僕らの相対論2・シュレーディンガーの猫の章

僕らの相対論2 第2話 映画のラストシーン

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バスのシートに並んで座りながら光瀬は解説し始めた。
「ほら映画の最後、主役の女教師は少年Aに『お前の母親を殺した』と仄めかしたろ? 少年Aに復讐するために。実際にはそれは想像をさせるようなニュアンスでしかなかったけど」
19歳という年齢よりも大人びた外見、高身長、さらに確実にイケメンの類に入る光瀬と並ぶのはやっぱり嫌だ。
中学生にさえ間違えられる僕のコンプレックスをかなり増長する。
けれど、こんな風に好きな部門の話をさせたら途端に光瀬は幼くなる。
面白い遊びを思いついた子供と一緒だ。
僕は「声が大きいってば」と指を口に持っていくジェスチャーをし、自分も声のトーンを落とした。

「うん、言った。あの回想シーンは迫力あったな。息ができない感じ。倫理とか悪だとかを通り越した感覚だったな。実際あの言葉で少年は崩壊したんだと思う」
「そうだろ? でもさ、あれは全くあの先生の作り話かもしれないだろ? 実は殺してないのかもしれない」
「それも有り得るな。そうだとしたら、またちょっと違ったテイストの話になるよね」
「そうなんだ。観客の頭の中ではどちらのストーリーも展開されている。殺されてる方と、殺されていない方。監督が答えを出さない限り、そのどちらでもあるって事」
「ああ、そうか。監督が『実はこうでした』って言った瞬間に事実が決定するんだね」
「そう。それまでは白であり、黒である。もうどちらかに決まっていたわけじゃないんだ」

僕はなるほどと思った。
確かに似ている。例題としてはかなり良いかもしれない。
けれど盲点もある。
「でもさ、監督の頭の中では白か黒か分かってたんだろ? だったらやっぱり決定してたんだよ。フタを開ける前に」
「監督はそんなこと決めてないさ。そんなこと決める必要は全くないからね。でも本当はどっちだったんですか?って聞かれたら、仕方なくその場の気分で答えるんだ。それが結果だよ。実験結果だ」

「仕方なくその場で決める・・・か。観測における『神』の役割みたいだな」
「そうだよ比奈木。量子のふるまいを決めるのはそんな『神』かもしれない。量子が確立でしか感じ取れないのは、いたずらな神さまのせいだ」
あれ、話がまた飛んだ。
僕は苦笑いを返す。
「話が哲学かファンタジーの分野に入ったよ光瀬。物理学に神様を出してきたら話が進まないって」
そう言うと光瀬は眉間に皺を寄せて僕を凝視した。
元々整った造りの顔だけに、そんな風にしてもやはり男前だ。正直、神様は不公平だと思った。

「違うよ比奈木。物理はロマンだ」
なぜか光瀬は満足げだ。
「ロマン?」
「そう、ロマン」
「じゃあ、光瀬はロマンを学びに大学に入ったのか?」
冗談でそう聞く僕に、光瀬は不思議そうな顔をして言った。
「比奈木は何だと思ってたんだ」
知らねえよ。

物理とロマンは僕の中でどうにもしっくり絡みあわない。
僕は光瀬の頭の中から辞書を引っ張り出して『ロマン』の項目を引いてみたくなった。
そこには現代物理学の数式がびっしり書き込まれているのだろうか。
いや、もしかしたら「俺の活力」と、書いてあるのかもしれない。


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鍵コメRさんへ 

お!光瀬の気持ちがわかるRさん、さすが。

私は比奈木といっしょに、光瀬にロマンを学びたいと思います。

(作者にももう一つ理解不能な光瀬・・・笑)

確かに…。 

物理学は宇宙に直結している分、文学よりは遥かにロマンが溢れている世界なのかも知れませんね。
イスカンダルですよ!銀河鉄道ですよ!はやぶさですよ!あかつきですよ!(落ち着け)

ところで光瀬君はつまり、告白という映画のクライマックスが、例の猫さん理論と同じだと言いたかったのですね?

さて、主人公君は光瀬君を美形だ美形だと羨んでいますが、光瀬君サイドがら見れば主人公君は「可愛い」のかもしれませんね(笑)

有村司さんへ 

そうですよね! ロマンと言う観点からだと、ぜったい文学より物理学です。

>イスカンダルですよ!銀河鉄道ですよ!はやぶさですよ!あかつきですよ!

爆笑www

映画の例え、以前ツイッターで、そんな話をしたところ、「言い得て妙」だと絶賛されたので、
使ってみることにしました^^

比奈木は、けっこうイジケ虫の、コンプレックスのかたまりなんです。
そう、きっと光瀬は、そんな比奈木が、かわいいんでしょうね。
でも、上から目線なわけじゃなく、きちんと対等であろうとする、律儀な光瀬。
(まあ、実際、対等なんですが・・・・)
あ、いっこ先輩だけど。
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