RIKU・4 君の還る場所

RIKU・4 第12話 交わる

 ←RIKU・4 第11話 決断 →RIKU・4 第13話 浮かび上がる現況
小高い山の5合目あたりからすそ野へ真っすぐ降りる道の中腹にその神社はひっそりと奉られていた。
山をらせん状に巡る遊歩道の脇から突然現れる石段を覗き込むと、遙か下に古い小さな鳥居が見える。
山裾の住宅街に抜ける近道としてここを通ることもできるが、鬱蒼とした樹木が生い茂るこの無人の神社は昼間でも薄暗く、気軽に通り抜けに使うには少しばかり気味悪がられた。

遊歩道わきの街灯のあかりを頼りに、リクはゆっくりとその階段を降りた。
玉城が2日前に転がり落ちた場所だ。
そして朦朧とする意識の中で、殺人現場を見てしまった場所。
一番下の段まで降りるとリクは背を伸ばし、街灯がポツリと立つだけの、鬱蒼とした木々の創る闇を見つめた。
遙か先に見えるブルーシートや三角ポールは、警察が検分を一段落して切り上げて行った跡なのだろう。
風も無いのにザワザワと空を覆う木の葉が揺れる。

『なあ、リク。俺さあ、探してやろうと思うんだ』
『きっと霊が悔しくて辛くて、俺に助けを求めて来たんだと思う』
『力になってやろうと思わないのか?』
玉城の真剣な表情と声が蘇ってくる。

「そう。できるよ。でも僕はそれをしなかった」
ポツリと、自分に言い聞かせるようにリクはつぶやいた。
「玉ちゃんは知ってる? 彼らの奥に広がる、本当に恐ろしい世界を」

『分からないよ。分かりたくもないよ』
『お前は自分を守りたいだけなんだ。冷たい奴なんだよ』

・・・そうだよ。怖くてひとりぼっちでどうしていいか分からなくて。子供の頃はいつも震えていた。
勝手に扉を開けられて、心に入り込まれて、お前も味わってみろと奈落に引きずり込まれた。
耐えられなくて、その扉を閉ざす方法を身に付けていった。それでも隙間から漏れてくる霊たちに
いつも怯えて目を背けて生きてきた。
悪意のない優しい連中も、いつ邪念に変化するかわからなくて、怖くて。
君みたいに、正面から受け止めることなんて、出来なかった。
でも・・・。

リクは暗闇に目を凝らし、今もなおザワザワと小刻みに震える木々の茂りをじっと見据えた。
そして、その闇に体を開くように両腕を大きく広げた。

「おいで」

ゴウと風が地の底から沸き上がるようにうねり、土埃を巻き上げた。
まるで背骨を持った生き物のように太いクヌギの幹が前後に揺れる。
風とは異なった大きな力にリクは胸を強く押され、倒れそうになりながら必死で堪えた。

地面に打ち付けてあったブルーシートがバサリと跳ね上がり、そしてまた地面にひれ伏す。
カサカサ揺れる木の葉の音が、次第に人の声のようにヒソヒソと悪意を持つ言葉に代わる。
けれども決して翻訳できない、生を持つものが使うことの出来ない言語の羅列だ。

空からか、地の底からか、堪えきれないようなうめき声が聞こえる。
生への執着、無に還ることへの畏怖、苦痛への怒り。
眠れぬ、腐敗した魂のあえぎ声が沸々とわき上がり、その空間に満たされた。

「来て」

ドンという衝撃を胸に受け、リクは後方にはじき飛ばされた。
くるりと横に転がり体勢を起こそうとするが、体が重くて立ち上がることができない。
胸が苦しくて大きく息を吸い込もうとしたが、突然込み上げてきた悲しみと恐怖に思わず叫び声をあげた。
自分のものとも思えない、助けを呼ぶ女の声だった。
喉が引き裂かれたように痛み、口の中に血の味が広がる。

「ダメ!」
思わず体の中でうねる何かを静止しようと叫ぶ。
“呑み込まれてはダメだ”
リクは頭を左右に振り、四肢に力を込めた。

『いや! 助けて! いや!』
エコーがかかったように頭の中で声がする。
リクの体の中でのたうち回るように“彼女”は苦痛をはき出した。

「ごめん、・・・ごめんね、助けられない」
彼女の味わった苦痛を体中に感じながらリクは言い聞かせた。
苦しみを、怒りをぶつける場所を求めて鬱屈していたその魂は今、自ら扉を開放してしてしまったリクの中に入り込んだ。
「助けて! 苦しい! 苦しい」

