事から聞いたあとの
“ああ、俺は惚れているのだな。息が止まるほど惚れていると思うと、身体の隅々が歓喜の声を上げそうになった。”
と、確信するまでに、どれだけ様々なうねりに身を揉まれてきたことか。

大阪府警もCIAも香港シンジケートも拳銃密売組織に絡むヤクザも、敵に回し、嘘で交わし、あるいは蛇と化してその腕に抱きこまれても、一彰はすべてをかける価値を「李歐」の中に見出してるんです。

それほど、李歐は魅力的に書かれています。

李歐が言った魅惑的な、印象的なセリフ、シーンは、ここにベスト10を書きだしたいほど。(できませんが)
でもちょっとだけなら語っていいでしょうか。

熱を出した嵐の夜、一彰の夢うつつの中に立った李歐のことば。
幻だと思いつつも、「もう10年もたった」と呟く一彰に、李歐は言う。
「年月なんて数えるな。この李歐が時計だ。あんたの心臓に入ってる」
・・・だめですよ。即死ですよ、そんなこと言われたら。

実際、それがその後、窮地に追い込まれた一彰に力と希望を与える原動力になるわけですが。
そして、最後の印象的なシーンに繋がります。

しかし、とにかく、高村先生の表現力は骨太でありながらも鮮烈で艶めかしい。

旋盤で削る鋼の部品一つ一つ、一彰が手にする拳銃の部品一つ一つに至るまで、色気を感じさせてやみません。
一彰が分解してゆく拳銃の細部にぞくぞくし、リボルバーの構造を確かめ空撃ちして、ふたたび分解して・・・という工程の際限なく細かい描写にうっとりして魅入っていました。

最初に読んだ「黄金を抱いて翔べ」の時は、細かすぎると思った器具、部品、構造の説明が、
この「李歐」では、とんでもなく艶めかしく、しっくりと肌になじみました。


魅力的な、その他の登場人物のことを語ると、あと2日かかりそうなので割愛しますが、
守山、笹倉、キーナン、原口、田丸。
それぞれがそれぞれの人生を背負い、そして一彰と李歐に出会い、その“うねり”に共振します。
いいんです、かれらも、みな。
もちろん女性も出てきますが、内面の描写の少ない女性はみな、一彰の体を通り過ぎて行き、いつかは過去の女性になっていったように思われます。

高村先生、女性は苦手とおっしゃってたそうです。
男心はこんなに鮮明に描かれるのに。
そんなところも、何だかとても好きです。

昨日は半徹で読みまくり、今日はドキドキしながら、心臓を軋ませながら最後まで一気に読み進めました。
どうか、一彰の願いが叶えられますように。と。
もう、悲劇はたくさんです。と。

読み終えた今は、彼らの四半世紀の人生を猛スピードで過ごしたような脱力感と達成感で、フラフラです。
そして、最後に感じた大陸の風。
ああ、広大で壮大で官能的な、心を震撼させる人間ドラマに出会ったなあ・・・と、感慨でいっぱいです。


「李歐、你从此准制覇王的大陆吧、我梦見随你去」

-- 李歐、君は大陸の覇者になれ。ぼくは君についていく夢を見るから --




....................................

(余談)

この物語で欠かせない中国語。
李歐はそれはそれは美しい北京語を話します。
流れるように高く低く、歌うように語られるその言葉を想像してうっとりします。

私も大学で2年間、中国語を専攻し、四声については講師から完璧な発音を指導されました。
その後、本場中国でサバイバル旅行をした時、すこし役立ちました。
まあ、・・・いまは喋れませんが。
李歐の完璧な北京語は美しいんだろうな。
ここで喋る李歐の言葉を脳裏で再生してみると、それはぞくぞくするような艶めかしさです。

『ウィンブルドン』を読んだときはロシア語を、
『ヘンリー・リオス』シリーズを読んだときは英語を、
高村薫作品を読んだ今は、中国語を喋れるようになりたいと、切に思う単純さ・笑
ああ、もう少し続ければよかった。



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~ Comment ~

NoTitle 

あぁとうとう、limeさんも読み終わったんですね。
もう、終盤はかなり一気に読みました。
私が寝ている部屋にはスタンドがないし、隣にムスメが寝てるから明かりもつけられず。
最初は、隣のリビングから漏れてくる明かりで読んでたんですが、ダンナも寝てしまって消されてしまい。
しまいには、携帯電話のライトで読みました。
手が痛くなってもやめられず。

