「ラビット・ドットコム」
最終話 あの月が満ちるまでに

ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(2)

 ←ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(1) →(雑記)メジロ君、その後
まだ頭がすっきり目覚めていない稲葉は、その横柄な質問にすっとんきょうな声を出した。
「ねえ、宇佐美いないの?」
「宇佐美って・・・君ねえ。なんで年上の人を呼び捨てにするの? 親戚の子か何か? それにしても感心しないな。事務所に勝手に入ってくるのもどうかと思うよ?」
「うるさいなあ。あんたこそ誰よ。宇佐美はそんな面倒くさい事言わないよ。説教する男、大嫌い! モテないよ、あんたみたいな人」
「なっ・・・・・!」
大学を卒業して以来長いこと女子高生を相手にしてきた稲葉だが、さすがに頭の中で何かがブチブチ切れかけた。
けれど少女は気にもしていない。

「ああ、あんた新しく入ってきたバイト? ふーん、そうなの。でももっと若くて賢そうな人入れればいいのに。李々子さんの趣味ね、きっと」
「がっ・・・・」
「あ~あ、せっかく久しぶりにこっちから会いに来てあげたのに。宇佐美出かけちゃったのかあ、残念。
服だって気合い入れて来たのに。ねえ、バイトさん、私どう? 色っぽい?」
少女はモデル立ちして稲葉にニッコリ微笑んだ。

「き、君ねえ」
いったいどういう育てられ方したんだろう。稲葉は唖然としたまま少女を見つめた。

どういう知り合いなんだろう。
こんなに若いのに宇佐美に好意を持っているんだろうか。
李々子のように? そうなのか?

「ねえ、バイトさんったら」
「バイトバイト言うな。稲葉っていうんだ僕は」
「ねえ、稲葉」
「いきなり呼び捨てかよ!」
「私いくつに見える?」
「は?」
「ねえ、いくつに見える?」
「・・・・・」
まるで飲み屋で三十路の女に聞かれるような質問だと思った。
男が大概面倒くさがる質問のワースト3に入る。
しかし、こんな若い子が?
稲葉はますます妙な感覚を覚えた。

「いくつに見えるって・・・15~16歳でしょ?」
「えー、そのくらい?17~18に見えると思ったんだけどな」
「見えなくもないけど・・・本当はいくつなの?」
「12歳。あとちよっとで13歳なんだけど」
「12・・・うそ!」
正直12歳には全く見えなかった。
飲み屋で女の子に言ったら殴られそうな「そんな若いの?」って言葉を漏らしてしまった。
まじまじとすっかり成熟しきった少女の体を眺めてしまっている自分に気付き、稲葉は目をそらした。

「まだ足りない・・・」
「ん?」
「早く大きくならなきゃ」
「どうして?」
「どうしても」
稲葉は少し混乱しながら少女を見つめた。

“いったいこの子は何だろう。宇佐美とどんな関係だろう。さっきの女性と何か関係があるんだろうか。
もうじき13歳。34歳の宇佐美を好きになる年齢じゃないよな。まるで親子じゃないか。
・・・・え? 親子?”

「ねえ。稲葉さん」
ガラス窓に貼り付いて空を眺めながら少女がつぶやいた。
「なに?」
「かぐや姫の話、知ってる?」
「かぐや姫? ああ、もちろん知ってるよ。竹取物語だろ?」
「そう。満月の夜に月に帰っていくのよね」
「うん、そうだけど」
稲葉はそんな話をし始めた少女を不思議そうに見つめた。

「行かないでくれって言う男達に絶対手に入れられないプレゼントを要求してさ。それをくれなきゃ残ってあげないとか言っちゃって。男達が苦しむのは分かってるのにさ。すごく意地悪な女だと思わない?」
「まあ、そう言われればね。たしかに」
「でも、何か分かる気がするんだ、私」
「・・・ふうん」
「もうすぐ満月なの」
「え?」
「あと4日で満月の夜が来るの。私ね、宇佐美にそれを伝えに来たのよ」

