RIKU・2 君が求めた真実

RIKU・2  第四話  炎

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「鍵をかけて外出しろ」
すんなりとドアを開けて家に入っていくリクに続きながら玉城は、
さっきそれに腹を立てていたことを思い出した。
けれどリクは気に止める様子もなくスケッチブックを奥の収納部屋へ置きに行く。そして、
「面倒だろ?」と、本当にめんどくさそうに返事をした。

「面倒とか、そんな次元の話じゃないよ。ちゃんと管理をしろって言ってんだ。
ガキじゃないんだから。
知らないなら教えてあげるけど、リクの絵は堂々と芸術的価値ある物として認められて
画壇では凄い値が付けられている。
もう一つ参考までに言うと、俺にはおいそれと買えない値段だ」

皮肉を込めて玉城は分かり切った事実を並べてみた。
けれど少々嫌みっぽかったかな、と、黙ってキッチンに引っ込んだリクをチラリと目で追いながら
玉城は少し反省した。

そもそも玉城は今日ここにリクの取材を目的に来ているのだ。
好意で取材を許可してくれている相手に言う言葉ではなかった。
友達、ではなく、あくまでリクとは仕事を通しての関係なのだ。

何となく気まずい気持ちになりながら、玉城は立ったままリビングを見渡した。
いつ来ても生活感の無い部屋だった。
別荘としてログハウス調に作ってあるのだろう。
1階にはリビングダイニング、物置、ユニットバスとキッチン。
あとは寝室がわりのロフトが2階にあるだけの小さな一軒家だった。
カーペットも飾り棚も装飾品もまるでない。
以前住んでいた家もそうだった。

“気を損ねたらすぐに飛んでいってしまいますから”

リクを「鳥」だと言った画廊の主人の言葉が蘇る。
なるほどと、玉城はその表現を聞いたとき気に入った。
小高い丘の上の木に留まり耳を澄ませ、彼は常に飛び立つ準備をしているように思える。

玉城の目線がふと玄関の横に置かれた荷物に止まった。
本や雑誌の他に、パネルらしき物が一塊りに積まれている。

“何だろう”
そう思った瞬間、首筋に氷を這わせたような感触が走り、玉城は思わず「ひゃっ!」と
マヌケな声を出した。

慌てて振り向くと、リクがグラスに入れた冷たい麦茶を持って立っていた。
「ごめん。びっくりした?」
「びっくりするよ!何だよもう!」
噛みつくように言うとリクは満足そうにニコッと笑い、グラスを玉城の前のテーブルに置いた。
「突っ立ってないで座ったら?」

小窓から柔らかい光が差し込んでくる。
テーブルに手を付き、リクは少し顔を傾けてこちらを見た。
ほっそりとした輪郭、女性的なラインを描く大きな目。
柔らかくウエーブした髪が額にかかり、気だるい雰囲気を醸し出す。
つくづくきれいな男だと玉城は思った。

「それとも嫌みを言いに来たんなら、すぐ帰って」

だが外見の柔らかさに油断したら一刺しにヤられる。

「悪かった。もう言わないよ」
玉城は苦笑し、飲み物のお礼を言うとテーブルの椅子に腰掛けた。
「あれって全部捨てるのか?」
玉城は再び奥のクローゼットの方へ行ってしまったリクに聞いてみた。
雑誌類に混ざって、何か描かれていそうなパネルがあるのが気になった。
「玉ちゃんがここの住所教えちゃったから出版社からいろんな雑誌が送られてくるんだよ。
いらないって言ってよ」
奥の方からリクが顔を出さずに答えた。
「そりゃ悪かった。言っておくよ。雑誌は良いんだけどさ、何か絵もあるぞ。捨てていいのか?」
「うん。いらないから」
何気なく答えるリク。

