僕らの相対論2・シュレーディンガーの猫の章

僕らの相対論2 第3話 イジメ

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「しかし、分からないんだよなぁ。シュレーディンガーの気持ちが」
光瀬はバスの窓から外を見ながら不満そうに言った。

「何が?」
「あの思考実験さ」
「分からなくも無いんじゃない? シュレーディンガーはアインシュタインと同じで、不確定な量子論に反発したかったんだろ?」
「そうじゃなくてさ、猫だよ」
「猫?」
「なんでマウスじゃなくて猫にしたんだろう」
「まあ、本当に実験するわけじゃないから何でも良かったんじゃない?」
そろそろ僕も、光瀬の質問に飽きてきた。

「じゃあ、人間でもいいのか?」
僕のいい加減さが伝わったのか、光瀬は少しむっとした声を出した。
こうなったら本当にこいつは面倒くさい。
「そりゃ倫理的に大問題だろ」
「じゃあ猫だって大問題だ。思考の上でも殺すのは不憫だよ」
「光瀬は猫好きなんだな」
僕は思わず笑った。
「比奈木は?」
「僕も嫌いじゃないよ。実家でずっと飼ってた。ギネスに載りそうなほど長生きしたよ」
「そうか、よかった」
どういうわけか、この日一番嬉しそうに彼は笑った。
もしも純情な少女だったら、この優しい人とずっと一緒にいたいと思うような類の笑顔だ。
自分が男で本当に良かった。
こいつに恋したらきっと大変だろう。

アパートに一番近い停留所で僕らはバスを降りた。
ここからアパートまでは徒歩で15分。ちょっと不便なのが難点だが、静かで落ち着いた雰囲気のこの街は、学生にとっては住みやすくて気に入っている。
僕の苦手な匂いを出す銀杏の季節も終わり、ほとんど葉は落としてしまったが、騒然と並ぶイチョウの木はとても圧巻だ。
イチョウ並木の筋を折れ、少し年季の入った民家や学生寮が軒を並べる細い筋に入ったところで急に光瀬が足を止めた。

「どうした?」
僕はそう言いながら光瀬の視線の先を見た。
「あ」
僕らの数十メートル先にソラがいた。そしてそれを取り囲むように3人の少年が並んでいる。
ソラよりも背格好は大きいが、おそらく彼らは中学の仲間なのだろう。
ソラがあまりにも規格外に小柄なのだ。そんな部分はとても親近感が湧く。

けれども彼らの様子はとても友好的なものには感じられなかった。
怯えた表情のソラが一歩後ろに下がるたび、3人はワザと肩をいからせて威嚇するようにソラに近づいてゆく。
腹を空かせたハイエナが群れからはぐれたリカオンににじり寄っていく姿に似ている。
いや、しかし、あれは生きていくための正当な行為。
目の前の「それ」は人間の子供特有の一番忌むべき行為だ。

逃げようと向きを変えたソラの腕を一番体つきの大きな少年がつかんだ。
バランスを崩して地面に倒れ込んだソラを3人が面白そう笑った。
僕はゾワッと怒りが頭に登って行くのを感じ、隣の光瀬に叫んだ。
「止めなきゃ」
しかしそれを聞く前に光瀬は弾かれたように少年達の方へ走り出していた。
「光瀬!」

止めに入るのか? 怒鳴るのか? 殴るのか?

いつも飄々としている光瀬の、怒った姿を僕は知らない。
普段おとなしいヤツがキレたら恐ろしいというのは、けっこう知れ渡ってる常識だ。
ソラは光瀬が弟のように可愛がってる少年なのだ。ただで済むわけがない。
しかし暴力はだめだ。無理だ。年齢差ゆえ正当防衛にならないじゃないか。
僕は光瀬のあとを追いながら心臓がバクバクするのを感じていた。

勢いよく走って来た光瀬に気付き、少年達が振り向いた。
倒れたままのソラも驚いたように目を見開いている。3人の少年は一瞬顔を引きつらせた。
それはそうだろう。イジメの真っ最中に身長180センチはあろうかという長身の男が怖い顔で突進してきたのだから。

どうする僕。止めるか? 止めるのか? 殴る前に止めるのが僕の役目なのか? やっぱりそうだよな。
「光瀬!」
やっと追いついた僕は光瀬の肩に手をかけた。
けれども覗き込んだ光瀬の顔は予想に反して穏やかなものだった。
それどころか、薄く笑っている。

青ざめて見上げている3人の少年に光瀬は、その穏やかな表情のまま楽しそう言った。
「なあ君たちさあ、面白い実験があるんだけど、これから一緒に見に行かないか?」



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~ Comment ~

NoTitle 

光瀬くんの頭がフル回転している様子が伝わってきます(^^)

この悪ガキ三人組が、どれだけひどい目に遭うのか今から楽しみです(Sかなわたし)

ポール・ブリッツさんへ 

わかりますか (^.^)

きっと頭ん中、すごいことになってます。

ポールさんも(S)だと知って安心しました。(も、って・笑)

ああ、でも、Sを満足させられるかな?

NoTitle 

さぁ、これがどう「シュレディンガーの猫」とつながっていくのか楽しみですわ(⌒^⌒)bうふっ

私も・・・どうして「猫」なんだろう・・・?とそればかりが気になっています。

秋沙さんへ 

楽しみにしていただいて、うれしい!

こっからは、少しややこしい物理を離れます。

無事にシュレーディンガーの猫へ話が戻りますように・・・(*^_^*)

NoTitle 

これからクソガキをどうやって

けっちょんけっちょんのうにひっはっ!にしてくれるのか

それが今楽しみです(←

ねみさんへ 

ねみさんも来てくれましたか♪

さあ、けちょんけちょんと行けばいいんですが。
光瀬は変な奴ですから。

でも応援してやってください。

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鍵コメ16さんへ 

わ~~、電脳うさちゃんと、相対論、ダブルで読んでくださってるんですか!!

ありがとう~~。
でも、大変じゃないですか?
忙しいのに、読みにきてくれてうれしいです!!

猫ちゃんの運命、見届けてやってください。

私もまた遊びに行きますね♪

光瀬君!主人公君! 

同志よ!(笑)

ネコが好きな人は皆仲間です!!

さて、光瀬君がいじめっ子どもを、どう料理してくれるのか今からとても楽しみです(笑)

光瀬君のことだ一筋縄でも二筋縄でもいかない筈!
そして、主人公君も頑張れ!!

有村司さんへ 

有村さんも猫好きでよかったです。
光瀬も比奈木も、猫が好き。
これ、けっこうこの物語の(隠れた)重要なポイントになります。

そう。ww 光瀬、やってくれますよ。
ちょっと常識人にはできない方向で。笑(←アブナイ方向ともいう)

じっくり傍観してください。
比奈木も(役立たずですが)いっしょに傍観します。
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