「白昼夢 」
第10話 エレジー

白昼夢 第10話 エレジー(前編)

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ビルの屋上にポツンと置かれたベンチに男は座っていた。
五月の気持ちよく晴れた空を眺めながら、タバコを吸っている。
ヒゲも髪も近頃は少し白いモノが目立つようになり、昔痛めた膝がまた疼き出していた。

「あの・・・坂木さんですか?」
後ろから声をかけられ、坂木は座ったままゆっくり振り返った。
声の主はまだ若い青年で、緊張した面持ちでベンチの斜め後ろに立っていた。
「えーと、辰巳さんに言われて来たんですけど。坂木さんと話、して来いって」
坂木は肩のガッチリとした茶髪の青年をじっと見た。

「ああ、聞いてるよ。来週から研修期に入るんだってな」
「はい。片山と言います」
「いいガタイしてるな。ラグビーでもやってたか?」
「あ・・・いえ、特になにも・・・」
「そうか。もったいないな」
外見に似合わず穏やか口調の坂木にとまどったように、片山は正した姿勢を少しゆすった。

「え・・・と、あの、オレ、何でここに呼ばれたのか分からないんですが」
「俺は呼んじゃいないよ」
「え?・・・でも」
「辰巳が勝手に行けって言うんだよ、あんたくらいの研修生にはいつもな。俺への嫌がらせだよ、まったく」
坂木は口ではそう言いながらも、さほど困った様子でもなく、またタバコをくわえた。
片山は緊張気味に少しソワソワしながら、ただじっとベンチの横に立っている。
そんな様子に坂木はおかしそうにクスリと笑った。
「あんた、いくつだ?」
「21になりました。3年前にここに入って、やっと研修期に入ります」
何かしゃべらなければと片山は必死になっている。
「あの・・・先輩のように早く一人前に仕事ができる人間になりたいと思っています」
「一人前?」
“ジョーダンだろ? ”という笑いを噛み殺しながら坂木は片山を見た。

「早く仕事をやりたいのか?」
「もちろんですよ。そのために3年も訓練施設にいたんですから」
「他に行くところが無かったからじゃないのか? なにかやらかして」
「…もちろんそれもあります。でも、これからはここで組織を信じて生きていこうって思ってます。オレはOEAの理念を正しいと思ってます」
坂木は少しだけ肩を落とすようにして片山を見つめた。
「あんたは正直なところ、この仕事をどう思ってるんだ?」
「道徳的な話はやめて下さいよ、今更。オレはここで消される人間は本当に生きる意味のない人間だと思ってます。放っておくと罪のない犠牲者が増えるんです。法が裁けないなら神が裁くしか無いでしょう?」
“なるほど・・・・キケンだな、辰巳”
坂木は少しため息をついた。
「片山くん、あんたは当分ここの仕事に手を出さない方がいいよ」
「ど…どうしてですか? オレ、ミスなんてしませんよ」
「あんたは“OEA”の意味、知ってるか?」
「OEAの? One Eyed Angel、片目の天使でしょう? 何か特別意味があるんですか?」
けれどそのまま坂木は黙り込んだ。
ベンチに座ったまま、フェンスの下の隙間から一株だけ根を張り咲いているタンポポを、ただじっと見つめている。

片山はじんわりと坂木という人物に少し興味がわいてきた。
40くらいだと聞いていたが、その横顔には重い何かを背負った人間独特の更なる年輪を感じた。
沈黙を返されるなら、さらに質問で責めてみたくなった。
「坂木さんて、去年まで現役だったんですよね。今は本部で辰巳さんの下にいるみたいだけど。現役の時はやっぱり誰かと組んで仕事してたんでしょ? オレ、パートナーがどんな人間になるのか心配なんですよね。命預けるわけだから。坂木さんのパートナーってどんな人だったんですか?」

坂木はまだじっと微かな風にゆれるふわふわした白い綿毛を見つめていた。
「坂木さん?」
坂木はゆっくりと片山を見た。
「これだけは勘違いしないでほしい。俺たちは神の使いじゃない。あんたが神だと思ってるモノを信じ込むな。
信じる前に疑え。常に目を見開いていろ」
坂木はシャツの胸ポケットを無意識に手でグッと掴んだ。

決して声を荒げた訳ではないのに片山は坂木の気迫に押されて少し顔を強ばらせた。
「そ・・そんな事言ったらここにいる意味が分からなくなるじゃないですか。オレたちは何を信じて仕事していけばいいんですか? そもそも貴方がそんなこと言っていいんですか?」
片山は少し眉間に皺をよせて坂木を見つめた。
…辰巳さんはどうしてこの人と話をさせたかったんだろう。

坂木は胸ポケットにゆっくり手を入れて指に触れた鎖を取り出した。
五月の空の光を受けて、銀のクロスが鈍く光った。
坂木は手のひらにそれを乗せると、そっと握りしめた。
「俺のパートナーだった奴は一度だってこの仕事を高尚なものだなんて思ったことは無かったよ」 
さっきまでとはまるで違う静かな穏やかな声で坂木はつぶやいた。



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~ Comment ~

Re: limeさん 

いきなり時間が飛んだ!