玉城はそっと立ち上がり、ドアの横にまとめてあるその荷物の所まで行くと、
紙製のボードをめくってみた。

「見ないでよ」
奥からリクがまた顔を出さずに答えた。玉城の行動は見えてはいないはずだ。
「ああ。」
けれどそう答えている玉城の目は、しっかりとその絵を見ていた。

始めは何が描かれているのか玉城には分からなかった。
一面の赤。そして熱を感じるような橙。太陽?
けれどくすぶるようにどす黒い青い影。
シンプルだが繊細な写実的画法の絵を描くリクには珍しいタッチの抽象画だ。
あるいは絵ですらないのかも知れない。
ただ気まぐれに余った絵の具を塗りたくった。そう言われた方がきっと納得する。
けれど何か胸の奥がザワザワする。
この感覚は何だろう。不快感?不安?怒り?
「見ないでね。」と言われた手前、「何の絵だ?」と聞くわけにもいかず、
玉城は絵を戻して立ち上がり何気なくリクのいる方を見た。

そして今度こそ、言葉を失った。

リクの姿は死角で見えなかったが、その間にある据え付けの戸棚の戸が鏡になっていて
リクを映し込んでいた。
さっきまで着ていた白いシャツを脱いだリクの背中を。
息を飲む。

無駄な贅肉の少しもない中性的なほっそりとしたラインを描くその背中には
右肩から左の腰あたりまで大きく斬りつけられたような傷跡。
そしてそれを覆い隠すようにケロイド状になった火傷の痕が生々しく広がっていた。

もしもそれが幼い頃のモノだったとしたら、とうてい生きてはいないだろうと思えるほど
酷い傷あとだった。
とっさに目を逸らす。
見てはいけないモノを見てしまったような後ろめたさで、胃の辺りが重くなる。
すぐに聞けば良かったのかも知れない。「どうしたの?その傷。」
あるいはリクは笑いながら
「小さい頃ストーブでね・・・・」とか、軽く答えてくれたのかも知れない。

だが、なぜか玉城は聞けなかった。
ボーッとしたまま再び足元を見下ろした。
胸が息苦しい。
足元のパネルに塗りたくられた鮮やかな色彩が蘇る。
わき上がる赤。あれは炎?怒り?それとも恐怖?

「見ないで」とリクは言ったのに。
自分は見てはいけないモノをまた、いくつも見てしまったのかもしれない。
そう思った。

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の、ノーコメントのほうが… 

こんばんは。

コメントしないほうが良いかと思いましたが…ちょっとだけ。
絵にはその人の心理がかなり現れると、学生時代習いました(一応画学生(苦笑))喜び、哀しみ、怒り、心の傷(トラウマ)…。

その領域に踏み込むことは、心理療法士でも並大抵ではないといいます。

玉ちゃんは、そんなリク君を庇ってあげられるのでしょうか?庇うということばが悪ければ…それを知りつつ、恐れず「相棒」になれるのかな…。

有村司さんへ 

第4話も読んでくださったんですね^^

いえいえ、何でもかんでも、好きにコメントしてくださいね。
シリアスな回でも、お茶らけてかまいませんから(^.^)

有村さんも画学生だったんですか! 私もじつは、美大出身で。(なのに、こんなことしてる)

そういえば、心にトラウマを持った子供の絵は、心理学者にはすぐに分かるほど、心が顕著に出るそうですね。
リクにも、そんな心の傷があるんでしょうか。

問題は玉城ですよね。
玉城には・・・・・荷が重いような気がする作者なんですか・・・・。

          ↑
玉城って、ほんと、作者からの信用度低いなあ^^;

過去なのですかね 

身体の傷は心の傷、なのでしょうか。
リクの繊細な危うげというものは、読んでいる者の気持ちも震わせるようなところがありますね。

ここまでではまだよくはわかりませんが、選挙のほうのおじさんの「血の通わぬもの」というのも、そちらの方面の? きっと先を読めばわかってくるのでしょう。

先日は失礼な質問をしてしまったのかもしれませんのに、お答え、ありがとうございました。

私も男性同士の触れ合い、友情のようなものを書くのは好きですし、ボーイズラヴも書かなくもないので、気になったのです。
limeさんがBLもお嫌いではないと知って安心しました。

