RIKU・4 君の還る場所

RIKU・4 第11話 決断

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「あーあ、ボンネット、少し凹んだ」
クチャクチャガムを噛みながら、溜まり場にしている廃墟横の暗い街灯の下、腰を屈ませて孝也がぼやいた。
「いいじゃん、こんな廃車寸前のボロ車。どっちみち美希のなんだし、さっさとどっかに捨ててきちゃってよ。それよりこっちがびっくりするじゃない、いきなりあの男、はねてさ」
アサミがその横に立ち、不満げに言う。
「何でだよ。アキラが『見つけたら殺ってこい』って言ったろ? 轢くなとか言ったか?」 
「そりゃそうだけどさ」
「ちょうどいい具合だったんだよ。あいつが道渡ってきたとき人が全然居なかったしさ。ナンバーだってダミーだし、バレル要素ないじゃん」
「確かに見られちゃいなさそうだったよね。ねえ孝也、あいつ死んだかな」
「さあ。わかんね。ダメなんじゃね? コロコロうまく転がりやがったから」
「簡単に言うよねー。アキラにぶっ殺されるよ。あいつさ、美希の死体見つかったんで異常にイライラしてんだよ。何だかんだ言って、あいつビビリなんだよね。仲間でも平気で殺るくせにさあ、結局ビビリなんだよ」
同調するように孝也は露骨に嫌そうな顔をした。
「どっかからバレて自分が捕まるんじゃないかってさ、それが怖くて仕方ないんだろ。まあ死体も見つかって目撃者も消せなかったじゃ、ビビるよな」

「でもさ、あの玉城って男本当に見てるのかなあ、美希殺すとこ。今回死体が見つかったのはあいつのせいじゃないみたいだけどさ。死体が発見されたとか知ったら流石に警察にしゃべるんじゃない? やっぱりやばいよ。あたしの顔も覚えられてたら嫌だなあ」
「頭わりーな、アサミ。顔見られたからってすぐに俺らの身元がバレる訳じゃないんだぞ。あの死体が美希だってバレたとしても、俺らと美希の関係を知ってる奴は一人もいねえんだし。まあ、玉城って奴の顔も居場所も仕事も分かったんだから、アキラが落ちつかねえんだったら、も一回ケリ付けに行きゃあいいだけさ。俺もその方がスッキリするし」
「今度はへましないでよ」
「しねえよ。んで、次はあんなに簡単に死体が見つからないように深く埋めるさ」
「そっちもへまだったね」
アサミが可笑しそうに品のない笑い声をたてた。


     ◇


「あれ? 長谷川さんも来てくれたの?」
そう言いながら元気に笑った玉城を見て、長谷川は心底驚いた。
キツネにつままれたような表情で、近くに立っていた白髪まじりの医師の顔を見つめた。
2日前にも救急車で運ばれてきた玉城を担当したというその救命医は、明らかに苦笑いを浮かべている。
「玉城さんは常連さんですね。まったく、運がいいのか悪いのか。今回も特に大きな問題はありません。軽い脳しんとうと、肩の脱臼だけです」
「だっきゅう・・・」
長谷川が脱力したように言うと、横になったままの玉城が恥ずかしそうに笑った。
「すいません」

「でも良かったー。玉城先輩が不死身で」
長谷川より少し遅れて駆けつけた多恵が、ホッとしたように呟いた。
「不死身って、何だよ。人をビックリ人間みたいに」
「でも何で車になんか跳ねられるのよ先輩。不注意すぎるわよ」
多恵の怒ったような言葉に、今回は長谷川も同調した。
「その通り。2日前といい、今回といい、子供じゃないんだから」
「はい・・・すみません。あの、恥ずかしいんで、このことは内密に・・・」
「会社の真ん前で轢かれといて、内密に出来るわけないでしょう? 社内中隅々まであんたの情報、行き渡ってるわよ。明日になったらみんな見物がてら見舞いに来るんじゃない? 面白がって」
「げーーっ、いやだなあ。俺、朝一で退院しますから」
「無理だって。まだ検査あるし。・・・それよりさ、さっき警察の人に聞いたんだけど、追突してきた車、逃走したままなんだって。なにか見てない? 直視した目撃者も居ないし、車種の限定もナンバーの確認もできなかったらしい」
声を潜めて聞く長谷川に、玉城はくすりと笑った。
「いいですねえ、なんか長谷川さん警察の人みたいでかっこいい」
「茶化すと殴るよ」
「残念だけど、何も覚えてないです。景色がくるくる回っただけで。そっか、逃げられたかぁ。早く捕まったらいいですね」
「何を他人事みたいに。・・・まあいいや。明日警察に同じ事聞かれると思うから、よく思い出しときなさいよ」

長谷川は迷っていた。
あの神社で死体が見つかったこと、そして携帯を拾った男が執拗に玉城を探していたことを伝えるべきかどうか。
もしかしたら全く関係ないのかもしれない。だとしたら無意味に玉城を不安にさせるだけだ。

