電脳うさぎとココロのありか

電脳うさぎとココロのありか 第2話 稲葉とラビット・ドットコム

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探偵事務所の名は『ラビット・ドットコム』。
所長の宇佐美が、先代の卯月所長の名と、自分の宇佐美の名から、遊び心で改名した名だ。
稲葉とラビット事務所との関係が始まったのは、ほんの一年ほど前になる。
ある依頼でこの女子校に潜入していた探偵、宇佐美諒(うさみ りょう)との出会いがきっかけだった。
宇佐美の仕事と人柄に惚れ込んだ稲葉は、押し掛けるようにしてその探偵事務所に入り込んだ。
クラスの担任も部活の顧問も免除されている稲葉は、いつも学校から直接事務所に向かうのが日常だった。

けれど今日は門の前で呼び止められ、稲葉の前で二人の可愛らしい女子生徒が頬を赤くしている。
受け持ったことのない、名前も知らない生徒達だった。
稲葉はそのシチュエーションにドキリとする。
これは、もしや・・・。
しばらく忘れていた青っぽいサワサワとした気持ちが心の隅にポッとわき上がる。
良くも悪くも単純で純粋な青年の健全なる思考パターンだ。
稲葉の場合、あまり経験のないシチュエーションなのは間違いない。

「先生、あの・・・」
背の低い方のショートカットの女の子が恥ずかしそうに顔を上げると、もう一人の背の高い子は
がんばって、とばかりに一歩後ろに下がった。
“なんてかわいらしい”
まるでシナリオ通りのその動きに稲葉はドキドキする。密かに憧れていたシチュエーションだ。
だが、顔に出すわけにはいかない。ここはあくまでクールに冷静に。
そう思いつつも、ショルダーバッグを握る手が汗ばんできた。
「どうかした?」
これ以上無いほど優しい声を出してみた。

彼女いない歴12年。
真面目に生きているはずなのに何故か『うざい』とか『面倒くさい』とか言われ、友だち止まりがオチだった。
確かに趣味のゲームや、好きな映画や漫画の話をし始めたら止まらない癖はあった。けれど宇佐美などはいつも楽しそうに聞いてくれる。そんなに欠点だとは稲葉本人も思っていなかった。じっと見つめられて『顔はいいのに残念よね』と言われた時には何と返せばいいのか分からなかった。
もちろん女子生徒と・・・などと考えたことは無い。不謹慎だ。
けれど、たまにはこんなボーナス、あってもいいじゃないかと思った。

黄昏時の柔らかい風が懐かしいような土の匂いを運んでくる。
その女の子は緊張した表情で稲葉をじっと見つめ、一歩近づいてきた。
近い。かなり近い。思わず一歩下がりそうになるのを踏みとどまる稲葉。
小顔で小柄でとても可愛らしい女の子だった。
なんだかとてもいけない事をしているような気分になり、稲葉の全身がじわっと汗ばむ。
女の子の唇がゆっくり開いた。
「先生。稲葉先生・・・わたし、あの、せんせいのこと・・・」

けれどどこにでも最悪なタイミングというものはあるらしかった。

「シロちゃーーーーん!」
女の子の語尾をかき消すほどの大きな声とその持ち主の体が、突如稲葉に激突してきた。
一瞬未知なる肌色触手生物が襲撃してきたのかと思った。
稲葉の首にもっちりした瑞々しい白い腕が巻き付いて来たのだ。
正面にいる二人の女の子も目を見開いて固まっている。

稲葉のことを『シロちゃん』と犬のような愛称で呼ぶのはこの世でただ一人。
(因幡-いなば-の白うさぎから取った名らしい)
そして、大胆なスキンシップを図ってくるのもこの人しかいない。
首に巻き付かれたからなのか、甘いコロンの香りのせいなのか、一瞬クラリとしながらも気力を振り絞り、稲葉は噛みつくように大声で言った。
「李々子さん! 何してんですか!」

振り返った先には少しも動じず、ニッコリと妖艶な笑みを浮かべている年上の女性がいた。
緩く巻いた栗色の髪。色白の瓜実顔にペルシャ猫のような大きく勝ち気な目。そして透け感漂うシフォンブラウスにショートパンツ。相変わらず露出度が高い。
彼女は卯月李々子(うづき・りりこ)35歳。
色っぽさと子供っぽさを絶妙に配合したこのお色気お姉さんは、宇佐美の下で働くいわばマネージャーのような存在だ。
一目見て稲葉を気に入ってくれたらしく、以来変わらず濃いスキンシップで稲葉をかわいがってくれている。新人社員としてというより、ペットとして、と言った方が近いような気が稲葉にはしていたが。

