「白昼夢 」
最終話 夢の終わりに

白昼夢 最終話 夢の終わりに(前編)

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坂木はゆっくりともう一度振り返った。
まだ心臓を掴まれたような、心を包み込まれたような不思議な感覚が消えない。
この世に魔法と言うモノがあるなら、今、自分はその魔法にかかった。
そう思った。
さっきまで自分と話をしていた少女の姿はもう無かった。
ふいに空を見上げる。
そこに居るはずもないのに。


まだ17、18歳くらいだろうか。
OEA第5支部から出てきた坂木はその少女と鉢合わせる形になった。
華奢な体つきの可愛らしいその少女は坂木を見るなり、まるで雷に打たれたように目を丸くさせて体を硬直させた。
坂木は辺りを見回したが他に誰もいない。彼女が見つめているのは、まぎれもなく坂木だ。
少女の反応に驚いて坂木もじっと怪訝そうに少女を見つめ返した。
そのままかなりの間があったように思った。
少女は少し声を震わせながら、やっと決心したという表情で坂木に言った。
坂木の名と、そして今も胸を締め付けられるほど悲しい記憶を伴った昔の相棒の名を。

「なんで陽を・・・。何であんたは俺と陽の名を知ってるんだ。あんたは・・・誰だ!」
OEAの人間としての猜疑心からではなかった。
外部の人間に自分たちの素性を知られるなんてあってはならない事だ。
けれど、そのとき坂木の中ではそれは大きな問題ではなかった。
ただ純粋に少女が何故その名を知っているのかが不思議だった。
「あんたは陽を知っているのか?」
坂木の声も震えていた。

少女は真っ直ぐ坂木を見て頷き、そして問いかけた。
「陽という人は、まだ貴方の傍にいますか?」
坂木は言葉を失った。
そしてその残酷な質問をした少女を見つめ返した。
ひっそりと木々で隠されたOEA支部の壁にはツタが絡まり、一見廃墟と見間違うような外観だった。
道行く人もまばらな寂しい郊外の一角。
10月に入ったばかりの午後の乾いた風が二人の頬をかすめて行く。
坂木は手すりほどの高さの車止めにゆっくりと腰を下ろした。少女の、その質問に沈黙で答えながら。
少女もゆっくりと坂木の横に腰掛ける。
白いワンピースがフワリと風にゆれた。

「もう、いないんですね」
少女は坂木ではなく、真っ直ぐ前を向いたまま小さくつぶやいた。
「ああ、いない。・・・もう、いなくなっちまった」
坂木も真っ直ぐ前を見つめて消え入りそうな声で言った。
「・・・そう」
「あんたはあいつを知ってるんだな?」
「・・・」
少女はそっとくちびるを噛んで辛そうな目をした。
「ごめんな」
「・・・どうして?」
「俺のせいだから」

俺は頭がおかしくなってしまったのかも知れない。
初めて会った少女に何を話しているのだろう。
いや、もしかしたら自分の横にいる少女は存在さえしない幻なのかもしれない。
本当にそうだとしても、狂ってしまったのだとしても構わない・・・坂木はそう思った。
今は話したい。
誰でもいい。
もう、話してもいいんじゃないか。
そう思った。

「辛かったね」
風に消えそうな優しい声の方を振り向くと、少女は坂木を見つめて泣いていた。
「でも、どうか自分を責めないで」
その涙を何故か坂木は不思議と受け入れた。
この少女は全てを知っている。理由なんかわからない。
ただ、そういうことなんだと思った。
今、願いは叶うのかもしれない。

「俺のせいなんだよ。俺はあいつに言ったんだ。“俺のために生きてくれ”って。だから・・・」
「だから あの人は生きられたのよ」
少女は優しく言った。
「貴方が彼を救ったのよ?」
「そんなこと無い。そうじゃないんだ。俺がさらって・・・・・・そして殺した」
「そんなこと言わないで!」

その激しい語気に坂木はハッとして少女を見た。
少女は悲しげな涙を浮かべたまま真っ直ぐ坂木を見つめていた。
「彼がどれだけ貴方を大切に思っていたか、分からなかった? 自分の命よりもずっとずっと大事だった。大好きだったの。一緒にいてわからなかったの?」
「・・・」
坂木は少女から目を反らすと車止めからゆっくり立ち上がった。
そして何かに怯えるように一歩、少女から体を離した。
少女はじっと坂木を目で追う。

「そんな資格は俺には無いんだ」
「どうして?」
「ウソをついていた」
「・・・え?」

坂木はうつむいたままゆっくり息を吸った。
小さく語り出した声が微かに震えていた。




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次回、白昼夢 最終回です。



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~ Comment ~

あぁもう・・・ 

やばい、すでにこの段階で涙が。

いや、まだ、後編がある。
多くは語るまい(ToT)