リクは鉛のような体を地面から引きはがし、自分が取り込んでしまった苦しみの塊ごと、
包み込むように両腕で体を抱いた。
「助けられないんだ」
リクの目から涙があふれ出す。
自分の中で藻掻くその魂の悲しみと苦痛と自分の無力に胸が押しつぶされそうだった。
止まる事を知らないように、熱い涙が頬を伝い流れ落ちた。
「でも、お願い。探したいんだ。教えて欲しい。君を殺した奴らを」

“・・・助けてもやれない。それなのに僕は君を利用しようとしてる。
君のためではなく。僕の大切な友だちのために・・・”



関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【RIKU・4 第11話 決断】へ
  • 【RIKU・4 第13話 浮かび上がる現況】へ

~ Comment ~

NoTitle 

霊媒師してますね~リクくん。

情報を聞き出すのは難しくはないかもしれないけれど、

魂を鎮めるのはそうとう修行をしないと難しいんじゃないかなあ。

うちの桐野はそういう事態になると「夢から出て」しまいます。書いてて楽です(笑)

ポール・ブリッツさんへ 

リクは霊媒師ではなく、単に強い霊感を持ってしまった気の小さい子なんです。

だから、霊の静め方も、浄化の仕方も知りません。
結構命がけです(^_^;)
今回イタコみたいに自分からアクセスしちゃったら、どうなるのかな。

逃げ場がないだけに、可哀想ですね。

NoTitle 

オランダの霊能力者クロワゼットさんを思い出しました。
来日した時、実際に行方不明の女の子が池にはまって死んでいたのを警察よりも早く発見しました。
衝撃的だったので覚えています。

RIKUが苦悩するのも分かるなぁ。
怖いもの。
知っているからこそ触れたくなかった。
玉城をとても大事に思うからこそできる捨て身の行為だよね。
いい奴じゃないの。
RIKUの人間性を感じた。
v-410

ぴゆうさんへ 

そう、「本当に」霊力を持っている人は、「怖い」を通り越した苦悩を持ってると思うんです。
簡単にイタコの真似なんか、決してできないはずですょ。
きっと、ぴゆうさんの見たその方は、とても精神を鍛えられたんではないでしょうか。
ある意味、使命だと感じて。

私も8~9歳のころ、1カ月ほど、酷い魑魅魍魎の悪夢にうなされた時期がありまして。
夜になって眠るのか怖くて辛かったです。
ただの子供の夢なんでしょうが、死後の無念の霊に飲みこまれる夢は、本当に恐ろしく・・・・。

きっと、そうなんだ。合い入れない感情が澱んでて、入ってはいけない世界なんだと感じました。
私なら、霊力があっても、絶対に拒絶してしまうだろうな~と・・・。
それがRIKUに反映されてるのかもしれません。
今思うと・・・。

それでも、玉ちゃんのために、リクは頑張るんです!i-241

こんばんは^^ 

な!?

何何何何何~~~~~~~!?

イタコか!? イタコなのか、リク!!

てか~~~~・・・・・・・・・・・こういう展開だったの??
そんなリク・・・・そんな事しちゃダメだよ~。
寿命が縮んじゃうよ~~(><;
玉城が知ったら、自分を許せないくらい責めちゃうと思うよ~~。
真っ直ぐ過ぎるよ、リク~~~(T T)


つか、ホラー??v-404
オカルトですよ、limeさん^^;

蘭さんへ 

フハハハ・・・。
知らなかったんですか?RIKUは、ホラーサスペンスなんですよ~~^^
とか言って、急にジャンルが変わったことの言い訳にしている姑息な作者

私、ホラーが苦手で、苦手で。でも、やっぱりホラーですよね。
いやもう、ジャンルなんて気にせず、リクだけを見てやってください。
バカな子です。どんだけ玉城が大事かしらないけど。
このことがきっかけで、後々、すごく苦しむことになるんですが、それはまた、別のお話で・・・^^