さて、内容についての感想ですが、もう今は感嘆するばかりで。

あ、だんなが帰ってきちゃった。
また語りに来ます。

秋沙さんへ 

秋沙さん、そんな困難な状況で読破ですか!
すばらしい。

もう、物語に引きずり込まれて当事者になった気分です。
ろくな感想も書けず・・・。
ネタばれしても良くないし。

もっと、その章ごとに、おもいっきり語りたかった。
「コウモリ」も、「幽霊」も、あまりに鮮やかで胸が苦しくなります。

また、少しづつ語りましょうね。
語り尽くせないと思いますが♪

NoTitle 

『今さら何言ってんの?』と思われるかも知れませんが、limeさんの
レビューを読んで、物語においては≪人物≫が重要な気がしてきました。

僕はいつも良いストーリーを作る事しか頭になかったのですが、考えて
みればソコで活躍する人物が魅力的でなければ誰も楽しんでくれませんね。
肝心なトコロを僕は勘違いしていたようです。
ストーリーと人物、両方良いにこした事はないですが、まずは人物ですね!

蛇井さんへ 

そうなんですよ、そこですよね!
私も、最近そこに行き当たりました。

今まで、すぐれたトリックのミステリー等をたくさん読んできましたが、なぜか心に残りません。
要は、ストーリーよりも「人物」なんです。
そしてその「人物」が話す「魅力的なセリフ」なんですよね。

人物が魅力的ならば、何をさせても心にぐっと来ますし、とくに起伏が激しい物語でなくても、
その人物の心象の描写だけで、もう涙が出てくるんですよね。
まさにこの「李歐」がそんな感じ。
人物と背景と運命に「恋」に落ちた感覚です。
(かなりきな臭い舞台ですが)

そんな魅力的な人物を作り出すのも至難の業です。

だけど、そんな、一挙手一投足で読者を魅了する人物を描けたら、もう、思い残すことはないなあーーって、真剣に思います。

NoTitle 

「ベルサイユのばら」を読んでフランス語に憧れ、大学の第二言語にフランスを選択したことのある綾瀬です(笑)

「李歐」は未読ですが、高村作品、私も大好きです。あの、読み応えのある硬質な文体、魅力的な人物たち、どれをとってもこれぞ「小説」という作品をいつも世に送りだしてくれていますよね。

高村作品を読み終わったあとは、いつも頭の芯がじんとします。感動という単純なものでもない、何だか自分の感性が麻痺させられたような、そんな不思議な感覚に陥ります。何だろうなあとおもってましたが、limeさんのレビューを読んで、それは「惚れた」ってことなんだと思い当たりました。

私たち、高村作品に「惚れて」しまっているんです。これはもう、どうしようもないですよね(笑)

綾瀬さんへ 

そうですか、綾瀬さんはフランス語でしたか!笑

そして綾瀬さんも高村作品、読んでらっしゃったんですね。
まさに読後の今日は、仕事中ずっと頭の中で主人公二人のその後が妄想で浮かんできて、
頭の中がいっぱいでした。

「おもしろかった」「感動した」とか言うのとは、ちがうんですよね。ほんと。
「惚れた」としか言いようが無く。

言葉にして感想を言うと、ズレてしまうような、複雑な感覚です。
まあ、・・・惚れてしまったんだから、どうしようもないですね・笑

NoTitle 

そうか、なるほど、これは「惚れた」という感覚なのか~。

そうなんですよ、感動した、というのとも違うし。
涙が出なかったわけではないんですが、とめどなく涙したというものでもないし。
ただ、読んでいる間、寝る前に読んでそのまま寝ると、なんとなく起きたときに現実に戻れないような感がありました。
大陸の夢を見ていたような、いや、大陸に憧れている夢を見ていたような、はたまた、妖しいほどの満開の桜の花びらが散る夢を見ていたような、それとも違って、冷たい鋼のような感触を味わっていたような・・・。

ネタばれになってしまうので、むずかしいですね。
またメールでやりますか?(笑)

あ、ひとつ、limeさんにお願いがあります!
「李歐」を描いてください!
私、すごく絵に描いてみたいと思ったんですが、画力がないので悲しいです。

秋沙さんへ 

やはり、秋沙さんもでしたか。
同じ熱にやられましたね。

そうだ、書きつくせなかったことに「桜」がありますね。
この物語に無くてはならない存在。

あるときは美しく魅了し、酔わせ、一方で狂わせ、畏怖を感じさせ、幻を見させる。
けれどついには・・・5千本の桃源郷ですよ・涙

ああ、戻れない感覚。
今日ね、ずっと物語が終わってからの、彼らのことを考えてました。
物語は続いてるんですよ、私の頭の中で。彼らは「生きてる」んだなあって思いました。