「近くまで来たんでシロちゃんの学校覗いてみたくなったのよ。それにしても、すごくきれいな校舎なのねえ。びっくりしちゃったー」
「びっくりはこっちですよ! って、手を放してください。ここは学校なんですから!」
真っ赤になって稲葉が叫ぶと李々子はスルリと手を引っ込め、今度は目を丸くして立っている二人の女生徒を見つめ、ニコリとした。
「あらー、かわいい生徒さん。こんにちはー。稲葉がいつもお世話になってますー」
「いや、李々子さん、その挨拶ちょっと間違ってますから」
女の子たちに近づく李々子を引き寄せながら稲葉は慌てて二人に取り繕った。

「ごめんね、なにか話があったみたいなのに。あの、・・・この人、酔っぱらってるみたいだから連れて帰るよ。近所の人なんだ。また今度話を聞くから」
困惑顔の女生徒二人を残し、稲葉はそのまま李々子をひっぱりながら門を飛び出した。バツが悪くて振り返ることができない。部活の生徒の視線もいくつか感じた。妙なうわさが立たなきゃいいんだが。
いろんな事を考えながら稲葉は、門が見えなくなるまで李々子をひっぱって歩いた。

「あれえ? 怒ってる? シロちゃん」
覗き込むように見つめてくる李々子をチラリと見て、稲葉はようやく手を放した。
「怒ってますよ。学校で抱きつくのはやめてください。僕、一応教師なんですから」
「だってー」
李々子は少し拗ねるように唇を尖らせた。
「かわいいシロちゃんをあんな若い子に取られちゃうなんて悔しいじゃない」
「取られるとか、無いですから! 僕は教師ですよ。生徒となんて、何も起きません! それに、李々子さんには宇佐美さんが・・・」

言いかけてハッとした。
まだこの話題を振るのは微妙な時期だ。

李々子は先月、ある事情で探偵社をたたもうとした宇佐美に、ずっと一緒に居たいのだと自分の想いをぶつけた。
けれど宇佐美は、事務所を存続させることでその想いに答えた。・・・と、本人思っている。
あれはきっと告白だとは思っていなかったのだと稲葉は確信していた。
そして李々子もそこで何かが吹っ切れたように、何事もなかったかの如く、今までの関係にもどった。
呆気ないほどに。
いったいどこで李々子が吹っ切れたのか稲葉にはわからなかったが、説明されたところで理解はできないのだろう。実に不思議な関係の二人だが、稲葉には何となく、それはそれで良いんじゃ無いかと思えた。
そして二人は今のままでいて欲しいような、そんな想いもあった。

「諒が待ってるわよ。今日は寄り道無しで行きましょうね」
いつも自分が寄り道を誘うことを棚に上げ、李々子はそう言ってニコリと笑うと駅の改札を抜けていった。
稲葉も定期を取り出す。

それはマンションと学校を往復するだけだった昨年までは必要なかった物。
宇佐美、李々子、稲葉、3人で構成されるラビット・ドットコムへ行くための、特別な定期だった。


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~ Comment ~

NoTitle 

ダメです。

稲葉くん、それだけはダメです。

生徒は退学、自分は懲戒免職ですよ。

李々子さんが正しい。

李々子さんナイスフォロー。v-218v-391

NoTitle 

>じっと見つめられて『顔はいいのに残念よね』
あ……このセリフ、実生活で言ったことがあります。。(ごめんなさい、あの時は若かった・・・)
だから稲葉くんがお気に入りキャラなのかも(笑)
がんばれ、稲葉くん! 大丈夫、私にひどいこと言われた友人はその後、超がつく美人と結婚して今はとてもとても幸せに暮らしてます。
稲葉くんも、きっと!(笑)

ポール・ブリッツさんへ 

生徒と付き合うのはそんなに重罪なんですか~( ̄□ ̄;)!!

