「白昼夢 」
第6話 追憶

白昼夢 第6話 追憶(1)

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2日ほど前から坂木と陽が泊まっているのは、OEA本部に程近い静かな場所にあるホテルだった。
坂木はひっそりとした隠れ家的なこのホテルが気に入っていて、本部から招集がかけられたときでも大抵そこを利用している。

昨夜から体調を崩していた坂木を心配してか、陽はどこへも行かずに、この日はホテルの部屋で本を読んでいた。
二人を訪ねて、何の連絡もなく辰巳が部屋にやってきたのはその日の午後だった。

「本部の部屋の方がここより広いのに。お前も偏屈な奴だな、坂木。そんなにあそこが嫌か? ちゃんと医療機関もあるんだ。体調悪いなら本部に泊まればいいものを。・・・おい、陽。お前も四六時中こいつにくっついてなくていいんだぞ? まったく主人に忠実な犬みたいなやつだな」
急に話を振られて陽はキョトンとして本から顔を上げた。

「どうだっていいだろ、辰巳。それより何だよ。用事が無いんならさっさと帰れよ。お前が来るとろくな事がない」
坂木は気だるい体をソファに沈めながら、鬱陶しそうに辰巳を見た。

「まあ、確かにいい知らせじゃないな。電話でも良かったんだが・・・」
辰巳は気づかれないようにそっと陽の方を見た。
陽は話に興味無さそうにずっと本を読んでいる。
「なんだよ。用事があるんなら早く言えよ」
坂木はその辰巳の視線に気が付いて少し苛立った声を出した。
辰巳は坂木の方に視線を移すと、少し重い口調で話し始めた。

「本部の地下に今は使われていない倉庫があるのを知ってるよな。手狭になってきたんで最近になって改装を始めたんだよ。そしたら床下の収納庫からあるモノが出てきた」
「ある物?」
「死体だ。白骨化した子供のな」

一瞬部屋に冷たい空気が張りつめた。

「・・・・・子供の?」
坂木は身を乗り出して辰巳の顔を食い入るように見つめた。
「まあ、子供と言っても17歳だ。大人と体つきは変わらない」
「・・・じゃあ、誰なのかは分かってるんだな?」
「うちの施設の子供には皆タグを持たせてある。ご丁寧にちゃんと腕にナンバーが装着されていたよ」
「誰なんだ? 俺らの知ってる奴か?」

辰巳は目の端で注意深く陽を捕らえながら、坂木に名を告げた。
「室田カイト。当時17歳で行方が分からなくなった、当施設きっての問題児だ」

ムロタ カイト・・・・・。 坂木は絶句した。

その少年が死んだという事実にではない。
苦い過去の記憶が一瞬にして脳裏に蘇ってきたからだ。

15年前、ホテルから連れ去った11歳の陽をOEAの施設に送り込んだ、あの当時の記憶。
坂木は陽の方を振り向くことができなかった。その表情を見るのが辛かった。
けれども陽は、背後から落ち着いた声で辰巳に話しかけてきた。

「辰巳さん、悪いけど今日は帰ってくれませんか?」
坂木も辰巳もハッとして陽を見た。
立ち上がり、ゆっくりと辰巳に歩み寄りながら言った陽の声は、ゾッとするほど静かで冷たかった。
辰巳は思わず数歩後ろに体を退いた。
「・・・別に犯人を調べてる訳じゃないんだ。うちの管理部の手落ちなんだし。
ただ事実は把握しておきたいと思ってな」

陽は更にゆっくり辰巳に近づく。
「力になれなくてすみません。今日は坂木さん体調が良くないんです。知ってますよね。もう、いいですか?」
有無を言わさない静かな気迫に押されて辰巳はじりじりと後ろにさがり、ドアノブに手をかけた。
「・・・・そうだった。悪かったな坂木。何か思い出したら知らせてくれ」
音もなく閉まったドアを見つめて立っている陽。
その背中を坂木は複雑な思いで見つめた。
「・・・陽?」

けれども振り返った陽はいつもの彼だった。
「電話でもいい話なのにね。わざわざ来るなんて暇なのかな、辰巳さん」
そう言って少し笑ってみせる。

・・・辰巳はお前の反応を見に来たんだよ・・・

口の中がカラカラに乾いていた。締め付けるような頭の痛み。どうにもならない不快感。吐き気。
風邪のせいだけなのだろうか。坂木は、辰巳がくれた情報に想像以上のダメージを受けている事を認めざるを得なかった。

“俺は何を疑っているんだ?”

陽はソファに沈み込んでいる坂木に近づいて、そっと頬から耳の後ろのあたりに手を当てる。
「ほら、少し熱が上がってるよ。冷やしてあげるからちゃんとベッドにいこう?」

熱をみるとき陽は額ではなく耳の下あたりに手を当ててくる。初めてそうされた時、坂木は少し驚いた。きっと彼の母親がそうやって幼い陽の熱をはかっていたのだろう。
氷嚢を用意してくれている陽を見ながら坂木はぼんやりそんな事を考えていた。

“室田カイト”
突然蘇ってきた辰巳の声に坂木は一瞬体を震わせた。
もう15年も前なのに映像が鮮明に浮かんでくる。
世の中の闇しか見ないような陰鬱な目。下卑た笑い。
退屈な閉ざされた空間で新しい獲物を見つけたかのように、陽を見おろす表情。
そして・・・。

坂木はグッと目を閉じた。

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鍵コメKさんへ 

> 室田カイト?この話しだけの登場人物だけでしょうが、どうやらこの組織の暗部を出しているみたいですね。
> この人物が何者かはこの物語の軸になっていくんでしょうね。

そうなんです。この室田カイト、ここだけの登場人物なんです。こんな悪者を書いたのは、初めてかも^^;
この事件で、坂木と陽のつながりの強さのわけがわかる、重要な回になると思います。

Kさんが書いている、「いじめ」の問題も、この話の重要なポイントです。
もう、いじめなんていうレベルを超えていますが。

Kさんのほうにも、後ほど伺いますね。
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