「ラビット・ドットコム」
最終話 あの月が満ちるまでに

ラビット 最終話 あの月が満ちるまでに(1)

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※ここからはまだ未修正です。もうしばらくお待ちください(;∀; ) (6/21)


「ようし、いい子だ。おとなしくしてろよ。僕だって手荒なことはしたくないんだ」
稲葉はその艶やかな背中をそっと撫でた。
「そう。そうだ。爪を立てるんじゃないぞ」

これが美女相手なら様にもなるが、稲葉の腕の中でじっとしているのは一羽の灰色のオウムだった。
10日ほど前に事務所にやってきた金持ち風のツンとした老女。
彼女はラビットに、逃げたオウム探しを依頼してきた。
他にややこしい仕事を抱えていた宇佐美は、渋る稲葉にこの仕事を全面的に任せた。
稲葉は「ずるい、押しつけだ」と抗議したが。

「ポーちゃんは気に入った言葉なら1~2回聞いただけで覚えてしまう天才オウムなんですよ。5回もテレビの取材を受けてましてねえ。え、知らない? まあ、そう? テレビはご覧にならないの? とにかく大事な大事な私の宝物なんですの」
甲高い老女の声がちょっとカンに触ったが、依頼は依頼だ。
この10日間、稲葉は時間の許す限り近辺を探し回り、ようやく先程捕獲に成功したのだ。
任務を無事完了した嬉しさに稲葉は上機嫌だった。
事務所から近い場所だったため稲葉はその収穫を腕に抱き、さっきの言葉をくり返しながら事務所まで歩いた。
意外とおとなしい“ポー”を腕に乗せたままエレベーターを降りた稲葉は、目にした光景に一瞬足を止めた。
部屋の前で宇佐美と知らない女が何やら深刻な顔で向き合っている。
女は宇佐美と同い年くらいだろうか。知的で物静かな印象の人だった。
女は無表情のまま、くるりと宇佐美に背を向けてエレベーターに向かおうとする。
その腕を宇佐美が掴んで引き留めた。なぜか思わず物陰に隠れる稲葉。

「本当に行くつもりなのか?」
その表情はよく見えなかったが今まで聞いたことのない思い詰めた宇佐美の声だった。

「もう決めたから。どうかもう、忘れてください」
やはり無感情な女の声。
「もう、会うなと言うことか? あの子にも」
「ごめんなさい。もう忘れたいのよ、何もかも。全部まっさらにしてやり直したい」
「だけど」
「あなたが居なくても大丈夫だから」

“・・・きっと聞いてはいけない話なんだ。どうしよう”

稲葉は少しオロオロしてエレベーターの方へ後ずさりした。
けれどその時、絶妙なバッドタイミングで腕の中の小悪魔はさえずりだした。
『イイコダ ヨシ オトナシクシテロヨ! イイコダ オトナシクシテロ』
シンとしたフロアに場違いな、けれど完璧な復唱が響いた。
言わずもがな。ヒョイと覗き込んだ宇佐美に見つかってしまう。

「何してんだ? 稲葉。いつからそこに居た?」
別にとがめるわけでもなく、いつものトーンで宇佐美は稲葉に聞いた。
「あ、いや、あの、僕はその・・・」
しどろもどろで慌てる稲葉を不思議そうに見つめる宇佐美。
だが稲葉の腕の中に居る物を見て全てを把握し、少し笑顔になった。
「あ、やったな、稲葉。オウム捕まえてくれたんだ」
「そ、そう。ついさっき、そこで! だから今! たった今来たばかりなんです。ほんと!」
声が思わず上ずった。焦っているのはバレバレだ。
宇佐美はそんな稲葉を見ておかしそうにまた笑った。
けれどもいつもの宇佐美とは少し違う。稲葉はなぜかそう思った。