あかねさんへ 

> 身体の傷は心の傷、なのでしょうか。
> リクの繊細な危うげというものは、読んでいる者の気持ちも震わせるようなところがありますね。

リクの繊細さに同調して下さって、うれしいです。
並はずれた霊感というのも、彼を臆病にする原因のひとつですが、この傷も、そうとう彼の人生にダメージを与えました。
そのリクの苦悩を、ここで描いてみました。

須藤も、多分いつか絡んでくるはずです。

> 先日は失礼な質問をしてしまったのかもしれませんのに、お答え、ありがとうございました。

いえいえ、質問大好きなので(w)何でも訊いて下さい。

おお、そうですか。あかねさんもなんですね。
そう言う感じの世界、大好きですよー。なんでも来いです。(節操ないんだからあ)

私も、けっこうギリギリな線まで書くかも知れませんが、笑って見逃してやってくださいね^^


NoTitle 

RIKUの過去に何があったんでしょうね?
その赤いどす黒い絵は果たしてRIKUが描いたんでしょうか?
玉城はこうして、またRIKUの内側に入っていこうとするのでしょうね。

さやいちさんへ 

なんか、不穏な感じになってきました。

次回からリクの過去が、少しずつ明らかになってきます。(ちょっとずつですが)

玉城、どっぷりと浸かっていきますよ~~^^;

えーっと、どこに書こうかと思いつつ 

limeさん、また中途半端なところに顔を出してしまいました。
何だか、RIKUはlimeさんが大事にしておられる感じがして、読み終わるのがもったいなくて(読むものが無くなるのが嫌なんだもん)、だらだら読みになっています。
limeさんの物語って、ストーリーはとても複雑に練られているのだけれど、登場人物の感情はすごくストレートに来るので(決して単純な人たち、というわけではありません!!)、分かりやすくて溶け込みやすいんだなぁ、と今頃気が付きました。そして多彩な人が織り合って、物語の屋台骨を支えていているんですね。
いえ、ここにやって来たのは、全然別のことを書きに来たのでした。
この間、limeさんが、少年の心の問題を書く時に性の問題は落とせないことだけど、そこは敢えて押さえて書いておられるというコメントを下さったので、どうだったかなぁと気になって、ちょっと思い出してみたのです。
うん、『雨猫』の由希くんがそういう意味では一番際どい所にいたんだなぁと。単に継母との関係がというのではなく、ホームレスの人たちとの関わりとかも。でもそれを、このくらいの感じで書き流せるlimeさんが、逆に素敵と思いました。いや、これはどろどろ書いたら確かに別の話になるわ、と。
limeさんの少年は、何をしていても、透明なところがいいんだろうなと思うのですね。これだけ透明感があると普通は現実感が薄れるけれど、ちゃんと足のある少年に感じられる。それはlimeさんの筆力ですね。

で、ずっと前に、limeさんの物語を始めて読ませていただいたときに、何となく思い出した作家さんがいて、その時にコメントに書こうかなと思ったのですが、物語を書いておられる本好きの人に本を勧めたり、その人の描く世界と感じが合っていますねとか言うのってすごく勇気がいるし、全然違うよと思われても申し訳ないし、そのままになっておりました。いえ、世界観が似ているというわけでもないけれど、何か私の中で引っかかるものがある感じが同じなのかもと思います。
鷺沢萠さんの『少年たちの終わらない夜』……幾つかの短編が入っている本ですが、その中のどれというのでもないけれど、う~ん、やっぱり多分私の魅かれ方が似ているだけなのかなぁ。十分に色っぽい面のある話(本)なのですが、露骨じゃなくて、私は好きだったのです。
こういう形でそういう要素が匂うのがlime風でいいかな、と。
でも、いつか書きたくなれば、突き進んでください!
って、何の話だったのやら。ボケボケのコメントですみません^^;

