RIKU・4 君の還る場所

RIKU・4 第14話 美希

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「カリカリしないでよアキラ。だいたいさあ、死体がちゃんと隠せなかったのだって、アキラが急がすからよ」
アサミが破れて中綿のはみ出した布製のソファに座り、アキラにぼやいた。
孝也が仲裁を図るように割って入った。
「まあどっちみち死体は見つかったんだって、アサミ。それにビビることないだろ。あの家出娘、親にも見放されて天涯孤独だったんだし。俺らとヤク売ってたの知ってる奴もいねえし。バレることないって」
もうすでに何度もアサミと話したことだったが、アキラに対するパフォーマンスとしてもう一度繰り返した。

「あの男は死んでない」
古い傷の無数に入った木製のカウンターにビールの缶を音を立てて置き、アキラが鋭い視線を孝也に返した。
「まあ、・・・確かにそうです」
そのひき逃げ事件は深夜TVのローカルニュースでちらりと触れただけだった。
被害者はかすり傷だという喜ばしい情報はアキラを究極に苛立たせた。
「でもさ、案外覚えて無いんじゃない? しゃべるならもうとっくにしゃべってるだろうし」とアサミ。
アキラはそれを無視し、飲み干した缶ビールの空き缶を片手でぐしゃりと潰してカウンターに転がした。
その苛立ちさえも辛気くさくて孝也は気付かれないように舌を打つ。
「あー、もう、なんかスッキリしねえな。やっぱりさ、ちゃんと片づけちまおうか」
孝也がそうつぶやいたすぐ後だった。

『ちゃんと 片づけるって なに?』

そこにいる誰のモノでもない声が低く響いた。
ゾッとするような、落ち着いた女の声だった。

3人は顔を見合わせ、次にその廃屋と化した狭い店の中をぐるりと見渡す。
けれど誰も居るわけがなかった。
アサミは磨りガラスの小窓をスライドさせて、ほとんど光のない屋外を覗き見た。
「・・・誰?」
アサミが叫んだ。
「誰かいるのか?」
「車の横に誰かいた!」
アサミがそう言い終わらないうちにアキラは立ち上がり、ドアから外に走り出た。
孝也とアサミも続く。

店の外は数メートル先の街灯でようやく地面が見える程度の薄暗さだ。
すぐ横の工場が閉鎖されたため商店街自体が機能しなくなり、このバーも含め営業している店もほとんどない寂れた路地だった。
歩道に乗り上げるようにして止めてあった中古のセダンは、何者かによってカバーが外されていた。
そのボンネットには雨でもないのに水でなぞったX印が大きく書かれている。
それを目にし、ギョッとしたように辺りに人影を捜す3人。

「誰かいるんだろ? 出てこい!」
アキラが大声で叫んだ。隣接する閉鎖された工場の壁にその声が空しく響く。
「さっき窓からちらっと見えたよ。男が立ってた。ぜったい近くにいるから! あたしたちの話、聞いてたかも」
アサミが興奮したようにそう言うと、孝也は腹立たしげな表情で、すぐ先の角まで走った。
隠れるならそこしかない。

けれど細い通路に折れるその角を覗き込んだ瞬間、まるではじき飛ばされるように孝也は尻餅を付いた。
そしてそのままジリジリと後ろに下がっていく。
その目は見開かれ、恐怖に引きつっていた。
「どうしたの、孝也」
アサミの声に振り返った孝也が、ブルブルと顔を横に振り、「美希が・・・」と、かすれた声でつぶやいた。
腰が抜けて、立ち上がることも出来ない様子だ。

「なに馬鹿なこと言ってんのよ」
孝也の最低の冗談に怒り、近づこうとしたアサミの横で車のボンネットがいきなりドン! と音を立てた。
「なによ!」
びくりと肩をすくめてその場所を見る。
水のようなもので書かれたXの文字が、ジェルのようにドロドロと粘質化して溶け出した。
そのジェルはまるで意思をもつアメーバのようにゆるゆると何かの形を成しはじめた。
青ざめ硬直するアサミの目に映ったのは、紛れもない美希の顔だった。
叫び声を上げようとした途端それは霧散し、その周囲の酸素を奪い取ってしまったかのようにアサミの呼吸を止めた。
地面に這いつくばり、喉をかきむしり、ようやく呼吸を取り戻したアサミはもう、声すら出せなくなっていた。

「どうしたんだよ」
様子がおかしい二人の方に走り寄ろうとしたアキラだったが、ふいに首に何かが巻きついたような感覚があり、振り払おうと手を動かした。けれどそこには何もない。依然、首には細い布を巻かれたような違和感が残っているというのに。
総毛立つような恐怖が沸き立ち、何度も爪を立て、首の異物を払おうとする。
けれども手に触れることのない「それ」は、さらに幾重にも首に絡みつき、じわじわと締め付けてくる。
「うわああぁぁぁ」
あまりの不快感と息苦しさにアキラは地面に転がり、目を硬く閉じた。

『苦しい?』

アキラの耳に、最初に聞いたのと同じ、低い声が響いてくる。
認めたくは無かったが、確かに聞き覚えのある声だ。
堪らずアキラはガッと目を見開いた。

そのすぐ鼻先に美希の顔があった。
何度も何度も、形が分からなくなるほどに殴りつけた、あの日の美希の顔が。



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~ Comment ~

NoTitle 

うわあああああっ。v-399

こういうのって、「ミステリ」じゃなくて「ホラー」いうんじゃなかったでしたっけ?v-399

でもこんな強烈な霊とコンタクトとってだいじょうぶなのかなリクくん。

へたをしたらリクくんのほうも戻ってこられなくなっちゃうんじゃないのかなあ。

玉城くん、多恵ちゃん、編集長、急げ!

