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(雑記)「秘められた掟」ヘンリー・リオスシリーズ

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読み終わってしまいました。
「秘められた掟」
マイケル・ナーヴァ著 ヘンリー・リオスシリーズ第4作目。

秘められた掟 (創元推理文庫)秘められた掟 (創元推理文庫)
(2002/01)
マイケル ナーヴァ

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不覚でした。
このシリーズは7作目まで書かれてるにも関わらず、創元推理文庫さんはこの4作目までしか翻訳されていません。
知っていたのに。
何が不覚かというと、こんなに好きになるとは思ってなかったのです。
まあ、4作のうち、どれか面白ければ良いだろう・・・くらいに。

以前も1作目、「このささやかな眠り」で、ほんの少しレビューしたと思いますが、
このシリーズの主人公は、ヒスパニックの弁護士、ヘンリー・リオス。
そして早い時期に彼はゲイであることをカミングアウトしています。

ヘンリー・リオスの1人称1視点によって語られるこのミステリーは、とても清潔感あふれ、そして怒り、悲しみ、憎しみ、愛情、様々な心の動きが、とても冷静で淡々と綴られていきます。
3人称にしてしまうと客観的に、意図的に盛り上げてしまいそうなハプニングや展開が、
ヘンリーの目を通してあくまで冷静に語られ、逆に私などはヘンリー・リオスという男にどうしようもなく愛着が湧いてしまうのです。

メキシコ系アメリカ人、そしてゲイという2重の弾圧をうけながら、ヘンリーは苦悩しながら自分の弁護士としての、そして自分の存在の意味を模索して行きます。
・・・いや、もしかしたら、本当に自分自身と向き合えたのは、この4作目「秘められた掟」からかもしれません。
彼は決して冷静沈着な強靭な精神の持ち主ではありません。
真っすぐでストイックで、強いものに屈しない、不器用な反骨精神の持ち主。
けれどその心は孤独で、脆く、常に何かに失望し、あきらめ、得体のしれない呪縛に苛まれています。

1作目「このささやかな眠り」、2作目「ゴールデンボーイ」、3作目「喪われた故郷」では、弁護士という仕事に半ば失望を覚え、そして自分の生い立ち(父から受けた蔑み、暴力)、ゲイであること、自分を包む社会に反骨精神のみで戦っていたように思えます。
4作目でやっと彼は、自分の中の父の亡霊と対峙します。
自分が何に怯え、なにに躍起になり、何に怒りをぶつけ、何から逃げようとしてきたか。
その結果、ある少年を救い、そして自分自身を救います。
この4作目、他に比べると地味な展開ではありますが、私は一番ヘンリー・リオスという男の魅力を感じました。
本当の「男らしさ」を、彼の中に感じました。
でも、ゲイなんだろうって? そんな事は、本当の彼らの中の葛藤を知ってから言ってほしいとさえ思います。

弁護士リオスの推理、行動力、そして物語を少しの不快さも無く解決に導いてゆくストーリー展開。
そんな卓越した、ミステリーとしての面白さ、そして日本人社会ではなかなか馴染みのない、宗教、人種、貧富の差、そんな呪縛を主人公を通して感じさせてくれる面白さ。
そして、もう一つ、忘れてはならないのが、
第2作目から登場してくる、ヘンリーの恋人、ジョシュ・マンデル。
この青年との、胸が張り裂けそうな切ない愛憎の展開も、もうひとつの醍醐味だと言えるでしょう。

第2作目で、ヘンリーはHIV陽性である22歳のウエイター見習いのジョシュに、法廷で出会います。
この青年、可愛らしくて少し小悪魔で、なんとも言えず、いいのです。
(この青年のせいで、第2作目の後半は、かなり妖艶で濃厚なシーンもありますが)

ジョシュを大切に思うヘンリーの気持ちにリンクしてしまうと、
巻頭の人物紹介のページでもう、心が揺さぶられてしまいます。

2作目「ゴールデンボーイ」では、ジョシュア(ジョシュ)・マンデル・・・ウエイター及びマネージャー研修生。
3作目「喪われた故郷」では、ジョシュ・マンデル・・・ヘンリーの恋人。
4作目「秘められた掟」では、ジョシュ・マンデル・・・ヘンリーの元恋人

・・・元恋人ってなに!!
その時点でもう、いろんな想像が渦巻きます。(私は・・・ですが)
HIVに侵されて、少しずつ「死」に近づいてゆく恋人を、ヘンリーは本当に本当に大切にするのに、なぜ別れることに?