大海彩洋さんへ 

大海さん、嬉しいコメント、ありがとうございます。
(4時に目が覚めて、コメント読んで、ちょっと興奮してコメ返してます^^;)
いえもう、どっからでも、どんなコメントでも、雑談でも悩み相談でも(え)、なんでも書き込んでください。大歓迎です。

RIKUシリーズを、じっくり読んでくださって、とても嬉しいです。
まだ初期の作品の部類に入るので(どこまでも初期・笑)描写が荒いのが恥ずかしいのですが、多分この頃は大事に、必死で書いていたと思うので、どうぞ見守る感じで読んでやってください^^(と、読者に甘える)

あ、そうなんですよね。私の物語って、ストーリーテラーの役目をする人物は、とても単純な性格の人が多いです。
玉城にしても、稲葉にしても、隆也にしても、倉田にしても。坂木もそうだし。そしてこれらは、保護者の役割なのでしょうね。
わりとミステリー寄りの話を構成してるので、彼ら自身を書き込み過ぎると、主題がボケてしまう気がして。文学ならば、絶対手を抜いてはいけない部分なんでしょうが。
そして被保護者は、複雑なんだろうけど、あまり視点を持たずに、ちょっと何を考えているかわからないところがある・・・という。(ぎゃあ、みんないっしょだ>< やばい)
大海さんの作品なら、保護者は竹流で、被保護者は真かな?(そんな簡単なもんじゃないと思うのですが)
でも、大海さんのほうは竹流の方がむしろ真よりも複雑で、そして愛情を注がれてる(大海さん談)というのが、興味深いです。私はどうも、被保護者に愛情が行ってしまって・・・。

そして、私のなかの少年像を、いろいろ思ってもらえてうれしいです。
いやもう、単純に理想なんです。少年には純粋であってほしい・・・と。(あさのあつこさんも、同じことを言われてたので。ふふ、とおもったんですが)
実際の少年というのは、私もいろいろ付き合いがあるし身近にもいるし、自分の作品の少年ほど単純ではないことを分かってるつもりなのですが、極力生々しさを抑えて、ミステリーの中に組み込みたいなと思っているのです。
きっとリアリティがないだろうな、と思いつつ書いていたのですが、大海さんに現実味があると言っていただけて、すごくうれしいです!
そうなんです、『雨猫』の由希は、私にしては清水の舞台から飛び降りた気分だったんです。(あれでも)
でも、あの物語を描く上では、由希の少しばかり危ないああいう言動、立場が不可欠だったので、描写してみました。引かれるかなと思ったんですが、みなさん優しく受け入れてくださってほっとしました。

>物語を書いておられる本好きの人に本を勧めたり、その人の描く世界と感じが合っていますねとか言うのってすごく勇気がいるし、全然違うよと思われても申し訳ないし

あ、これ、以前大海さんのおまけ記事(?)に書かれていましたよね。
私は、似ていると言われるの、好きですよ^^
以前も鷺沢萠さんや長野まゆみさんの作品に似てるかもと言われて、どちらも知らなかったので、興味深々でした。客観的に自分の作品を見れるし、プロに似てると言われて、怒る人はいないと思いますし。(でも、気は使いますよね。私もよく他の人に、○○に似てるよねと言ってしまって、あとで後悔したことがあります^^;)

鷲尾萌さんですか。この方は名前も全く知らなかったので、ちょっと今度読んでみようかな。色っぽさ・・・というのに惹かれました(え、そこ)
やはり物語や人物には、色っぽさと艶があったほうがいいです。どんな無骨な男でも、なんかしら色気がかんじられたとたん、ぐっと惹きつけられるんですよね。ちょっと話がちがうかな?
でも、その作家さん、読んでみたいです。
少年という存在は、やはりずっと追いかけてみたい素材です。
男の子が本質的に純粋であることは、やっぱり今でも疑っていないので、そのまま書き続けたいです^^

ああ、もっと語りたかったのに、中途半端なコメ返になっちゃいました><
あと30分、寝てきます(爆)
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