「ラビット・ドットコム」
最終話 あの月が満ちるまでに

ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(3)

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「面白いわね。本当にすぐ言葉、覚えちゃうのね、このオウム」
マユカという少女が帰って行って十数分後。
ひとしきり事務的な作業をしたあと、李々子は興味深げに鳥かごの灰色のオウムを覗き込んでそう言った。
けれど稲葉はそんなことよりも李々子に聞いてみたい事が山ほどあった。
もちろん宇佐美と話していた女性の事もそうだが、さすがにそれは聞きにくい。
何か、いけない大人の事情だったとしたら李々子だって触れたくないはずだ。

「ねえ、李々子さん」
「なあに?」
「さっきの女の子って、誰なんです? ずいぶん宇佐美さんと親しそうだったけど」
「ああ、マユカちゃんね」
「マユカちゃんって言うんですね」
「可愛くないでしょ? 相変わらず生意気な子よ。ちっとも変わらない。でも色気だけは付いてきてさ。女の子は怖いわね、まったく」
少し憎らしげに李々子は口を尖らす。

「昔から知ってるんですか? 宇佐美さんの親戚とか?」
「しんせき?」
「違う?」
「さあ・・・・どうなのかしらね」

あれ?
稲葉は李々子の表情をチラリと見て首をひねった。
この表情。話の確信に触れないようにはぐらかすしゃべり方。
以前宇佐美の過去を聞いたときと同じ反応だ。
稲葉は思い出してハッとした。
・・・宇佐美の過去の話には触れないようにしよう。あの時そう思ったはずだ。
あの少女はその過去に繋がってるんだ、そうに違いない。触れないようにしなくては。
けれど。・・・けれど、それでいいんだろうか・・・

「今夜は月がきれいね」
ガラス窓に手を当てて子供のような格好で李々子がつぶやいた。
いつの間にか薄暗くなった空に月が浮かんでいる。まだ満ちきっていない上弦の月。
「遅いわね、諒」
「え?」
月を見たままポツリとまた呟く李々子。
宇佐美が出かけるのはいつものことだし、少しも遅い時間ではなかった。
あのマユカという少女のせいだろうか。
いつもスキあらば訳もなくスキンシップをはかってくる『お色気お姉さん』な李々子はここには居ない。
少し寂しげな李々子に何と話しかけて良いか分からず、稲葉はただ黙って一緒に月を見上げた。

        ◇

「え~! あのおばあさん、長期旅行に行っちゃったんですか? どうすんですかこのオウム!」
二日後の土曜日。すねたような稲葉の声が事務所に響いた。
分厚い書物を読んでいた宇佐美は苦笑しながら稲葉をなだめた。

「仕方ないだろう? こんなに早く見つけてくれるとは思ってなかったんじゃない? でもすごく喜んでたよ。お礼は弾むって。そのかわりあと3週間よろしくってさ」
「よろしく、じゃないでしょう!」
『ヨロシク! ヨロシク!』
鳥かごの中でポーがご機嫌に繰り返す。
堪えきれずにクスクスと笑う宇佐美。
「笑ってないで! 宇佐美さん。大変なんだから。いっぱい食うし。うんちするし。ちらかすし。ペットホテルじゃないんだから!」
「ペットホテルだよ?」
「ええっ??」
「だって、何でも屋だもん」
「う・・・」
「探偵事務所だと思った?」
「ぐ・・・・・・」

結局あの少女のことは、宇佐美に何も伝えなかった。
きっと李々子もそうなのだろう。推測だが、稲葉はそう思った。
宇佐美はまだ可笑しそうに笑いながら本を机に伏せ、今度はPCの画面をじっと見つめている。
昨夜からずっとこんな調子だった。
本が医学書だと言うことしか稲葉にはわからない。
「いつも何か読んでますよね。調べ物ですか?」何気なく稲葉は尋ねてみた。
「・・・・・・・」

“・・・・無視か?” 稲葉は少し固まった。

けれどしばらくして「・・え? 何か言った?」と、宇佐美は顔をあげた。
「どんだけ集中してんですか。何か調べモノですか?」
「ああ、・・・・うん、ちょっとね」
「ちょっと?」
「うん・・・」
パソコンの画面を見ながら言いにくそうにつぶやいた後、宇佐美は再び稲葉の方を向いて口元だけで少し笑って見せた。

