僕らの相対論2・シュレーディンガーの猫の章

僕らの相対論2 第7話 ひどい奴

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少年達は顔を引きつらせながらジリジリと冷蔵庫から離れた。
どうにかしてこの状況から逃げ出したいらしい。
「あれ? 見ないの?」
光瀬がつまらなさそうに言い、そして不意に笑う。
二重だが切れ長の涼しげな目、スッキリと通った鼻筋、少し長めの前髪が目元に陰りを落とす。
意味ありげに笑うと、それら全てがゾッとするような狂気じみた怪しさを醸し出す。
僕が一緒に住んでたのは、本当にこいつだったのだろうか。

「う・・・うん。実験は中止します。僕たち、帰るから」
目を合わせないようにゆっくりと後退していく少年3人。
「なんだ、残念だなあ。楽しみにしてたのに」
カラリと光瀬が言うと、3人は申し合わせたように今来た方向に走り出した。アスファルトと溝蓋の段差につまづきそうになりながら。
あれ? 行っちゃうよ? いいのか、光瀬。
そう思った矢先、鋭く光瀬が少年達を呼び止めた。
「ちょっと待て! そこのA、B、C!」
20メートル先で、雷に打たれたように立ち止まる3人!
僕とソラも、ぴりりとした空気に緊張し、固まった。

光瀬はスッと首を伸ばし、よく通る声を少年達に投げつけた。
「いいかお前ら。二度とソラに悪さをするな。もしもまたソラを標的にするようだったらこの映像は関係各所に配信する。それからついでにソラをいじめるヤツがいたら、おまえ達が守れ。いいな。これがおまえ達の悪事との交換条件だ。簡単なことだろ? 守れるよな?」
有無を言わさぬ気迫に、少年達は口々に「はい!」と叫ぶと、再び全速力で走り去っていってしまった。
乾いた風が巻き立てたホコリっぽい匂いが辺りに残った。

「バカな中坊だなあ」
光瀬はゆっくり振り向くと、のんびりとした声で僕らに笑いかけた。
「ありがとね、光兄」
「おう! かわいい弟を虐めるヤツは許しちゃおかねえ」
芝居がかった口調で言う光瀬に、ソラが嬉しそうに笑った。
けれど「ソラも、もう少し強くならなきゃダメだぞ」と、忠告するのも忘れなかった。
一件落着。

・・・一件落着なのか?

「光瀬」
僕は恐る恐る聞いてみた。
「猫は・・・猫はどうなったんだ?」
そう言った瞬間、光瀬の顔がサッと曇った。
僕はそれを見逃さない。
「なあ、猫はどうなっちゃったんだよ」
僕はその不気味に錆び付いた黒い箱に目をやりながら、もう一度聞いた。

「比奈木・・・残念だよ」
光瀬がさらに顔を曇らせた。
「残念って何だよ」
「開けてみろよ、このドア」
「嫌だよ。なんで僕が開けるんだよ」
「君が酷いヤツだからだ」
「僕の何がひどいんだよ」
「比奈木はこの中の猫が生きてると思う? 死んでると思う?」
「そ、そんなのわかんないよ。考えたくもない」
「生きてると思う?」
「そりゃあ、生きていて欲しい」
「死んでると思う?」
「・・・死んじゃってるのか?」
「君はやっぱり酷いやつだ」
「だからなんでだよ! ひどいのは光瀬だろ」
「よく見て」
光瀬は僕の肩を持ち、グッと前屈みにさせると勢いよくその黒いドアを開けた。

目を閉じる暇も無かった。
使い古した冷蔵庫特有のムンとした嫌な匂いが鼻をつく。

けれど中身は空っぽだった。
ポッカリあいた庫内は、ハナマルをあげたいほど綺麗で何もなかった。

「カラッポだ」
「当たり前だろ?」
光瀬はしゃがみ込んだ僕の横に同じようにしゃがみ込むと、顔をぐっと近づけて不満そうに言った。
「比奈木は俺をなんだと思ってたんだ。さっき言ったばかりだろ? 俺は猫好きなんだぞ」
横でソラが堪えきれないように笑い出した。
ソラはきっと光瀬が猫を救出したのを疑わなかったのだろう。
そりゃあ、おかしいはずだ。
僕も最初は疑いもしなかったのに。

「ごめんな光瀬。そう思ってたんだけど余りにも光瀬が迫真の演技だったんでさ。本当にそんなマッドな人間じゃないかと一瞬思った」
「お、そうか? じゃあ、あの3人も騙せたかな」
「気の毒なほど騙されたと思うよ。だから動画は消してやれよ」
「は? 動画? そんなもん無いよ」
「あ?」
「昨日たまたま奴らが猫を放り込むのを見かけただけで。動画なんて撮ってないよ。そんな趣味もない」
「なんだ、・・・そうなのか」

まったくどこからどこまでがウソなのか分からない。
光瀬は役者より詐欺師に向いていると激しく思う。
「まさかまたあの3人に出くわすとは思わなかったよ。しかもソラを虐めてる奴らだったとはね。ソラのかたきも打てて良かった」
光瀬はご機嫌に笑った。
なんだか僕一人ハラハラして少しばかり損した気分だ。

そんな僕に気付いたのか、ソラは「ごめんなさい」と謝ってきた。
「光兄から子猫を助けた話は聞いていたんです。でも、あの連中が犯人だなんて知らなくて。途中で気が付いたんだけど、光兄のお芝居に圧倒されて説明する暇がなかったんです」
相変わらず、かわいい奴だ。
「いや、ソラが謝る事じゃないって」
僕がそう言うと光瀬はうんうんと頷き、「そうだ。俺を信用しない比奈木が悪い」と何度も言った。

このあと僕たち3人はどうでも良いことで談笑しながらアパートに帰るのだが、
僕はアパートの鍵を開ける時になって、ある疑問にかられた。

“光瀬が助けた猫は、どうしたんだろう”

その答えはドアを開けた向こう側にあった。
白と黒の手のひらサイズの可愛らしい子猫が、僕らを出迎えるように玄関マットの上にちょこんと座り、小さな声でミャーンと泣いた。




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さあ、長い余興でした。
次回から、本題の物理学の話にもどります。

え? 戻らなくていいって?

