電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第5話 SOS

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「野崎さんですね?」
宇佐美は事務所に招き入れたその背の低い男にニコリとし、応接セットのソファに座らせた。
昨日の電話で、行方調査の依頼をしてきたのがこの野崎だった。
歳は50歳前後、と言ったところだろうか。
小柄ながらも濃紺のスーツをきっちり着こなし、いかにも名刺に書かれている肩書きが似合いそうな男だった。

「情報通信技術開発の会社をされているんですね」
男から受け取った名刺を見ながら宇佐美がそう言うと、野崎は人の良さそうな笑顔を見せた。
「はい、去年設立したんですが、小さな会社です。まあ、通信機器のシステムサポートやメンテナンスが主な業務内容なんですが、新たに技術開発にも力を入れようとしているところなんです」

「そうなんですか」
宇佐美は気さくに話す野崎に好感をもった。
ここに依頼に来る人間は名刺をくれるどころか、あまり自分の素性を明かさない。
大っぴらにしたくない事情もあるだろから、こちらから訊くこともなかった。

「と、言うことは、そのお仕事と今回の依頼と何か関係があるのですか?」
宇佐美がそう言うと野崎はゆっくり頷いた。
そしてセカンドバッグから一枚の茶封筒を取りだし、そのままテーブルの上にそっと置いた。
大きさから言って、探して欲しい人物の写真なのだろう。
写真は取り出さないまま、野崎は話を切りだした。

「実はもう6年近く音信不通になっている古くからの友人がいまして。その人を捜して欲しいんです。
彼は高校、大学と、青春時代を一緒に過ごしてきた学友なんです。とても才能のあるプログラマーでした。
彼は大手通信機器メーカーに就職し、系列会社で働いていた私の耳にも入るほどの技術者でした。
私たちは事あるごとに一緒に酒を飲み、仕事の愚痴を言い合いました。
もっぱら、愚痴を言うのは私でね。彼はいつも聞き役に回ってくれていました。けれど、・・・6年前その企業が倒産。私の会社もあおりを受けて大幅なリストラが行われました。
彼も私も職を失い、住居を追われ、お互い連絡も取れなくなってしまいました。2年くらい前に彼をこの街で見かけたと知人に聞いたのが最後です。虫のいい話ですが、この事業を立ち上げる上で、もし彼に協力してもらえるならばと思い立ち、実家を訪ねたんです。けれど実家はすでに無くなり、誰に聞いても行方がわかりません。
事実か分かりませんが、厄介な病気で入退院を繰り返しているという噂だけが入ってきました」

最後の方になると、元気の良かった野崎の声もだんだん小さくなり、視線も自分の組んだ手の辺りを彷徨っていた。
「それはご心配ですね」
宇佐美が優しく声をかけた。
「虫が良すぎますよね。いままで音信不通だったくせに、自分の起業のために捜し始めるだなんて」
「いえ、そんな風には思いませんよ」

宇佐美がそういうと、野崎は力なく笑った。
「・・・ありがとう。でもね、言い訳がましいですが本当に心配なんですよ。自分の仕事とは関係なく。きっとどこかで自分の技術を生かして元気にくらしてくれている。それが確認できれば、自分も安心できる。・・・矛盾してますよね。協力して貰うために捜しているのに。でも実際そうなんです」
「ええ、分かりますよ。どちらにしてもその方が見つかれば野崎さんは安心できますね。きっとその方も野崎さんのお気持ちを喜ばれると思います。お力になれるよう、最善をつくします」

宇佐美は優しく微笑むと、情報を書き込むためのノートパッドとペンを手に取った。
そして、給湯スペースでカチャカチャと音を立てている李々子の方にチラリと視線を送った。
ああ、また急須が見つからないんだ。今日もお茶は間に合わないな。そう思いながら。


          ◇

午後6時。
職員室のデスクで、自分のパスワードを入れて開いたPCの画面を見ながら、稲葉はしばし固まった。
いつも覗いている掲示板の書き込みの中に自分に宛てたメッセージがあったのだ。
流れとは何の関係も無いところで約1時間おきに書き込まれたメッセージ。

『電脳うさぎさん、どうか僕の部屋へ来て下さい。相談があります』
名前は「T」とだけ書かれ、そのメッセージの後ろには別のサイトへ誘うURLリンクが貼ってある。
明らかにそれは異質で、流れを遮断していた。
当然のように他の「通りすがり」から『うぜー』『消えろ』等の攻撃を受けながらも、そのメッセージは屈することなく1時間おきに書き込まれていた。

