RIKU番外編  編集長、長谷川

編集長、長谷川 第2話 陽のあたらない場所

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長谷川は不機嫌だった。電話で玉城を誘い出そうとして、見事に振られたのだ。

「え? 今夜飲みに、ですか? えーと、そうですね。お誘いは嬉しいんですが、今夜は予定が入ってまして。本当ごめんなさい長谷川さん。でも、いきなりどうしたんですか? 珍しいですね。仕事の話ですか?」
「何で仕事の話って思うのさ。たまには誘ってやろうと思っただけだよ」
「いや~、うれしいです。でも、ほんと、ごめんなさい。あ! 明日の午後なら少し時間空いてますよ。明日ならお話聞けます。なんかあったんでしょ? 長谷川さん」
「だから話なんて無いんだって! もういいよ。気が変わった。あんたも忙しいだろうからさ。悪かった。もう誘わないよ」
「あ!」
慌てた玉城の声が余韻に残ったが、長谷川は構わず携帯をぶち切った。
我ながら大人げない。きっと玉城もビックリしているだろう。いや、玉城がいけない。
あいつの中途半端に優しい言葉は、なにか気持ちをぐらつかせる。長谷川は訳もなくそう思った。
なぜだろう。なぜかわからないが、今日はイライラする日だった。
気分を変えるためにデザイン事務所に行きがてら、行き付けのカフェでコーヒーでも飲もう。そう思い、長谷川は自社ビルを出た。

両端にそびえるビルに挟まれ、決して陽射しの当たらない狭い路地を抜けようとした時、長谷川は見覚えのある顔を見つけた。
相手の男も再会に驚いたようにこっちを見つめている。
その男は長谷川が高校で柔道部の主将をしていた頃の一級下の部員だった。名前は柳。
喫煙や飲酒や授業放棄。大きな犯罪はしないが、とにかく素行が悪く、生徒指導の教諭から相談を受けたため、面倒見のいい長谷川はムリヤリ柳を柔道部に引きずり込んだ。
女子柔道部と男子柔道部は便宜上分かれてはいたが、暗黙の了解で長谷川が両方をまとめていた。
理由は単純。長谷川にかなう男子がいなかったのだ。
その、誰もが一目置くボスに引きずり込まれた柳。初めのうちはゴチャゴチャ文句を言っていたが、数回ワザを掛けたら大人しく従うようになった。
長いものに巻かれるタイプだが根は悪くないのかもしれない、と長谷川は、卒業するまで目を離さず指導した記憶がある。
その柳が、なぜか今、目の前に立っている。少し派手なシャツを着た茶髪男と一緒に。



「ボ、ボス」柳が細い声を出した。
「こんなとこで何やってんの?柳。あんたちゃんと社会人やってんの?」
「もちろんじゃないですか。ちゃ、ちゃんとやってますよ!」
「何やってんの?」
「・・・・・・流通の仕事、・・・みたいな感じで」
「ふーん、流通業」
長谷川は納得したような、してないような曖昧な相づちを打った。緊張した表情の柳と赤木。

「ボスこそ、どうしてここに? 買い物ですか?」
「仕事中だよ。まあ、ちょっとサボって息抜きしようと思ってたとこだけどね。あんたらも一緒に行く? お茶でもしようよ」
「いえ!」即答して首を横に振る柳。「人と待ち合わせでして・・・」
「なんだ、そう。ならしかたないけど・・・でも、こんな所で待ち合わせ?」
長谷川はぐるりと辺りを見回した。赤木はチラリと腕時計を見る。
柳が『まずい』と思ったときにはもう遅かった。
黒いジャンパーを着て紙袋を持った男が、くわえタバコをしながら3人の方へ歩いてきた。
男は眉間に皺を寄せ、訝しげな目を長谷川に向ける。
「ん?」と長谷川が男の方へ顔を向けた瞬間、その背後で柳は男に向かって必死の形相で手をバツ印にしてジェスチャーを送った。
“取り引きは中止! 思わぬアクシデントが発生した!”
男は咄嗟に理解したらしく、フイと背を向けると何食わぬ顔で足早に去っていった。

「あれ? さっきの男じゃなかったの? 待ち合わせの相手って」
クルリと長谷川が柳を振り向くと、まだ小さくバッテンを作ったままの柳と目が合った。
「何やってんの?」
「え? あっ、いえ、なんでもないです」
柳のこめかみに冷や汗が浮かぶ。「この人にバレたら殺される」柳はそう思った。組のボスよりも数段怖かった。

