RIKU番外編  編集長、長谷川

編集長、長谷川 第5話 トカゲ

 ←編集長、長谷川 第4話 臆病な年頃   →(雑記)心魅かれるものたち
長谷川は手元に届いたグリッド、Vol.35の表紙を見つめた。
雑誌としては珍しい、つや消しPP張りの重厚感あるその美術誌。
35号の表紙にはリクの写真が使われている。
企画会議で長谷川が提案したとき、意外にも異論を唱えるメンバーはいなかった。
誰もがリクのその才能と神秘性に魅力を感じ、彼の名を自分たちの手で更に広めたいと願っていた。

長谷川は表紙をそっと撫でる。
『ミサキ・リク特集、最終号』の緋色の文字の下。
描きかけのキャンバスの横にうつむき加減で佇むリクの姿は、繊細な絵と同じく美しかった。
「気を反らしてね、隠し撮りしちゃいました」
そう言って玉城が渡してくれたネガだ。そして、
「表紙に使っていいかってリクに聞いたら、バカじゃない? って言ったから、使ってもOKですよ」
と、無茶苦茶なことを言って笑った。
あいつはなかなか使える。長谷川はそう思った。

携帯を取りだし、アドレス帳の中からリクの名を探す。
一週間前、画廊で気持ちが擦れ違ったまま別れてから、何の連絡も取っていない。
多少の気まずさはあるが、特集号が刷り上がった連絡くらいはするのが筋だろう。
義務なのだと自分に納得させて、長谷川は携帯を耳に当てる。

「はい」
思いがけず、ツーコールでリクが電話を取った。
雨でも降るのではないかと、無意識に長谷川は窓の外を見る。
「ああ・・・あのさ、35号が刷り上がったから、お礼も兼ねて、そっちに行くよ」
ほんの少し間があった。
「別にいいよ。玉ちゃんの原稿は読ませてもらったし。内容は知ってる」
「あんたが表紙なんだよ」
「余計にどうでもいい。どうしてもって言うんなら郵送してよ。うちにもポストくらいある」
「可愛くないね。お礼もしたいって言ってんのに」
「いらないよ。それに今、あの家には居ないし」
「いないって?」
「しばらく家を空ける。いつ帰るかも分からないしね。だから、来なくていい」
「・・・そうか、今、旅先ってわけか。一人旅? あのオーナーと一緒なら気をつけなよ」
長谷川が少し笑いを含んだように言うと、
「バカじゃない?」と軽くあしらわれ、電話は不意に切られた。

「ジョーダンの通じない奴」
長谷川はムッとして携帯を見つめた。
何となくむかつく。イライラする。気持ちが落ち着かない。

「長谷川さん、何か嫌なことでもありました?」
またしてもこのタイミングで、後ろから松川が椅子に反っくり返る姿勢で覗き込んできた。
「まったくね。何かと嫌な事だらけだよ」
感情を込めずに長谷川は言った。
本当に落ち着かない。まったく、何だってんだ・・・


      ◇

たった数枚の写真が入った封筒なのに、柳にはズシリと鉛のように重く感じられた。
けれども、もう後はない。
この仕事をやり遂げなければ、海の泡にしてやると兄貴に言われた。
海の藻屑ではないのか。ちょっと「人魚姫」みたいだと、笑えた。
少し精神が参ってることを、気のせいにしたかった。

「柳さん、こ、このビルですね」
そびえ立つ白銀のビルを一瞬見上げて、赤木が少しかすれた声を出した。
「何て声出してんだよ。心配ないって。下地はちゃんと出来てるんだ。総会屋をナメんなよってチョイと脅すだけさ。スキャンダルネタを使ってよ」
柳の手の中にある写真には、この一部上場企業、高峯商事の取締役と、
北関東で名を馳せる暴力団、黒竜会の組頭との密会現場が盗撮されていた。
柳はそこの支部の、さらに下っ端の準構成員にあたる。
いつか使えるだろうと、組の幹部が隠し撮っていた写真だった。