「さようなら」

そう言うと宇佐美の前を横切り、女はエレベーターの方へ歩いて行く。
複雑な表情で女の後ろ姿を見つめる宇佐美。でももう、引き留める事はしなかった。
エレベーターのドアが閉まり、女は二人の視界から消えた。
微かな機械音だけが残る。
稲葉はまだドアを見つめて立っている宇佐美に何と声をかけて良いのか分からず、ただ腕の中の鳥の背を撫でた。

『イイコダ ヨシ オトナシクシテロ。イイコダ ヨシ』
思わず稲葉はオウムの口を押さえた。
「いったい何を教えてんだよ稲葉。あの依頼人のおばあちゃん怒るぞ、そんな言葉覚えてきたら」
宇佐美が稲葉を見ながら可笑しそうに笑い出した。
「だってこいつ本当に1~2回聞いたら覚えちゃうんですもん。僕のせいじゃないですよ」
「天才オウムだな、本当に。でもありがとう、助かったよ見つけてくれて。…あ、そうだ。悪いけど俺出かけるから留守番してくれるかなあ。もうすぐ李々子も帰ってくると思うし」

そうか、李々子さんは出かけてたんだ。さっきの来客の事もきっと知らない。
稲葉は少しホッとしてオウムの頭をなでた。

事務所に戻り用意をしたあと宇佐美は別段いつもと変わらない様子で出かけて行った。
もちろん、さっきの女性の事には触れもしないで。
オウムの飼い主が用意してくれていた鳥かごにオウムを移すと急に疲れが押し寄せ、稲葉はソファに沈み込んだ。
なぜか頭の中でさっきの二人の会話がグルグルまわっている。
あの女性は宇佐美さんの何だろう。恋人? 元奥さん? まさか。李々子さんなら知ってるんだろうか。
ボーッとそんなことを考えているうちに睡魔が襲ってきて、稲葉は心地よい昼下がりの窓辺で目を閉じた。


「へんな顔してるね、この鳥」
ピンと張ったちょっと強気な口調のその声にハッとして、稲葉は飛び起きた。聞き覚えの無い声。
「え?」
稲葉はソファからずり落ちそうになった。

目を凝らすと窓際に吊した鳥かごの前に一人の少女が立っていた。
中学生? いや、高校生くらいだろうか。
スラリとした体、長い足、透き通るような白い肌。
大きな魅力的な目に長いまつげが影を落としている。
まだ肌寒い季節だというのにノースリーブにドキリとするほど際どいショートパンツ。
長い栗色の髪はゆるくウエーブして艶やかに肩にかかっている。
まるでモデルのようなその少女は、ぐるりと部屋を見渡すと稲葉を見おろして言った。

「ねえ、宇佐美、いる?」

「・・・・・は?」




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ラビット・ドットコム、最終話スタートしました。
ついに宇佐美の過去が発覚します。
そして、稲葉君の最後のチャンスです・笑。

今回、宇佐美は宇佐美らしくないかもしれませんね。
どうか、彼を嫌いにならないであげてほしいと願う作者です。
そして、あなたなら、どうしていましたか?と、後できいてみたいテーマのお話でもあります。
お時間ありましたら、どうか彼らにお付き合いください。



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~ Comment ~

はあ・・・・・・ 

これで最終回なのですね・・・・・・orz

早速、宇佐美さんの過去の片鱗が見えてきましたね。
作者さんの願いである「彼を嫌いにならないでし欲しい」とはいったい・・・・・・。

そうだ。limeさん。
このお話が完結したら、ラビットを漫画化してみてはどうでしょう!
無理か。笑。

漫画(*^_^*) 

>ヒロハルさん

早速ありがとうございます。
片鱗、バリバリ見えてきましたねえ。
なんだか、ここまでだと昼ドラみたいだけども・笑

今までみたいな堂々とした宇佐美じゃないですから、そんなところも含めて・・・。
嫌いになっちゃわないかなあ・・と、少し心配です。
今回はちょっぴり李々子との関係も変化が見えるかもです。