だから、第4作目は、この二人の関係が本当に痛々しくて辛くて。
自分の失恋のように悲しくて辛かったです。
失恋というような、生易しいものではないんですが。
「秘められた掟」の最後の方で交わされる二人の会話はもう、心が痛くてさびしくて悲しくて、
こんな悲恋があるんだろうかと、歯がゆくなります。
けっこう悲しい結末や展開は好きなのに、この二人に幸せな未来をあげたくてたまらなくなります。

これからまだ続くであろう物語。
ここまでしか読めないなんて・・・。そんな・・・。
しかもね・・・翻訳されてない5作目のタイトルは「THE DEATH OF FRIENDS」・・・。
そんな。
そんな。
想像だけで・・・蛇の生殺しです。(正しいのか、この表現)
創元推理文庫さん、どうか、翻訳してください!!!


最後に(まだ書くの?笑)
この作者、マイケル・ナーヴァ氏、自らがヒスパニック系弁護士であり、ゲイ。
そう、ヘンリー・リオスと同じ。
そして、幼いころ父親に振るわれた暴力のため、自分の本心を閉じ込めることを覚えたという記述まで、恐ろしくヘンリーに酷似しています。

この物語に漂うどうしようもないほどのリアリティは、そのことからも頷けます。
男性ミステリーファンからもゆるぎない高い評価を受け続けているこのヘンリー・リオスシリーズ。
出会えてよかったな、と心底思える作品がまたひとつ増えたことを、幸せに思います。

あとは、創元推理文庫さん、どうぞ、どうぞ続きを出してください。・・切に願います。


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このささやかな眠り (創元推理文庫)このささやかな眠り (創元推理文庫)
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~ Comment ~

NoTitle 

僕は翻訳された小説をあまり読んだ事がありません。
以前に読んだ作品だけかも知れませんが、あまりにも直訳すぎる
言い回しでとてもリズムが悪いのです。

考えてみれば翻訳はとても重要な仕事ですよね。
翻訳者の解釈1つで名作を駄作にしてしまう可能性もあります。
語学力もモチロンですが、著者の文章の癖を知り尽くしていなければ
正確な翻訳は出来そうにない気がします。

続きが訳されていない…、コレは辛いですね。
最後の手段はlimeさんが辞書を片手に読破するしかありませんね(≧▽≦)

蛇井さんへ 

まったくです。
翻訳者の力量はてきめん、出ますね。
特に会話文。
その人物をどれほど見抜いているか、そのセンスが問われます。
この作品の翻訳のかたはとてもセンスがよくて、気に入っています。
できれば同じ方で・・・。
・・・いえ、もう贅沢いいません。

英語力がこんなに欲しいと思ったことはありません。
まあ、日本の教育程度でその力が付くわけもなく。
他力を頼ることしか出来ないことが、本当に悔しい昨今です。

NoTitle 

無責任にあおってみる(^^)

http://www.amazon.co.jp/Death-Friends-Michael-Nava/dp/039913977X/ref=sr_1_5?ie=UTF8&s=english-books&qid=1288518291&sr=1-5

ここでのユーザーコメントでは☆5つをつけていますね。でも、中古で1600円(送料抜き)というのはさすがにおいそれと……。

とりあえず、今図書館に注文中の本が来たら「このささやかな眠り」だけでも読もうと思っています。

もしやと思って、行きつけのミステリマニアのかたがやっているブログを探したら、ありましたなあ「秘められた掟」のレビュー。
http://chapcolo.blog97.fc2.com/blog-category-257.html

どれだけ読んでるんだあの人。

ポール・ブリッツさんへ 

うあーーーーーーーーーん! (>_<)

よみたーーーーーーい!

Amazonの「The Death of Friends」のレビュー、よんじゃったじゃないでか!
『ヘンリーが犯人を割り出す時の論理がとてもよい心を打つ。
そして小説の最後のチャプターを読み終えた時、私は泣いた。
あまりにも悲しかったので、一緒に取り寄せていた次作
The Burning Plainを読む気が失せてしまった程だ。』(レビューより)

・・・て(T_T)

もう、泣きそうです。いや、泣いてます。どうにかしてください。
語学留学しそうな勢いです!

そして、あの方のブログ記事、読みました。
いいですね、とても的確です。
これくらいレビュー能力があれば・・・・。

大好きな物には冷静さを欠いて、より稚拙な文章になってしまう。悲しいです。

うううううううん。第5作・・・よみたい・・・・(T_T)

取り寄せちゃおうかな・・・。

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鍵コメRさんへ 

うううん、読んでほしいけど・・・・。

でも、1,2,3作目はまだ、とても楽しく読めます。
絶対に。

でもこの4作目「秘められた掟」は、本当に美しくて、切なくて、悲しいです。

今日はもう、仕事が手につかないくらい、最後の二人の会話が何度も頭の中で再現されて、泣きそうでした。

4作目は、一番好きですが、一番辛いです。

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鍵コメPさんへ 

むむむ、そうなんですか。
そのキャプションは想像がつくけど、知りたくないですね><
やっぱりそんな理由で創元社さんは続編を刊行しなかったのかな。
悔しいけど、やっぱりそれが一般的見方なのかなあ・・・><
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