10000文字までのショートショート

お題掌編 『もう半分の君と』(前編)

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ご無沙汰しています! 久々の短編コーナーです。
今回の短編も、お題を貰って書いたものなんですが、1万字近くあるので、前編と後編に分けて、載せさせてもらいますね。
(それでも5千字ずつあるんですが(;'∀'))

今回のお題は「半分」。
私には珍しい、恋愛ものです。
不慣れなので、ちゃんと恋愛ものになっているのかどうかすら、分からないんですが……。

後半は、10日後くらいに更新します。
ほんの少しトリッキーなので、前半のコメント欄は閉じさせてもらいますね^^
(次回の更新で、一気に読んでもらったほうが、いいのかな?)←え、今回のはスポンサー広告対策ですか(;'∀')
年明けの、後半の更新は、コメント欄を開けて、年明けのご挨拶も兼ねたいと思います。

あ、拍手コメ欄は開けています。雑談とか、なんでもウエルカムです(*´ω`)


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(あらすじ)
ひとつ屋根の下に住む、血のつながらない姉、日向 葉月(ひゅうがはづき・22歳)と弟、日向 朔(ひゅうがさく・17歳)。
密かに弟に恋心を抱く姉の葉月は、想いを隠しながら、ひたむきに弟の生活を支えるのだが、ある日ちょっとしたハプニングの末、悪魔と奇妙な契約を結んでしまう。
意外に紳士な悪魔が広げた波紋に、葉月の恋心は大きく揺れるのだが……。


 もう半分400


『もう半分の君と』


――また少し背が伸びた? けれど体の線は相変わらず細く、しなやかだ。
長いまつげが影を落とす瞳は物憂げで、見てるだけで溜め息が漏れる。

高校3年生の弟、朔が制服のネクタイを結ぶ姿を眺めながら、私は彼の朝食の後片付けをする。見てる事に気づかれないように、私はいつも意識して視線を逸らした。

「葉月。じゃ、行ってきます」
そして弟はいつもと同じように伏し目がちに私に礼を言い、登校していくのだ。
「気を付けてね」母親のように声を掛ける。

実際私たちにはもう2年前から両親はいない。そして私と朔は、血の繋がりもない
私の父と朔の母が再婚したのは5年前。そしてたった3年、家族ゴッコのような日々を過ごした後、二人は車で出かけた先で事故を起こしたあげく、あっけなく他界してしまった。

残されたのは小さなこの家と、物静かな15歳の少年と、短大を出たばかりの20歳の私。資産など無く、僅かな保険金も事故の賠償で消えてしまった。

『私が働いて高校と大学は出してあげる』
葬儀の後、途方に暮れた目で私を見つめて来た朔に、私は力強く言った。姉としての責任もあったが、けれどいっしょに暮らし始めて改めて気づいた。

私は単純に、朔が自分の元から消えてしまうのが嫌だったのだと。


「もう、なんでバイトの子、急に休むかなあ」
私はむかつきながら、カフェのテラス席の後片付けを急いだ。
自宅に近いこのカフェで仕事を始めたのは、なるべく早く帰宅し、朔に食事を作りたいからだったのに、今日も定時には上がれそうに無い。

そして悪い事は重なる。
飲み残したっぷりのコーヒーや積み重ねた皿を抱え、日の暮れていく空を仰ぎ見た刹那。イスの脚に躓き、座っていた黒づくめのスーツの男に、見事にコーヒーをぶちまけてしまった。

ああ、終わった。テーブルの上の書類までぐっしょりだ。

店中のダスターとタオルをかき集めて拭き、思いつく限りの謝罪の言葉を並べてふっとその男の顔を見ると、驚いたことに微笑んでいる。
精悍な浅黒い顔にあご髭。どこか堅気でない雰囲気の男の意味不明の笑みに、体が粟立った。

「君、日向さんって言うんだね。下の名前は?」
私の名札を見つめ、男は更に微笑む。私は嫌な汗が止まらない。
「葉月です。すみませんでした、あの、お洋服はクリーニングさせていただ……」
「その必要はない」
「え?」
「君、どうやら弟がいるみたいだね。高校生?」

いったい何。なぜ弟の存在と歳を? 不気味過ぎて返事もできず引きつる私に、その男は更にあり得ないことを言って来た。

「3日だけでいい。君の弟の体を半分僕に貸してくれないか? 日が昇ってる間だけ僕が体を支配する。夜はちゃんと返すから。いいだろ?」

「意味がわかりません」
そうか、この人ヤバい人だ。店長を呼ぼう。そう思った端から男が畳みかける。

「このスーツと重要書類の弁償として3日だけ昼間の弟の体を貸してほしい。他に選択肢はないよ。弟はちゃんと学校も行けるし、何も問題は起こさない。中身が僕に変ってるってだけで」

不気味すぎて泣きたくなるのをぐっとこらえる。そう言えば今、店長は不在だ。
「ますます分かりません」

「僕は今、人間というものをいろいろ試着してる研修員なんだ。人間には悪魔なんて呼ばれてる種族なんだけど、こうやってちゃんと交渉してるところが紳士だろ?」
「わかりました。今日は店長が不在なので、後日また…」
「了解なんだね?」
「いえ、そうじゃなく……」