秋沙さんへ 

秋沙さん~。
終わっちゃいます(´_`。)

今度こそ最後ですねえ。
もう、二人に会いに秋沙さんとこに入り浸りそうです。

NoTitle 

やーーん、終わらないでーーー

Route-Mさんへ 

ああ、よかった。
この前泣きながら去っていったから・笑

終わりを惜しんでくださって、嬉しいです(T_T)私も寂しいです。
(あんなことしときながら)

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鍵コメKさんへ 

はい。そうなんです。2話のあの少女です。
彼女はあの一瞬陽と一つになり、陽の一部を受け取りました。
彼女の役割は、大きいです。

さあ・・・次回で最後です。
最初から読んでくださったKさんにも、本当に感謝です。
最終回は土曜日更新。また遊びにきてくださいね。

NoTitle 

少女は何者……。

首をひねっておりましたが、ああ、あのときの!

坂木さんはいったいなにを語るんだろう……。

ところで次にコメする「このミス」でも一二を争う濃いミステリガイド見てね。鍵コメにしておきます。大丈夫とは思うけど、著作権とかうるさいからなあ……。

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NoTitle 

追記:ちなみに収録は『このミステリーがすごい!』93年度版ね。

ポール・ブリッツさんへ 

あ、すぐに分からなかったですか?
ええ、マキです。
これは気付いてもらったほうが、スムーズに話が進むと思いまして、
第2話をほのめかしたんです。

坂木さん、こんなこと思ってたんです。

ポール・ブリッツさんへ 

おおおお!こんなにたくさん、書きだして下さったんですね?
長文だったのにうれしいです!
隅々まで読みました。
そうか、そんな時代だったのですね。ふふ。
もう、確実にこの手の話は好きなんだろうと自覚してます。
でも、やっぱりあの清潔感あふれるホワイトさんの作品は最高峰なんです(分かってくださいますか?)
あの著者の言ってること、すごく共感です。
テリーさんの作品はまさに出会いの美学!そのあとに悲惨なことがまってるのはわかるのに、
何とも甘美なんです。

と、いうことで、「ブルース」アマゾンで購入しました(爆)
ええ、なんとでも言ってください・笑
読む人を選ぶとはどんな感じなのでしょうか。
たのしみです。

NoTitle 

おお、「ブルース」を!

読む人を選ぶ、というのは、暴力描写が苦手な人はちょっとつらいかな、ということです。なにしろ花村先生の(とはいってもわたしはこれしか読んでませんが)作品ですから。テリー先生の作品から「清潔感」を感じるとしたら、こっちはひたすら「猥雑」で「汚れて」いますからねえ……。

しかし、これだけはいえますが、その外見をものともせずに入っていくと、中でやっているのはものすごく切ない話です。みんながみんなして悲劇になだれ込んでいきます。登場人物がみな、それぞれの悩みを抱えた悲しいやつらなんです。

特にラストシーンで、徳山がとった行動を見て、わたしは泣きそうになりました。ギリシア悲劇でもこんなのはないぞ。

これもおすすめ本の選択肢のひとつに上がっていたのですが、出てくるのが屈折した中年男ばっかりで、「ジョニー」や「ツァラプキン」みたいな、純粋な心を持つ美青年が出てこない、ぶっちゃけいってしまえば「マック」ばかりで作られたような話だったので(いや青年も出てきますがね)、limeさんにはどうかなあ、と。

まさか購入されてしまうとは。(^^)

でも内容はいいです。すごくいいです。90年代ミステリでベスト20を組んだら、絶対入れます。

読むと「真夜中の相棒」並みに放心状態、もしくは鬱になりますけど……。

limeさんがどんな感想を抱かれるのかこっちも楽しみです。

しかし、いろいろとアマゾンを見ていて思ったのですが、

やっぱり日本の出版界って、

「面白い本から絶版にしていく」のね……。

ポール・ブリッツさんへ 

出てくるのがマックみたいなのばっかり・笑wwwww
それも味わい深いです。

今読んでるホワイトさんの「リトルサイゴンの弾痕」も、猥雑で乱暴な男ばかりです。
とにかく裏街道まっしぐら。あれはどうなるのか予想もつきませんが・・・。

ポールさんを泣かせるのはどんなストーリーなのか、興味あります。
ただ、あれですね。
きっとそれを読んだ後の私の作品の登場人物は平均年齢高くなるかもです。

世の中には、面白い本がいっぱいあるのに、こうやって紹介されないと知らないまま終わってしまうんですね。
こうなったら、いっぱい利用させてもらいますね。
ポールさんを・笑
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