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最終話 あの月が満ちるまでに

ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(9)

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「テロメアって聞いたことあるだろ?」
宇佐美は聞き逃しそうに小さく言った。
「あ・・・なんか聞いたことあるような気がします」
そう言った後で稲葉は、自分はアニメのキャラクターと勘違いしてるんじゃないかと思った。
あれは黒いアヒルだから、きっとそれは関係ない。

「その存在が一般に知られるようになったのはつい最近だけど、医学界で報告されたのはマユカが生まれて2年目だった。その頃はまだ罪の意識を感じながらも研究室に残って彼女の健康管理を続けてた。彼女はとても健康体でね。その面では安心していたんだ。でも、そのテロメアの存在を知って愕然とした」
「何なんですか? それは」
「ひとことで言えば人間の寿命を決めてしまうDNAなんだ。正常な細胞が分裂する際、その染色体の末端にあるテロメアが短くなって細胞が老化し、やがて分裂できなくなる。それが細胞の・・・つまりは人の寿命と言ってもいい。つまり人間の細胞は分裂出来る大まかな回数を決められているんだ。20歳の人よりも50歳の人の方が残された時間が少ないのは当然ということになる。そして・・・あの患者の女性は当時すでに38歳だった。」

「つまり、その細胞をスタートとして生まれたマユカちゃんの細胞はすでに38歳だったってことですか?」
「理屈ではそういう事なんだ。外見的には分からなくても、細胞はちゃんと回数券をカウントしている。ただ、それがどれほど寿命を左右するのかは、今のところ全くデータが無い。・・・当然なんだけどね。前例がないんだから」
「知ってるんですか? 本人は、その事を」
「・・・・うん。知ってしまった。僕等の不注意でね」
「・・・・」
「こんな罪、許せると思うか?」
「・・・その時、やめたんですね。大学院を。そしてここに来た」
「何かやっていないと気が変になりそうだった。逃げたんだと思う」
「でもあなたはいつも何か調べてる。医学書の蔵書だって半端じゃないでしょ? 逃げてなんかないんでしょ?あの子を救おうとしてきたんでしょ? ずっと」
「・・・医学者の友人の力を借りて随分探ってみた。医学は随分進歩してね、テロメアを伸ばすテロメラーゼという酵素の研究も進められている。でも38年の月日を、俺にはどうすることもできない。どんなに責められても、俺には償うことができないんだ」
宇佐美はまたボンヤリと窓の外を見つめた。

「今でも3カ月ごとに彼女の体調のチェックをしているけど、会うたびに言うんだ。私、大きくなったでしょ? って。出生の秘密だけだってショックなのに、自分の命がどこまで届くかわからないんだ。こんな怖い事ないだろ? だけど、あの子はそう言うんだ」
そして辛そうな目をする。

「でも・・・でもそれは・・」
「あの子が年を重ねるのが怖い。いつまでも小さなままでいてくれたらと思う」
「なんで怖がってばかりいるの? 責めるとか、償うとか、何か違うな」
「どうして?」
「あの子はそんなこと言いに来たんじゃないような気がするんです」
「・・・?」
宇佐美が少し不思議そうな表情で稲葉を見つめた。
「大きくなったでしょ? っていうのは、あなたへの当てつけだと思ってますか?」
「違うのかな」
「大人っぽく見せようとしてるのは貴方を苦しめるためじゃないような気がするんです」
「・・・他になにが・・・」

「あら、シロちゃんは女の子の気持ちがわかるのかな?」
いきなり響いた李々子の声にハッとする二人。

「私が入ってきても気付かないなんて不用心ね。秘密が漏れちゃうわよ」
ほんの少し冷たく笑って李々子は自分のデスクにバッグをポンと置いた。
「李々子さん」
「バカな子よね。自分から秘密をばらしちゃうなんて。自分よりも諒が傷つくのがわからないのかしら」
今日の李々子はいつもと何か違う。稲葉はそう思った。
「諒が怒らないからつけ上がるのよ」
いつもはこんなトゲのある言い方しない。
「いいよ、李々子」
「良くないもん。ずっとこんな調子でしょ?」
何を焦っているのだろう。李々子さんは。
稲葉は李々子をじっと見つめた。

「もうすぐなんでしょ? あの親子がカナダに行くの。それを言いに来てたんでしょ? あの二人は」
稲葉にはもちろん初耳だ。
「そうだね」
静かに言う宇佐美。
「もう充分苦しんだじゃない」
「・・・」
「夢もあきらめて、こんな事務所引き継いでくれて、その傍らでずっとあの親子に心を痛めて、苦しんで」
李々子は少し赤い目で宇佐美を見つめた。
「ついていく気じゃないわよね? 二人に。違うよね? あなたはもう、何もできないって言ったじゃない。もう、離れたっていいじゃない。もう充分よ!」