けれど自称悪魔は笑みを浮かべたまま、濡れたスーツを気にすることも無く、宵の雑踏に消えてしまった。


「お疲れ様。今日は少し遅いね」
帰宅すると朔が穏やかな笑顔を向けてくれた。それだけで一気に疲れが吹き飛ぶ。

「うん、ちょっといろいろあって……。あ、それよりすぐご飯作るから!」

けれど朔は相変わらずの遠慮がちな笑みを浮かべ、「適当に済ませたから平気。俺の事、あまり気にしないで」と、部屋へ引っ込もうとした。手には大判の冊子のようなものを丸めて持っている。

「大学の入試案内?」
「え……違う」
「ちゃんと入試受けてね。朔を大学に行かせるくらい、何とかなるから」
「言ったろ。高校を出たら働く。葉月の金は葉月が使ったらいい」
「もったいないよ、朔は頭いいのに。高卒じゃあろくな就職口は……」
けれどこの話は打ち切りとばかりに朔は視線を逸らし、自室に引き上げて行った。

堂々巡りだった。朔をちゃんと一人前の大人にしたいのが私の願いなのに、どこか朔は遠慮し、何かを諦めているように見える。
その夜もそれっきり朔は姿を見せず、私は悶々と家事を片付けた。

――けれど次の朝。
リビングに居た制服姿の青年は、朔であって、朔ではなかった。

「葉月ちゃん、昨日は契約ありがとう~。いいねえ高校生の体。制服っていっぺん着てみたかったんだ。どう?」

「どう……って。なに」

認めたくなかった。けれど到底ありえない出来事が起きてしまったのだ。
朔の口から出て来た言葉はまるっきり昨日の男の口調だ。でもまさか。そんなバカな。

「ちゃんと理解してくれてる顔だね。心配しなくていいよ、朔の記憶はちゃんと引き継いでるし、僕は普通に朔として学校に行って、楽しくお勉強して帰って来る。日が沈んだらちゃんと抜けてあげるし、たった3日間だ。安いもんでしょ」

「いったい何が目的で」
「研修をクリアしないとボスに認めてもらえないんだ。悪魔だって規律があってさ。かわいいJKと不埒な事しようとか思ってないから安心して」

「当たり前でしょ! その体で何か問題起こしたらただじゃ置かないから!」
頭の血管切れるんじゃないかと思うほど叫んだが、朔の顔をした悪魔はニヘラっと交わす。

「殴っても刺してもいいけど、体は朔だからお忘れなく。ねえ葉月ちゃん、3日間は日没までに帰っておいでよ。悪魔な弟と話をするのも、ちょっと楽しいかもよ?」

そう言って不意に肩を抱き寄せて来た。ふわりと朔のコロン。心臓が跳ねる。中身は朔じゃないと分っているのに振り払う事が出来なかった。

「じゃあね。また夕刻」
色気をたっぷり含んだ視線を投げ、朔の体を乗っ取った悪魔は玄関を出て行った。

けれどしばらく私の体の硬直は解けなかった。
選択肢がなかったとはいえ、私はとんでもない事を許してしまったのかもしれない。

心臓がザワザワと騒がしい。触れられた肩が、いつまでも熱かった。

その日私はきっちり定時に職場を出て、買い物もそこそこに家路を急いだ。

今朝のはもしかしたら自分の勘違いか、もしくは朔の悪ふざけなのかもしれないと、仕事中ずっと考えた。
大体悪魔とか、馬鹿げている。早く帰って真相を確かめたかった。

西日が差す玄関を開け、リビングに飛び込むと、ラフな私服姿の朔がソファに座り、テレビを見ていた。普段観ることも無いスプラッターホラー。

「葉月ちゃんお帰り。一緒に見ようよ。スッゲーよくできてるよ、このゾンビもの。肉片すごい」
人懐っこい笑顔で手招きする。あんなに砕けた朔の表情を、私は見たことが無かった。

「学校で変な真似しなかったでしょうね。朔は受験控えてるんだから、内申点下げるようなことしないでよね」

「ん? 朔は大学行く気無いよ。卒業したら独り立ちしたいみたい。姉の世話になるのが苦しいみたいだね」
「え」
ドキリとした。まさか……。何かの間違いだ。

「ねえ、そんな事よりもっと楽しい話しようよ。朔の高校生活興味ない?」

しなやかな筋肉を感じさせる腕を伸ばして私の手首を掴む。
力に委ねて横に座ると、すぐそばに、血のつながらない弟の端正な顔があった。

途端に息苦しくて、逃げたくなる。

私が見守って来た朔は控えめで礼儀正しく、少し触れただけで顔を赤らめるシャイな少年だった。そんな朔に、私はどこか惹かれ、そして守らなければと思った。
けれど目の前に居る青年はそれとは違う、言葉で形容できない感情を私に抱かせる。
ドキドキするとか有り得ない。これは朔じゃない。なのに……。

この状況をどう理解しようと、戸惑いつつ座っていると、悪魔はフッと立ち上がった。
「いいとこなんだけど僕トイレ行ってくるわ。そして残念ながら交代の時間。また明日ね、葉月ちゃん」

悪魔がドアの向こうに消えたあと窓の外を見ると、いつの間にかすっかり日が暮れていた。
そしてしばらくして戻って来たのは、私の良く知る、いつもの朔だった。

「葉月……、どうしよう。俺、……朝からの記憶がないんだ」

ホッとすると同時に、なぜか涙が滲んだ。そう、この純粋な青年が、本当の朔。
触れることの出来ない、大切な弟。

「きっと疲れてるのよ。心配しなくて大丈夫。ぐっすり寝れば……2日後にはすっかり元に戻るから」

人懐っこい笑みを浮かべる、触れたがりの悪魔は、もう2日で居なくなる。


        ***

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