僕らの相対論1・トンネル効果の章

僕らの相対論 第7話 実験

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スーツの男がゆっくり顔をあげて僕の方を見たのは、その立派な門の手前5メートルくらいの所だった。
顔を見られる前に反らしたので、どんな反応をしたのか分からなかったが、その男が馬のように長い顔をしてる事だけ目の端で確認できた。
ガバッと男が立ち上がる気配がしたが、その瞬間にはもう、僕は古く歴史を感じさせる門の脇の小さなドアから外に飛び出していた。

門の外はもう、真ん前がバス通りだ。
家の敷地内をほんの20メートルばかり走っただけで息を切らせている僕の前を、ガラガラの赤字ローカルバスがのんびり通り過ぎていった。

・・・静かだ。 
いったい何だったんだろう。ゆっくり門を振り返った。
何をやってるんだ? 僕は。

さっきのスーツの男は追いかけてくる様子もない。
ましてや、「ドッキリでした」と、プラカードを持った光瀬が出てくる気配もない。
いったい何だったんだろう。そして光瀬はどうした?
僕は今出てきた小さなドアをほんの5センチばかり開けて、中を確認した。

石の上に、あの男の姿が無い。
ぐるりと庭を見渡すと、さっきの男はあの白壁の蔵の戸に貼り付いて何か必死でやっている。
どうやら鍵を開けているらしい。
ごつい南京錠のような鍵だったのかも知れない。焦った様子で手間取りながら外し終わった男が、そっと蔵の引き戸に手を掛けた瞬間。
エネルギーマックスの自動ドアのようにその引き戸が勢いよくバンと開き、
中からもの凄い勢いで飛び出してきた人物に男は弾かれ、後ろに吹っ飛んだ。
ゴロゴロと面白いように地面を転がる。

「何? 人が入ってたの?」
呆気にとられ、つい声を漏らしてしまった。そして更に隙間にかじり付く。
男が後頭部を押さえて転がって居る間に、飛び出してきた人物は、さっき僕と光瀬が入ってきた方向を目指し、矢のように走った。いや、逃げた。まるで捕まっていた猫が飛び出すような俊敏さで。

誰だ? そして光瀬は?
僕は訳の分からないまま、そのまま頭を押さえながら立ち上がった男を見ていた。
痛そうだ。
男はキョロキョロ周囲を見回した後、さっきの人物が走り去ったのと同じ方向へ、よたよたと走っていった。
閉じこめられていた人間を追う男。この構図からして、追う男が悪者に見えるのが普通だ。
捕まったらどうなるのか。逃げ切れるのか。

「やばいじゃん」
思わずそうつぶやくと、背後から声がした。
「そう、やばいよ」
ハッとして振り向くと、そこには光瀬。
「お待たせ。急いで逃げるぞ。比奈木」
「え?」
そして、その横には見知らぬ少年が立っていた。さっき蔵から飛び出してきた人物だ。
僕はその少年を見て呆気に取られた。
黒のニット帽、黄色のチェックシャツ、背格好も合わせて、まるっきり僕のコピーだ。
いや、僕がコピーなのか?

けれどもそんなことを考えている時間は無いらしい。
丁度タイミング良く滑り込んで来たタクシーをつかまえて、僕らは乗り込んだ。
光瀬は近場の駅の名を告げると後ろを振り返った。
さっきの男が悔しそうに道ばたに立って、このタクシーを睨みつけている。
後頭部をさすりながら。
「勝ったな」
光瀬が、僕のコピーのような少年のほうをみてニヤッと笑うと、少年も「ふふ」と小さく笑い返した。

「どういう事だよ、光瀬。この子誰? 僕のコピーか?」
「君がコピーだ」
「やっぱりか。・・・いやそう言う事じゃないだろ」
「いいか。比奈木。そもそもトンネル効果は素粒子が壁を通り抜ける現象じゃないんだ」
「何の話だよ」
「トンネル効果の話だよ」
「まだその話、生きてたの?」
僕は唖然とする。
「実験するって言っただろ?」
「実験じゃないだろ? これは全く!」
間に挟まって、小柄な少年は不思議そうな表情で僕らを交互に見ている。
中学生くらいだろうか。女の子のような優しい顔立ちの子だ。同じ格好をしているせいで、なんとも落ち着かない。