さて、玉城は・・・どんな反応をするんでしょう。
玉城、多恵、長谷川。
三者三様ですが、玉城はもう・・・・汗

NoTitle 

ホラーもの、けっこう好きですよ♪
エクソシストとか、ポルターガイストとか ^^

リクくん、つらそうだ…大丈夫かなあ…
でもなんだかんだいっても、玉ちゃんのこと「大切な友達」と思っているところがニクいですね。ほんとは、やさしいんだ~。

西幻響子さんへ 

西幻さん、ホラーはお好きですか^^
私は・・・・・・・ぜんぜんダメなんです!!
もう、家族の誰かがホラー映画を見てたら、TVに近寄りませんから^^;
音も聴けません。
そんな私が書く物語・・・さて、どうなる事やら・汗

何だかんだ言って、やっぱり玉ちゃんは一番大切な友達です。
やさしいんですよ、彼。
たぶん、馬鹿がつくほど。
優しいってところがまた、厄介なんですがね^^;

RIKU、ジワジワと読んでくださって、ありがとうございます!

ああ、なんか分かるような気がします。 

何が~???
すみません、本当はfateには霊感なんてないです! 霊媒師さんの苦痛とか、残留思念を辿る霊能者さんの苦しみも分かりません!
でも、…そのすさまじい怨念と翻弄される人間の苦悩を、描きたいと思いました。
それが『花籠』のローズでした。
今、RIKUとダブって、切なくなりました。
ここまで突き詰めなかったけど、絶対、相当な負担ですよね。それだけは分かります。
健全な犯罪者…ってのもオカシイけど、理由の分かる殺人という点ではそれは犯罪であっても三流のホラー/オカルトではないから、まだ理解出来ますが、理由があるから殺人が許される訳じゃない。
ああ、これも、もしかいて不正メール扱いになるかも~
すみません。
‘ヒトを殺メテ、命(ヒカリ)奪ッタヤツが、裁カレズ、生キ延ビルナド、許シハシナイ♪’
『宵闇の唄』の叫びに、心が痛みます。

fateさんへ 

分かるような気がしていただけて、うれしいです!

そう、だれしもリクのような体験ができるわけではなく。
でも、それを「感じて」いただける!これが物語を書くものの喜びであります。
fateさんがリクの辛さを感じていただけたことが、何よりうれしいです。

『花籠』はまだ読んでいませんが、そんな想いが込められていたんですね。
こちらも楽しみです。(すみません、なかなかゆっくりお邪魔できなくて(>_<))

リク自身、未熟なので、惨殺されたばかりの霊を取り込むなんて、まさに命がけかもしれません。

ところが、それをさせてしまうのは、正義感ではなく・・・ただ一人の友人の為。
正義感の塊のような玉城を、全く他人に無関心だった青年が、助けようとする。

実は、この行為が、後々、彼らを苦しめることになるんですが、それはまた、別のお話・・・です。

これからのリクと、そして悪党どものその後を、またゆっくり覗いてみてくださいね^^

かなり怖いです 

こういうのを書かれていると、ご自分で怖くなったりしません?
私はホラーは読むのは大好きですけど、書くのは苦手。
それでもたまにホラーがかったのを書いていて、自分でぞくぞくっなんてこともありました。
たぶん、それは他人が読んでも怖くなかったと思うのですけど。

先回書いた、スティヴン・キングは「キャリー」だったかな。
リクくんとは全然ちがってますよね。
「キャリー」でもないかもしれません。あやふやですみません。

あかねさんへ 

おお! 怖いのですか?

私は超怖がりで、ホラーものは全く見れないんですが。
そんな私が書いたものでも、怖いとおっしゃっていただけるのが、とても嬉しいし、不思議な気分です。

怖がりな私ですが、なぜか書く分には怖くなかったです。

なぜかというと・・・。

きっとリクは私よりも怖いだろうなあ・・・とか思って救われたりして(ひどい!!)

もう、そんなに怖いことは無いと思うので、どうぞゆっくりして行ってください^^

あかねさんのところにも、またお邪魔しますね^^
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【RIKU・4 第11話 決断】へ
  • 【RIKU・4 第13話 浮かび上がる現況】へ