ポール・ブリッツさんへ 

そう、こういうのをね、ホラーっていうんですよe-440

ついにミステリーでは無くなりましたが、あきれずにどうか付いてきてください。

(RIKUはサスペンスだったんですけどね)

もう、そりゃあリク、大変ですよ。道を開いちゃいましたからね。

今回穏やかに終わったとしても、実は大変だと思いますよ。(人ごとみたいに・・・(^_^;)

NoTitle 

うわわわわわ、一気にホラーになっちゃった。

これは、リクが、というか美希が憑依したリクがやっていることなの?
このままアキラを殺してしまえ~~~・・・ぢゃなくて、
大丈夫なの!?リク。
早く~~~~大鯨~~~~~!!!

秋沙さんへ 

ごめんなさい~。
ホラー的展開に違和感があったら、私の力不足です(^o^;…
RIKUは第1弾から、ホラーサスペンスだったんだけど、ホラー要素が薄かったんですね・笑

リク、ちょっと心配ですが・・・・。

次回は大鯨さんが、意外な側面を見せてくれるはずです。

この章の中で、実は私が一番書きたかったところかもしれません。

NoTitle 

KOEEEEEEEE!!!

怖すぎトイレいけないじゃないですか。
どうしてくれるんですか、今11時ですよ!
怖すぎる・・・。・゚・(ノД`)・゚・。

トイレまでの距離が遠い・・・っ!

ねみさんへ 

あれれ、ねみさん、怖がりですか?

それとも、心にやましい事が???

トイレまでは目をつぶって行ってくださいね。

目を開けたらそこには・・・((((;゚Д゚))))

そうか! 

秋紗さんのコメントを見て、「あっ、そうか!」と妙に納得しました。
実際、乗り移ってるんでしょうか?

RIKUってホラーサスペンスだったのですか・・・・・・。
今までのお話は結構ホンワカしていたので、意外でした。

ヒロハルさんへ 

きっとそうですね。
あの3人が見たのは、リクの体を使って美希が見せた幻覚なんじゃないでしょうか。
次回、ほんの少し、それに触れます。

ジャンルを問われるとRIKUは困りますね。
第1弾はジャンルを言うとネタばれになったりしますから。
毎回、何が飛び出すは分からないってことで・・・。

ほんわり、穏やかなホラーを目指してるんですが、難しいです。

リク+美希=強力x2ーー! 

美希だけでも 強力パワーなのに そこに 取り込んだリクの思惑が 絡んで
より一層 強力なパワーとなってるよ~(TT)

皆さまが 書かれてますが、私も リクが 心配です!
早く  リクから 美希を追い出さないと リクの心も体を 壊れてしまいそう!!

玉ちゃん(某有名 アザラシみたいですが)、早く リクを 救ってーー!

lime様、[RIKU]は 面白い素敵な作品って事で  強いて ジャンルは 決めなくても いいのでは? (^-^)ゞbyebye☆

けいったんさんへ 

恨みの怨念はこわいですね~。
きっとここにはリクの恨みも入ってるんですね。
だからこんなに・・・。
やっぱり怒らすと怖い子です。

あと2話で終わりますが、リク、誰がたすけると思います?
いや、誰を頼るのか。
けいったんさんには怒られるかな?笑
でも、でも最終話まで読んでみてくださいね(^^ゞ

よし、RIKUはこれからもノンジャンルで!

やっぱり怖いですよ 

今回、ほんとにホラーですね。
臨場感もスリルも迫力もあって、すごいです。
とーっても面白いです。

それと私はどうしても、
こちらではアキラがタカヤよりも立場が上なんだなぁ、
うちの子たちとはさかさまだなぁ、なんて考えてしまいます。
ストーリィと関係ない感慨で、どうもすみません。

あかねさんへ 

きゃあ、やっぱり怖いですか。

なんか、この回、めちゃくちゃホラー系になっちゃいましたね^^;
そんなつもりは無かったのに。変だなあ。

この後は、もうこんなホラーめいた描写は出てきません。
現実的な物語になるはずです。
(じゃあ、なぜ、今回はそんなことをしたんだ、私w)

>こちらではアキラがタカヤよりも立場が上なんだなぁ、

ははは。やっぱ、気になりますよねww
そちらの乾君は、立派なタカヤなのに!
こっちはタカヤもアキラも、ひどい・汗

でも、KEEP OUTの隆也くんは、いい奴です!
どうしてこんなに同じ名前を使っちゃうんだろう、私。

男の子の名前って、案外使えそうなの、少ないですよね。
様になりそうな名前・・・。
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