「ラビット・ドットコム」
最終話 あの月が満ちるまでに

ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(4)

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「おとといも会いに来たのに、どこ行ってたの?宇佐美」
「おととい?」
「あれ? このバイトさんに聞かなかった?」
「バイトさんって・・・ひどい」
ムッとする稲葉。だがマユカはおかまいなしにヒラリと宇佐美に近寄り、その目を覗きこんだ。

「私から会いに来ちゃだめなの?」
「そんな事ないよ」
「じゃあもっと嬉しそうな顔しなさいよ」
「・・・マユカ」
辛そうにマユカを見つめる宇佐美。マユカは挑戦的な笑みを口元に浮かべている。
稲葉は唖然としてただ二人のやり取りを見ていた。

「3カ月ぶりだけど、私少し大きくなったでしょ? ね、大人っぽくなったでしょ?」
「うん、そうだね」
「きれいになった?」
「うん」
「抱いてみる?」
「・・・え?」
「昔みたいに抱き上げてみてよ」

稲葉はじっとり汗をかきながらこの奇妙なやり取りを聞いていた。
目の前で交わされている会話の意味が読みとれない。
「そんな事しなくてもわかるよ。3カ月ごとにチェックしてるだろ?」
宇佐美は曖昧に笑いながらPCの画面を消し、読んでいた本をそっと引き出しに隠そうとした。
「それ、なあに?」
目ざとく見つけてマユカが本に飛びつく。
宇佐美の手から医学書を奪い取ると瞬時に顔色を変え、まるで憎らしいモノにでも触ってしまったかのように、いきなり床に投げ捨てた。
「あ・・・おい!何してんだよ、あんた!」
稲葉は咄嗟にマユカに怒鳴った。
とにかくもう、ムカムカしてじっとしていられなくなった。

「稲葉・・・いいから」
宇佐美が力なくなだめる。
「いいからって・・・。何で!」
「ほらね。宇佐美だっていいって言ってるでしょ?」
マユカが小悪魔のような笑みを向けてきた。
「だって・・・・宇佐美さん!」

『ダッテ! ホラネ! ダッテ!』
ポーが緊張を感じ取ったのか、復唱しながら珍しくカゴの中で騒ぎ出した。
マユカは一瞬ニヤリとしてその鳥かごに近づく。
「あ、こら! 何すんだよ!」
けれど遅かった。
マユカが開けた小窓から今まで緩慢だったポーが滑るように飛び出し、部屋中を飛び回った。
「わ~~! こら、戻れポー! こっち来い!」

呼ぶ声も空しくポーはほんの少し開いていた窓から矢のように外に飛び出してしまった。
13階の空中を気持ちよさそうに飛び回るポー。
ビルの間を灰色の矢が旋回し、そしてその影はすぐに視界から消えて見えなくなった。
稲葉は愕然としてしばらくそれを見ていたが、急に沸き立ってきた怒りにまかせてマユカを振り返った。
「あんたなあ! ふざけるのもいいかげんにしろよ!」
「気持ちよさそうに飛んでたじゃない。翼があるのにこんなカゴの中に閉じこめてちゃかわいそう。解放してあげなきゃ」
「勝手なこと言うな! 宇佐美さん、なんとか言ってくださいよ!」
けれど宇佐美はやはり辛そうな表情のまま、カラになった鳥かごを見つめて黙っている。
「宇佐美さん!」
「ほらね。怒られないでしょ? 私悪いことしてないもん。閉じこめて眺めてるなんて残酷だもの。ね。そうでしょ?」

「マユカ!!」
そう叫んだのは宇佐美ではなかった。

いつの間に帰ってきていたのか、ドアの前に李々子が立っていた。
その表情は冷ややかだったがとても落ち着いている。
「李々子さん」
稲葉が安堵してつぶやく。
「マユカちゃん。もう帰ってくれる? ここは子供の遊び場じゃないの。分かるでしょ?」
「・・・」
ほんの少し李々子を睨むように見た後、マユカはゆっくりとドアに近づいた。
「つまんないの~」
小さな子供のようにつぶやくと、マユカは李々子の横を通り抜けた。
「また遊びに来るからね」そう一言付け足して。

部屋は急にシンと静まりかえった。

「な・・・な・・・何なんですか、あの子は! いったいどんな育て方をしたらああなるんだ? ねえ、宇佐美さん。あの子はいったい誰なんですか」
堪えきれずに稲葉はそう叫んでしまった。けれど宇佐美はどこか一点を見つめてだまりこんでいる。
やはり答えは返って来ない。

ただ、宇佐美と同じように辛そうな表情でそっと近づいてきた李々子が、稲葉の耳元で小さくつぶやいた。
「あの子はね、・・・諒の十字架なの」



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~ Comment ~

NoTitle 

あの娘の正体については見当すらつきません。隠し子にしては歳が合わないし、妹にしては……。

不安をはらんでいて、どきどきしますな。

次の次っていうことは……来週中でしょうか?