え、漫画ですか?
ああ~良いですね。誰かに描いてもらいたいです~(T_T)
(やはり他力本願)

漫画(^^) 

漫画より実写ですよね?limeさん(笑)
その際、私には李々子の役を・・・(まだ言う)

宇佐美を嫌いに?なんで?
私はやばいほど惚れちゃいましたよ?宇佐美に。
っていうか私、いつも「諒」って言ってますもんね、宇佐美のこと。
どこまで恋人気取りよ(笑)
夢の中では陽がいいけど、本当の恋人は諒がいいなぁ(怒らないでーーー)

実写~(^^) 

>秋沙さん

始まっちゃいましたよ、最終話。
寂しいです~。

そう、もし実写するなら秋沙さんには李々子を。
ふふ。
ふふふふ。
(何を想像してんだか)

そういえば宇佐美を諒って呼ぶのは李々子だけでしたね。
稲葉くんなんて、名前を誰も呼ばないし。
(知ってます?稲葉君の名前・笑)
あ、話が脱線してしまいました。

宇佐美、嫌いになりませんでした?
だったら嬉しいなあ。
俯瞰で観たら、やっぱり悪い・・・あ、また余計なことを言いそうに(汗

ゆ、夢の中で陽で、実際は諒!
( ̄□ ̄;)・・・・・(u_u*)ポッ

え? 

稲葉君の名前・・・?
シロちゃんぢゃないの・・・?(笑)

そういえば幸一君でした(^^;

たしかに今回の諒は、ちょっとウジウジして(以下、limeさんに口を押さえられたため略)

Re: え? 

>秋沙さん

ははは。そう、幸一くんです。
本気で知らなかったでしょう・笑
幸は薄そうですが幸一くんです。

そう、確かに今回の諒は弱腰でうじうじして・・・・コラヾ(`ε´)ノ

NoTitle 

なにがあっても稲葉くんなら大丈夫でしょう。

「百人乗っても大丈夫」ですから(笑)

っていつのCMだ。


実は宇佐美さん、ここでばっくれちゃって、今回の話は「ゴドーを待ちながら」みたいな筋になるというオチは……ないよな(爆)

Re: NoTitle 

>ポール・ブリッツさん

そうか!100人乗っても大丈夫なんだ!
なんて頑丈な稲葉くん・・・・・って、物置ですか(`ε´)

ここまで引っ張って、ゴドーは来ませんでした、っていうのも面白いかもしれませんね。
さあ。
ポールさんにはいっぱい突っ込まれそうですが、お手柔らかに(^^ゞ

コメントしない言い訳 ... 

今日、秋沙さんからコメントいただきました。
嬉しかったです。

limeさんにコメントすること、あまりないですよね。
私の勝手な想いなのですが、笑わないでください。
《そーっと、手を触れないで、只、見ていたいブログ》って、表現が正しいかどうか分かりませんが ... 「DOOR」は、わたしにとってそういうブログなんです。
これからも、ストーカーしながら(笑)、静かに読ませていただきますから♪

日本はこれから夏本番~。
お体に気をつけてお過ごしください。

似てますね♪ 

>CoCoさん

秋沙さんも行ってくれましたか♪
よかった~。

いえいえ、わたしこそ、毎日のようにお邪魔しては、
コメントを残さず帰ってきていました。
なんというか、とても強い想いがあって書いてらっしゃるので、
能天気な私のコメントを残しては悪いような気がして。

そっと見ていたいというのは、私も同じでした。
(このブログに、そういってもらって、とっても嬉しいです)
これからも、そんな関係でいさせてください。(#^.^#)
あ、たまにコメントしたら、笑って読んでやってくださいね。

そちらもきっと暑いんでしょうね。
湿度は少ないのでしょうか。
お互い夏、乗り切りましょう~。

limeさん、こんばんは! 