「あれ?」
ふいに多恵がドアの方を見て声をあげた。
「どうした? 多恵ちゃん」
「今、廊下にリクさんが・・・。でも入らずに行っちゃいました。私ちょっと見てきますね」
そういうと多恵は素早い動きで開いていたドアから外へ飛び出した。

玉城と長谷川が顔を見合わせる。
「リクにも言っちゃったんですか? 長谷川さん」
少し咎めるように玉城は言う。
「ダメだった?」
「ダメですよ。あいつには今、こんなところで会いたくない」
「え? 何? 喧嘩でもした?」
ニヤリとして長谷川は顔を近づけた。
「そんなんじゃないけど。なんか・・・気まずくて」
「おやおや。おもしろそう。聞かせてよ」
「嫌です。ぜったい言いません!」
玉城は愉快そうに聞いてくる長谷川にむすっとして背を向けた。

     ◇

「病室に入らないんですか? リクさん。面会OKなんですよ?」
廊下の突き当たりの壁にもたれて立っていたリクを見つけ、多恵は駆け寄った。
まるで多恵が出てくるのを待っていたような表情だ。
「どうかしたんですか?」
リクは壁にもたれたまま、多恵をじっと見た。その表情はいつにも増して青白かった。
「大丈夫なの? 玉ちゃんの怪我は」
「ええ。奇跡的に脱臼だけですって。強運ですよねえ、先輩」
「車は?」
「逃げちゃったみたいですよ。さっきも警察が本社ビルの前で目撃者調べてたみたいですけど」
「・・・・」
「どうしたんですか?」

多恵は思い詰めたような表情のリクをじっと見つめた。
照明を落とした廊下で、時々辛そうに目を伏せるその青年を、不謹慎だがとても魅力的だと思った。
また悪い癖が出そうになるのを多恵はぐっと堪える。

ふいにリクが顔をあげた。
「玉ちゃんはたぶん、あの神社で起こった殺人現場を見てたんだ」
「え? ・・・あの、死体がみつかった神社の、その死体?」
唐突な展開に、多恵の日本語もおかしくなった。
「そう。でも本人はそう思っていない。自分の回りに現れた霊がメッセージとして見せた映像だと思ってる」
「ええ? そうなの? なんで? そんなの区別つかないかしら。今はまあ霊になってるんでしょうけど、早過ぎ」
「その時の犯人も玉ちゃんを見てるんじゃないかと思うんだ。だからあの携帯で本人を必死に探してたんだと思う」
「ケイタイ!?」
多恵は大きな声を出した。
そう言えば・・・と、あの時の、不自然に親切すぎる電話を思い出す。
だとしたら、自分も犯人の策略に少しばかり協力したことになる。
「ええーーー。どうしよう」
多恵は今度はすがるような声を出した。

「きっと玉ちゃん、記憶が混乱してたんだ。頭を強く打ってたから。ちゃんと気付けば良かった。僕が彼の話をちゃんと聞いておけば、変だって気が付いたのに」
「リクさんのせいじゃないと思うけど、でも、怖いですね。その犯人がまだ玉城先輩を探してたとしたら。・・・あ・・・あ・・・いや、まさか。あのひき逃げ・・・まさか、そんなことないですよね」
多恵は自分の思いつきに自分で驚き、思わず震えた。

「探してくる」
ふいにリクが言った。
「え? 探すって?」
「彼にはごめんって言っておいて。今日のことも、昨日のことも。ごめんって」
「え? でも」
けれどそれだけ言うとリクは階下へ降りる階段のある角を曲がり、見えなくなった。

「行っちゃった」
多恵はしばらくぼんやりその方向を見つめたまま立っていた。
「止めた方が良かったのかな」
柄にもなく、少し不安そうにそうつぶやいて。


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~ Comment ~

NoTitle 

玉ちゃん無事でよかった……ふぅε-(´ωノ|┬
車にひかれるとこ、誰にも見られていなかったんですね!? よかったね~玉ちゃん♪ その分犯人の目撃者もいないけど……(´-∀-`;)

探すって……リク、大丈夫でしょうか……? 
こんどはそっちの方が心配ですね。
罪の意識がある分、むちゃしないといいけど(;´・ω・)
なんか嫌な予感がする……。
リク~どうか無事で! 