とにかく楽しみであります。

宇佐美くんが事務所を畳んで逐電してしまうような存在でしょうけど、わたしは応援しているぞ!(なにをだ(笑))



明日あさってと土日ですが、limeさん読書タイムですか?(^^)

例の本に最初に出会ったのは20年近く前の、浪人時代でありました。

金もなにもなかったので、できることは古本屋で本を買って読むだけでありました。

たまたま見ていた3冊100円の棚に、あの本はありました。

噂は聞いていました。

まだ、BLなんて言葉すらない時代に、「男同士の愛情」を謳ったその内容に、読む前のわたしはドン引きしてました(笑。だってほら、浪人生って高校生に毛が生えたみたいなもんだし(^^;))

しかし、買った本は2冊、あと1冊買わなければ損してしまいます。

ミステリーのガイドブックにもあった作品だしと、半ばやけを起こして買いました。

しばらくして、読む本がなくなり、仕方ないな、と読み始めました。

ページをめくると、時間を忘れてしまいました(^^)

ラストシーンを読んだ後は放心状態でした。

それから本は高校のとき属していた、ミステリ研とSF研がいっしょになったような変な同好会に寄付してしまいましたが、やはり傑作だと思います。

ちなみにその同好会は数年前につぶれてしまいました。つぶれる前に本を回収しておくんだったぜ……珍しい本も混じっていたのに……(泣)。

ポールさん~♪ 

>ポール・ブリッツさん

もう、自分の小説の話よりも、「真夜中の相棒」の話をしたい!!(おいおい)

それほどハマっています。実はまだ、78ページしか読んでないんです。
時間がないのもありますが、『読み終わるのがもったいないんです!!』
かつて、こんな気持ちになったことはありません。

今、読みたくて禁断症状です。
でも、副業のイラストの仕事が入ってまいりまして、またもや時間が (T_T)

ああ、読みたい!!
もう、本当に死ぬんじゃないかってくらい、胸がキュンキュンするんですよ。
男のポールさんは、どうだったんでしょう。
どんなふうに感じるのか教えてください。

ああ、でも、そんな風にあの本にであったんですね、ポールさんは。
運命的な出会いって、そんなもんかもしれません。
出会えてよかった!

ええええ?ラストは放心状態??
そんな・・・・(∥ ̄■ ̄∥)
これ以上、死んでしまいますってば!!

NoTitle 

読んだのが20年くらい前なので、細かいことはほとんど忘れてしまいましたが、読んでいる感覚は覚えています。

キュンキュンとは違いますが、

とにかく切なかったですねえ。

3人が3人とも、「破滅」へ向かって突き進んでいくわけですから、

やめろなんでそんなことをする、と、はらはらしながら読んでいたはずです。

どう「破滅」するのかは口が裂けてもまだお教えするわけには行きませんが、

ラストシーンの、哀切さや悲惨さをどこか突き抜けたような情景には、たぶんlimeさんもちょっと放心してしまうと思います。

禁断症状に陥るくらい喜んでもらえて、ミステリファンとしてはこれ以上の愉悦はないであります(^^)

この人ほかにも「刑事コワルスキーの夏」などの作品が和訳されていますが、そちらでもキュンキュンできるかはよくわかりません……なにせ読んだことがないもんで……。

Re: NoTitle 

>ポール・ブリッツさんへ

禁断症状に勝てず、家事も仕事も放棄して、いま読んでいました。
まだ3人目の刑事さん?は、出てきてないんですが、
すでにもう、二人は破滅の方向に歩いています。

あ~~。続き読みたい。でも、切ない。そして、終わってほしくない。

そんなに切ないラストなんですね (T_T)
20年たってもポールさんが覚えているような。

この作品、読んでるうちに映像が浮かびます。
独特な言い回しが、逆に病みつきになります。
すごいなあ~。
ああ、こんなのが書いてみたい・・・。

とにかく、ラストを読むまで死ねない・・・って感じです(´Д`。)

危なかった 

危なかったです。
もうすぐでマユカを殴りそうになりました。

やっぱり子供は苦手です。苦笑。
自分自身が子供だから・・・・・・。

ほんと危ない・笑 

>ヒロハルさん

たしかにこの子はイライラしますね・笑
殴りたくなるのもおおいにわかります。

でも、この子の立場だったら、私も宇佐美にイジワル言っちゃうかな・・・。
どうやって折り合いをつけていいか、わからないんでしょうね。
次回もこの子、出てきます・・申し訳ないことに・笑
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