「さっきの男はヤクザもんだね」長谷川が不意に言った。
「え?」
「カタギの目じゃなかった。真っ当な仕事してないよ」
そう言うと長谷川は柔らかい表情で柳を見た。
「さっきの男が柳の仕事仲間じゃなくてホッとした。あんたは真っ当な仕事、するんだよ」

その目は優しかった。
柳は言葉を失う。

「は、はい」
「流通の仕事、頑張るんだよ。じゃあね」
そう言って右手を軽く上げると長谷川は、一つ向こうの角をツイと曲がり、その姿はすぐに見えなくなった。

「柳さん・・・失敗でしたね」
赤木は小さくつぶやく。
「・・・ああ」
「怒られますかね。兄貴たちに」
「そうだな。ま、何か言い訳考えるさ」
「でも、俺たちまだ何にもやってないですね」
「あ?」
「悪いこと」
「・・・そう、だな。まだな」

日が傾き、二人の立つ路地はますます暗い影を濃くして行きつつあった。
一瞬小さく身震いして、柳は長谷川が去っていった方向を振り返った。
もう、どこにもその姿は無い。
おやつの時間も過ぎた。
あのとき、誘いを断らなければ良かったと、少し後悔した。
無性に温かい飲み物が飲みたい。

「帰るか」

何となく居たたまれなくなって柳と赤木は、陽の当たる大通りへと足を速めた。


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~ Comment ~

NoTitle 

玉城くんと編集長はくっついてしまうんですかっ!

春がくるんですかっ!

……ええなあ(指をくわえる)

Re: NoTitle 

>ポール・ブリッツさん

ははは。さあ、どうなんでしょうね。

なんたって、長谷川さんですから。

あの人はある意味、最強です・笑

おはようございます^^ 

あはははは~~~っ!!
「どっちかな??」とは思ってましたが、玉ちゃんの方でしたか~~~!!(爆)

基本、長谷川さんみたいな姐御肌の女性って、「ほっとけない男」に弱いんですもんね~、わかる気がするv-290
その点リクは、ほっといたら何日も食べないでフワフワとしてそうだけど、「ほっとけないタイプ」ではなく、「ほっといても死なないだろうタイプ」ですもんね。玉ちゃんで納得ですv-398

いや~~、こりゃ・・・・・・・・
この話も楽しみだけど(先が)、本編の新作(もう連載終わってるみたいですけど・笑)の方が断然楽しみだなぁe-420e-420
いやいやここはグッと我慢して、まずはコチラを堪能しますv-218

蘭さんへ 

お、長谷川さんのもやもやの「何か」に気がつきましたね。
けっこう皆さんには気づかれなかったんですが。
ふふ。

でも、私も長谷川さんもひねくれ者ですから・笑
安心できませんよ。蘭さん。

でも、この話はあくまで番外。気楽にさらっと読んじゃってください。
(あ、もちろんゆっくりのんびり、いらしてください)

はい、本編のRIKU・4も、蘭さんをお待ちしていますよ(*^_^*)

え? あれれ? 

首をかしげつつ、どうなっていくのだろうかと。

脇役のつもりだったはずの人物に思い入れが強くなって、そのキャラを主役にした物語が書きたくなる、そういうことって私もよくあります。
長谷川さんもlimeさんに愛されているのですね。
愛されてるからこそ苛められないかと……いえ、長谷川さんだったらきっと著者にも負けないほどに強いでしょう(笑)。

男性と男性の触れ合いがすぐに恋に発展する世界ってのが、web小説には多いですよねぇ。
私もそういうのは書きますし、決して嫌いではありませんが、男性同士は恋愛にはならないのが自然。
リクくんと玉ちゃんみたいな関係は好きです。恋には……なりませんよね?

あかねさんへ 

ふふふ。
「この物語、どこへ行くんだろう」という感じですよね^^

そうなんです、すっかり長谷川が気に入ってしまって。
でも、女子はいたぶりませんから、安心してください。
・・と、いうより、茜さんの推測通り、長谷川さんは無敵です。

最後まで読んで戴ければ、私がこれを書いた意味が、分かると思います。
ふふ、ちょっとしたいたずら&願望です。

そうですねえ、BL小説ならば、割り切って許せますが、すぐに恋仲になってしまうというのは、男同志では不自然ですよね。(BLというのは、ファンタジーですから)←と、BL作家さんがおっしゃってました。

あくまで、強すぎる友情。あるいは、保護者、被保護者としての愛情。
守ってやりたくなる・・・という感情。
私はそんなものが好きです。

大丈夫、リクと玉城も、そんな関係にはなりませんよ~^^。(グレーゾーンではありますが)
それに玉城は、ものすごく女好きですから!(もてないけれども)
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