先日はありがとうございます。

最近のこの暑さ・・・尋常ではないですね!
スタミナ、ガッツリつけないと乗り切れません...

体調管理、万全に...
どうぞ、お体ご自愛下さい。

今度、たっぷり時間とって、じっくり読まさせてもらいます。

今後とも、よろしくお願いします。

こんばんは~ 

>すとすさんへ

わあ、いらっしゃい。
お気遣いうれしいです。
こちらこそいつも楽しませていただいています。

私のところは小説ブログですが、ちょこちょこ雑記も書いていますので、
もしよろしかったら覗いてみてやってください(*^_^*)

隠し子?? 

いや、別に隠してないし(^^;

っていうか、ちょっと焦ったのはこちらとは関係のない『花籠』事情ででした~~~

まぁ、良い。
少し落ち着こう。
何やら深刻なスタートにドキドキしました。
でも、あれですね。宇佐美さんって実写でやったら合いそうな俳優さんいますねぇ! ほんとにぜひ、実写でやって欲しい!
テレビに任せちゃうと、勝手にシリーズ化されて、ハナシがどんどん増えそうではあるけど(^^;

これで最終ってなると、なんとなく、稲葉くんがあんまり活躍せずに最終話! ってところがちょっと切ない。
彼目線だと、もっと内容に絡みたかったなぁ、とか。
なんとなく、リクの玉城さんみたいな感じの役柄だったけど、玉城くんはすんげー活躍したから、ちょっと比較してしまったかなぁ?

過去には絡めないけど、やはり、電脳ウサギちゃんみたいな続編がもっとあっても良いかもよ~ん、とまだ最終話を拝読させていただいていないのに、もう、既に残念がっております(^^;

fateさんへ 

ん? なにかありました? 慌てること。花籠で?

あ、実写でやってほしいって、秋沙さんも言ってくれました。
これを書いている間、テレビシリーズを作っている感覚でもありました。
一時間ドラマで、ちょうどいい長さを、一話にして・・・^^

宇佐美は、どんな俳優が会うでしょうね。そんなに二枚目じゃないけど、インテリで温かい感じ。
稲葉くんはね、モデルがいるんです。
まだ、あまり売れてない俳優さん。
私生活や性格が、まったく稲葉君なんです。
二枚目なのにガキっぽくて残念な男w
だから、キャラ作りは必要なかったです。

さて、稲葉君は、最後まで活躍できないでしょうか。
卯月パパからの依頼。
「あいつを助けてやってほしい」
あの依頼です。稲葉君のファーストミッション。
この最終話で、・・・・。やっぱりだめなのかな?。。

最後まで、じっくり見てやってくださいね^^

ああ、なんか、また続編を書きたくなってきたけど・・・・。
どうしようかなあ・・・。(未練がましい作者)

全くの、独立した形で書くのもいいですね。続編と言う形じゃなくて。
(やっぱり未練がましい)

ついに最終ですね 

番外編のようなものがもうひとつ、あるのでしたっけ?
それでも、終わりが近づいてくると寂しいです。

ついこの間、オウムだったかインコだったかが迷子になって、自分の家の住所を覚えていたので飼い主に戻されたというニュースがありましたよね。
あれを思い出しつつ。
今回はオウムくんが重要になるのでしょうか。

テレビか映画かアニメか。
私もぜひ見たいですv-10

あかねさんへ 

ラビット最終話へ、ようこそ^^
やっと、宇佐美の過去が見えてきます。

あ、そんなニュースありましたよね。
確か、インコ。
自分の住所が言えるなんて、すてき~~。

ここでもこの天才オウム、いろんなところで登場します^^
だけど、事件を解決とか、そんなことには関わってきません~~。
(そもそも、事件はおこらないのです)

この後に、番外特別ドラマをご用意しております。
この最終話の、続き的エピソードも入っていますよ~~^^

(なぜか宣伝)
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