「なんだ? なんで?」
稲葉はPCに向かって思わず問いかけた。
こんなことは初めてだ。
この、相手の顔も見えない無法地帯の掲示板の中で、たった一人に向けてSOSを発進してくると言うことが普通あるだろうか。
稲葉は少し警戒心を抱きつつも、じっとその短いメッセージを見つめた。

相談があります・・・助けて下さい。そう言っている。

稲葉はポンと弾けたようにそのリンクをクリックした。
何を迷うことがあるだろう。躊躇などありえない。
自分を頼ってきているのだ。今こそ力にならくてどうする! と。
稲葉の“入りやすい”スイッチがカチリと入った。

そこは何の変哲もない、シンプルなチャットルームへの入り口だった。
一対一で話すなら、掲示板よりもチャットのほうが適当だったのだろう。
トップには『ようこそ』。そしてそのあとに『あなたが電脳うさぎさんなら、お入りください』の文字。
明らかに管理人が電脳うさぎのためだけに設置した部屋だ。
パスワードはない。
稲葉以外が入って、成りすましたらどうするつもりなのか。
そんな事を思いながら、稲葉は「入室者一人」が待つ、その部屋に入った。


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~ Comment ~

NoTitle 

おっ!おおおお!!??
つながってきた・・・ちょっとずつ。

これは・・・野崎が探しているのは、あの、片瀬が片付けに入った部屋の住人だった人ですかね?
そして、シロちゃんをチャットルームで待っているのは、トムくん?

Enmaは・・・人工知能?
野崎の友人が亡くなった奥さん(と、もしかして子供も?)の代わりの存在として創り上げた、プログラム上の子供?

って、ここまでなら誰にでも容易に予想できる範囲ですね(^^;
さぁ、limeさんがどんな裏切りを見せてくれるか楽しみです(笑)。


ところで、李歐、読み終わっちゃいましたよ~~~(涙)。
語り合おうよ~limeさ~~~ん!

秋沙さんへ 

ははは。
早くも5話で一通りの推測がついてしまいましたか、秋沙さん。
さて、・・・どうするかな、作者・笑
(閉店か?)

まだ先は長いです。何が起こるか、それとも起こらないのか・・・。
じつは、すべて分かってからが、この物語の始まりかもしれません。


おおおおお!
李歐、先に読み終わってしまいましたか!秋沙さん。
私は、本当に読むのがもったいなくて、一行一行、息を呑んで(あるいはニヤニヤして)読んでます。

ああああ、でも、語りたい!!
よし、覚悟を決めて、読みます!
待っててください。
ウザいほど語りますよ!

わりこみ ^ ^; 

うーむ、私は「神の火」で語りたい…(笑)

西幻響子さんへ 

あ、「神の火」。
私はまだ読んでないんですが、秋沙さんに何度も進められました。
いずれ、絶対読みます!

もう、高村薫がとまらない・・・・。

スーパードクター lime医師! 

沢村?⇔ENMA⇔トム→稲葉⇔宇佐美→野崎⇔沢村←片瀬...
簡略相関図としては こんな感じかな?

末端の毛細血管が 静脈、動脈 そして 心臓に 繋がって行く様です。
一番大事な 心臓が どんな働きをするのか!

スーパードクターlimeさま、 見事な執刀を お願いしたいです。
楽しみにしてま~す(^^)ゞbyebye☆
 

けいったんさんへ 

これは素晴らしい。けいったんさん。
こんな相関図的な縮図を!!!

心臓部も、毛細血管たちも、ざわざわとうごめいて、大動脈に流れているのが何なのかを探ります。

最後に稲葉君が動くとき、このお話の主題が、やんわり見えてくればいいなあ・・・と。

・・・確かにこの物語は「治療・施術」がキーワードかも。

ああ、もう、何も語れないコメント返し・笑

NoTitle 

怪しい、怪しすぎる。
白ちゃん・・・
スイッチだらけだものねぇ。

どんな展開になるのか。
わくわくしていようっと。

明日のお楽しみにとっときます。
へへ
v-391

ぴゆうさんへ 

今日もありがとう~、ぴゆうさん^^
どうか、無理のないペースで、のんびり来てくださいね。
病みあがりは要注意ですぞ~。

はい。
なんだか怪しげですよね。
まだまだ、謎が出つくしてない段階なので、じれったいかもしれません。
どうぞ、じわじわ、シロちゃんと一緒に、チャットルームへお入りください。

とにかく、頭を真っ白にして、シロちゃんになって、読んでみてくださいね^^
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