「ラビット・ドットコム」
第5話 夢のつづき

ラビット 第5話 夢のつづき(4)

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稲葉は汗ばむ手でポケットを探った。
とにかく、こんな暗くて狭い場所には短時間でも居たくはなかった。

けれどどういう訳か、さっきまでジャケットのポケットに入れておいた携帯がない。なぜだ? と記憶をたどり、途端に口をつぐんで青ざめる。

「稲葉? もしかして携帯落とした?」気配を察したのか、宇佐美が覗き込む。

「はい。たぶんさっきマンホールの所で……。宇佐美さん携帯持ってますよね? 誰かに連絡して助けてもらいましょうよ。李々子さんがいてくれたら心強かったんだけど。こんな時に旅行に行っちゃうなんて、ついてないですよね」

稲葉は心底残念そうにため息をついた。

「あ、……ホントごめん。俺の携帯の電池切れちゃってて」

宇佐美が申し訳なさそうに告げる。

「えーーーー! どうするんですか宇佐美さん。真壁さんが帰るまで待つんですか!」

「真壁さんは当分帰らないよ。ほら、夢を取り戻すための時間旅行に出かけちゃったから」

「そんなサブタイトルどうでもいいですから! それよりどうするんですか、この状況……。ま、まあ、ドアを閉めちゃった僕の不注意なんですが」

「確か明日の朝から家政婦さんが屋敷に掃除にくるらしいよ。何とかなるだろ」

「朝までここですか!?」

稲葉は慌てて辺りを見回した。嫌な予感がびんびん湧いてくる。

この状況で外に連絡を取る方法があるとは思えない。

かろうじて外の様子がうかがえるのは、天井近くにある小さな二つの窓だけだ。けれど手が届きもしなければ、助けを求めることすらできない。

あの奇妙な“マンホールに似た穴”に近づいた時、ちらりと見えた地面すれすれのガラス窓がそうだったのだと稲葉は今さらながら気が付いた。

あの時もう少し注意して見ていればよかったと、稲葉は絶望的な気持ちになる。

「鍵穴さえ無いからピッキングも無理だな。おまけに頑丈と来てる」

相変わらず猫を抱えたまま、外へつながっているらしいドアを調べながら宇佐美が言った。

「きっとこの屋敷自体が古すぎて、過去にいろんな修復や改築を重ねざるを得なかったんだろうけど、この部屋はどうも先代の趣味の日曜大工って風情だよね。
どっちに鍵があるとかないとか、深く考えずに作っちゃったんだろう。
その結果、残念な事に、ドアノブが錆びて開かなくなった段階で、ここは檻になっちゃったんだな。運が悪かった」

「まったく、こんなお屋敷を趣味でリホームなんかしないでほしいですよ。マンホールから入る部屋なんて、何が面白くて作ったのか。金持ちのやることは分かんないです」

「……え。マンホールに繋がってるのか? このドア」

宇佐美が驚いたように稲葉を見た。

「えっ! あ、いや……。実はさっきこの裏側にマンホールに似せた蓋を見つけてたんです。もしかしてって思ったんですが、……すみません。今さらですよね」

稲葉はさらに自分の不甲斐なさを暴露したような気持ちになって、声を萎ませた。あの時もう少し踏み込んで探していれば、この事態は防げたかもしれない。

「へえ。それは興味深いね。ここから出られたら見に行ってみよう」

宇佐美はそんな稲葉の後悔を知ってか知らずか、子供みたいな弾んだ声を出した。
稲葉は宇佐美の反応にホッとすると同時に、改めて疑問が湧いて来た。この人は人を責めるとか、不安で取り乱すとか言ったことは今までに無いのだろうか……。

「何はともあれ猫が見つかって良かった」
すぐ横で宇佐美が腕の中の黒猫を撫でる。

けっこう宇佐美さんは猫好きなんだなと、稲葉も手を伸ばして、痩せた猫の背をそっと撫でた。

「ほんとですよね。こんなとこに入り込んだんじゃあ、どうしようもない」

二人が入ってきた錆びたドアには猫が出入り出来るように小さな鉄ののれんが取り付けてあった。改築マニアの先代は、猫好きだったのだろう。けれど長年の湿気で錆び付き歪み、部屋に入れはするものの、出るときはつかえて開かなくなっていた。まるで動物捕獲ボックス状態だったのだ。

「昨日からここに入り込んで飲まず食わずなんだろうな、この猫。可愛そうに」
そう言って宇佐美は尚も優しくその痩せた黒猫の頭を撫で続ける。

改めて稲葉はこの不思議な探偵を、薄暗がりの中でじっと見た。

温厚な上に沈着冷静。頭脳明晰。十年前には教授陣の期待を一身に浴びる優秀な院大生だったのに、すっぱりとその道を諦め小さな探偵事務所の所長をしている。

そして今、何の役にも立たない自分と一緒に猫探しに奮闘し、あげく、地下倉庫に閉じこめられ、それなのにマンホールが見たいなどと興味深げに言いながら猫の背を撫でている。

―――わからない人だ。分からないことだらけだ。

この人がやりたかった事ってなんだろう。本当に探偵なんだろうか。



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~ Comment ~

うぎゃー。 

最後のlimeさんの言葉がとても意味深ですね。

とっても気になるじゃありませんか。
(7)まで、後3回か・・・・・・。

いったい何があるんでしょう。

やばい。 

ヒロハルさんへ

私はもしや、自分で自分の首をしめたかな?
いやあ、ほんと、期待しないでくださいね。(汗)
(やっぱりこっそり消しておこう、あの後書き・笑)

最近、面白い小説って、なんだろうって、いっぱい疑問が湧きます。
何も考えずに、勢いだけで書いてたころが懐かしいです。

NoTitle 

リンク承諾ありがとうございます。

こちらもとろとろとしか読めませんが、どうかよろしくおつきあいください。

Re: NoTitle 

早速の返信ありがとうございます。
よろしくお願いします。
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