「ラビット・ドットコム」
第5話 夢のつづき

ラビット 第5話 夢のつづき(1) 

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太陽は日没にむけて、赤く膨張を始めていた。

まるでホラー映画のように黒く浮かび上がる洋館の脇で、小さくうごめく人影が二つ。

「ほら、もう少し。がんばって!」

赤い野球帽を被った少年が、もう一人の坊主頭の少年の手を掴み、マンホールの穴から引っ張り上げた。

学校帰りなのか、脇に黒いランドセルが転がっている。

「偽物のマンホールだったね、この穴。屋敷の地下に繋がってるなんて、きっと作った人以外誰も知らないよね。
外から部屋に入れるけど、別の誰かに外から鍵を閉められちゃったら中から開けられないなんて、変な部屋」

赤い帽子の小柄な少年がそう言うと、坊主頭の背の高い少年も興奮気味に続けた。

「素人が作った日曜大工みたいなドアだった。きっとこの家の持ち主が、秘密の出入り口として作ったんだろうな。鍵が無くても入れる裏口って感じ」

2人は協力して、自分たちが出てきたマンホールの蓋を元通り、キッチリ閉めた。
その蓋も模造品らしく、鉄ではなかった。子供の力でも容易に動かせる。

「ここの屋敷に住んでる奴って、やっぱりどこか頭がおかしいんだ。朝早くとか真夜中に、大声で何か叫んでるって噂もあるだろ? 姿を見た友だちは、何だか帽子やサングラスで変装してたって言ってたし。芸能人でもあるまいし」

赤い帽子の少年はそう言うと、こわごわ振り返り、後ろにそびえ立つ黒い洋館を見上げる。

けれどすぐに横の坊主頭の少年に向き直り、得意げにニンマリ笑った。

「でも僕らお手柄だね。凄いよね。ヒーローだよ」

「うん、助けたもんね、この子」
坊主頭の子もうなづき、赤帽子の少年のお腹あたりに視線を落とす。

赤帽子の少年は、膨らんだ自分のお腹を大事そうに撫でた。
シャツの下でモゴモゴと何かが動いている。

「大きな声で鳴いてくれなかったら、気付かなかったとこだよ」

「僕らはこの地下のへんてこな部屋に閉じこめられたこの猫を救ったヒーローだ。だけど、鍵を開けて入ったんだから不法侵入者でもある。だからこのお手柄は二人だけの秘密だよ。永遠に」

「なんか、かっこいい!」

2人の少年はお互いを見つめたあと、自分たちの功績と秘密に、目をキラキラ輝かせて笑った。

窮屈だったのか、少年のシャツの裾からポロンと飛び出してきた痩せっぽちの猫が、迷惑そうにニャーとひと声鳴いた。


         ◇

稲葉は学校の業務を終えた後、いつものようにラビット事務所に直行した。

自宅と反対方向に電車を乗り継ぐが、疲れなど微塵も感じない。

稲葉にとってラビット事務所は人生の課外授業の場であり、バイト料はわずかでも第2の職場であり、顔を出さないとどうにも落ち着かない心の拠り所になっていた。

時刻は午後7時半。
この時間に依頼人が来ることは少なく無いので、稲葉はノックした後、つとめてドアをそっと開けた。

やはりパーテーションのむこうに客の気配。けれどそこはいつになくピリピリとした空気が張りつめていた。

応接セットのソファーには本日の依頼人らしい70代とおぼしき白髪の老人が、ふんぞり返って座っている。

老人の正面に座っていた宇佐美が、稲葉に気付いてキュッと口の端を上げ、無言で笑ってくれた。

けれどそれが気に入らなかったらしく、依頼人は持っていた杖でテーブルの端をカンと叩いた。

「聞いておられますかな、宇佐美さん。上の空らしいからもう一度繰り返しますが。明日中にうちの敷地内に入って悪さをしたガキどもを捕まえてください。きっとガキどもが私の猫を何処かに連れ出したに違いないんだ。
最近はキモ試しとか言って敷地内に入り込んで来る馬鹿ガキが結構おりましてね。いっぺん捕まえてやろうと思ってた所です。猫さらいの罰としてこってり懲らしめてやる」