(´A`。)。。


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~ Comment ~

NoTitle 

ああ! 猫が飼いたい!!!←感想じゃないぞ

まだENDではないのですね。
ぶつりぶつり♪

Route Mさんへ 

私も猫、飼いたい!!

そう、まだ終わりません。

だって、光瀬がまだ読者を物理でうんざりさせてないですから。(どんな趣旨)

物理物理。・・・いや、これから先は、空想科学??

(オープンコメだ♪)

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメさんへ 

おおおお。
そうなんですね。(T_T)
なんとも・・・・。
先程そちらにおじゃましてメッセージ残してきました。

かえって、私に激励のメッセージ、本当にありがとうございました。
すごく嬉しかったです。

待ってますからね~~。
私の寿命がすでに心配ですが、なんとか生きながらえて、待ってますからね~~。

NoTitle 

猫ちゃん生きていましたか!

よし、検出装置と毒ガスを用意して……(しません(爆))

ポール・ブリッツさんへ 

しません!笑

やっとシュレーディンガーに話を戻します。
ポールさんの話とダブらなければいいんですが。

その確率はかなり低い?

NoTitle 

あれ?まだendじゃないんだ?

ここからがシュレなんとかに戻るんですね?

みつにい・・・まだ何かしでかしてくれるんですか?(笑)

NoTitle 

くっ・・・。
猫がかわいいっ・・・。

いいな、ねこ。

ほしいな、ねこ。

秋沙さんへ 

ここで終わった方がよかったかも・・・笑

みつにい、何かやらかすんだったかな?

いえいえ、めくるめく、光瀬ワールドにご招待。

ねみさんへ 

かわいいでしょう~~。ねこ。

次回は、存分にかわいい猫の世界へご招待します。

ほんと?

NoTitle 

もーーーニャンが不幸になったら、
ポールのとこみたいにv-294だらけにして帰ったろうと・・・
ニャハハハ

読むのを止められなかったよ。
お主、なかなかやるのぉ~~
光瀬の頭のいい解決の仕方に、惚れ惚れだわ。
白黒と云うことはハチ割れちゃんかしら。
きゃわいいーーーー

ぴゆうさんへ 

ああ~~、よかった。
v-294されたら、掃除が大変でした( ̄ロ ̄lll)
光瀬も猫好きでよかったにゃん^^

お、読むの止められなかったっすか!うれしい。
光瀬、なかなか役者でしょう。
比奈木は大変そうだけど、こんな友達、欲しいかもw

次回、仔猫ちゃん登場♪
そうそう、ハチ割れちゃん。
ふわふわ、コロコロする。
その周りで、また物理学考察が始まります。

光瀬くん好きだ! 

なんか、ハッタリのかまし方とか、妙に親近感を抱きました。
そういうどこか‘狂気’的なモノを宿した人間が好きなんて、fateはやっぱり病んでいるのだと実感出来た次第です…。

続きは…また、お邪魔したときに拝読させていただきます(^^;

fateさんへ 

いらっしゃいませ。ようこそ光瀬の奇妙な世界へ^^

光瀬を気にいっていただけて、とてもうれしいです。
このシリーズは他の作品とはちょっと違って、敬遠されがちなんですが、読んでいただいてうれしいです。

わたしも光瀬、気にいっています・笑
とんでもない奴ですが。(奴の半分はハッタリでできています)

fateさんも、沢山作品を書かれてらっしゃるんですね。
倒錯の世界はすごく好きなので、またこんどゆっくりお邪魔しますね。
(これは最初に読んでもらいたい!という作品がありましたら、教えてくださいね^^)

ご訪問いただき感激です! 

ご訪問・ご感想ありがとうございます。
光瀬くんには、しばらく追っかけさせていただきます。
これからfateの地域は作業停電するそうですので(^^;のちほど、ゆっくりお邪魔いたします。

おお!言っても良いですか???
fate自身、なんとなく気に入っているのは、『光と闇の巣窟』もそうですが、『紺碧の蒼』と『永遠の刹那』。あと、R指定なので、あまりお勧めはしませんが、『サードゥ』なんかも、けっこう言いたいことを込めた…かな?
と思います(・・;

では、今後ともよろしくお願いいたします。
もしよろしければ、リンク貼らせていただいてよろしいですか?
ただ、『官能』ジャンルも半分くらいありますので、ご不快でしたらご連絡いただければ、と思います。

fateさんへ 

ああ、光瀬くん。
気にいっていただけたのはうれしいですが、この二作品にしか登場しなくて(>_<)

彼のような、トンデモキャラは・・・ほかにいないかな?
「倒錯的」「背徳的」というのなら、『白昼夢』ですが^^(バッドエンドです)

はい、リンク喜んで。こちらも貼らせていただきますね。(R18あり)と表示させていただいてもいいでしょうか。

またそちらにも遊びに行きます^^
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