RIKU・4 君の還る場所

RIKU・4 第1話 災厄

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子どもの頃は決して走るのが遅いほうでは無かった。
運動会ではいつも、あの白いロープに一番乗りで突っ込んで行っていた記憶がある。
まさか、大人になってこんなに「過去の栄光」が当てにならないものだと思い知らされるとは。
玉城(たまき)は軽い失望と、痛くなった肺の辺りを押さえながら走り続けた。

逃げたからといって、どうにかなるものではなかった。
けれど、面と向かって話の出来る相手だとも思えない。
ただ、闇雲に走った。足がもつれる。

・・・もう、走るのをやめようか。案外何もされないかもしれない。
いや、それはないな。ほら、あの顔を見ろよ。怖すぎて笑いが出てくる・・・

果てしなく真っ直ぐ走れる自信がなかった。
神にもすがる気持ちで玉城は右に折れ、急勾配の階段を見下ろした。
転がり落ちれば少々厄介だ。けれど前へ進むしかなかった。
ゼーゼーと息が苦しい。心臓がバクバクと抗議してくる。でも、大丈夫、まだいける。

そう思ったのは玉城の早合点だった。
茂った木々の間から、わずかに星を抱えた夜空を見たと思ったが、
その後は流れ星のように星くずが何度も目の前を過ぎり、きな臭い匂いと共に全てが暗闇の中に沈んでいった。
                  ◇

「もう~、玉城先輩ったら遅いですね。昔から時間には正確なほうだったのに。何かあったのかな。携帯にも繋がらないし」
大東和出版のラウンジで菊池多恵は、大きな声でぼやいた。
多恵の向かいのソファには、自分の携帯を睨みながら座っている長谷川。そして二人の座るソファーの横の窓には、ずっと黙って立ったまま外を眺めているリクの姿があった。
「まあ、そのうち来るでしょ。あいつは仕事を無断ですっぽかすヤツじゃないし」
長谷川は、この新入社員らしくない新入社員を横目でちらりと見ながら言った。

先月大東和出版に中途で入社してきた菊池多恵、22歳。
偶然にも玉城の知り合いらしいが、まるで礼儀がなっていない。
いくら学歴が優秀だとしても自分が面接に加わっていたら絶対に落としたのに。
しかも自分の下に配属されるなんて、なんたる不運。
そう思いながら長谷川は一つため息をつき、再び腕時計を見た。

「本当にごめんなさいね~、長谷川編集長さん。先輩、遅くって」
多恵が申しわけなさそうな声を出す。
「別に多恵ちゃんに謝って貰う事じゃないよ。あんたは玉城の保護者じゃないんだから。それから私の呼び方は長谷川、でいい」
長谷川は少しムッとした口調で言った。
「それより多恵ちゃん。あんた、スカート短すぎるよ。足組んだら下着見えるから」
「きゃあ~。やめてくださいよぉ、長谷川さん。セクハラですってばぁ~。ねえ、リクさん?」
多恵は女子高生のような声を出し、キャッキャと笑う。
なんでセクハラなんだ。長谷川はイラッとしながらもそれ以上何も言わず口を閉じた。
少し気になって窓際のほうも見たが、リクはまるで無反応にぼんやり窓の外を眺めているだけだ。

リクが無事個展を終えたのは一週間前。
長谷川の予想以上の反響で、スポンサーに付いた画廊のオーナー佐伯は、リクをその気にさせた長谷川に何度も礼を言ってきた。
以前、写真集さながらの特集を半年間美術誌「グリッド」に組み、リクの名と素顔を世間に知らしめた長谷川としては、もう一度個展に焦点を当てた記事を「グリッド」に書いてみたかった。
けれど人と関わるのを嫌がるリクの事だ。きっと首を縦に振らないだろうと思っていた。
やっと煩わしい密着取材から解放されたのだから。
けれどダメ元で告げた提案に、リクはあっさりOKしてくれた。
その反応に驚いた表情をした長谷川に「何?」と、不機嫌な顔を向けはしたけれど。
今日もこうして打ち合わせのために、ここ大東和出版まで来てくれた。
長谷川はラウンジの窓から外の景色を見下ろしている、彫像のように美しいその青年の横顔をじっと見つめた。
心に影を落とし、人と付き合うことを避けてきたこの若く才能のある画家を変えた人物がいるとすれば、
それはきっと今遅刻しているあの男に違いなかった。

じっと見ていたのに気がついたのか、リクが長谷川の方を向いた。その表情は少し不安そうだ。
「大丈夫かな、玉ちゃん」
リクがポツリと言った。
いったい何が心配なのかと笑いそうになるのをぐっと堪えて長谷川は「すぐ来るよ」とリクに返した。
遅刻してくる玉城をそんなに心配する必要があるとは、長谷川には思えなかったのだ。