取り繕った笑顔。
稲葉はそう思った。
正直な人だ。
『これ以上聞かないでね』と、一瞬の笑顔で彼は伝える。
軽い拒絶。
なぜだろう。
昨日、李々子の横にいた時も感じた、同じ感覚。疎外感。

『稲葉君。キミに助けてほしい』卯月のメッセージが頭をよぎる。
“助ける? 僕が? 誰を? とんでもないです卯月さん。僕は無力です。あなたの依頼は遂行不可能です”

ぼーっと立ち尽くしている稲葉の横で、グレーのオウムはしきりに首をかしげている。
稲葉は鳥に気持ちを見透かされているようで、ますます悲しい気持ちになった。

「李々子、オウムの餌買いに行ったまま帰ってこないなあ」
独り言のように宇佐美がつぶやいた。
「・・・そうですか」
稲葉は答えるともなく返す。
「迷ってるのかな」
「さあ」
「あいつ、すぐ迷うんだ」
宇佐美はまたつぶやくように言うと、ほんの少し笑う。稲葉はすこし妙な感覚を覚えて宇佐美を見つめた。
「この事務所を閉めるって言ったら、あいつ怒るかな」
「え!?」
あまりにも唐突だったので稲葉は思わず大きな声を出してしまった。
「宇佐美さん! それ・・・」
その言葉をさえぎるようにドアが勢いよく開いた。

「宇佐美、み~っけ!」

無邪気な声を出してマユカが飛び込んできた。
黒いタイトなミニのワンピース。長いスラリとした足が強調されている。

「マユカ・・・」
一瞬宇佐美の表情が凍りついた。
それは、久しぶりに会った親戚の女の子との再会を喜ぶものには到底思えなかった。



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~ Comment ~

NoTitle 

よほど後ろ暗いことをしていたんですかな宇佐美さん。

たしかにこれじゃ事務所をたたまざるを得なくなる、といった空気ですけど。

宇佐美が暴いた事件の犯人の娘か何かで、家族が一家離散して自殺者が出た、などという悲惨な結果に陥り、それを恨んで宇佐美をなじりにくる、とかいう筋書きくらいしか考えつきませんが、たぶん事実はもっと……悪いんでしょうねえ……。

425円は用意しました。万一あの本がつまらなかったらメールで一報ください。できるかぎりのことはします。

Re: NoTitle 

>ポール・ブリッツさんへ

なるほど!そんな展開も想像できますね。
じゃあ、マユカは復讐に?・・・おもしろいかもしれない。
ポールさんの想像の方が面白かったら、わたしもお代はお返しします。・・・あ、貰ってなかった。
まだ、もう少しじらしますので、また予想してみてください。
(でも、当てないでください・笑)

425円♪ いえ、きっと満足するはず。まだ届かないんですよ。待ち遠しいです。

うふふ 

なるほど、ポールさんの予想も面白いですね~(笑)
あ、私は余計なことを言わないようにしないと(^^;

私もその本、読んでみようかな~?
あれですよね?刑事が二人の殺し屋を追いかけるやつですよね?

へへ 

>秋沙さんへ

ね。ポールさんの展開も面白いですよねえ。
でも、ラビットではなく、切な~い感じのドラマになっちゃいますが・笑
ラビットは一応コメディタッチで始めましたからね。
最終話はちょっと違うかな?

秋沙さんも読みましょう~。
まだアマゾンで安いのありましたよ♪
面白くなかったらポールさんが罰ゲームです・笑

それにしても・・・・・・ 

引っ張りますね~。笑。
何だか宇佐美さんと李々子さん、そしてlimeさん。
真実を知っている人に意地悪されているみたいです。笑。

でも一番歯痒いのは稲葉君ですね。きっと。

limeさんは区切り方が上手ですね。
次の展開が読みたくなるところで、続いてますね。

ごめんなさい~ 

>ヒロハルさんへ

もう、とんでもなくひっぱってますね(^^ゞ
いいかげんにしろって、怒られるのを覚悟で・・。
しかし、まだもうちょっと引っ張ります(ToT)
いえいえ、イジワルなんかじゃなく・笑