ってことは陽くんは……。

悪い結果しか思い浮かびません。

せめて再起不能あたりに(ってそれも人としてどうかなコメントだなあ(汗))

とりあえず続きが……。

気になりますので早くUPを(^^)



うちに残されたコメントへの返信ですが、寂しさを埋める面白い本ですか……うーん、胸を張って女性におすすめできる本って、よく考えたらわたしほとんど読んでこなかったな(^^;)

スポーツ群像劇では、「遥かなるセントラルパーク」という、「わたしがこれまで読んだ中でも最高クラスに面白い」本がありますが、あれはほんとに群像劇で、limeさんのご趣味に合うかどうか……。
しかも文庫本の厚いのが上下巻。そのうえ入手困難(またかい(^^))。アマゾンでは……なんじゃあこの1099円いう暴利はあ!
お読みになりたければ図書館でどうぞ。とほほほ。

大人の男が少年を一人前に鍛える、ただそれだけの小説ながら実によくできた傑作ハードボイルドに、ロバート・B・パーカーの「初秋」という本があります。いい本なんですけど、主人公の探偵スペンサーに共感できるかどうかで評価が変わってくるからなあ……limeさんはどう思うかなあ。ちと不安。

タフだが傷つきやすい男が女連れで逃避行しながら強大な敵と戦うという話では、ロバート・ラドラムの「暗殺者」を忘れるわけにはいきません。これも「わたしがこれまで読んだ中で最高クラスに面白い」本ですが、これまた厚い文庫本が上下巻。映画になった「ボーン・アイデンティティ」の原作ですけど、話はまったく違います。小説のほうが面白いです。

とにかく波乱万丈で面白くて長い小説が読みたい! のであれば、岩波文庫版のデュマ「モンテ・クリスト伯」をおすすめします。全七巻。訳文は実に美しい日本語で、個人的には「岩波文庫で最も面白い小説」とみなしております。ラストシーンを原作どおりにしなかったので、わたしは今でもアニメの「巌窟王」をちょっと許しておりません(笑)

今ぱっと思いつくのはそこらへんですねえ……。

ポール・ブリッツさんへ 

はい、白昼夢は、日曜日にUPします。
たぶん、いろいろ裏切るんじゃないですかねえ。
良くない方向で。
どうか、やさしい感想をひとつ・・・。

ポールさんのコメのお返事見てきました。
やっぱり、半分くらいはネタばれしたって大丈夫ですよね。
いや、その方がぜったい「読みたい」って思うはず。
あのお話は、最後の20Pだけ伏せれば、あとは言った方が面白いかもしれません。笑
レビューで語り尽くせませんから。

それから、いろいろ推奨本を検討していただいて、ありがとうございます。
海外ミステリー(サスペンス)を沢山ご存じなんですね。
あの2作を読んで思ったんですが、わたしも海外もの(なんて言うんでしょう)が肌に合うような気がします。
紹介していただいた作品、参考にしますね。

まずは、まだ読んでないホワイトさんのを・・・。

実を言うと、あまり面白いのを読むと夢中になりすぎて、自分の作品がすすみません(笑)
そして、終わった後に寂しくて仕方なくなります。
でも、・・・面白いのが読みたい!
どうにもこうにもジレンマです(>_<)  

こんばん・・・・ 

なななななななな・・・・・・・・!!??

ナンデスカ、この始まり方は~~~~v-404v-404

読み始めた瞬間、「何の話??」と思って、タイトル読み直しましたよe-330
衝撃的なオープニングですね・・・。
これは、後編?中編?が楽しみです。

あーーー・・・何かドキドキする・・・。

蘭さんへ 

ああ、そうですよね。
ちょっと時間が飛びすぎて、「なんの話?」って感じになるかもしれません。
この10,11話は、イレギュラーですから。
次回はもう(後編)です(みじか!)

でも、前編よりもかなり衝撃的かもしれません。
たぶん、白昼夢シリーズで一番。

怒られそうで怖いのですが・・・どうか読んでやってください。(日曜日に更新予定です)

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ほう 

ドラマティックな展開ですね。
初めから読んできた人間にとっては、物語の終わりを予感させるような・・・・・・。

衝撃っていったい・・・・・・。
ここのコメントって微妙ですね。
必要以上にネタバラしできないし、何も書かないわけにも行かないし。笑。
本当読んでのお楽しみですね。

鍵コメKさんへ 

更新、楽しみにしてくださいますか!
うれしい!そしてこっちがドキドキです。

この10話は、かなり早い段階で決定していました。
でも、やっぱりそれは私の中だけのことで、読む方には「え?」という感じかもしれませんね。
もう、腹をくくって、UPします。
また遊びにきてくださいね(*^_^*)

ヒロハルさんへ 

そうですね、なかなか難しいです。
あ、でも「衝撃」って言っちゃった・・・(^_^;)
私には・・・衝撃だったんです。

実質10話でほとんど終わりな感じです。
でも、11話はとても大事なんです。
もう少しだけ、お付き合いください(*^_^*)
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