・・・・ここを閉めるって言ったら、李々子怒るかな。・・・・
稲葉は宇佐美の言葉を思い出した。

“李々子さんはもう何かを感じ取っていたんだ。そしてそれを言えずに苦しんでいた。”
稲葉は涙を浮かべて少女のように声を振るわせている李々子に胸が痛くなった。
誰もが苦しんでいる。答えの見つからない、目に見えない呪縛に。

「あの子の体の事が心配なら現地の医療機関に手を回せばいいじゃない。あの二人だって、来て欲しいなんて言ってないでしょ」
「だけど、責任がある」
「ここには責任はないの? ここはあなたの逃げ場だったの?」
「李々子、違うよ」
「あんな子、いなきゃよかった」
「・・・」
「あの子さえ生まれてこなかったら誰も苦しまずにすんだのに!」
「李々子!」
宇佐美が声を荒げた。
今まで聞いたことのない、怒りと悲しみの混ざった宇佐美の声。
李々子は強く正面から宇佐美を睨みつけた。
「大嫌い!」
そう言い捨てると李々子はぶつかるようにドアを開け、まるでそこから逃げるように部屋を飛び出して行った。

再び残された二人の男はただじっとドアを見つめて立っていた。
追いかけて行ったところで、何も出来ないことは分かっていた。
「みんな、傷ついてる」
ぽつりと稲葉が言った。
「あなたのせいですよ。宇佐美さん」
ドアを見つめたままそう続ける稲葉を、宇佐美はゆっくり振り返った。
「うん・・・分かってる」
「分かってないですよ」
「・・え?」
稲葉は宇佐美を振り返った。

「あなたの罪は13年前じゃない。今ですよ。昔の過ちに捕らわれすぎて大切な人たちの気持ちに気付いていない、今現在です」
「稲葉」
「マユカちゃん、あと数日で誕生日だって言ってたけど、次の満月、つまり明日じゃないんですか?」
「うん・・・明日だ」
「やっぱり。そうだと思った」
「?」
「かぐや姫はね、残酷な女じゃない。月へ帰る事は決めていたけど、やっぱり愛を確かめたかったんですよ」
「かぐやひめ?」
宇佐美はきょとんとした表情を稲葉に向けた。

「あの子はあなたを困らせるためにあんな課題を出したんじゃない。大きくなったでしょ、っていうのは宇佐美さんに安心して欲しかったんだと思う。早く大きくなって、大人になって、そして人並みの時間を謳歌したい。できるんだ。きれいになって、恋だってして。なんだってできる、普通の女の子なんだ、って」
「稲葉はなんでも前向きだな」
「茶化さないでくださいよ! 僕だって伊達に女子高生を毎日相手にしてきた訳じゃないんですから」
「ごめん、そんなつもりじゃないんだ」

「・・・で?」
「え?」
「ここまで言っても分からないんですか? 彼女のほしいモノ」
「マユカの欲しいもの・・・・・誕生日プレゼント・・」
「そう、一番あたりまえすぎて気がつかなかったプレゼント。たぶん、あなたは一度も彼女にあげたことがないんじゃないですか?」
「・・・」
宇佐美はゆっくりと稲葉の目を見た。

「そう。それですよ、きっとね。あなただって分からなかったわけじゃないでしょ? ちゃんと渡すことができますよね、宇佐美さん」
稲葉はやさしく微笑んだ。
「明日はとってもきれいな満月の夜になりますよ」





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次回、最終回です!
ちょっぴり長くなるかもしれません。


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NoTitle 

>プレゼント

今日、コミケに行ってきました。

(*^艸^*)ぽっ。

……いろいろな意味で陳謝いたします。(爆)

NoTitle 

テロメアいうことはアポトーシスはさほど離れてもいなかったわけか(離れてるわい)

それにしても悲惨なマユカちゃん……

80まで生きてくれることを祈るばかりです(118歳かYO!)