宇佐美は、目の前で興奮気味に話す気の荒そうな老人に穏やかに笑いかけた。

「真壁さん、子供を捕まえて懲らしめるのはちょっと無理ですね。幼児略取、虐待、および監禁罪で、私もあなたも捕まります」

「バカバカしい。ちょっとお灸を据えるだけだ。だいたい大人が甘やかすからガキどもがあんなに良識なく育つ。
そもそもあんたらはそんな“人探し”の依頼を請け負うのが仕事だろうが。それとも探偵というのは仕事を選ぶのか?」

真壁が耳障りなしわがれ声で言う。

「聞いておられますかな、宇佐美さん。上の空らしいからもう一度繰り返しますが。明日中にうちの敷地内に入って悪さをしたガキどもを捕まえてください。きっとガキどもが私の猫を何処かに連れ出したに違いないんだ。
最近はキモ試しとか言って敷地内に入り込んで来る馬鹿ガキが結構おりましてね。いっぺん捕まえてやろうと思ってた所です。猫さらいの罰としてこってり懲らしめてやる」

宇佐美は、目の前で興奮気味に話す気の荒そうな老人に穏やかに笑いかけた。

「真壁さん、子供を捕まえて懲らしめるのはちょっと無理ですね。幼児略取、虐待、および監禁罪で、私もあなたも捕まります」

「バカバカしい。ちょっとお灸を据えるだけだ。だいたい大人が甘やかすからガキどもがあんなに良識なく育つ。
そもそもあんたらはそんな“人探し”の依頼を請け負うのが仕事だろうが。それとも探偵というのは仕事を選ぶのか?」

真壁が耳障りなしわがれ声で言う。

「もちろん猫も同時に探してもらうつもりだった。あんたが“猫くらいしか探せない”って言うんだったら仕方ない。ガキの事は保留にしよう。
とにかくどっちにしても急いでるんだよ私は。少しも無駄に出来る時間は無くてね」

やはり憎々しげにそう言った後、真壁老人は疲れたのか少し息を吐いた。
そしてまるで気持ちの整理を付けるかのように、自分の手を見つめながら言う。

「……もうすでに無駄に時間を使いすぎた。明日からそれを取り戻しに行く。猫が見つかったら通いの家政婦に預けてくれ」

「明日からご不在ですか? ご旅行でも?」

「だから言っただろ。失った時間と夢を取り戻しに出かける」

「それはいいですね」

宇佐美はニコリと笑った。

「こんな老人が何をぬかすと腹ん中で小馬鹿にしてるんだろう」

「とんでもない。いくつだろうと夢を追うのは素晴らしいことです。ただ私は真壁さんのプライベートに立ち入るつもりはありません。自分の仕事をするだけです」

少しも語調を崩さない宇佐美の対応が、逆に彼を刺激したのか。真壁は更に苛立たし気に顔を歪め、吐き捨てるように言った。

「ああそうだな。探偵なんていい商売だよ。リスクの無い都合のいい仕事を選んでりゃあいい。藁をもすがる人間は後を絶たず転がり込んでくるんだ。食いっぱぐれることはないんだろうさ。TVや小説の中の熱血探偵はうそっぱちだ。実際は相手の人生なんてどうでもいい。金になりさえすればいいんだからな。
あんたみたいな人間はきっと、何かを死に物狂いで追い求めて苦悩することなんて無かろう」