李歐を描く!
それは魅力的だ・・・・。
私の頭の中にあるのは、本当に美しい李歐です。それに画力が追いつくか。。。、

ほら、あの、台所でのシーン。
瞼の裏でスーッと眼球が動く様。白目と黒目とのコントラスト。
なかなか、あんな表現はできませんよ!
なんてなまめかしい・・・・。

いつか、描いてみたいですね~~。

いつか・・・。

NoTitle 

そうそう、台所のシーンとか、その少し前、工場の事務所の戸口にあらわれて一彰と再会するシーン。
アンダーシャツにジーパンで、眠たそうに目を細めながらも、銃口を下に向けた拳銃を片手に持っている李歐。
ものすごいなまめかしいと思うんですよ~。

あぁ、画力があったらいいのに・・・(T0T)

秋沙さんへ 

な・・・、なんで秋沙さん! 同じなの?

秋沙さんに李歐を描いて、と言われた時、真っ先に頭に浮かんだのは、
あの、戸口に立った李歐!

眠むそうで、気だるげで。でも垂らして持った拳銃は、守山をちゃんと守ろうとしてて。

あの一連のシーンは本当に艶めかしくて淫靡ですよね。 (*´ο`*)=3

あの李歐を描いてみたい・・・・・。

NoTitle 

「わが手に拳銃を」の李歐もスゴいですよ。

こんなこといわれたらどんなやつでも落ちるだろう、という、これまでわたしが聞いた中では最強の殺し文句を語るシーンがありますからねえ。

「李歐」ではシーンごとまるまる省かれていますが、たぶん高村先生、読み返して自分で赤面しちゃったんだろうな(笑)

「わが手に拳銃を」の何ページ目にあるかは書きません。読んでいけばすぐにわかります(爆)。

いつかこれという異性にあったら使おうと思っているうちに時は流れて幾星霜、いまだに女っ気はありません。とほほほ(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

むおおおおおーー。

早く読みたい!!

昨日少し読んだだけで、まだまだ数ページ。
リ・オウにはまだまだまだまだ出会えそうにありません・(T_T)

なんだ?なんだ?

男のポールさんさえも唸らせたリ・オウのセリフとは!!!

楽しみすぎて鼻血でそうです。(あ、ちょっと品がなくなりつつあります・・・)

こっちはこっちで、ハードボイルドな世界も満喫できそうだし。
「我が手に拳銃を」、楽しませてもらいます。

・・・でもそのセリフ、前半、中盤、後半、どのあたり???(←待てないらしい)

NoTitle 

やっぱり!?やっぱりやっぱりそうでしょ~~~!?
limeさんとはやっぱり通じるのね♪もう、惚れなおしちゃう(笑)

なんかもう、その時の李歐の姿って、それだけで李歐を全てあらわしてると思うんです。
眠っていても、いつもと違う訪問者に警戒して目覚め、拳銃を持って出てくるその緊張感、訪問者が一彰とわかったから、拳銃を下に向けてくつろいだ顔に戻って。
でももしも、もしもですがそこへ李歐への刺客でも現れようものなら、即座にその拳銃をかまえて迷わず撃ち殺すことができるほどの緊張も、その身体には潜ませているんでしょうね。

あぁ・・・なんて淫靡なのかしら・・・。

NoTitle 

そのセリフ、200ページを過ぎてもまだ出てきません。

まあごゆるりと……(^^)

秋沙さんへ 

まるで野生動物みたいにアンテナを張って、いつもどこかが覚醒してるんですよ、李歐は。
自分のルールであっさりと人を撃ち殺してしまう。冷徹な殺し屋。

でも、そのすぐあとで、あの台所での態度ですもんね。
男だって、女だって、人間だって化け物だって、彼に惚れずにいられようか・・・って。

李歐と口紅。
なんて鮮やかな取り合わせでしょう・・・涙。
「惚れたって言えよ」というセリフも、一彰の唇にイタズラしたのも、
あとで思えば、一彰を自分のペースに巻き込むための作戦だったんでしょうが、
その計算までも美しい。

彼の残虐な描写も、なんとも恍惚感が漂うのは何ででしょう。
もう、官能の化け物ですよ、李歐。

そのくせ、キーナンを間際で助けようとするとことか、一彰と同じポーズの写真をキーナンに言付けるとことか・・・。

港で別れ際、一彰に、「降りて来いよ」と、声を震わせて言うところとか。

そのギャップに悩殺です。

・・・・・こんだけ語った後に、描けるわけがない・笑
そんな魅力的な男!!

あ、そういえば、李歐は昔、映画化されてました。
でも、ちらっと見た感じでは、全然イメージとは違います。ふたりとも。
この作品こそ、映画化は不可能ですよね。

ポール・ブリッツさんへ 

むむむ。
読むしかないかー!

しかしハードカバー! 文字小さいし、2段組!! 笑

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