#710はお気に障ったら消していただいてけっこうです……(汗)

ポール・ブリッツさんへ 

アポトーシスはしませんから・笑
そうですね。マユカが120歳まで生きる長寿体質ならばなんの問題もないです(そうなのか?)
ただし、細胞提供者は患者ですからね。
心配は尽きません。

うーーん。わからん。

なんですか?コミケ。マジでわからない。説明を求む。

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鍵コメKさんへ 

いつも読んでくださって本当にありがとうございます。
そうなんです。
終わってしまいます。(T_T)
でも、読者様に寂しいと言っていただけると、とっても嬉しいです。
最終話がお気に召していただけるか自信はないんですが、どうか最後までお付き合いください。(*^_^*)

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あえて…… 

いけないとは知りながら敢えて突っ込ませてもらいます。
「今回、長っ!」
嘘です。笑。(ネタです)。

そうか・・・・・・ついに終わりですね。
本当に寂しいです。
とても長い作品ですし、私は本当始まった時からリアルタイムで読んできましたからねえ・・・・・・。

楽しみにしていたテレビドラマが終わるようで……最後の最後まで愛おしいです。

ヒロハルさんへ 

ははは。
短かったり、長かったり、節操のない配分ですみません・笑
時間稼ぎに(おいおい)切りたかったんですが、どうしても切れなくて。
きっとどこで切られても大差はないんでしょうが、私のこだわりですね。

ヒロハルさんは、開始当時からお付き合いいただいて、本当にありがとうございました!
わたしも愛着があるだけに、とても寂しいです。
(次も長いですが・笑)どうぞ、最後まで読んでやってください。m(_ _)m

NoTitle 

それで「リトル・サイゴンの弾痕」のほうは読み終わったんですか?

だとしたら感想キボンヌ。

参考にしたいので。

ポール・ブリッツさんへ 

いや、それがですね、
「ウィンブルドン」のほうが面白そうだったので、そっちから読んでます・笑
すごく面白い!!
人物の描き方や会話がとってもセンスあっていいですね。
またもや自分の作品そっちのけで読んでます。
面白すぎるのも、困りものですね。

でもポールさんには、また、私の好きそうな(絶対勘違いしてるでしょ・笑)作品を紹介してもらいますからね。
(いつの間にか強制)

おっと! 

ちょっとご無沙汰してたらもう次回最終回ですね。

一度(・・・いや、何回も反芻してるけど)読んでいるお話なのに、ものすご~~~く終わっちゃうのが悲しいなぁ・・・。
私が読ませていただいたときには、これの後に「夢のつづき」を書いてくださったんでしたよね?
でも、今回は本当にこれが最後になっちゃうんでしょ?
うわ~~~~~ん!いやだぁぁぁぁぁ!もっと書いて~~~~!!!
(とダダをこねてみる)
なんかねぇぇぇぇ、すっごい諒が好きなの~~~。
陽も坂木も大好きなんだけど、諒はもっと現実味のある男性って感じで好き好き~~~!
李々子になりたいとマジで思っちゃうほど好き~。
もっと諒と李々子のやり取りを見たい~~~(あ、ごめんシロちゃんも)(笑)。

えっと、諒のこの決断をどう思ったか、今回書こうかと思ったけど、やっぱり最終話の後にします(^^;(先延ばし)

Re: limeさん 

勘違いも何も、「あのジョニーとマックに似た組み合わせの主人公二人が出てくるめちゃくちゃ面白い小説があったな。……なんだっけ?」と思い出したのでおすすめしているだけですけど(^^;)

あの本を読んでいるとロシア語の辞書がほしくなってきます。

しかし勘違いを疑うなんて、「友達がいがないやつだぞ、君は」(笑)

(……あ、まだそこまで読んでない?(^^;))

たしか内藤陳先生の不朽のブックガイド「読まずにしねるか!」(タイトルが正確でないのは、FC2の禁止ワードのバカのせいです)の大判の初版本には、「ウィンブル丼」の作り方が載っていたなあ。ひとつの丼を、ふたりで掛け合いしながら食べる、という(笑)

またなにか思い出したらおすすめしますね~。

ポール・ブリッツさんへ 

ははは。
それは申し訳なかったです。
まさに「友達がいのない奴・・・」です・笑(もうそこまで行ってます)

辞書片手に話をするツァラプキンがもう、かわいいのなんのって(*^_^*)

勘違いでもいいから(笑)あんなコンビを探してください。(すでに指示してる)
ジョニーとマック。あんな二人にはもう出会えないと思うんですが・・・。

秋沙さんへ 

そうなんです。
最終回です!
秋沙さんにはず~~っと応援していただいて、感謝の言葉もありません。
最終話はとくに結構加筆してありますから、稲葉君の気持ちがよくわかると思います。
もう一度読んでみてくださいね(*^_^*)

書いてるときは本当に李々子(相変わらず一発変換しない)を秋沙さんにイメージを置いて書いてた時もあって、なんだか申し訳なかったですが・笑
宇佐美を気に入ってもらえてうれしいです。
なぜか稲葉君ばかりが人気でしたから・笑
(私が贔屓してたからかな)

はあ。改めて最終話を再構築して思ったんですが・・・。
やっぱり彼らと離れたくないです・・。(´_`。)
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