RIKU・2 君が求めた真実

RIKU・2  第一話  再燃

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『そこに落とされる一筆が、今まで平面に眠っていた動植物の輪郭に命を宿していく。
すべては光と影で創られている。人間もまたそうなのだ、と。
静かに描き続ける端正なその横顔がそう語っているように思える。
彼はじれったいほど自分を語らない。
開けようとして閉ざされるのが嫌で、私はただ少しだけ距離を置いて描く彼を見つめている。
けれども、あるときポンと弾けたように人なつっこい魅力的な笑顔で自分の感じた楽しい出来事を喋り続ける時がある。
そのギャップには子女ならずとも、不思議に心を惹きつけられてしまうはずだ』

なめらかなダルアート紙を指でなぞったあと、男はその美術誌をパタンと閉じた。

美しい表紙に書かれた画家の名前をもう一度見た後、足元のくずかごに捨てようとしたのだが、思い留まる。
再び先ほどのページを乱暴に開き、その画家のプロフィールと記者の名前をくどいほど確認すると、男は忌々しそうに呟いた。

「お前なのか・・・」

   ◇  

久々に大東和出版の編集部に足を踏み入れた玉城(たまき)は終始落ち着かなかった。
広いフロアに大勢の社員がバタバタと時間と戦いながら業務を遂行している。
とにかく殺気立っている。

パーテーションで仕切った簡易応接スペースに通された玉城はどすんと目の前に座った大柄な
女編集長、長谷川を恐る恐るみつめた。
長谷川はしっかりと玉城の手書きの原稿を持ち、見つめている。
気に入らなければ首でも絞められそうな、そんな空気に玉城はごくりと息を飲み込む。

けれど意に反して柔らかい笑みを向けて長谷川はポンと玉城の肩を叩いた。

「いいじゃない、いいじゃない、玉城。次号はこの感じで行こう。よくあの嘘つき鳥の生態をここまで観察できたよね。いいと思うよ。初回の文章も気に入ってたけど、今回も言葉選びに詩的なセンスを感じるね。いいよ、合格」

玉城と呼び捨てにされるのも、ガシガシとボディタッチされるのも随分慣れてきた。
ただ玉城は未だに長谷川が女性であるのが何かの間違いではないかと思っていた。
179センチの身長、がっしりとした体格。目も鼻も整ってはいるが、美しいというより凛々しい。
美術誌の編集長と紹介されるよりもプロレスリングの選手と言われたほうがしっくり来る。

「観察・・・って。野生動物みたいに。ただちょっと変わり者なだけですよ、リクは。そんな感じで接するから前みたいに機嫌損ねて取材断られるんですよ」
「あー、やだやだ。ご機嫌取らないとつき合えないへそ曲がりなんて、めんどくさい! 人気画家でなかったら絶対に付き合いたくないタイプだ」
長谷川は肩をすくめてソファーの背もたれにドンと体を預けた。
“それはリクだって思ってますよ”とも言えず、玉城は苦笑いを浮かべた。

「でもあいつ、いい絵を描くんだよね。現代アートの新星って騒がれるだけのことはある。それなのにマスコミに紹介されても写真はおろか、プロフィールもあかさないでしょ? だから前号のvol.33で玉城が書いた記事に問い合わせが殺到してる。
・・・ちょっとだけあんたが書いちゃったからさあ。あいつの容姿について。若いファンが飛びついちゃってね。次号はリクの写真を載せろって上司がうるさいんだよ」

「写真? 写真はダメですよ」玉城は慌てる。
「何でよ。たかが写真じゃん」
「嫌がるんじゃないですか?彼」
「聞いてみたの?」
「いえ、聞いてはないですけど、なんとなく」
「何となくで答えるんじゃないよ。・・・じゃあ、あんたの写真でも載せとく?」
「なんで僕なんですか!」
「あんたも男前だからさあ。女の子の読者が増えるよ」
「めちゃくちゃなジョーダン言わないでくださいよ」

顔を赤らめている玉城をニタニタとふんぞり返って眺めている長谷川はまるで
女子社員に猥談を言って楽しんでいるセクハラ上司のようだった。

「さあ、ほら、油売ってないで引き続きリクの観察日記書いて来なさいよ、ビシッと」
そう言って長谷川は立ち上がると腕時計で時間を確認しながら自分のデスクに歩いて行ってしまった。

