10000文字までのショートショート

(scriviamo! 参加掌編) 『やさしいゲイル』

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今年は夕さんのscriviamo!に、初めて掌編(童話)で参加してみます。

この掌編は、以前、
*誰かの誕生日
*必ず、常識的に「汚い」と思えるものを「美しく」描いた表現を入れる
*文字数は2000字以内。
という縛りを仲間内で作って、創作し合った作品です。

変ったテーマだし、こちらにアップするのは違うかな、と思ったのですが、私にとっても変わり種で、ちょっと気に入ってる掌編だったので、今回夕さんの企画に提出してみました。

2000字なので、気軽に読めると思います^^

夕さん、お納めください(*´ω`)

************************

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『やさしいゲイル』


透明なビニールの膜が取り払われると、ゲイルは爽やかな青空の中に飛び出した。

唸る羽音も浮遊感も、生まれ育ったハウスの中とはまるで違う。
風というものが外の世界にあるのだという事は、マーリンに聞いていたが、これがそうなのだと、フワフワ流されながら、ゲイルは笑った。

自分の仕事を終え、今日からゲイルは自由になった。
けれど青空に霧散してしまった無数の仲間たちとは違い、ゲイルは木々の周りをひたすらマーリンを探した。

ゲイルの大きな複眼は特殊構造で、“人間には見えないらしい”マーリンの姿を捉えることができるのだ。

「ゲイル! ここよ!」

大好きなマーリンは、クルチ(黒檀)の木の枝に立って、ゲイルを呼んでいた。
ゲイルは嬉しくなって、羽音を唸らせてマーリンの元に飛んでいった。

マーリンはゲイルの背に乗れるほど小さな妖精だった。
お日様色の長い髪、白い肌、青空色のキラキラした瞳。

形は人間によくにているが、ハウスの中で見かける無骨な人間とはまるで違って、見ているだけで気持ちが高揚するほど、マーリンは美しい妖精だった。
醜くて不格好な自分は、隣に座るのも気が引ける。

けれどマーリンは、ゲイルの事をとても好きだと言ってくれた。
ハウスに遊びに来ても、働き者で賢くて優しいゲイルが大好きだと言って、いつも話し相手になってくれた。

「明日、僕らはココから卒業なんだ。外を自由に飛び回れるんだ。ご飯は自分で探さなきゃいけないけど、マーリンと遊ぶ時間がたくさん増えるんだよ」

昨日、そうやってマーリンに言うと、マーリンは少し涙ぐみ、“よかった。ハウスの外で待ってるね!”と、ゲイルの羽根を撫でてくれた。

その夜、ゲイルと同じ時期に生まれた仲間が、足についた汚れをこすり落としながら教えてくれた。

『マーリンは明日が誕生日なんだよ。他の妖精たちが、何をプレゼントしようか悩んでたぜ』

ゲイルは途端に気持ちが沈んだ。そんな華やかな日だったんだ。
自分には何ができるのだろう……。
そのことをゲイルはひと晩ずっと考え、一睡もせずに夜を明かしたのだった。

「ゲイル、迎えに行けなくてごめんね。たくさん贈り物をもらっちゃって、身動きできなかったの」

クルチの枝に降り立ったゲイルがマーリンの横を見ると、なるほど美しい花や、宝石のような木の実がたくさん集められ、マーリンを埋めていた。

「すごいね、マーリン。……お誕生日おめでとう。僕は……何も持って来れなかったけど」

気後れしたゲイルは、手足にごっそり携えたものを、そっと隠した。
けれどマーリンは見逃さない。

「あれ? なあに? それ」
ゲイルの手足には、零れ落ちそうなほどのマンゴーの花粉がくっついていた。

それが昨日までのゲイルの仕事だった。たくさんマンゴーの花粉をつけて飛ぶと、ハウスの人間たちが褒めてくれる。きっとマーリンも喜んでくれると思ったのだ。けれど、贈り物の中に、そんなものは無かった。

それでもマーリンは大喜びして、ゲイルをぎゅっと抱いてくれた。
自分の剛毛がマーリンを傷つけやしないかと焦ったが、マーリンはそんなゲイルにキスまでしてくれたのだ。

「ダメだよマーリン、僕は汚いんだ」

「ゲイルはとってもきれいよ。他の妖精たちに何を言われたか知らないけど、自信もって。私、ゲイルが大好きなの。さあ、遅くなっちゃうわ。急いで準備しましょう。これから私たち二人のお誕生会をするの」

「え、ぼくも? なぜ?」

「ゲイルが生まれて、もう1か月でしょ。だから1か月のお誕生日祝いをするの。いいアイデアでしょ」
マーリンが笑うと、ゲイルも嬉しくなって羽根を震わせた。

「じゃあ僕、お誕生会にふさわしい緑の草地を探して来る。待っててね!」

嬉しそうに飛び立ったゲイルを、マーリンは静かに見送った。
ゲイルのメタリックブルーの体がきらりと光る。
本当にきれいで、賢い子だとマーリンは思った。

ゲイルの置いて行った花粉団子を眺めながらマーリンは微笑み、そして涙ぐむ。

ゲイルは、マンゴーの受粉をさせるために、人間たちがハウスの中で大量に育てたキンバエの中の1匹だ。
朝から晩まで沢山働き、魚の残飯を餌にもらう。

ミツバチではうまくマンゴーを受粉できないのだそうだ。
そうやって必死に働いて、美しく立派なマンゴーを育てても、世間一般には大っぴらに公表されない。
ハエで育てたというのは、何となくイメージダウンになるらしい。