少女は12歳とは思えない意味深な微笑みを浮かべて再び窓の外に視線を移した。
その少女がいったい何を考えているのか稲葉にはまるで分からなかったが、ただならぬ強い意志を感じてゾクリとした。

カチャリと後方でドアが開いた。
「シロちゃーん、いる? オウム捕まえたんですって? 諒からメールがあったのよ。すごいじゃない!」
いつもの脳天気な李々子の声。
妙な空間から解放されたようで稲葉はなんだかホッとした。
けれど少女の姿を見た李々子の顔から笑顔が消えた。
「・・・・マユカちゃん」
李々子は急に声のトーンを落として少し慌てたように微妙な笑顔を作った。

「お久しぶり、李々子さん」
少女もニコリとする。
「残念だけど諒はいないわよ。夜になると思うけど。・・・ここで待つ?」
「まさか。待たれても困るでしょ? 李々子さん。いいよ、また来るから」
「そう? 気をつけてね、マユカちゃん」

一見何気ない会話だった。
けれども何ともピリピリとした居心地の悪いモノを感じて稲葉はソファに沈み込んだ。
ビリビリと、目に見えない電気が満ちている感じだ。
幾分強めにマユカがバタンと事務所のドアを閉めて出ていったので、鳥かごの中でポーが少し驚いたようにしきりに首を傾げる。

『キヲツケテネ、キヲツケテネ』

タイミングなどお構いなしなポーの言葉だけが、寒々しくしく部屋に響き渡った。


関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(1)】へ
  • 【(雑記)メジロ君、その後】へ

~ Comment ~

NoTitle 

いかにもわけありな女の子ですね。

これまでライトミステリーできた話が急にSFになるわけもないので、女の子の裏にはなにか理屈に合った話があると思うのですが。今のところ想像がつきません。まさか宇佐美さんは……(思わず赤面)。

女と男の禁じられた関係の話で、いちばん驚いたのは松村光生氏のハードボイルドSF「わが母の教えたまいし歌」のラストだなあ。あれはやられた……って話しても読んでませんよね。20年近く前の作品ですしね。絶版で入手困難ですしね。失礼しました。

東京へ行ったとき、ちょっと大きなブクオフに入り、前にお話ししたテリー・ホワイト「真夜中の相棒」があったら買っておこうかと思ったけれど売っておらんかった……。「白昼夢」やそれ以外の小説を書くのにぜったいなにかインスパイアされるものがあるはずの小説ですから、limeさんにはアマゾンで大枚はたいても読んでいただきたいんですけどねえ。

こういう話なんですけど。
http://www.cl.bias.ne.jp/~sobae/sobae/triangel.htm
http://huuu.blog6.fc2.com/blog-entry-343.html

なに? 陽と坂木はこんなやつらじゃない?

それでも人間の絆をみごとに描いた名作だから読んでくださいよ。お願い。ミステリファンとしてのお願い(^^;)

Re: NoTitle 

>ポール・ブリッツさんへ

思わず赤面した内容を教えてください・笑
そうですね、あの女の子が曲者です。
宇佐美さんたらあんな女の子に・・・・いやいや・笑
少女の正体はすぐに分かりますが、それは主題ではないので、突っ込まないでくださいね(#^.^#)

「わが母の教えたまいし歌」のラストってどんなんでしょう。気になります。
ラストだけ教えてほしい・・・・だめ?
禁じられた恋は、切なくていいですね。

そ、そして、「真夜中の相棒」のレビュー読みました。
なんと!設定は違えど、白昼夢の世界観になんて似ているんでしょう。
ジョニーは陽ですね。重荷に感じながらもジョニーを手放せないマックは坂木。
二人を追うもう一人の孤独な男。これがまたぐっと切ない。
これは読んでみなければ。
(読みかけの本を5冊抱えている私ですが)

NoTitle 

たとえハードボイルドSFだろうと、ミステリのトリックをバラしてしまうことには慎重にならざるをえないわたしだった(^^)

それに今、現物が手元にないし(^^;)


「真夜中の相棒」は今、amazonで89円という出物が出ています。これを逃せば200円台にはね上がります。本というのはチャンスを逃すと一生手に入りません。今なら送料入れても本屋でライトノベル買うより安く買えます。文春文庫の昔の作品は入手がムチャクチャ難しいのです。

それを除いても、MWA賞という権威ある賞を受賞した傑作中の傑作です。つまらなかったら代金を補償してもいいくらいです。

どうか一刻も早くご決断を!