ずっとパーテーションの影に隠れて聞いていた稲葉だが、さすがに理不尽な老人の物言いに頭に来て口を開きかけた。

だがそれより早く、稲葉の前を横切る影があった。李々子だ。

バンとお茶の入った湯飲みを老人の前に叩きつけるように置くと同時に李々子は「ウザい」と言い捨てた。

“あちゃー”と稲葉は片目をつぶる。

「何か言いましたかな? お嬢さん」

眉間に皺を寄せて見上げてきた真壁に、李々子は「粗茶ですが、と言いましたが、何か」と平然と返す。

さっさと立ち去った李々子を目で追った後、真壁は苛立ちに歪んだ顔を正面の宇佐美に戻した。

「ここは従業員も素晴らしいですな」

宇佐美は再びニッコリ微笑んだ。

「ええ、よく言われます」



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~ Comment ~

NoTitle 

こんな苛ついている爺におニャは飼って欲しくないよ。
ムカつく爺だ。
子供達の行動を逆に褒めて上げたい。

しかし、客とはいえ腹立つ物言いだね。
相手にしない宇佐美もすごい。
李々子って可愛いなぁ~~
v-410

ぴゆうさんへ 

むかつく爺さんでしょ^^
宇佐美、なんで平気なんでしょうねえ。
李々子、かわいいでしょ?ww

猫が、一つのポイントになってきます。

この物語には、大きなトリックがありまして。
最期の最後で「あ」と思うはずです。
(ポールさんを騙しましたからww)

ぴゆうさんはもう、騙されてるはずです。

ちょっぴりじれったい部分もありますが、どうか最期まで読んでやってください^^

宇佐美とシロちゃん、急接近♪

猫だ~!!! 

と、雄叫びをあげたfate。
だから何? って言われると、「いえ…なんでも…」と李緒ちゃん振りっこします(ああ、可愛くもなんともね~(ーー;)。

いや、そんなことはどうでも良い。
猫を助けた、と子ども達が言ってたってことは、どうなんすかね?
その猫、どういう境遇にいて、何の目的で飼われていたんでしょう?

そして、この偏屈老人。
そして奈々子さんの素直な反応に笑いました。いかんよ、そりゃ。少しは大人にならんと、この老人も含めて~(^^)

あ、今、limeさんから新着コメントが~
というお知らせが…。
おおお! limeさんたらfateのところにいらっしゃいましたね、少し前に。
びっくり~

だから、そういうことはどうでも良い(--;

これは、人物がすごく元気で個性的で、賑やかに色彩があって世界に入る度にニヤニヤしてしまいます(だから誰もfateに近寄らんのか…)。
こういう世界は必要ですね~
誰にとっても!

期待して、明日、またお邪魔いたします(^^)

fateさんへ 

叫んでくださいーーー。いっぱい叫んでくださいーーっw
猫、お好きなんですよね^^

このお話は、何気なく、最終話の宇佐美の悩み事に絡めようとしていたので、
次回あたり、李々子と宇佐美にしか分からないやり取りがあるかも知れませんが、稲葉君になったつもりで、
なにも気にせずに読み進めて下さい^^

あまり思わせぶりにしてしまって、後悔している部分です。
(最終話を読んだ後に、もう一度読んだら、やっと分かるかなーーー)

>これは、人物がすごく元気で個性的で、賑やかに色彩があって世界に入る度にニヤニヤしてしまいます

うわーい、うれしいなあ。
私も、あまりこういう明るいテンポの作品を書かないので、この作品をそう言う風に感じていただけて、うれしいです。
紆余曲折しますが、たぶん読後感は悪くないと思います^^

あ、でも、期待は最小限にしてくださいね(w

もしかして……? 

他のみなさまとlimeさんのやりとりを読んで、この時点で、ふーむ、するとあのあれは、このこれはこうなのかな? などと下手な推理をめぐらせるのも楽しいです。

もしかしてこのおじいさん、ただの偏屈老人ではないのかな? なんてね。
猫がらみのストーリィは私も大好きです。
いっぱい期待してまーす。

あかねさんへ 

「夢のつづき」へ、ようこそ^^

みなさんのコメントをよむのも、楽しいですよね。
(本編よりおもしろかったりします)
このお話にも、ミステリー要素はありますが、ほぼ、稲葉君と宇佐美の会話を、何気なく書きたかったというのが本音です。
のんびり、読んでやってくださいね。

お、あの老人が気になりますが。
さて、何者なんでしょうね^^

猫も、このお話の重要なポイントになります。
そのへんも、楽しんでいただけたらいいなあーー。
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