でも、大丈夫。稲葉君にはそんなに簡単に春はきません。
あ、でも、卯月(元)所長がいるか・・・・。
いやいや、それこそ李々子が暴れる。

でも、本当はちょっとくらいはいい思いさせてあげたいなあ。

しばらく緩い展開ですが、お付き合いください♪

綾瀬さんへ 

はははは。
綾瀬さん、言っちゃったんですか・笑
それは気の毒な彼。

実際、いるんですよね、そんなひと。私にも心当たりがあります。
(美人とも結婚せず・笑)

稲葉君、なかなか幸せになれない体質みたいです。
(作者がイジワルだし)

でも、このあと頑張りますから、応援してやってくださいね(*´∀`*)

NoTitle 

いえ~~~い!李々子登場~~~!!
俄然テンションあがる~~~!!笑

「顔はいいのに残念よね」
思い当たりますね~~~~笑笑

なるほど、このお話は今までのラビットシリーズのその後なんですね。
あぁ。。。やっぱり諒ははっきりとしたことを言わずに、ラビット存続と言う形で李々子に答えちゃってたんですね(^^;
なんかほっとしたような残念なような複雑な気分ですが、このお話がこれから続いていくためにも、二人にはなかなか明確な仲にはならないでおいていただかないと(笑)。
そして、シロちゃんにも簡単に幸せをつかんでもらっちゃ困る、と(^^)

秋沙さんへ 

李々子登場です~♪

はい、本編ではまるく収まってたようにみえたけど、
ひっくり返したい欲望が・・・・。

この特別編では、ミステリーに徹しますので(ほんと?)あまり恋に関する感情のやり取りは無いかもしれませんが、かわいらしい李々子、みてやってくださいね。
(本当は暴れさせたい・笑)

シロちゃん?
はい、シロちゃんに彼女なんて・・・ねえ( ̄ー ̄)

NoTitle 

助けてください、limeさん。
宇佐美が完璧に学校の先生とキャラが被っていて
どうやっても抜け出せません。

もう僕は・・・駄目かもしれません・・・。

ねみさんへ 

あ、宇佐美じゃなくて、稲葉じゃないですか?
うーん、稲葉タイプの先生・・・・居そう・笑

ねみさん、仲良くしてあげてください。
ちょっとウザくても・笑

いいよなぁ~(ー3ー) 

性格は どうであれ お顔が 素敵な教師は 目の保養ですぞッ!
しかも 大人(年齢だけは)な男性ですぞッ!
羨ましいでは ないですかッーー!!

私の高校時代の教師って 化学オタクや、英語のサイボーグ、柔道一筋(片耳がギョウザ )の体育教師etc...と、 イケメンなんて 一人も居なかったのーー(ii0ii)

第一話が すっごくシリアスで 得体の知れない怖さが あったから 稲葉の登場は ホッとします
それでは(^^)ゞbyebye☆ 

けいったんさんへ 

ははは。いいですよねえ、イケメン教師。
けいったんさんは出会わなかったんですね。(T^T)

私の高校時代の現国の先生が、めちゃくちゃ二枚目だったんです。
若き日のクリント・イーストウッド。ダーティーハリー♪
性格は冷ややかで鋼鉄だったんだけど、恋しちゃいましたねぇ。

さあ、もうちょっとこれからチャット方は、怪しげな展開を見せますが・・・・
稲葉君が癒してくれると思うので、安心してくださいね♪

NoTitle 

癖って恐ろしい。
どんどん読もうとしている。
アブニャイアブニャイv-15

これまた微妙なトライアングル。
宇佐美はどんなかな。
ワクワク
もーーlimeさんお宅はイケメンばかりで・・・
楽しい~~
v-10

ぴゆうさんへ 

おおお! ラビット番外ですね!

たぶん、ラビット・ドットコムを読む前に、この番外を読んで下さるのは、ぴゆうさんが初めてかもしれません。
ラビットの3人がどんなふうに映るのか、ドキドキです。

本編では、稲葉君は本当にドジばかりで、残念なイケメン。
宇佐美は頭脳明晰、恋に鈍感な以外はパーフェクトな医学系探偵です。
本編は、ちょいと稲葉君、宇佐美に惚れてましたが、李々子に譲った形・・・ですかね^^

この「電脳うさぎ・・・」では、そのダメダメ稲葉君を主役に持ってきました。
軽いタッチですが、かなり切ない味付けをしてみました。
ぴゆうさんに、楽しんでいただけたら嬉しいな~~~。

ぴゆうさんのコメが楽しみでしかたない今日この頃i-189

NoTitle 

「生徒と付き合うのはそんなに重罪なんですか~( ̄□ ̄;)!! 」

↑とんでもないっ
そんなことを言ってたら、fateの世界は倒錯じゃなくて犯罪worldになってしまいます…(--;

まぁ、すでに犯罪は多々犯しておりますが。
銃刀法違反とか未成年に対するむにゃむにゃとか、あれとかこれとか…
列挙するだけでぐったりすることが…

おお、これは番外編なんですね。
けど、恐らく訳分かんなくても気になりませんわ~
ご存じの通り~(^^;