けれど、きっとゲイルはそれを知っても、「うん、そうだろうね」、と笑うだろう。
そんな子なのだ。ゲイルは。

ゲイルはなぜ今日、ハウスから解放されたのかを知っているのだろうか。
1か月目でお誕生日をしようと言った意味に、感づいただろうか。

出来るなら、気付かずにいてほしかった。彼らの種族は、それ以上長くは、生きられないことを。

―――ひと月の寿命を全うして、天に召されたら、心優しい彼に、今度はもっと幸せで長生きできる体を御与えください。

ゲイルに気づかれぬよう、マーリンは、静かに天に祈りをささげた。


(了)



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~ Comment ~

NoTitle 

執筆、お疲れ様でした。

2000文字の童話ということで、たしかに気軽に読めましたが……重い、というか、切ないなぁ。これ、大人の童話ですね。

巧みな表現で、ゲイルの正体をチラ見せしながら進むお話、ラストは、ゲイルの正体は……的な終りかと思いましたが、泣かせてくれますね。
冒頭ちかくの「霧散した」という表現、そういう意味だったのかと気づいて、じわっとなりました。
せめてゲイルには、本人も気がつかないうちに……であってほしいなぁ、と思います。

マーリンはきっと、たくさんの「ゲイル」たちを見てきたんでしょうね。この子も、祈るくらいしかしてあげられなくて、辛いんだろうなぁ。

いやあ、いいお話でした。

NoTitle 

うう。うるっと来ましたよ。
なんていい話なんだ。

ハエが汚いなんて決めたのは人間ですよね。
ずっと魚の残骸と、マンゴーの往復しかしていないゲイルは汚くなってないわけで。
でも、私もキンバエが入ってきたら、すぐ叩いちゃうけど……。ごめん、ゲイル。

このゲイルのキャラクターは、かなり私のツボでした。
素敵なお誕生会を。たぶん一度しか出来ないでしょうけど、楽しい会になるといいですね。

と、感動している場合じゃなく、お返しを考えなくてはいけないのですけれど……頑張ります。

少しお待ちくださいね。

TOM-F さんへ 

TOM-Fさん、さっそくありがとうございます!
そう、気軽に書き始めたのに、終わってみたらすごく重い感じになってしまって(;_;)
誰を責めてる訳でもないのにね、なんだかちょっとやり切れなかったり。
きっとそれは、虫に心を持たせちゃったから起きてしまう事なんだろうけど、なんかやっぱり生き物の人生って(人間世界にしても)理不尽だったりするんですよね。

短い文字数に収めるために、多くを書きこめなかったんですが、その分マーリンの涙とか、そう言うのにちょっと語らせてもらいました。
もしかしたら、マーリンが登場しなかったら、けっこう明るいお話で終ったのかもしれないなと思ったり……。(ゲイルは前向きだし)

ここで一番辛く、苦悩してるのは、TOM-Fさんがおっしゃるように、すべてを知るマーリンなのかも……と、改めて感じることができました。

コメント、ありがとうございました!

八少女 夕 さんへ 

夕さん、ウルっとしてくださって、ありがとうございました( ;∀;)

最初はすごくお気楽な感じで、きたない? ……虫? ハエ? とか、失礼な連想から構想を練った物語だったんですが、マーリンという、外からの視点を混ぜることで、なんだかとても切ないものになって行きました。

私も……今この瞬間、窓からキンバエが入って来たらスリッパで叩いちゃうと思うんですが(>人<;)

キンバエに人間のような心が無くて良かった←いや、そう言う問題なのか。

お気楽に書いたファンタジー童話だったんですが、じわじわ後からいろんなことが見えて来て、自分でも不思議な感じです。
これからは、ファンタジーも苦手意識を持たずに、書いてみようかな……。

……って、思うんだけど、長編はなかなか難しいですね( ;∀;)

夕さん、この御返し掌編は、急がなくて大丈夫ですからね^^
楽しみながら、作ってやってください♪

コメント、ありがとうございました!

NoTitle 

う~ん・・・複雑な心境になりました。
素直に感想を述べれば、ゲイルはとても可哀想と感じます。
切なくてやりきれなくて重い読後感です。
ゲイルが魚の残飯を餌としているキンバエの一種、ということが一層感想を複雑にしていますね。
普段なら殺虫剤を振りかけて、気にもしないような種族なんですから・・・。

彼らの時間は人間と違っていて、たとえ1ヶ月の寿命であっても短いなんて意識は無い。
人間の感覚なんて彼らには全く通用しない。
彼らには彼らの運命かある。
そういうふうに冷静に打ち消さないと、ショックが尾を引きます。

興味深い視点での、とても印象的なお話でした。
短いのに、ギュッと詰まっていました。
マーリンは永遠に生き続けるのでしょうか?

山西 サキ さんへ 

サキさん、ありがとうございます。

そう、私も自分で書いておきながら、これはコメントしにくいし、結構重いし、答えが出ないお話だなあと感じました。
最初、汚いものを物語に組み込まなきゃいけないって事で、ハエを選んだ時点で、自分の価値観の中に何らかの偏りがあったんでしょうね。

人間にとってはやっぱり、不衛生な印象がありますが、ゲイルみたいに、彼らは純粋に生きて、自分の使命を全うして、誰も恨まずに死んでいくんだな~とおもうと、なんだか汚い代表にあげてしまって、申し訳ないような……。

だからマーリンの存在を、償いの気持ちで描いたのかも(無意識ですが)
生き物の尊厳とか、そんな大きなテーマじゃないのですが、この2000文字の中に、いろんなものを感じてもらえたら、嬉しいなあと思います。

あ、マーリンは300年くらいは生きるんじゃないでしょうか。
……えへ。ただの願望です( *´艸`)

コメント、ありがとうございました!

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