Re: NoTitle 

>ポール・ブリッツさんへ

そうですね、たとえ読むことがないにしろ、結末をばらすのは良くないですね。
(気になりますが・笑)

「真夜中の相棒」、さっそくAmazonで購入しました。
送料込みで425円。安い。
危うく、同名のコミックを購入しそうになりました。
セーフでした。 (^.^)
早く読みたいです~~。

うっ…なんか、切ない… 

古今東西、「かぐや姫」は切ない。それから、「人魚姫」も。
そういえば、「人魚姫」をモチーフに『マーメイド~』を描いたら、それに刺激されて「人魚姫」を描いた作家さんが2名!
お一人目はポールさん、もうお一人目があびさん(水の森文庫)でしたが、あびさんの人魚は黒くて怖くてびっくりです~(^^;
でも、闇って美しい、と思うfateはやはりすでに変(--;

「あ、実写でやってほしいって、秋沙さんも言ってくれました。」

↑あ、これを勝手に読んだので、実は「おお! そうだ!」と思ったのです。
そうですかぁ。やはり画面を意識されてましたか! だって、まるでテレビ画像を観ているような背景描写ですもんなぁ(^^)
すごく好きです。

いや、ここまでたいした活躍の場がなかった稲葉くんが、最後に大活躍! って感じで「おお! やるじゃん!」で終わるのかな、とは思ったのですが、それまでにも何かやって欲しかったな、ってことで。
彼のことは信じてますよ!
きっと、卯月さんの依頼を完遂すると!
だって、恐らく彼にしか出来ないんでしょう。
あれですよね、人ってけっこう難しい。何でも分かりあえている人と一緒にいることが苦しくなることがある。
自分には悩みなんてないんじゃないか、と思われている相手と一緒にいて、お気楽な人間を演じてみたいときがあったりする。
意外に、お気楽な人間を演じていると、本当に楽になることがありますよね~

などと思ったのでした。
はい、『花籠』は、まだ出てきてませんから、fateにしか分からない焦りでした(^^;
まぁ、お気になさらずに。

ではでは、また明日来ます(^^)



fateさんへ 

かぐや姫って、昔話なのに、思いっきりファンタジーですよね。
あれも、いろんな説があるけど、どこかせつないイメージがありますね。
「人魚姫」は、もう文句なしのバッドエンドだし・・・。
でも、なんか、昔話の中では唯一好きです。この二つ。

そっか、ここまでまったく稲葉君、活躍してませんでしたもんね^^;
どっちかというと、足を引っ張ってただけで。
まあ、李々子のペットと言う感じでしたでしょうかw

最終話でも、そんなに期待しちゃだめですよ~。(笑
そもそも、宇佐美の悩みは解決できる感じのものじゃないような気もするし・・・。

でも、がんばるのです!いなばくん。
残念な子だけど、ハートだけは熱いのです!
(なんか、この子は可愛くて仕方ないww・・28歳だけど)

お気楽な人間。ポジティブって事でもありますよね。
そういう人の傍にいると、確かに気持ちが落ち着きますよねぇ。
でも、なおかつ根底にちゃんと、痛みを持っている人がいいな~。

宇佐美って、実はそういうコンセプトで描いています。
稲葉君は・・・もうちょっとだけ、落ち着いてほしいかな(爆
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(1)】へ
  • 【(雑記)メジロ君、その後】へ