磯崎愛さんのところでも、変な読み方を現在進行形でさせていただいておりますし。

探偵さんって、物語の幅が一気に広がって素晴らしい職業ですねっ
まさに何でもありで、何でも‘仕事’で片付く!!!
万能職業ですなっ(^^)

一人ひとりのキャラ設定がしっかりしていて、なかなか楽しそうな世界で、楽しみです(^^)


fateさんへ 

ははは。全然、問題ないですよねぇ~。恋なら。

この稲葉君・・・いや、このラビット・ドットコムの世界観は、とても健全なのです^^
「白昼夢」を書きながら、思い切り健全でポップな世界を書きたくなって、始めた物語ですから。

だから、この物語は「重く」は無いはずです。
けれど・・・独特な悲壮感と切なさを描ければなあ・・・と思います。

いやいや、fateさんは、思いっきり背徳で倒錯な世界を描いてください!
私も、今ではもう、こんな健全な物語は書けないかもしれません。
それ以降は・・・けっこうヤバイですから^^;

探偵と言う素材はいいですね。
犯罪の匂いもしながら、警察小説のような堅苦しさもない。

もう、探偵ばっかり書きたくなります・笑

稲葉、李々子、宇佐美を、気に入っていただけたら嬉しいなあ~~。

今回は稲葉(シロちゃん)と、少年達がメインとなりますが。

NoTitle 

こんばんは♪

なんとなく関連のある小説なのかな?と思ったら、
やっぱり!!でした☆

この小説なCASE OF 稲葉って感じのタッチで。

今日はお酒を飲んでいて、
対して飲んでないのに、
やたら酔いの回る日で、
残りは明日とさせていただきます。
まだ序章ですが、この先を楽しみしています。

さやいちさんへ 

電脳うさぎへ、ようこそ。

はい、これはラビットの稲葉君編です。
ちょっぴりまた、謎が隠されているので、じわじわ、想像しながら読んでみてくださいね。

お酒飲みながらの夜ふかし^^
いいですね。
二日酔いになりませんように。
(そんなに飲んでないですよね^^)

あとひとつ 

ラビットをあとひとつ、読んでいないはず。
と思って来てみましたら、これがありましたね。番外編なのですね。

稲葉くんと莉々子さんにまた会えて、嬉しいです。
私の尊敬する田辺聖子さんが書かれていました。ごぞんじかもしれませんが。

「物語の主人公はあまり「いい子」じゃないほうが、読者の共感を得やすい」のだそうです。

稲葉くんや玉ちゃんみたいにちょっとドジなタイプは、主人公としては微笑ましくて可愛くて、うん、わかるわかるって感じで、私なんかはすぐに心をつかまれちゃいましたもんね。

最初のチャットで思い出しました。
子どものころ、近所にちょっと変わった男の子がいて、空き地が火事になったのを見たその子が、ものすごく興奮していたと祖母が話していたのです。

「あの子、危ないなぁ、大丈夫やろか」
と大人たちが心配していて、それから十数年後。

その彼が医者になったと聞いてみんなびっくりしました。
ほんとに大丈夫なんですかね。
火事の件だけではなく奇行の多かった彼、医者としてまっとうにやっているでしょうか。

あかねさんへ 

あ、今ちょうどあかねさんのところにお邪魔してたところです。

ラビット番外編へ、ようこそ^^
ちょっと長い番外編ですが、がんばっておつきあいください(いや、がんばらなくてもいいんですが)

えへ、稲葉くん、相変わらず頼りないですよね。
でも、そうなんですね。主人公は、ちょっとダメ人間のほうがいいんですね!
よかった。
ほんとうに稲葉くんや玉ちゃん、たよりないから^^;

あ、でも、ほかのお話の主人公、すっごく優等生だ!やばい!

> 最初のチャットで思い出しました。
> 子どものころ、近所にちょっと変わった男の子がいて、空き地が火事になったのを見たその子が、ものすごく興奮していたと祖母が話していたのです。

へえ、そんなことがあったのですね。
でも、分かる気がします。
火事があると、やじうまがすごくて消防車が通れなくなるそうです。
炎って興奮するものなのかもしれませんね。特に男。

その子がお医者さんですか。
考えてみたら、医者や警察官って、ちょっと変な人がおおいですよね。
どこか変わり者が多いと、よく聞きます。

奇行がおおかったってのは、かなり気になりますが・・・。
患者さんの無事を、祈りましょう^^。
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