「ポテンシャル障壁の手前で消えた電子と、その向こうで同時に出現した電子とが酷似してるから通り抜けたと錯覚してしまう。騙されるわけだよ、比奈木」
「だから何」
「だからさ、さっきの男もこの子とそっくりなお前を見て、この子が壁を抜け出したのかと一瞬思った。けれど、蔵の扉は一つしかないし、鍵は自分が持っている。出られるわけが無いんだ。でも、自信が無い男は、確認のために鍵を開けたんだな。騙された訳だよ」
「それはもはやトンネル効果実験でも何でもない。ただの心理作戦だ。それに、今僕が聞きたいのはそんな事じゃない」
「え? そんな事?」
光瀬はキョトンとする。
「なぜだ比奈木。トンネル効果は重要だぞ。何せ、お前が一番知りたいと思ってる宇宙創生の鍵を握ってる現象だぞ? トンネル効果が働かなかったら、宇宙は誕生していない」
「そんなことは知ってるよ。それ以上訳わからないことを言うと分子レベルまで刻むぞ! 僕が知りたいのは、これが何のイベントで、この子は誰なんだ、ってことだ!」

僕が大声で言うと、僕らに挟まれた小柄な少年は恥ずかしそうな表情を作り、改まった口調で小さく答えた。
「お騒がせしてしまって、ごめんなさい。ぼくは生田宇宙(いくた・そら)といいます」
「ソラくん?」
光瀬が少年の頭を撫でながら兄貴ぶった口調で言った。
「宇宙って書いて、ソラって読む」

なるほど。トンネル効果で宇宙が生まれたって訳か。・・・・だから・・・なんだ。


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~ Comment ~

あはは 

コピーが出てきた瞬間は一瞬SFかと思いました。笑。
そういえば、
limeさんは不思議現象が出てくるお話ってないですよね。
(例えば、子供の頃の自分に会う話とか。笑)。

次の作品はそういうのいかがでしょう?
でもミステリーではなくなっちゃうか。笑。

ヒロハルさんへ 

ははは。SFだと思いましたか? 笑
たぶんSFとファンタジーは書かない・・いや、書けないと思います。
とはいえ、霊が見えたり、人の心が読めたりする人は出てきますが・笑
手が届きそうな「不思議」が好きなんです。

物理学は、それ自体がぶっ飛んだ世界なので、これはSFなしで行ってみます。


NoTitle 

limeさんのこの小説に触発されて、トンネル効果についてショートショートSFのアイデアが浮かんだので、ほとぼりが冷めたころに書くことにします(^^)

ネタ自体は一週間前に思いついたのですが、かぶっていたらやめようかと思っていたので……。

それにしてもここまでSF風な前ふりをしておいてミステリで落とすか!(^^)

そこらへんにミステリ作者としての味を見ました。

やりますね~♪

ポール・ブリッツさんへ 

おおー。それは楽しみです。
けっこういいネタでしょ、トンネル効果。(私らだけ?そんなん思うの)

しかし、SF風な感じしてました?
全く自覚ゼロでした。

安心してください、ポールさんとは絶対かぶりませんよ・笑
SFにはなりませんから。
ミステリー・・・でもないかな? いや、どうなのかな?
ともかく、ポールさんを退屈させなかったとしたら、嬉しいです(*^-^*)

NoTitle 

昔・・・
「意味なしほういち」という深夜番組があったのをご存知ですか・・・?
ものすご~~くシュールな番組で、わけのわからんショートショートをひたすらやっているという・・・。

その中に「瞬間移動する人を見た」というシリーズがあったのを思い出しました。

「ある日僕は、壁を通り過ぎる人を見た。」
トイレの個室に入っていく女性。扉が閉まると、その隣の最初からしまっていた個室から、そっくりな女性が出てくるという・・・。
まぁ、双子を使ってるんですけどね(^^;

このパターンで、「瞬間移動する人を見た」と言って、2階のベランダから一人が引っ込むと、やはり双子のかたわれがすぐに1階のドアから出てくるとか、やってたわけです(笑)。

そうか、あれもトンネル効果の実験だったのか・・・(^^;

秋沙さんへ 

なんとも奇妙な番組ですねえ・笑
それは観たことないですが、深夜番組っぽくて、奇妙ですね。
秋沙さんが見てたんなら、きっと私好みかも。シュールなの、好き。
筒井康隆とか好きだったし・笑
しかし、その双子を使った現象、オチはどこにあったのでしょう。
その番組の構成、演出がきになります。

ほんとうはトンネル効果って、こんな現象ではないんですが、マクロの世界でたとえようがないので、
こんな説明になっちゃうんですよね。
大学で本当にあるんですよ。
「このトラックが壁にぶつかった場合、通り抜ける確率を求めよ」って。
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