続き待ってます♪♪
この更新ペースとクオリティ、本当に頭が下がります(*・ω・)*_ _))ペコリン

NoTitle 

リクも一人で探すなんていってないで、玉城と一緒に警察署に出向いて、知っていることをみんな話したら事件はあっという間に解決してしまうような気がする(^^)

それともリクは怒りのあまり、犯人たちへの懲役×年程度の罰では納得できないのか? あなおそろしやあなおそろしや(-人-)

やっぱり怒らせると怖いよリクくん(^^;)

ポール・ブリッツさんへ 

そうですねえ、玉城の目撃情報だけではなかなか犯人に結び付くのは時間がかかりそうです。
(へのへのもへじしか描けない玉城ですから、似顔絵師への説明も下手なんじゃ・・・・笑)

次回、なんとなくこの後の展開が見えるかもしれません。
ポールさんなら予想がついてるかな?でも、ないしょですよ。
恐ろしい、けれど馬鹿がつくほど優しいリクの一面を、描きたいとおもいます。

・・・何書いてもネタばれになりそう・笑

あ、そして、観に行ってきました。あの方のブログ!
とても参考になりましたよ。
高村薫、是非読んでみたいです。Tホワイトに近いと言われたらもう、読むしかないでしょう。
重くて暗くても、根底になにか熱いものが沈んでいそう(*^_^*)

ありがとうございました!!

16さんへ 

あ、ごめんなさい、順番が前後しちゃって(>_<)

玉ちゃん、不死身ですね~~。
彼には元気でいてもらいたいという、作者のエゴです・笑
(でも酷い目にばかり遭う・笑)

リクのほうが心配ですね。
あの子は何をしでかすか、わからないから。
無事を祈ってください!

がんばって、2日置き更新を続けております!
いつ、途切れるかヒヤヒヤしながら・笑
16さんはこれからですから!
またじわじわ~~っとペースを戻していってくださいね。
遊びに来てくださって、ありがとう♪

NoTitle 

おっ、高村先生挑戦ですか。

その際のコツをお教えします。

「薄い本から読む」(笑)

いきなり「リヴィエラを撃て」なんか読んでしまうと、中途で息切れする可能性が非常に高いですので……(^^) でも「リヴィエラを撃て」には、絶対limeさん好みと思われるアイルランド人青年が出てくるので、いつかは読んでほしいんだけどなあ(^^)

ポール・ブリッツさんへ 

え?そうですか!

私好みのアイルランド人!・・・しっかりポールさんに好みを把握されてしまってる。くやしい。

じゃあ、紹介されてたタイトルの中から、薄い順に読みます・笑

ああ、楽しみが続く。よかった♪・・・でも、リオスが・・・・・・。(T^T)

リク、探すって! 

どうやって 探すの?・・・
リクは 霊と 話しが出来るから・・・ ま・まさかッ ∑(@o@)!!

玉城、リクは あなたの事を  ちゃ~んと 大切に 思ってるよ。

リクが、心配です。大丈夫なの、lime様~ (´o`:)ゞbyebye☆

けいったんさんへ 

リクを心配してくれてありがとう~。

なんか、一番不憫な子ですよね。玉ちゃんにまで誤解されちゃあ。
今回ちょっぴり玉城はわがままです・笑

さあ。ちょっと大変なんです。リク・・・。大丈夫かな。←(無責任)

NoTitle 

あ!
高村薫、limeさんにオススメしようかと私も思ってました。

私は「神の火」しか読んでないんですが・・・

あれ?もしかしてこれ、前にもlimeさんに言ったかも・・・?
できればもう一度読み返して、レビューを書こうかと思ってたんですが、人に貸してしまって帰ってこない・・・(泣)
もう一度買っちゃおうかなぁ・・・。


あ、お話の感想は、次回の「交わる」につけますね。
ちょっとお待ちを・・・。

秋沙さんへ 

あれ?
そういえば紹介されたような・・・。
少しだけAmazonのレビューをみると、本当に硬質で重く、深いハードボイルドなんですね。
KGBとかCIAが暗躍してたころ?
少し前時代が舞台なのかな。
・・・大好きです。

秋沙さん、本は返ってこないかな。買う?
大好きな本はやっぱり持っていたいよね。
なぜか「重力ピエロ」、2冊持ってる人・笑

こんにちは^^ 

何か読んでてイライラしますね~(笑)。

limeさんが先に仰ってた、「読者側はわかってるのに、当人達だけがわかってない状況」ってのがやっと理解出来ます^^;

長谷川さん!! せめて忠告してあげれば良かったのに!!
何か彼女の性格上、もしこの後また玉ちゃんに何かあったらめちゃ後悔しそう(><;

リク~~!! 何何!? 何するの~~!!
続きが気になる~~~~~e-330

あっlimeさん、上から17行目が「ビビりる」になってます^^;

蘭さんへ 

今日は2コメも、ありがとう~。

ふふ。イライラするでしょう~。
私も書いててイライラしました。
長谷川さんも、今のところ情報が少なすぎて、推理が鈍ってるし。
玉城はアホだし(笑
多恵ちゃんは真剣さが足りないし。
リクは、・・・・。

リクのせいで、この物語のジャンルは、どんどん変えられていきそうです・汗
ミステリーじゃなかったのか!

リクの決断を、見届けてやってくださいm(_ _)m

あ! ほんとうだ。なんだビビりるってww
悪役のセリフは、チェックが甘かったかな?
ありがとうございます!たすかりました~~。i-189
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