ぜったい人には言っちゃいけないような事なんですもん。
稲葉くんだって、本当は聞いちゃいけないことなんですもん。
・・・あっさりバレますけど・笑

もうしばらく、もうしばらくお付き合いください~。

NoTitle 

>罰ゲーム

なんか知らないうちに賭け金のレートが釣り上げられている「カイジ」みたいな気分なんですけど(^^;)

わたし破産しちまうんじゃ……(^^;)

Re: NoTitle 

>ポール・ブリッツさんへ

そんな・笑
負けを覚悟してどうするんですか。
ついさっき、アマゾンから届きましたよ!
2~3ページだけ読みましたが、すごくいい感じです。わくわく!
私、実はとっても読むのが遅いんです。だから、感想は待ってくださいね~。

あ、罰ゲームはお金じゃないですよ~~。お金よりもΔ☆♯ω†∞☓・・・(以下略)

NoTitle 

いよいよ、宇佐美の過去が明らかになりそうですね☆

マユカが12歳で宇佐美が34歳。
もしかしたら親子?
大学を止めたのには、子供が出来ちゃったから?

事務所を閉めて、あの女性とやり直すのでしょうか?
う~ん、それとも、マユカが身体の具合が悪くて、
そのせいで海外に行き、手術するのを、
事務所を閉めた宇佐美が執刀まではいかないにしろ、
何らかの形でかかわるのでしょうか?

想像はどんどん膨らみますね♪

さやいちさんへ 

最終話へ、ようこそ。

なんか、昼ドラチックにはじまりましたが。
さてさて、マユカは、宇佐美の娘なんでしょうかねえ。

ふふ。
さやいちさんの推理か、とっても楽しいです^^
いっぱい、いっぱい想像してください。

でも、宇佐美の罪は、けっこう大きなものです。
きっと「え~~?そんな方向?」と、思われるはずです。

ややこしいかもしれませんが、どうぞゆっくり読んでやってくださいね^^

推理は苦手なので 

みなさまのコメントを読ませていただいて、ふむふむ、こうも考えられる、でも、真相はどうなのかな? ってわくわくしています。
こういう生意気娘、私もけっこう書くのは好きですが、limeさんのキャラのこのタイプの女の子はいきいきしていていいですね。

ところで、奥田英朗氏の「無理」ってごぞんじでしょうか?
この中に宇佐美と稲葉が出てくるのですよ。
宇佐美、稲葉、そんなにありふれてはいない姓がふたつそろって、limeさんと奥田さんの小説に出てくるとは、すごい偶然ですよね。

ただ、奥田さんのほうの宇佐美と稲葉はいやな奴です。
小説自体はとーっても面白かったのですが、ものすごーく長いです。

あかねさんへ 

あかねさん、いらっしゃい。^^

今日はね、今更新中の最新話のコメント欄を(訳があって)閉じてるので、とても寂しかったのです。
来て下さって、うれしいわあ。
コメント欄が大好きな私。もう、コメント欄を閉じるなんて、やめよう〜〜><
(ネタばれ防止の苦肉の策だったんですが><)←私がコメ返で、ばらしそうだったから。

ラビット最終章、皆さんの推理も、面白いですよね^^
ちょっと昼ドラっぽい推理が多かったですが。

でも、これはとんでもない筋書きなので、見破られる心配はないのです(びしっ)

マユカ、破壊力のあるキャラでしょ・笑
こういう子を書くのは、とっても楽しいです。あかねさんもですか??
逆に、大人しい、天使のような女の子を書くのはとっても苦手です。
(天使みたいな男の子なら、・・・・ふふふ)

>ところで、奥田英朗氏の「無理」ってごぞんじでしょうか?
>この中に宇佐美と稲葉が出てくるのですよ。

ええ??そうなんですか? 初めて聞く作品です。
ほんと、珍しい名前なのに、不思議ですねえ。でもなんか、楽しいです。
ん? 嫌な奴なんですか??それも楽しそう。

そういえば、嫌な奴って、私の作品にはあまり登場しませんね。
これからはちょっと、嫌な奴も描こうかな・・・。
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