「夏休みの自由研究じゃないんだから」
到底かなわない敵にボソリと呟くと玉城も原稿を掴んで立ち上がった。

本来ならこんなやり取りはメールですむはずだった。
けれど8年間愛用したPCは昨夜モニターを赤く染めて絶命した。
しばらくは面倒だがこうやってあのデカ編集長と顔をつきあわせて打ち合わせするしか無さそうだった。

「グリッド」の編集室は大通りに面した3階にあった。
近くに住宅開発地域があるので大型トラックの騒音がうるさい。
今日はそれに混じって、選挙カーが大音量で候補者の名前を連呼する声が聞こえてくる。
市議会選が近いんだったな、と玉城は思いだした。
「帰ったら広報誌にでも目を通してみるか・・」

ふとパーテーションの方に目をやると、色白で小顔の女子社員が顔を覗かせていた。
一昔前に流行った感じのソバージュヘアの彼女は「こっそり」と言った仕草で近寄ってきた。
美術誌の編集部には美大出身の子が多いと聞いていたが、彼女もそうなのだろう。
独特のセンスを感じる。レトロな配色のシャツを上手に着こなしていた。

「おっかないでしょ?長谷川さん。気を付けてくださいね。機嫌損ねたら食べられちゃいますよ」
愛嬌のある仕草でその女子社員はニコリと笑った。
胸の社員証には「山根 由梨」と書いてある。
ハムスターに似た小動物の「ヤマネ」を思い出して、玉城はクスリと笑った。

「うん、そうだね。機嫌損ねないように頑張るよ」
玉城の笑顔が嬉しかったのか、ヤマネ女子は重量を感じさせない軽い動きで玉城に近づいてきた。
「ねえ、リクさんってそんなに変わり者で偏屈なの?長谷川さんいつも言ってるけど」
玉城はほんの少し考える間を開けた。実際自分もそう思ってる所がないわけではない。
「そうかな・・・そうかも知れない。でも根は悪い奴じゃないと思うよ」
「嘘つきなんでしょ?」

長谷川は四六時中社内でリクの悪口を吹聴して歩いてるのだろうか。
玉城は小さく溜息をついた。

「テリトリーを犯さなきゃいいんだ」
「テリトリー?」キョトンとしてヤマネは聞き返す。
「そう。臆病な気難しい鳥だからね。テリトリーを犯したら飛んでいってしまう。
そっと見ておくんだ。そっとね」
「なんだ、長谷川さんと同じ事言ってるじゃないですか。そっと近づいて観察するんですよね?」

「まあ・・・そう言うことかな」
玉城は“しまった”と思いつつ、やはりそうだよな、と曖昧に苦笑いした。

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鍵コメさんへ 

あ、ほんとうだ。
私も少し勘違いしてました。

ちょいと訂正してみました。どうかな?

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鍵コメさんへ 

よかった~~♪

感謝です。少しずつ完成して行く感じ・・・・^^

文才はあるんだ!? 

玉ちゃん!キミはダメっ子じゃない!作者様譲りの文才がある!大丈夫だ問題ない!

いやー最近のライターさんって、どういう人が書いているのか「論拠があいまい、書きっぱなし、投げっぱなし」の人が多いですからねえ(黒い有村登場(笑))玉ちゃんが「ちゃんとしたライター」で安心しました。

問題は、また「何か」に目をつけられたらしいリク君のほうですね…(心配)

有村司さんへ 

そうなんですか!
だめですねえ~、書きっぱなし、投げっぱなしのライターさん。

玉城は、ああみえても(笑)文才だけはあるみたいです。(そう言う事にしといてw)
根がまじめで、誠実で真っすぐで熱いですから、いいかげんな文章は書きません^^

RIKUの記事のコピーも、愛があるんですよね~^^
そんなところが、長谷川さんにも伝わるんでしょう。

このあと、長谷川編集長も、この作品の重要人物になってきますので、宜しくお願いします^^

そう・・・問題は・・・そこですね。
ヤバイの、来ますから。
今回はそうとう痛いです^^;
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