長年、高峯商事は総会屋として黒竜会を雇っていたのだが、社長が代替わりした途端、
暴対法を武器に組との関わりを絶とうとしてきた。
資金繰りに困っている組が、「はいそうですか」と言うわけがない。
「簡単な仕事だろ? 柳。写真見せて揺すればいい。組との繋がりを世間に教えてもいいんですか?ってさ。紳士的に交渉するだけだ」
そう幹部に言われ、柳と赤木は使いに出されたのだ。

「簡単な仕事って言ってたけど大役ですよね、柳さん。こんな大企業相手にするんですから、俺ら」
興奮してるのか怖じ気づいているのか、赤木はうわずった声で再びビルを見上げた。
自分の中にも同じような緊張があるのを感じて、柳は訳もなくめいっぱい息を吸い込んだ。

「なんで俺らに行かせるか分かるか? 赤木」
「え? 何でですか?」
「俺らが準構成員だからだよ」
「え?」
「トカゲのしっぽだからさ」
「しっぽ?」
「繋がってるときは血を分けて貰ってるけどさ。敵に捕まりそうになったら切り離して、
そいつを置いて一目散ににげるのさ。本体は」

切り離されたら栄養ももらえず息絶える。

自分で言っておきながら、土の上をクネクネのたうち回るしっぽを想像して、柳はげんなりした気分になった。

「敵に捕まらなきゃいいんですよね、柳さん。俺、逃げるのは得意なんです」
赤木は場違いなほど、少年のような笑みを見せた。




----------------------------------------------


いつもありがとうございます!limeです。
次回で編集長、長谷川、最終回です。

どうやったらあと一回で終わるんだろう・・・と、
思った皆さん。

私も思いました。
でも、長谷川さんですから。


関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 流 鬼
もくじ  3kaku_s_L.png 凍える星
もくじ  3kaku_s_L.png モザイクの月
もくじ  3kaku_s_L.png NOISE 
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU
もくじ  3kaku_s_L.png RIKU・3 托卵
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【編集長、長谷川 第4話 臆病な年頃  】へ
  • 【(雑記)心魅かれるものたち】へ

~ Comment ~

楽しみです。 

急展開するんでしょうか?

ここまでずっと、長谷川さんの意味知れずな
イライラがこっちにまで募ってきて、
なんだか、喉の奥に魚の骨が刺さったまま、
スッキリしなくて気になってしょうがない、って感じだったんですが、
次で一挙にスッキリできるんですね?

楽しみです♪

た、たぶん・笑 

>narinariさん

わあ、ごめんなさい。イライラさせちゃいましたか!
次回で、だぶん、たぶんすっきりすると思うんですが・・・。
当然のことながら、私には長谷川さんの気持ちがすごくわかるので、
いつも笑いながら書いてたんです(^.^)

私の悪い癖。最後は、めちゃくちゃ急ピッチです。
・・・片付けばいいんですがね・笑

確かに 

筆者の思惑に嵌ってしまったのか、
確かにあと一回で終わるの?と思ってしまいました。

長谷川さんは小説ですら、
強制的に終わらせることのできる方なのでしょうか!

和田アキ子みたいですね。笑。

でしょ・笑 

>ヒロハルさん

ははは。やっぱり思いますよね。
問題山積みじゃんか・・・。
筆者の思惑というか、筆者の無茶というか・・・。

まあ、笑ってやってください。最終話。
「それでいいのか、長谷川さん!」と。

まあ何たって、長谷川さんですから。不可能はありません。
ある意味ゴッド姉ちゃんですね。
和田アキ子よりは・・・・可愛い人だと思うのですが・笑

NoTitle 

頑張れ柳、頑張れ赤木( ゚ー゚)ノ)"ガンバレ
と言ってはいけないのかもしれませんが・・・^^;
きっとまた、長谷川ボスの無意識の優しさに助けられて
トカゲのしっぽから解放されることを願いつつ
最終話、行かせていただきます^^

美香さんへ(2) 

お、こっちにも、ありがとうございます!!

赤木と柳。憎めない悪党どもですが、さて、どうなるか。
トカゲのしっぽって、悲しい存在ですね><

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【編集長、長谷川 第4話 臆病な年頃  】へ
  • 【(雑記)心魅かれるものたち】へ