そこに1時間遅れで現れた、玉城を見るまでは。


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~ Comment ~

久しぶりですね 

久しぶりですね~。
おなじみのメンバーも元気そうで良かったです。

不思議なもんですね。
一年たって、またちょうどRIKUが始まるなんて。
もしかしてlimeさんの計算のうちだったのでしょうか。
だったらマジですごい。

ヒロハルさんへ 

ありがとうございます~。
はい、みんな元気です。
玉城は微妙ですが・笑

そういえば、RIKUからスタートしたんですよね。
はは。
偶然また一年経って、リクがはじまりましたね。
(計算だったと言っておけばよかった)

シリーズものは、新しい読者さんに読んでもらいにくい・・・とは思うんですが、
愛着が湧いて、ついつい書いてしまいます。
毎回、これで終わりかな?とは思うんですが。

NoTitle 

朝っぱらから読みました。
ずっと。
えぇ。
RIKUだけを。
朝から!
面白くてとまらなかったんですもの!!
助けてください、limeさん。

止まりません!!

僕も小説がんばります・・・。

ねみさんへ 

えええーー。そうなんですか?
RIKUを一気読みしてくださったんですか?ねみさん。
ありがとうございます。
長いから疲れたでしょ?
でも、とっても嬉しいです。
楽しんでいただけて、良かったです。
またしばらくゆっくりと更新していきますので、遊びにきてください。
私も遊びに行かせてもらいますね。

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメKさんへ 

Kさん♪RIKUまた読んで下さってありがとうございます(*^o^*)
「僕らの相対論」はみなさんコメントに悩まれるみたいだから、全く気にしないでくださいね。それより、読んでくださって逆に申し訳ないです。ありがとうございました♪
KさんのコメントはMさんのところで毎日読んでます(*^o^*)楽しませていただいてますよ♪

RIKU、またゆっくり更新しますので、よかったら遊びに来てくださいね。コメント気にせず、リラックスで♪

NoTitle 

どうした?シロちゃ・・・じゃなかった、玉ちゃん!?

あぁ、次の更新まで玉ちゃんは階段の下に転げたままなのかしら・・・(^^;

秋沙さんへ 

シロちゃんじゃないってヾ(`ε´)ノ

しょっぱなからドジですね、玉ちゃん。
この階段の下の出来事がこれから問題になるんだけど。
今回誰かにイラットくるかも。
(みんなにかも?)

あああ玉ちゃんが… 

また何かに巻き込まれている…!!

何が起こったのかはまだ分かりませんが、またドジ踏んじゃったのかな?

玉ちゃん、しっかり!!

あ、骨董店更新しましたw

有村司さんへ 

巻き込まれ型トラブルメーカー、玉ちゃん、起動!

今回はさらに、読者さんにブーイングを喰らいそうな玉ちゃん。
有村さんは、イライラするのか、それとも理解しちゃうのか。どっちでしょう。

この「4」は、ちょっとトリック以外で分かりにくいところがあるかもしれませんが、
そんなときは他の読者様とのコメのやり取りを見てみてください。
(そんなことでいいのか!!)
なにしろ、玉城もリクも、事の真相がわかっていないもんで・・・。
でも、読者には真相が分かっている、という物語なんです。(そのはずです^^;)

大いに、玉城にイライラしてください^^

お!骨董屋更新? やった! 後でお邪魔しますe-266

やはりRIKUに 

他の作品も読みたいのですが、まずはRIKU。
発端部から、おっ、なにが起きてるの? どうなるの? って、わくわくどきどきです。

それにしても多恵ちゃん、長谷川さんにセクハラって。
思わず言ってしまった多恵ちゃんと、むかつく長谷川さんのお顔が目に浮かんで、嵐の前の静けさって感じですね。

あかねさんへ 

「4」へ、ようこそ^^
この章は、ちょっと途中がミステリーじみてて、分かりにくいところがあるかもしれませんが、
どうぞよろしくお願いします。

そんな時は「どういうことですか?」って聞いてくださいね。玉城が、事態をややこしくしちゃってて・・・。
(あ、コメント欄みたら、謎が解けるってこともあります)

今回は、多恵ちゃんと、玉城がトラブルメーカーです。
リク・・・災難です・涙。
多恵ちゃん、怖いもの知らずですよね。まあ、作者は、嫌いではないのですが^^;
(基本、みんな愛してる)

ちょっと、ややこしいので、コメントなしでも構いませんよ。
のんびり読んでやってください。
ちょっぴりホラーめいた展開になります。
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